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転生したら絶滅寸前の希少種族でした。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
第八章 〜十六歳のわたし、そして未来のわたし〜

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十六歳のわたし第7話



 通路の突き当たり、最後の扉。

 巨大な縦長の観音開きの扉を、レイデンさんが両手で押し開ける。

 ギイィ、と重い音。

 金属にしては少し優しい色合いの扉だな、と思ったらそこだけ木製だった。

 中は薄暗く、最奥地の玉座だけ天井から光が差して明るくなっている。

 かつ、かつとレイデンさんが進む。

 左右には五機ずつ、機械兵士が片膝をついてしゃがんでいた。

 しかし、玉座には誰もいない。

 玉座の前まで来ると、レイデンさんは玉座の後ろの深紅のカーテンを開ける。

 そういう登場の演出だろうか?

 そう思ったが、そうではなかった。

 それを見た瞬間、わたしは全身が硬直したと思う。

 歯の奥から爪先まで。

 拘束魔法で浮かんでいるから、余計に体がこわばった感覚が自分でもわかった。

 喉が引きつり、空気がヒュ、と変な音を出す。


『はじめましてぇ、せいじょ』


 まるで喉の奥に管でも入っていて、そこから出るような奇妙な響きの声。

 壁一面、コードや太いホースのようなものに埋め尽くされ、玉座のちょうど真上にそれらに繋がった小さな子どもが埋め込まれている。

 その子は顔以外が機械。

 そして、顔もまた機械のような仮面で覆われている。

 どこから声が出ていたのか。

 仮面が上下に開く。

 まるで映画の、CGのようだった。

 銀色の電子版のような顔は、皮膚のとれた剥き出しの髑髏のよう。

 え? まさかサイボーグ、というやつ?

 顔もまた、一箇所とて肌色の部分はない。

 まさか。

 まさかこれがこの国の女王だというの?

 う、嘘でしょう……?

 てっきり『意思持つ原始罰カグヤ』の本体というやつは、女王の中に巣食っていると思っていたのに……こんな……っ!


『わたし は ふぇれす くーら …… このくにのじょおう』


 ところどころくぐもっている声。

 塞がれた管の奥の方から声が響いてくるような感じ。

 よく、この広い謁見の間にそんな声が響くと思う。

 きっと壁一面を埋め尽くすあの太い管が、彼女の声を反響させているのだろう。

 実におぞましい姿だった。

 わたしがこれまで見てきたどんなものよりも、気持ちが悪い!

 これが『エデサ・クーラ』の女王、フェレス・クーラ!


『もういいよ、れいでん。さがれ』

「…………」


 頭を下げるレイデンさん。

 わたしを一瞥し、スゴールが両手で丁寧に床にバリアごとわたしを降ろすと、踵を返して扉から出て行った。

 彼にはこれ以上頼れないし、元々味方というわけでもない。

 最初からわたしは一人でこの女王と対峙しなければならないと思っていた。

 しかし、思いも寄らなくて困ったわ。

 てっきり女王には『意思持つ原始罰カグヤ』の本体が取り付いているのだとばかり思っていた。

 レンゲくんに知らせなきゃ……『意思持つ原始罰カグヤ』の本体は、女王フェレス・クーラの中ではない。

 別な場所にいる!


