十五歳のわたし第5話
さて、そんな朝を過ごした後はいざ、レンゲくんに相談よ!
アリシスさんとクリアレウス様にお会いしておかなければ!
もうこれは使命だわ!
「…………それにしても……」
廊下を歩きながらため息をつく。
魔力回復薬はわたしにしか作れないのか……。
多分、『珠霊人が珠霊石を作る魔力』というやつが働いたんだわ。
うわぁ、マジですかぁ。
もしかしてそのせいでわたしが珠霊人ってバレたり……し、してないわよね?
ううう、怖い〜。
「あ、聖女様」
「あ、おはようございます」
例の広くて長い階段の踊り場に、従業員のお姉さんたちがたむろってる。
……この人たちもわたしのことナチュラルに『聖女様』呼びになってるのよね。
幻獣さんたちがそう呼んでるから、そう呼ばなきゃいけないと思ってるのかもしれないけど。
はあ、ほんとすっかり定着してしまったなぁ。
「おはようございます、聖女様! あの、聞いてください!」
「は、はい。どうかしたんですか?」
「洗濯場担当のアンナが香辛料畑担当のダンと結婚することになったんです!」
「ええ! わあ、おめでとうございます!」
それはおめでたいわ!
じゃあ結婚式しなきゃ!
あ、でもこの世界の結婚式、いや冠婚葬祭って国ごとに……あー、宗教ごとに違うのよね。
この人たちはそんな『国』からは独立した存在。
元奴隷、なのよね。
どうするのかしら?
「それで、あの、今みんなで彼女たちの結婚式をどうするか話し合っていたんです」
「どうすることにしたんですか?」
「「是非! 聖女様に祝福をお与えいただきたいと思いまして!」」
「へ?」
わたし⁉︎
「私たち、みんな出身の国が違うので……」
「ええ、それに、自分の国の神が本来、民を統治するためのものだと聞かされてしまってからは、もう神を信じられなくなりましたし……」
「でも聖女様は目の前にいますし!」
「それに聖女様の奇跡は毎日見ておりますし!」
「聖女様の御前で永遠の愛の誓いを立て、祝福していただければ彼女たちも幸せになれる気がしますし!」
「え、ええぇっ。ま、待ってください! わたし、『原始星』を受け継いだだけのただの一般人なので、わたしに永遠の愛とか誓われましても!?」
荷が重すぎる!
奇跡は『原始星』のおかげだし!
『原始星』は、たまたま宿せるのが珠霊人の生き残りだったわたしだけだっだだけで!
わたし自身は何の変哲もない普っっっ通の人なわけなので!
永遠の愛!?
お、重い!
「大丈夫です! 本人たちの気の持ちようですし!」
それなら別に誓いを立てる相手、わたしじゃなくてもいいのでは!?
「あ、あの、それなら世界唯一の神『エア』に誓いを立ててはいかがでしょうか?」
「ええ〜、聖女様の方がご利益ありそうですよ〜」
ご利益!?
どういうこと!?
ないと思いますよ!?
「お願いします! 聖女様! 聖女様に見守っていてもらえれば、彼もアンナを蔑ろになんてできないです!」
「そうですわ! だって聖女様の前で愛を誓うんですもの! 聖女様が彼が浮ついたら一言『わたしの前で誓った愛をお忘れですか?』と言えばそれはもう!」
「ねえ!」
「ええ!」
ええぇ……。
旦那(予定)信用ゼロじゃない……。
とはいえここで「わかりました」なんて返事をしたら、今後もカップル成立イコール結婚式立会い強制、になりそうだし。
ダメだわ、迂闊に返事できない。
「ご、ごめんなさい。わたしの一存では……」
「なぜですか!?」
「そ、そもそも、わたしは聖女ではないですし」
「「まだそのようなことを!?」」
ええええぇ〜……。
「日々魔物を浄化してらっしゃるではありませんか!」
「そうです! そんなこと、聖女様にしかできませんわ!」
「いえ、あのですから……」
「みんな聖女『アーカリー・ベルズ』様の再来と言ってるんですよ!」
「聖女様は聖女様ですよ!」
ああ、やはり聞き入れてもらえないのね〜……。
呼ばれることは慣れてしまったけど、自分のことを聖女とは認められないの〜!
