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四歳のわたし第4話



 錬金術初級。

 まずは世界の成り立ちから。


「………お…ou……」


 せ、世界の成り立ち!?

 そこから入るの!? んもぉ、急いでるのにぃ〜!?

 ざっくり読み飛ばそう……。


 まず、生き物は等しく魔力を持って生まれてくる。

 しかし、人間は亜人や幻獣に比べて著しく魔力が低い!

 故に人間は錬金術を生み出した。

 錬金術は少量の魔力で魔法にも劣らない、様々な事が行える技術。

 材料と材料を掛け合わせたりする事で、全く別なものを生み出すのだ。

 それは主に料理に使用される。


「え? りょうり? ……そうなんだ……」


 でも確かにお料理は材料と材料のかけ合わせ……。

 錬金術の基本は料理と同じ、とまで書いてある。

 なんだ、なんか身構えちゃってたけどそれならわたしにもできそうじゃない?

 最も初歩の錬金術の練習として、水とリリス、デュアナ、ソランの花などで作る簡単な治癒薬の製造がおススメされている。

 あ、デュアナの花なら庭先にも咲いているわ!


「あ! お嬢ちゃん!?」


 本を持って階段をできる限り急いで降り、ジーナさんの声を聞かなかったことにして外へ出た。

 急いで庭からデュアナの花を二本取ってくる。

 用意するのは、材料……今回は水300ccとデュアナの花で簡単な傷薬を作ってみるわ。

 調合用の鍋。

 かき回すための棒。

 あるといいのは、保存、持ち運び用の小瓶……これはガラスのものが好ましい……。

 それなら、冒険者の人がゴミとして捨てていく下級治療薬の瓶が洗って取ってあるわ。

 空の瓶は洗って干して、たまにくるキャラバンで売ったりするの。

 空の瓶は各国の錬金術組合というところで買い取って、また治療薬入れにするって言ってたから。


「一体なにを始める気なんだい? お嬢ちゃん」

「鍋? 錬金術でも始める気かよ?」


 アーロンさんは完全にわたしを馬鹿にした目で見下ろす。

 でも、やってみなきゃわからないわ。

 それに、わたしの目的は治療薬じゃない!

 これは練習よ!

 とりあえず今夜はこれで練習するの。

 明日の朝一に山へソランの花とソレマユの木の実を拾いに行かなきゃ!

 乾燥は比較的初歩の部類のようだから、治療薬が作れれば乾燥も難しくないと思う。

 もちろん、乾燥に関するページには『乾燥具合はなんの素材として使うのかをしっかりと理解して行いましょう。加減を間違えると、作りたい物も成功しない場合があります』とある。

 むむむ、こればかりはやってみなきゃわからないから、ソランの花は多めに採取してこないとダメね。


「それって錬金術の本かい? へぇ、変なもん置いてあるんだねぇ? っていうか、ほんとに錬金術なんてやってみるつもりかい?」

「はい! お爺さんのびょうきを治すのは……無理かもしれないけど……、……苦しみを取るくらいはできるかもしれないんです! わたし、お爺さんにはなんの恩返しもできてませんから!」

「恩返し?」

「すみません、しゅうちゅうしたいんです!」

「あ、ご、ごめんよ?」


 体が小さいからどうしても舌ったらずになってしまう時がある。

 でも、今はそれよりも材料を鍋に入れて……えぇと、魔力を少しずつ鍋の中へと送る……?

 どういうことなのかしら?

 魔力……前の世界にはなかったからよくわからないわ。

 でも、やるしかない。

 ダメでもともと!

 どうせ今夜は練習するつもりなんだから、とにかくやってみよう。

 手のひらを鍋の中へ向ける。

 魔力を少量、鍋に注ぎ……そして棒でかき混ぜるように書いてあった。

 ゆっくり、優しく。

 それを何度か繰り返し、鍋が光り始めたら魔力を止める。

 あとは物が混ざり切るまでしっかり混ぜるようだ。


「…………まさか?」

「本当に、できるのかい?」

「だまっててください」

「「はい、すいません」」


 魔力を注ぐ。

 棒でゆっくり優しくかき混ぜる。

 魔力を注ぐ。

 少しずつ、鍋の中の物が光を帯び始めた。


「まさか!」

「ほ、ほんとに!?」


 アーロンさんたちが叫ぶ。

 あとはひたすらゆっくりかき混ぜるだけ、のはず。

 お願い、上手くいって……!


「わ!」


 パァァ!