『うふふふふ……』

「っ……」


 奇妙な音。

 ばちん、とか、ごき、とか。

 ズル、ズル……。

 壁が盛り上がり、女王と名乗ったサイボーグが壁から出てきた。

 こんな光景を目の当たりにしては、拘束がなくても恐怖で動けなかったことだろう。

 ひた、と足が床につく。

 壁に埋め込まれていた膝から下は、肌色の皮に包まれ五本の指があった。

 驚くべきことに膝から下は人間のままのようだ。

 しかしその上はどうだろう。

 汚い色のつぎはぎ。

 鉄の板、なだらかに加工されている部分はあるものの、肩から下の両腕は銃火器がびっしり。

 両腕とも、その体躯を遥かに超える量の銃火器が備わっていた。

 服は着ていない。

 胸や腹にも、銃口が生えている。

 顔の部分は完全にセンサーかなにかだと思う。

 武器の類に疎いわたしですら一目で『全身武装』だとわかる、その姿。

 背中にはまだ、壁の管が大量に繋がっている。


『くふふふふふふ……』

「……」


 ごくん、と生唾を飲み込む。

 乾きすぎて、引きつりすぎて喉が痛む。

 ひた、ひたと近づいてくる。

 それを、その笑い方を、記憶が勝手に引きずり出してきた。

 三年前に『カラルス平原』で、聴いている。


『にんげんのまほうつかいも、いがいとやるじゃん。わざわざこのからだをかいぞうした『いみ』、なかったかなぁ』

「…………、……『意思持つ原始罰カグヤ』……『壺の中の小人』……」

『せいかーい。くふ、ふふ、ふふふふぅ……』


 いない、と思ったのに……。

 でも、一体どうやって。


「な、生身の、人間の体でなくても……入り込めたの……」

『んくふふ、きぎょう、ひみつ、だよ。それよりも、まさか『原始星ステラ』がのこっていたなんて……そうていがいだよ。どうやって『て』にいれたんだ?』

「…………」


 赤い、ボタンのような目が見上げてくる。

 よいしょ、と掛け声をかけ、奴は大きな銃器の塊のような腕を床につけ、大きさを利用してわたしの方へと近づき目線を合わせてきた。

 バリアがあるから、その前までだけど……。

 忌々しい拘束魔法が、今は砦のようになっている。

 どうか、どうか、この魔法が……消えませんように。

 震えながら祈る。

 こいつにわたしを殺す力があるのは明白だし、『原始星ステラ』を持つわたしがこの距離にいても『意思持つ原始罰カグヤ』が消滅する気配はない。

 つまり……きっと、この機械の体になにか秘密がある。

原始星ステラ』の力を阻害する、秘密が。

 それがある限り、『原始星ステラ』でこいつは浄化できない。

 浄化できないとなれば、わたしはただの小娘だ。

 怖い。

 怖い……。


『いわないなら、それでもいいさ。『原始星ステラ』をもつものは、ころす。ぼくのじゃまはさせない』

「ど、どうして——」

『あん?』

「どうして『原喰星スグラ』を、こ、この世界に落とそうとしているの? どうしてなの? そんなことしたら、みんな死んでしまうのに……せ、世界を、滅ぼしたいの? 滅ぼして、どうするの!」


 銀盤のような顔。

 かつてどんな顔をした女王だったのか、微塵も感じ取れない。

 体つきも、辛うじて少女とわかる形。

 なんとなく残っている『足』に合わせて形作られているように見えた。

 そして、これの中身が『意思持つ原始罰カグヤ』だとわかった今、はっきりと証明されたのだ。


 ——『エデサ・クーラ』は『意思持つ原始罰カグヤ』に乗っ取られていた——と。


 なんて、ひどい。

 一体いつから?

 わたしの故郷や同族を殺したのはなぜなの?

 珠霊石のため?

『暁の輝石』のため?

 でも、すべて『原喰星スグラ』を生み出すためだったんでしょう?

 なんで『原喰星スグラ』なんて生み出したかったの?

 世界を滅ぼすため?

 なんで世界を滅ぼすの?

 なんでそんなことのために、わたしの本当のお父さんやお母さんは殺されなければならなかったの⁉︎

 なんで!

 どうしても、それだけは聞いておきたい。

 たとえ今ここで殺されてでも——!


『どうして? ほろぼす……? なにをいっているの? ぼくのぶんたいが、なにかいっていたの? ああ、だとしたらすまないね、いちどわかれてしまうと、もう、それはべつの“こたい”になるから、ぼくとはしこうがことなるんだ』

「……!」

『ぼくはせかいをほろぼすんじゃあないよ。たしかに、ぼくはぼくの『からだ』がほしい。ぼくだけの『からだ』が。そして、ぼくはこのまちがったせかいを、かんぺきなすがたにしたいんだ』

「……完璧な、姿?」


 間違った世界?