浄化だって、『原始星』のおかげで別にわたしの力じゃないし!
わたしにできることといえば魔力回復薬を大量生産することぐらい!
あれは確実に珠霊人であり錬金薬師のわたしの力なので!
「…………。……でも、わたしは本当にたまたま『原始星』を宿せる体質だっただけの普通の人間なんです。だから、わたしに誓われてもご利益とかはありません。誓いを立てる証人には、ええと、結婚式の出席者たちがなればいいのではないでしょうか?」
「聖女様……」
「もう、聖女様は謙遜が酷すぎます!」
ええええぇ〜……。
「でも、聖女様がお嫌なら……」
「そうね。それに、出席者たちが証人になるということは……」
「私たちもその証人になるということだものね。うん、さすが聖女様! 素晴らしい提案ですわ! 凡人にはとても思いつきません!」
「い、いえいえ!?」
謎すぎるヨイショやめて!?
このくらい普通でしょ!?
「あ、あの、ではわたし、今日は畑に肥料を撒くので……」
「あ、お呼び止めして申し訳ありません」
「いえ。結婚式の準備はわたしも手伝いますね」
「「ありがとうございます!」」
「それで、会場なんですが……」
「ええ、上のダンスホールを使っていいですよ。というか、そんな時にくらいしか使えませんものね、あそこ」
「「ありがとうございます!」」
お辞儀をされて、手を振り返す。
はあ、やっと解放された。
えらい目に遭ったわ。
けれど、結婚式かぁ〜。
いいなぁ、やっぱり女子たるもの憧れちゃうわよね……色々大変そうではあるけど。
「おはようございます、聖女様」
「おはようございます」
「おはようございます! 聖女様!」
「おはようございます」
表に出ると、畑作業の皆さんに頭を下げられる。
その都度、わたしも頭を下げて朝の挨拶をするのだが、本当に皆さん楽しそうに働いているなぁ。
わたしも、今日一日頑張ろうっと!
あれ? ギャガさんたちのキャラバンがいそいそ出発の準備をしている。
もう発つのかしら?
リスさん、なにも言ってなかったけど……。
「おはようございます、ギャガさん」
「ああ、おはようなんだもんな、ティナリスちゃん」
「おはよー」
「もう出発するんですか?」
「旅ができる商人は限られてるもん。『サイケオーレア』への薬の運搬は終わったけど、『サイケオーレア』へ行く道にある宿屋へ届けなきゃいけない依頼品は残ってるし、注文も受け付けないとなんだもんよ」
「あ……」
そういえばそうか。
『ロフォーラのやどり木』もよくギャガさんに衣類や消耗品を注文してる。
今更ながら旅の商人さんは偉大だわ。
ギャガさんたちのような商人さんがいてこそ、宿屋の運営ってまともにできるんだものね。
「まあ、今はどこの宿屋もお客はいないんだもん。でも、宿屋を経営してる人たちの生活もかかってるんだもんよ。旅商人として、お得意さんを見捨てて置けないんだもんな!」
「さすがギャガさん! 商売人の鑑!」
「うふふふーん!」
「ティナリスちゃん、あんまり褒めると調子にのるからそのくらいでいいよ」
ドレークさんは空笑い。
けど、やっぱり商人さんが来てくれないと宿は困るもの。
泊まってくれる人がいてこその街道宿だものね。
荷物はレンゲくんが転送してくれた。
でも、街道宿にとってはお客さんが泊まらないとなんの意味もないわ。
きっとギャガさんたちが、泊まりに来てくれるのを楽しみにしてるはず。
「それにしても、デイシュメールに泊まれたのはラッキーでしたね。頭領」
「そうだもんな。ここはいつも難関だったからもん」
「え? そうなんですか?」
「そうなんだもんよ。ここは『エデサ・クーラ』の要塞だったじゃんも? だから、いつも遠回りしてたんだもん。この辺りに宿はないから、いつも多めに食糧を買い込んでおくんだもんけどな〜」
「そうすると荷が増えて馬の脚が遅くなるんだ。通り過ぎるまでドキドキしないといけないし……いやあ、デイシュメールが落ちてくれて助かったよ〜」
ははは。
と、笑い合うギャガさんとドレークさん。
そう、か……世界のおへそ……デイシュメールを通らなければ遠回りになるのね。
「でも今は『魔寄せの結界』が張ってあって魔物がすごく寄ってくる状態なので……」
「「え……」」
「『エデサ・クーラ』の要塞時代とさして変わらないかもしれません……」
まあ、そんな感じで相変わらずの危険地帯なのよね、ここ。
だから各国の騎士団が数人の護衛騎士を派遣してくれているのだ。
城壁に常駐している騎士たちは、そういう派遣されてきた騎士さんたち。
各国の面子のためにお父さんが「受け入れてやってくれ」と神妙な面持ちで肩を叩いてきたのよ。
もちろん彼らは『わたし』の監視や、調査も仕事のうちだろう。
若くてイケメンな騎士さんがとっても多いのは、多分わたしを懐柔せよ! 的な密命も帯びているからなのかもしれない。
……というのはお父さんの予想だ。
しかし残念ながら、彼らよりもレンゲくんの方が圧倒的に顔がいい!
