0 プロローグ・彗
―この戸坂村には代々、呪術師と名乗り、ある意味では警察よりも権力を持った一族が居る。
その一族は文字通り、呪いを用いて村の全てを掌握していた。
例えば村に再開発の話が持ち上がれば、呪術によって開発を進める相手を呪い殺す事もできる。
例えば小さな村に犯罪でも起きようものなら、その犯人が誰か判らずとも関係ない。呪術によって犯人を突き止める事が可能なのだ。
突き止められた犯人が、どういう末路を辿るのかは言うまでもない。
呪術師達が呪いを用いる事は、村の中では暗黙の了解とされている。
それどころか、呪い殺す対象――呪殺者は、基本村が選定していた。
何故なら、呪術師は私利私欲の為に呪術を用いてはならないという誓約が存在するからだ。
それを破れば、呪いは自分に返ってくる。故に、村の為になる事にしか呪術は用いないと決められていた。
だから村の決定でしか動かない。それも暗黙の了解だった。そこに恣意を挟める余地は無い。
その、現代では只一つ残された呪術師の家系――星野家は、村人からは畏怖の対象として見られていた。
逆らえばどんな目に遭わされるかわかったものではない。
誓約がある故に無理だとは分かっていても、人は恐れてしまうらしい。
私、星野 彗は、その家の長女として生まれ、両親が呪術を用いて人を呪い殺す様を傍目に見て育った。
今では両親は病弱な兄に代わり、彗を後継者として見ている。
子供の頃から呪術を行う場には必ず同伴させられていた。それは家の一室だったり、外でだったりする。
子供心に、その現場は恐ろしいものに感じていた。
両親やお弟子さんの危機迫る様子もさる事ながら、呪術によって呼び出される、呪術の元となる御神体ー… ”蛇神”。
悪魔にも、何かの動物にも似た、あの声。
聞く度に恐ろしくなってくる。
自分はいつか、この使役する対象に呪い殺されるのではないか、と。