表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/89

2 帰路

※この話は学園ものではありません。

「帰ろ。」

「あ、うん」


 遠い村ペアの彗と香苗は荷物をまとめる。電車の時間が限られている為、私達は全員帰宅部だ。


「今日も勉強?まだ受験まで遠いのに」

「医学部受けるならそうも言ってられないわよ。」


「カナの頭でも受からない医学部って、私には未知の領域だな」

「私こそ彗の家業は未知の領域よ」


 沈黙が落ちる。



「…ごめん。やっぱり寝不足だわ」


「授業中寝るのは無しなの?」


 気まずさを誤魔化すように茶化す。医学部受験の為に普段の授業をおろそかにするのは本末転倒だろうと思いつつ。



「こういう時こそ明るい話題よ。グラタンが食べたいんだけど、購買で売ってくれないかしら」

 自らの造り出した空気に責任を取るかのように、脈絡の無いことを言い出した。


「…眠い時よくグラタンの話できるね。」

「うちは洋食派なの。コンビニは遠いし、パンばっかりだと飽きるわ。

 そういう提案するのって誰?生徒会長?」


「さあ…。生徒会長と言えば、さっき三強の人とすれ違ったよ。これこそ明るい話題じゃん!」



 うちの学校には三強と呼ばれる、女生徒達のアイドルがいる。生徒会長もその一人だ。


「誰?」

「小野寺先輩。」

「あーあの人苦手。ちょっとキラキラ青春し過ぎ」

 人(女生徒)がいる場所でその発言はまずい。


「私もどっちかって言うと谷口さん派だけど、相手がいるしね。信兄頑張ってくれないかな」


「あんたの好みってあれでしょ?」

 下駄箱にいるクラスメイトを指差す。彗と目が合うとそそくさと帰っていった。


「あーあれは。勢いって言うか成り行きって言うか」

「あんたも大概悪女よね。」

「香苗さんには及びませんよ」

「足を洗ったわ。」



 そんなこんなで信一もやって来た。


「信兄。私達応援してるから」

「何だ、いきなり」

「三強全員フリーになるように頑張って欲しいんだって。」

 信兄は嫌そうな顔をした。彼も色々複雑だ。



「中二病はまだ?」

「カナってば・・」


 悪ガキ洋平も今現在、村で唯一の中学生だ。

 何だかんだ淋しい時期かもしれない。去年の彗達の卒業を不貞腐ふてくされた目で見ていたから。



 電車が着くギリギリになって洋平が走ってきた。


「おい、何やってたんだ」

 電車に遅れるのは、戸坂村の人間にとって死活問題だ。親に車で迎えに来てもらうしかない。車の無い家だってたまにある。


「悪い、変な奴に捕まってて」



 帰りの電車内で洋平が会ったという変な男について詳しく聞く。


 ラフな格好の若い男で、名乗りもせず、うちの村についていくつか質問してきたという。

 疲れたんだろう、洋平の機嫌は悪い。早弁なんてするから余計疲れるんだ。


「しつこかったの?」

「急いでるっつーのに、とにかく引き下がんねーんだよ。あの村出身の奴探すだけで大変だったんだろうな」

「記者かしら…? まさか、彗の家の」


「やめてよ。村の人の口の固さは知ってるでしょ?そういうの来ても村長が全部断ってくれてるんだよね?」


 村長の息子信一がしっかり肯定してくれたが、それでも人の口に戸は立てられないものだ。どこからか漏れ出る可能性は無くもない。


「…村の外に親戚がいる人だっているもんな。外の人間に限って、こういうの軽んじてる奴が多いんだ」


 公共の場所という事もあり、皆は戸坂村の人間らしく何を、という決定的な事は口にしなくとも意思は伝わる。


 不安な思いを抱えたまま、彗達は帰路についた。



 不安はあるものの、それを家で口にするという愚は犯さない。その発言がどういう結果をもたらすか私は知っている。


 あまりにしつこい記者を呪い殺した事例があるのだ。村の平穏と秘密を守るという名目で。


 その記者は今も行方不明扱いとなっている。

 もちろん警察の捜索は入ったが、遭難だろうと見られ追及はされなかったと聞く。


 外の人間からすれば、村を守る為に人を殺すなど到底信じられない所業だそうだ。故に疑われなかった。



「あれ、お兄ちゃん今日は診療所か・・」


 という事は、数日家にいないだろう。明日お見舞いに行こう。


 香苗は何も言ってなかったが知らないのだろう。香苗の部屋は診療所の二階にあるが、診療所側に入ろうとすると怒られるのだと前に言っていた。

 そもそも彗にも言ってかなかったから、今日急に決まったのかな。



 彗は一人で寂しい夕食を噛みしめる。

 両親は祭壇の間か、外でお弟子さん達と仕事だ。夕食も基本はそちらでとる。だから彗は自炊を覚えた。


 これでグレなかった子供達に感謝して欲しいくらいだ。

 兄も自分も口にしないが、きっと後が怖いからなんだろうけど。


 呪術師の後継者がいなくなっては困る為、村のほとんどが両親の味方だ。呪術の力も両親が上。

 出ていけば協力者を呪い殺されかねない。不利過ぎる。


 兄も彗には優しいが、性格は少々ひねくれてしまっている。

 主に根っからの悪ガキ洋平や、2つ下の信兄などが、その毒舌やら陰謀の被害に遭うようだ。

 何度か現場にも出くわしたが、けっこう壮絶だった。兄はやると決めたらとことんやる。



 彗の呪術師としての修行は基本土日のみ、平日は呪術を行う場にだけ呼ばれる。

 現時点で呼ばれてなければ、そのまま仕事は無いだろう。さっさと片付けを済ませて寝る事にした。ごめんよ受験生達。



 異変はその週の週末に起きた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