いや、別に男は顔とは言わないけどね?
でもほらやっぱりレンゲくんは顔の良さが人間の比じゃないというか……?
あとぶっちゃけイケメン度ならガウェインさんやベクターさんの方がまだ上という……。
す、すみません、各国の騎士様たち!
ガウェインさんやベクターさんでイケメンには多少の免疫があります!
顔だけではわたしは懐柔できません!
「じゃ、じゃあ『フェイ・ルー』に戻る時また泊まらせてもらおうかな〜と思ってたんだもんけど……無理げなんだもんの?」
「そんなこと考えてたんですか!? さすがギャガさん! ……む、無理ではありませんけど、安全にたどり着ける保証できかねます……」
「なんてこったいなんだもんのー」
こちらとしてはウェルカムです。
でも、魔物はこのデイシュメール目指して寄ってきます。
……あんまり安全じゃないと思うなぁ。
「聖女様! 北の方角から魔物が急接近してきます!」
「は、はーい、今行きまーす」
ああ、もう〜。
肥料撒こうと思ってたのに〜。
もう来たのか〜。
「じゃ、じゃあ、わたしちょっと行ってきます。ギャガさんたちはゆっくりして行ってください」
「ティナリスちゃん……」
「行くって、魔物のところへかい?」
「はい。効果範囲というものがありまして……わたしはまだそんなに広くないんですよね」
アカリ様の十メートルにはまだ及ばない。
でも、二年前よりは馴染んできて九メートルくらいにはなったのよ。
だから、城壁内からも浄化は可能。
可能だけど、そんなに接近されたら城壁内の人たちがとても怖がる。
だから——。
「ティナ」
「レンゲくん!」
城壁の外で、見つけたらすぐに浄化してしまうのよ。
そのためにレンゲくんやレヴィ様に連れてってもらわないとなのだ!
あと、昨夜の分もまだ浄化していないしね。
城壁の上で見張ってたレンゲくんが降りてくる。
差し出されたその手を取って、さて行こうと思ったら……。
「ティナリスちゃん、気をつけていくんだもんのー! 無茶しちゃダメなんだもんよー!」
「! は、はい! 行ってきます!」
「そうだぞ! ティナリスちゃん! 相手は魔物なんだろ!? 気をつけろよー!」
「は、はい!」
ギャガさんたちの声に、手を振る。
あれ、何だろう、この感じ。
心が、浮かれた?
「…………変な人だけどいい人だね」
「え? うん」
レヴィ様はわたしが高所恐怖症なのに空を飛ぶけど、レンゲくんは転移魔法で移動してくれるからすぐに地面に足を下ろせる。
レンゲくんに、えーと、相談したいことがあって……。
そうだ、魔物の浄化が終わったら——。
「あんなに心配して……。僕が側にいれば大丈夫なのに」
「………………」
ああ。
そうか……。
「……でも、なんか嬉しかった」
「そうだね」
最近、あんな風に必死に心配されることってなくなってたから。
聖女様、と呼ばれるようになって、魔物と対峙して浄化するのがすっかり日常になっていたもん。
そうよね、魔物と対峙するのはとても危険なこと。
当たり前のことなのに忘れていた。
心配してもらうって嬉しい。
わたしのことを、大切だから無事に帰ってきてほしい、という意味での心配は……どれくらいぶりなのかな。
「さあ! 今日も頑張ろう!」