 こいつの方こそなにを言っているの?

 表情がわからないから、余計に気味が悪い。


『いきものはなんでしぬんだい?』

「…………え?」

『かみは……エアは、なぜいのちにおわりをもうけたんだ? おわりあるものなどにいみはあるのか? かわいそうないきものたち。ぼくはつぼのなかでずーっとかんがえていた。ぼくをつくったものが、たいせつなひとをいきながらえさせようと『せいめいやく』をつくった。しかし、そのたいせつなにんげんはそれを、こばんだ。ひていした!』

「!」


 ……レンゲくんが言っていた、ケリア様とアカリ様の話。

 あ、そうか……『壺の中の小人』、こいつは……『生命薬』を寿命の近いアカリ様のために作っていた過程で生まれた『セント・エリクサー』から産まれた。

 当時のことを、知っているのね。


『ぼくをうんだひとはらくたんしながらも、うけいれた。いのちにはおわりがあるものだ、といって。わからない。なぜだ? きみはそのこたえをぼくにていじできるか?』

「……そ、それは……」

『できないだろう? そう、にんげんはとくにかんじょうがゆたかないきものだ。だからおもう、ねがう……たいせつなひとと、ずっといっしょにいたい、って』

「………………」


 誰もが、それは、願うことだ。

 わたしも。

 言葉が詰まる。

 言い返さなきゃいけない。

 そ、うだ。

 それが、どうして世界を滅ぼすことに繋がるの?

 そんなの関係ないんじゃ……!


『だからこのせかいを、ぼくがつくりかえるんだ。ぼくがすべて『原喰星スグラ』でせかいをのみこむ。その『原喰星スグラ』と、ぼくはひとつになる。そしたらすべてのいのちがひとつになる。わかるかい? せかいもいのちも、それでえいえんをてにいれるんだ! ……ぼくをうんだひとは、もうしんでしまったけれど……あのひとがあんなにがんばったことを、ぼくはひていしない! こばまない! こうていする! ただしいとしょうめいしてみせる!』

「…………まさか、わたしを連れてきた騎士たちや、あのメディルという魔法使いは……そ、その話を、信じたの!?」

『いやあ、かれらにはすこーしかれらがのぞむかたちのこたえをあげた。にんげんのすきなこたえだよ。ぼくのつくるせかいにいけば『しんだかぞくともあえる』っていったんだ』

「っ! 騙したってことじゃない!」


 死んだ、家族!

 なんて卑怯!

 そんな嘘をつくなんて、ひどい、ひどすぎる!


『うそじゃないよ、はんぶんくらい。かれらがかぞくをおもいながら、ぼくとひとつになれば、それはえいえんだ』

「違うわ!」

『ちがわないさ。そして、かれらのような『ひがいしゃ』をふやさないために、ぼくは『原喰星スグラ』をよりおおきくせいちょうさせなければならない。それをそがいする、『原始星ステラ』をけす。こんどこそじゃまはさせない』

「っ……」

『きみのしょけいはあすおこなおう……にんげんたちにまかせれば、きっとざんこくに、せいさんに、そしてむざんにむじひにおこなってくれるだろう。どんなしにかたがおこのみなのかはかれらにいえばいいよ。わるいね、ぼくはまだ……“たくわえて”おかねばならないんだ。レンゲが……あいつがまだいきているようだったから』


 レンゲくん。

 そうか、こいつにとっては『原始星ステラ』を持つわたしよりもレンゲくんの方が脅威なのね。

 ……確かに『カラルス平原』での、あの力は……。

 それに二千年前の『原喰星スグラ』を破壊したのも、レンゲくん。

 こいつにとっては因縁の相手……わたしは眼中になし、というわけね。


「もう一つ聞きたいことがある」

『…………』

「……十六年前、ジェラの国を襲った本当の理由は、なに?」


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