十三歳のわたし第3話
さてと。
別館にギャガさんたちを案内して、頼まれたスイーツセットを作り始めるとしますか!
上級治療薬の素材も手に入ったし、万能治療薬を作れないもんか試したい気持ちもあるけど……その素材を持ってきてくれたのはギャガさんたちだもん。
全力でおもてなしするわよ!
今日のスイーツセットはクミルのケーキとゼーダラ茶葉の紅茶。
まあ、クミル(前の世界なら胡桃ね)だけじゃ食感にしかならないのでここにスイートポーテト(さつまいもね)を入れるわ。
さつまいもは適度な大きさに切りフライパンで砂糖と水で甘露煮にする。
冷ましたものを小麦粉、はちみつ、砂糖などと混ぜて更に砕いたクミルを投入。
ほんとはバターも入れるべきなんだろうけど前の世界ほどホイホイ手に入るものじゃないから、なし!
油を塗った型に流し込み、薪オーブンで焼き加減を確認しながら約四十分。
ホクホクのさつまいもとはちみつの風味、クミルの食感が美味しいスイートポーテトとクミルのパウンドケーキの出来上がり〜!
「ティナ〜」
「あ、ナコナちょうどよかった。おやつできたから……」
「ホント!? 今日はなに、ってそうじゃなかった。新しいお客さんだよ!」
「え! ホント!?」
お互いに満面の笑みでハイタッチ!
今日は千客万来なんじゃないの〜?
おやつもできたばかりだし、今日は久しぶりに忙しくなる!?
「何名様?」
「一人」
「な、なんだぁ。い、いやいや! じゃあ一人部屋の準備をしておくね。おやつ、ギャガさんたちにお出しするの任せていい?」
「うん。でも、そっちはレネモネに任せてティナはお迎えに行ってくれない? あんたに用があるんだって」
「え? わたしに?」
お父さんは?
と聞くと「ギャガさんたちがきたから、ムジュムジュと山へボア狩に行ってるよ」とのこと。
そうね、保存肉だけじゃギャガさんのキャラバン人数は賄えないもんね。
ということは下手したら夕方まで戻ってこないか。
わたしに用があるお客さんで、しかも一人?
まさかジルリールさん?
ありえる。
あの人、ふらっと現れることがある。
『サイケオーレア』からじゃ遠いだろうに……。
「ん? なに?」
「べーつに」
ナコナはなぜかニヤニヤしてる。
あれ? そういえばなんで“誰がきたか”教えてくれないんだろう?
わたしを名指しってことはナコナも知ってる人ってことよね?
心配性のナコナがわたしに“一人で”お出迎えに行けというのも気になる。
え? なに? 不気味なんだけど?
「じゃ、じゃあ行ってくる、よ?」
「うん、よろしくね」
なんなのよ。
と不可解なナコナの様子に首を傾げつつ宿の入り口に向かう。
本宅を通り過ぎると大きな木。
その下に、おや? 全身マントとフード、マフラーの着込みすぎな人が立っているな?
「え、あ、レンゲさん!」
「あ……ティナリス」
ふんわり、と目元だけでもマフラー下の整った顔が笑んだとわかる。
…………マ、マ、マフラー様……。
なるほど、マフラー様はこういう不意打ちから勘違いしそうな女子を守ってくれていたのね。
わたしはといえばその笑顔に対して営業スマイルをなんとか返し、「いらっしゃいませ」と言って歩み寄るのが精一杯。
もちろん、一定の距離は置く。
なぜなら…………。
「甘い匂いがする! 今日のおやつはなに!?」
「ヒェ!」
瞳がキラリーン!
……ええ、そんな感じで絶対光ってる。
両手を上げて駆け寄ってくるその姿は……ただの大型犬!
背中にブンブン、高速で動く尻尾が見えるようだ。
甘いものに目がないと言っていたがレンゲさんの「甘いものに目がないレベル」をわたしは侮っていた。
逃げる間もなく顔を擦り寄せられ、くんくんと匂いを嗅がれる。
それからうっとりとした眼差しで見られ「ハニーシロップの匂い!」と顔の真上で嬉しそうに問われるのだ…………。
「今日のおやつはハニーシロップが使われてるの!? 砂糖の匂いもする! あと、スイートポーテト!」
「よ、よくわかりますねー……」
「美味しそう、美味しそう〜!」
「は、はいはい。別館の喫茶コーナーにどうぞ。今お出ししますからね」
「うん!」
…………大型犬かな?
わたしの肩に手を乗せて後ろからついてくるイケメン。
そりゃね、この世界は甘いものが上流階級の嗜好品だから滅多に食べられないというのは、わかるわよ?
けどそれにしたってレンゲさんよ………あなたはちょっと甘いもの大好きすぎやしませんかね?
初めて『ダ・マール』で会った時の、あの年上の余裕とクールな感じはどちらへ旅立たれたの?
「僕、ティナリスの作るおやつ大好き〜!」
「はいはい。ありがとうございます……」
ホント……どこへ行ってしまったの……。
なんだか敬語使うのも躊躇われるレベルの豹変ぶり。
レネモネの相手をしている気分だわ……。
これ別にわたしの精神年齢のせいとかじゃ……ない、わよ、ね?
