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転生したら絶滅寸前の希少種族でした。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
第七章 〜十五歳のわたし〜

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十五歳のわたし第9話



 転移魔法で、一瞬。

 目を開くとそこは幻獣大陸『レビノスの泉』。

 巨大な蓮の葉が浮かぶ、幻獣大陸の聖域でクリアレウス様の寝所でもある。

 泉の中央に横たわる巨大な白竜、クリアレウス様は、今日も丸くなって瞳を閉じている。


「クリアレウス様、ティナリスです」

『…………まあ、ティナリス……いらっしゃい……』


 声に元気がない……。

 うっすら開いた目は前にお会いした時よりも生気がなく、体の鱗のように真っ白になっていた。

 蓮の葉を渡り、近づく。

 老衰なんだもんね、効くかしら……。


「あの、これ、わたしが作った治療薬なんです。もしよければお飲みください」

『……ありがとう……でもいいのよ』

「クリアレウス様……」

『私は十分生きたもの……。『原始星(ステラ)』を受け継がせる役目も終えたわ。あとは静かに眠るだけ……。レヴィレウスも、レンゲも貴女もいるのだから……私にはなーんにも不安はないわ……』


 手にした上級治療薬(効果プラス5)の行き場がなくなってしまった。

 こ、こういうのって『苦しみを長引かせるだけ』みたいな感じなのかしら……。

 レンゲくんを見上げる。

 眼差しは少し悲しげだけど、納得しているように見えた。

 寿命だから、仕方ないのだと。


『でも、会いに来てくれて嬉しいわ……人と話すと元気になるもの』

「ほんとですか? えっと、じゃあ近況などのご報告を!」

『それは是非聞きたいわね。新しい生活にも慣れてきた?』

「はい、だいぶ! 最初の一年はそれはもう毎日魔物がひっきりなしで、要塞の壁が壊されそうになったりしましたけど……最近は魔物も遠くから来るので、要塞に到達する前に浄化できるようになってきたんですよ。それから要塞の中の庭で、ロフォーラでは育たない作物を育てられるようになりまして…………」


 クリアレウス様の頭の隣に座り、二年間でこんなことがありました〜、と報告した。

 思い返すと、『原始星(ステラ)』を得て、デイシュメールに住むようになる前にも色々あったのよね。

 浄化範囲がまだそれほど広くなくて、デイシュメールに籠るのは危険だと言われていた頃。

 しばらく、各国の魔物対処要請をお父さんやレンゲくんに受けてきてもらって対応していた。

 その時はもう、間近に魔物が迫ってとても怖かったの。

 怖かったけど、近づいだだけで魔物が浄化されていくのは単純に感動したし、嬉しかったなぁ。

 この世界に、命が戻ってくるような感覚だったんだもの。

 不思議な感じだった。

 これが本当の『原始星(ステラ)』なのかな……。


「また来ます!」

『うふふ、ありがとう。楽しみに待っているわ』


 もう少しお話したかったけど、アリシスさんのところへも行きたいので今日はこの辺で失礼させて頂きます!

 クリアレウス様、お話してたらだんだん元気そうになっていった。

 良かったなぁ〜。

 持ってきた薬よりも、話す方が元気になるなんて……錬金薬師としてはちょっぴり複雑……。


「ところで、そのアリシスという人は『ダ・マール』の人だよね? 場所がわからないと転移できないんだけど……」

「えーと、あの懇親会場の奥の通路に、アリシスさんの工房があったのよね……」

「とりあえずそこに行ってみる?」

「うん」


 そ、そうか。

 よく考えると、わたし『ダ・マール』へは一度しか行ったことがないんだわ。

 アリシスさん、工房に戻ってきてるかしら?


