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5 気になる事

 彗達は好物の丸子ビッツ片手に、窓からグラウンドを何ともなしに眺める。


「カナ。小野寺先輩ってかっこいいよね」


「…谷口さん派って前に聞いた気がするけど空耳だった?」

「女心と秋の空って言うじゃん」

「丁度その季節ね。」


 香苗の好みはどちらかと言うと、生徒会長の長谷部さんだろう。以前お褒めに預かった際、周囲の女生徒のやっかみを買っていた。



 …小野寺先輩似のあの人。ちゃんと家に帰れたかな。


 今日の呪術があの人の呪殺だったらどうしよう。


 きっと彗には逆らえない。呪術に関しては、子供がゴネても無駄なのだ。なにせ村の決定だから。


 …そういえばもらった名刺は捨てた方が良かったかも。もしくは学校に置いていこうか。

 意味もなく辺りを気にし、名刺を机にすべり込ませた。



「ねえ信兄。大学進学したら村って出れるの」


「あ? 何だ今更。今までだってそういう人沢山居ただろ」

「記憶ってどういう基準で消されるのかと思って。村を離れるって決まった時点?」

「そういうのは彗の方が詳しいんじゃないか?」


 離婚などで村を出る場合、最重要機密である星野家の呪術に関する記憶は消される決まりだ。彗も呪術による記憶消しなら何度か担当した事がある。


「…その辺は曖昧だけど、村と縁を切る事が決まった時点かな。

 洋平も言ってたけど、就職とかで村を出た人も村に居ない事で秘密を守る意識とか欠けてくる場合が多いんだよね。

 まあ消すのが村の為って判断された時点。私もよく判んないや」


「お前は医者の資格取ったら戻ってくるんだろ?なら関係無いんじゃないか?」

「そのまま外で就職する場合とかどうなるんだろうって、ちょっと思っただけよ」

「俺も自衛隊入ったら消されるのか?」

「何で入る前提なのよ。そんな簡単に戻って来れなそうな職の場合は怪しいね。」


 洋平が将来について考え込んでしまった。頑張れ悩める青少年。


「カナって県立大でしょ。結構離れちゃうね」

「彗も一緒に住む?」

「私は多分無理かな。お弟子さん達見てると、高校通わせてもらえてるだけでも奇跡だし」


 うちにいるお弟子さんのうち、少なくとも2人は中学卒業後専属で星野家にいる。


「んー… あんたんとこは金持ちだしね。

 でも、まだ彗が当主やるって決まったわけでもないし。何かの拍子でお兄さんにまた移るかもしれないんだから、受験の用意だけはしといたら?一年生だしまだ早いけど。」

「そんな事あるかな。」

「彗が当主になるって話も、寝耳に水だったでしょ」

「…まあね。」


 彗が修行を始めたのは、兄が跡目を外れた小学六年生からだ。


 …向いてないんだよな、自分には。

 香苗はそんな彗の心情を代弁してくれたのかもしれなかった。



 駅に着くと、皆それぞれで別れて帰宅する。信兄はまっすぐ帰るようだが、香苗や洋平は他に寄る所があるようだ。

 香苗はおそらく買い物だろう。彗も自炊だが、材料はお手伝いさんが兄の昼食を用意する際に余分に買って来てくれている。

 二人揃って弁当まで作る気になれず、昼は購買部の常連だ。



 兄は昨日から家に戻って来ている。


 両親とお弟子さん達は、外部に呪術師がいるかについて見回りがてら調べているようだ。話は彗には回ってこない。

 あまり関わりたくないのも本音だが、全く音沙汰無いのもそれはそれで不気味だ。

 彗から訊くべきだろうか。教えてくれるかな。


 …いや、うちの両親が当てにならないなら信一辺りに訊いた方が早いんじゃないか?呪術師の家系が他に居ないか調べてもらうと言っていたし。


 平日は修行が無くても夕飯の支度があるので、ほぼ自由時間は無い。

 週末になったら修行の後、空いた時間にでも探りに出てみようかと彗は考えた。



「――てるのよ!」


 下の階から声が聞こえてハッとする。


 下りてみるとお弟子さんの一人、宍戸ししど 由香里ゆかりがバタバタと玄関から出て行った。


 両親はまだ戻っていない。 一人?

 この時間、仕事が無ければお弟子さん達はもう下宿先に戻っているはずだが。



 玄関の戸を閉め直すと、兄がずれた着物を直しながら歩いて来た。


 ……うわー。


 身内の現場か。 とんでもなく気まずかった。




 翌朝、その兄と向かい合いながら気まずい朝食が始まる。


「…由香里さん。何かあったの?」

「勝手に怒って帰った」


 すごく簡潔な説明だが、二人が付き合ってたという話は聞いていない。まずはそこからだろう。


「お兄ちゃんが跡継ぎの頃は許嫁だったよね。その頃から付き合ってたの?」

「まあね。でも面倒臭い」

 その割にやる事はやってるようで。


 薄々気付いていたが、兄は昔から女性関係も派手なようだった。昨日もその関係で怒らせたんだろうか。

 …まあ彗には関係無い事だ。兄が思ったより健康そうで良かった。いつか刺されるとかなら別だけど。



「彗、出汁変えた?」

「変えてないよ。」

「じゃあ煮干しの量かな」


 このお姑さんが。



 そんな兄は、週末にはまた入院して行った。


 彗は考えていた事を少しずつ始める事にした。

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