赤い封筒
「ふぁぁぁ、寝みぃ」
朝の8時頃、眠気に耐えながらゆっくりと高校への道を歩いていた。
学校なんてめんどくさい。
勉強なんかして何の役に立つのかわかったもんじゃねぇ。
「はぁ、だりぃな。毎日毎日同じことの繰り返しなのがなぁ」
そんなくだらないことを考えながら歩いていると、道の端に分厚い赤色の封筒が落ちているのを目にする。
「んだこれ?」
気になって封筒を手にしたのが運の尽きだった。
手に取って中身を見てみると、そこには見た事無い女性の写真と髪の毛が入った透明な袋、そして札束が入っている。
俺は唖然としてそれを見ていた。
これは一体なんだ?
しかもこんな大金が入ってるし、この女性は一体誰だ?
そんなことを考えていると、後ろに気配を感じた。
振り返ってみるとそこには40代くらいの男女が立っていた。
「……君、いいね」
「ええ、この子はいいわね」
なんだ、この状況は。
混乱して何も答えることも聞くことも出来ずにいると、突然眠気に襲われた。
次に意識を取り戻した時には見知らぬ場所にいた。
「……ここは?」
自分の服装を見てみると、さっきまで制服を着ていたはずが真っ白な着物風の服を着ていた。
それに、よく分からない椅子に座っており、腕と足は拘束されている。
辺りを見渡していると、どこかから声が聞こえてきた。
聞き耳を立てていると衝撃的な会話が耳に入った。
『あの子とうちの子の相性はどうですか?』
『とてもピッタリです。驚くほど相性がいいですよ!』
『なんだと! それはいい!』
『えぇ、今すぐやりましょう!』
……何をされるというのだ?
恐怖が頭を過ぎる。
俺は一体どうなるんだ?
焦りや恐ろしさに震えていると部屋に誰かが入ってきた。
そこにはさっき出会った2人の夫婦らしき人たちと怪しい道具を持った男性が立っていた。
「あ、あの、これは一体……それとあなたたちは?」
「君はいい子だ。うちの子との相性がバッチリみたいなんだよ」
「すみません、何を言ってるんですか……?」
「あなたはこれから私たちの娘と結婚するのよ」
……は?
結婚……?
どういうことだ?
「これであの子も天国で喜んでくれるだろう」
「そうね、やっと見つけたわ」
女性は涙を浮かべ、どこか嬉しそうな様子だ。
だが、天国ってなんの事だ?
頭には疑問符しか浮かんでこない。
「だから何なんですか! これ!」
「言ってるじゃないか。娘と結婚してもらうんだよ。死んでしまった娘と」
死んだ人と結婚?
何言って……
これ、もしかして……
「ま、まさか、冥婚ってやつですか……?」
「知ってるなら話が早い。君には悪いが死んでもらう」
「は?」
死んでもらうって言った?
俺に死ねって言ってるのか?
「じょ、冗談じゃねぇよ! なんだってそんな事のために死ななきゃいけねぇんだよ! ふざけんな!」
「娘のためだ。大人しくしてくれ」
「嫌だ! 死にたくない! 離せ!」
必死に暴れるも、拘束具は取れない。
怪しい道具を持った男性が俺に近ずいてくる。
見ると注射器のようなものだ。
「待てよ……何すんだ……離せよ!」
「安らかに眠ってもらうだけだよ。大人しくしててね」
「大人しくなんかしてられるか! これを外せ!」
抵抗も虚しく、俺は注射器を刺されてしまう。
初めは何もなかったが、徐々に体が動かなくなっているのに気がつく。
「ま、待てよ……な、なんで……俺が……」
迫り来る死の恐怖。
俺は本当に死んでしまうのか?
恐怖のあまり涙が止まらない。
顔もぐちゃぐちゃになっているだろう。
「いや……だ……しに……た……く……ない……」
もう満足に体を動かせない。
心臓の動きも段々ゆっくりになっていく。
思考力も鈍ってきた。
「だれ……か……たすけ……て……」
その一言が俺の最期の言葉となった。
俺の人生は一体なんだったのか……
今までの退屈な人生が走馬灯の用に流れている。
こんな死に方するくらいなら、あの退屈な人生を送っていたかった。
どうか、俺みたいにこんなものを拾ってこんな最期を迎える人がいないことを祈る。
つまらない人生だった……
そして俺は意識を失った。