「着いたよ」

「はっ!」

「ど、どうしたの?」


 アリシスさんの工房に転移してきてからとある考えに至ってしまう。

 こ、これ、不法入国になるのでは……。

 と、いうとレンゲくんに「ティナが来て困る国はないよ。むしろ早くお会いしたいって、マルコスさんにしつこく言ってるところばかりだもの」と肩を竦められてしまう。

 ……そ、そうだとしても……いや、それはそれで怖いなぁ……。


「ば、バレないうちに会いに行こう!」

「バレたら謝ればいいんじゃない?」

「…………」


 そ、それ謝って許してもらえるのかなぁ。

 いやいや、やっぱりバレないうちに帰れるようにしよう。

 工房を覗き込むが……誰もいないな。


「誰だ」

「!」

「あ」


 早くも見つかったー!?


「んん? 貴公は……」

「ゴンゾレールさん」

「?」


 工房の中からずんぐりむっくりしたおじさんが現れた!

 え、誰?

 レンゲくんは知り合いなの?

 言ってはなんだけど小さいおじさん。

 いい服着てるし、お髭は立派だし、どことなく偉そうな感じ……。


「ゴンゾレールさん。『ダ・マール』の元老院の一人」

「ええ!? あ、は、初めまして、ティナリスと申します」

「ティナリス!? は、はあ!? 聖女ティナリスか!? なぜこんなところに!?」

「ゴンゾレールさんこそ。ここは錬金薬師の工房でしょう?」

「ぐっ」


 わ、わたし、『ダ・マール』で『聖女ティナリス』なんて呼ばれてるの!?

 大国『ダ・マール』の偉い人にそんな風に呼ばれるなんて……。

 今からでも『聖女呼び』はやめてください! ってきっぱりみんなに相談……しても名前まで知られてるのなら、意味ない、かぁ。


「ティナがここの工房の人に会いに来たんだけど……」

「あ、は、はい。体調を崩されたと聞いて……。以前色々お話を聞いたことがあったので、お見舞いに来たんです」

「っ……」


 強張るお顔。

 元よりなかなか怖い顔だったけど、もっと、なんか怖い顔に!

 こ、こわい!

『ロフォーラのやどり木』にくる冒険者さんたちで、怖い顔の人は見慣れてるのになんか! なんかタイプが違う!


「…………」

「あ、あのぅ……?」


 タイプの違う怖い顔。

 そのあとの、辛そうな表情。

 え?

 なに?

 なんでそんな顔をするの?

 やめて、そんな…………だって、リスさんは徹夜だったって……。


「あ、あの……アリシスさんは……」

「……一昨日の夜、急にな……。残念だが……」

「…………」


 う、そ。

 嘘……そんな……嘘でしょ?

 手から力が抜けて、アリシスさんに渡そうと思っていた素材の入った袋が落ちる。

 だって、そんな……!


「わざわざ来てもらったのにすまん」

「……て、徹夜のし過ぎ、と聞いて……」

「いや、三年前に余命宣告はされとったんだ。心配させんようにそんなつまらん嘘をついたんだろう。あのババアらしい」

「………………」


 三、年……前?

 それって、初めて会った頃、もう……?