 と、お鍋の中身が一瞬、カメラのフラッシュのように光った。

 うう、眩しい……はっ! それよりも鍋は!?

 薬はうまくできたの!?


「…………し、信じられないよ……」


 ジーナさんが顔を険しくして呟く。

 お鍋の中には、薄いピンクの液体が出来上がっていた。

 や、やったの? できたの? せ、成功?


「……これは、アタシらの持ってる下級治療薬と同じ色の……マジで傷薬を作っちまった……」

「す、すごい! 君、錬金術もできたのか!?」

「ほ、ほんとにちゃんとできているんでしょうか……?」

「……まさかとは思うが初めてじゃあない、よな?」

「い、いえ、はじめて作りました……なので、ちゃんとできているか……」

「どれ」


 なにを思ったか小さなナイフで指先を切るジーナさん。

「わぁああ!」と叫ぶわたしをよそに、スプーンで鍋の中身をひとさじすくい上げると傷に垂らす。

 たちどころに傷は消えてしまう。

 き、傷が消えた……と、いうことは!


「成功してるよ! あんたすごい! 天才じゃあないか!?」

「すすすすすごい! 錬金術って魔力の使い方が上手くないとできないらしいのに!」

「間違いなくあんたは天才だよ! アタシらじゃあとりあえず思いっきりこう! ぶん投げたり!」

「バーンってやってドーンってやるしかできないもんな!」

「そうそう!」

「……そ、そういうものなんですか……」


 ……なぜかしら……褒められた割に素直に「わたしすごい」と思えない……。

 魔力をぶん投げたり……バーン、ドーン……?

 な、なにそれ。

 う、ううん、なにはともあれ傷薬は成功してるのね!

 よーっし!

 このもう一つのデュアナの花を乾燥させてみよう!

 乾燥させてもただのドライフラワーな気がするけど……明日ソランの花を乾燥させる練習しておきたいものね。

 あ、その前にこの鍋の中身を小瓶に移しておこう。

 でも、意外と量ができるものなのね……?

 これなら三、四瓶分くらいありそう。

 おたまを使ってゆっくり慎重に、用意しておいた空の瓶に移していくと……わあ、ぴったり三本!

 ……元々同じ下級治療薬の入れ物だから、ある意味当たり前?


「ねえ、嬢ちゃん! 提案なんだけどさ、この傷薬アタシたちに売ってくれないかい?」

「え?」

「効果は今確認しただろう? やっぱり一応こんな商売してるとあると助かるんだよ。宿の在庫にするんなら諦めるけど……どうだい? 一本200コルトで!」

「え! そ、そんなに!?」


 200コルト……コルトはこの世界の通貨ね……大体1コルトは1円と同じ…。

 わたしも最近お金の計算を教えてもらえるようになったけれど、コルトは金、銀、銅、鉄の四種類の金属によりその桁が変わってくる。

 鉄は一桁。つまり一円単位は鉄。

 10円の単位は銅。

 100円単位は銀。

 1000円単位は金。

 その上の単位はまだ教わっていないけど、金の上ってどんな金属?

 プラチナ、とか?

 どちらにしてもしばらくはお目にかかれないだろうなぁ。

 ……って、現実逃避してる場合じゃなかった!

 だ、だってわたしみたいな子どもに200コルトは大金よ!


「定価200コルトだ、高くも安くもないはずだよ。どうだい?」

「え、ええと、でも、はじめて作ったので……ひゃ、100コルトで結構です……」

「ははは! そいつぁ、こっちが儲けちまうね! ……いや、冗談抜きで……それならなにか仕事をさせておくれよ。そっちの割に合わなくなるよ」

「いえ! ……あ、あの、それなら……」


 そこまで言われるとやっぱり200コルトの方がいいのかな、と思ってしまう。

 でもお父さんは「一度言ったことは曲げるなよ」とよく言っている。

 元騎士だからなんだろう。

 その言葉の続きによく「俺が言っても説得力はねぇがな。ははは」と自嘲するから、説得力も重みも感じる。

 そんな人に育てられている以上、言い値は変えないわ。

 ジーナさんの表情が本気のものなので、それならわたしにもお願いがある。


「明日裏山にソランの花を取りに行くんです。一緒に来てもらえませんか……? 裏山には獣も出るから、本当は一人で行ったらだめなんです」

「おっけー! お安いご用だよ! な、アーロン!」

「うん! 傷薬三本、300コルトなんて格安だもんな! 元々宿代までサービスされてるし! 頑張る頑張るー!」

「あ、ありがとうございます」


 やった!

 護衛確保!


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