「急だったんだ。……だが、もしかしたらあいつは全部わかってたのかもしれんなぁ……」

「…………。お葬式は、いつ……」

「一週間後だ。来てくれるのか?」

「はい」


 うなだれたゴンゾレールさん。

 わたしも俯いた。

 ……一昨日……。

 お葬式は一週間後、か。

 なんとか時間を作らないと。


「ティナリス……アリシスが自分の葬式にもしお前さんが来るようなことがあれば、これを渡すよう頼まれたよ」

「え?」

「ワシは今、ここの工房を閉める準備をしとってな。この手紙をあんたが受け取って、そのあと、この工房のものをどうするのかはあんたに決めてもらいたい」

「え? え? ど、どういうことですか?」

「読めばわかる。ワシとしては、あんたがこの工房のものを受け継いでくれればいいと思っとる。……茶を入れよう。座って待っててくれ」

「え、あ……」


 元老院の人にそんな、と断ろうとしたけれど、手渡された手紙が気になる。

 どくどく、胸が変な音を立てていた。

 なんだか……変なのよね、この、感じ……。

 唾を飲み込み、ゴンゾレールさんのお言葉に甘えて窓際の席に座る。

 カエルや蛇が付け込まれた瓶が並ぶ小さめのテーブル。

 レンゲくんは無言でわたしが落とした袋を拾い、側にいてくれた。

 少し震える手で封筒を開け、中から数枚の手紙を取り出す。

 開いてみると、少し癖のある字が並んでいた。



『ティナリスへ。

 頑張っているようだね。

 あんたの噂をよく聞くようになって、嬉しく思うよ。

 ただ、錬金薬師としてじゃなく『聖女様』になっちまったのは驚いた。

 ちゃんと錬金術の方も頑張っているんだろうね?

 もしまだあんたが錬金薬師として精進したいと考えているのなら、あたしが死んだ後のあたしの工房はあんたにやるよ。

 自由にお使い。


 実はあたしには息子がいてね。

 もう何年も便りがないんだ。

 最後にあたしに会いに来たのは、金色の髪のどえらいべっぴんの嫁を紹介しに来た時だったかね。

 いやあ、あんな美人を連れてくるなんて、今でも信じられないよ。

 女手一つで育ててやったってのに、冒険者になる、なんて言い出して『ダ・マール』から出て行ったバカ息子が、珠霊人のお姫様と結婚したとか言って連れてきたんだ。

 信じられるかい?


 あんたはそのお姫様に似てたから、つい、気になっちまうんだよ。

 だから、あんたが錬金薬師としてこの先も精進していくつもりがあるんなら、あたしの工房はあんたに使って欲しいのさ。

 要らないんならいい。

 思うままに、生きればいいんだ。

 あたしの息子みたいにね。

 元気でやるんだよ。


 アリシス』



「……………………」

「ティナ……」


 ことん、とお茶が置かれる。

 ゴンゾレールさんが持ってきてくれたお茶。

 アリシスさんが淹れてくれたお茶と、同じ匂いだ。

 手紙をしまって、頭を下げてからカップを両手で包んで持ち上げた。

 震えてて、片手だと落としてしまいそうだったから。


「工房は立ち入り禁止にしてある。いつでも来て、好きなように使ってくれ。なんなら、材料やレシピ本も全部自分の工房に持ってってくれて構わん。その方があいつもあいつの夫も喜ぶだろう」

「……アリシスさんは気づいていたんでしょうか……」

「さぁな。あいつはなにも言わんからな……」

「…………」


 錬金薬師として。

 わたしがこの先も、精進したいと思うなら——。

 工房の中を見回す。

 わたしが憧れた道具もレシピ本も、研究資料や材料。

 アリシスさんの人生が詰まった場所。

 鍋の前に佇むアリシスさんの姿が、見えるような気がした。

 唇を噛む。

 初めて会った人の前で、泣くのは抵抗感があった。

 でも、この手紙の意味を思うと……。


「わたしが要らないと言ったら、この工房はどうなるんですか?」

「アリシスはあんたが要らないと言った場合、全部燃やしてくれと言っていたよ」


 言いそう。

 ……一度しか会ったことないけど、何度も手紙でお話したからそう思う。


「………………もちろん、全部頂きます!」

「そうかい。ここをこのまま使うか?」

「いえ、ロフォーラとデイシュメールへ分けて持っていきます。レンゲくん、手伝ってくれる?」

「うん、いいけど……」


 お茶は一気飲みした。

 そして袖で目元を拭う。

 立ち上がって、早速どっちにどれを送るか選別を始める。

 アリシスさん、ありがたく頂きます。


「よーし、頑張って『聖女』じゃなくて『錬金薬師』として名を轟かせるわよー!」

「…………」

「…………」



 ……おばあちゃん、わたし、もっと精進します!

 見ていてください、亜人大陸にも名前が届くほどの錬金薬師になりますから!













 十五歳のわたし 了

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― 新着の感想 ―
[良い点] お祖母ちゃん!? [一言] う、うーん、どんなに頑張っても「すごい錬金薬も作れる聖女様」になってしまうような…w
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