四ヶ月ほど前、『ロフォーラのやどり木』までわたしたちを護衛してくれたレンゲさんにお給料……現物支給として初めてケーキを食べさせた時の光景が今でも眼に浮かぶ。
頰に手を当てて、幸せそうに「ンン〜〜!」と周囲にお花を飛ばしていたあの笑顔……。
作った方としてはガッツポーズなのだが、思えばあれがレンゲさんをここまで壊すきっかけになったのよねぇ。
いや、これが素なのだろうか?
……素なんだろうなぁ……。
ず、ずるくない?
かっこよくて優しくて、気配りもできてそのうえものすごく強いのに…………甘いもの大好きで、おやつのこととなると子どもみたいになるとか!
レンゲさんに後ろから肩を掴まれ、そのまま親ガモのように別館へ入る。
ギャガさんたちはすでにナコナによりおやつを食べ始めており、わたしの肩にへばりつくイケメンに固まった。
「あ、新しいお客様です。同席してもいいですか?」
「か、構わんにょも?」
「若いわね? 一人で旅してきたの?」
「仲間がいますが、皆バラバラに行動しているんです。二ヶ月後にここで落ち合う約束になっているんですが、僕だけおやつを食べに……あ、いえ、先に着いてしまって」
……今「おやつ食べにきた」って言わなかった?
な、仲間たちよ〜! 強く生きろ!?
「そうなんだもん? しかし二ヶ月もどうするつもりなんだもんな?」
「え? 泊まれないんですか?」
「こちらとしては長期滞在は大歓迎ですけど……」
お金足りるの?
と、口に出せないわたしはまだ日本人だった感覚が抜けないのよね。
ふと、視線を感じて後ろを見上げる。
「…………」
泊まれないの?
ダメなの?
……と目で伺う大型犬がそこにはいた。
っく……。
「ちょ、長期滞在割引はしますけど、お代はきっちりいただきますよ?」
「大丈夫! 色々持ってきたよ」
「も、持ってきた?」
なにを?
お金ではなく、色々持ってきたってなに!?
ようやくわたしの肩から手を離すと、マント下から茶色い皮袋を取り出してテーブルへ広げる。
ギャガさんたちも、職業病だろう……なんだなんだと近づいてきて覗き込む。
「こ!」
「こ、これは!」
「『ドラゴンの鱗』じゃないかだもん!? こっちは『ドラゴン骨の粉末』!? こっちは『グリフィンの毛』に『オルトロスの髭』……幻獣大陸でしか取れない『ロポポキノコ』と『幻蝶の繭』、『妖精の羽の鱗粉』、『幻泉の水』……ほ、他にも他にも……どこでこれをー!」
「え? 普通に幻獣大陸から……」
「行ったんだもんの!?」
「はい」
「はいー!?」
ギャガさんが前のめりになって、目が飛び出てる。
げ、幻獣大陸に……行った〜!?
幻獣大陸って、た、確かに一部の命知らずな冒険者は行ったりするって話を聞いたことあるけど……。
冒険者の中でも一流にならないといけない、冒険者の桃源郷であり最終目的地であり、そこから生きて帰ってきたら英雄だ、なーんて言われるらしいけど!
ほ、本当に生きて帰ってきた人が目の前にぃ〜!?
「すすすすすごいんだもんな! これ全部うちで買い取らせてほしいんだもんよ!」
「え、ティナリスにあげようと思って持ってきたんだけど……」
「わたし!? そしてあげようと!? いえいえいえいえなに言ってんの!?」
「長く泊まるから、コレで支払おうかと」
「じゃあ普通にギャガさんに買い取ってもらって、お金で……」
「ええ? ティナリスはお金よりもこちらの方が喜ぶと思ったのに?」
「うっ!」
そ、そんなショボーンとされると良心が!
心なしか後ろに「キューン……」と悲しげに鳴く子犬の映像が見えるような見えないような……幻覚かな!?
確かにこんな超レア素材……錬金術で使ってみたい気もするけれど!
「そ、そもそも錬金術でも効果がわからないのでもらっても困ります!」
「そ、そうなの?」
「そうですよ! わたしの知識では使い道がわかりません。ギャガさんに買い取ってもらって……お金でお支払いください」
「そ、そうなんだ……。幻獣大陸のものは珍しいから喜んでくれると思ったけど、そうじゃないんだね……。なになら嬉しいの?」
「え? ええと、そ、そうですねぇ……今は上級治療薬の材料が手に入りにくいので……あ、あと、東の大森林にあるものはほとんどこちらには出回らないので……」
「東の大森林か。うん、わかった。次はそこから色々見繕ってくるね」
…………サラリとすごいこと言ってるよこの人……。
ひ、東の大森林だって『サイケオーレア』から幻獣大陸への道すがらになるから、危険生物が多いって聞くんだけど?
やっぱり幻獣大陸まで行って戻ってくる人は言うことが違うわね〜……。
「それよりおやつ……」
「今持ってきますね。座って……あ、手はちゃんと洗っておいてくださいよ」
「はーい」
…………。
……敬語を使うのがホンッッットに戸惑われてきたなぁ。
でも、幻獣大陸の素材かぁ……!
『サイケオーレア』で勉強したらいつかああいうのも使えるようになるのかな?
……レネモネがもう少し大きくなって仕事ができるようになってきたら……『サイケオーレア』の学校に通ってみようかしら……。
お菓子作りをモネに教えて……ナコナも料理は上手いし……。
うん、今のうちにレシピをノートにまとめておこう。
あ、それにエルフの国『フォレストリア』で魔法も勉強してみたいな。
…………いつか……世界が平和になったら……。
「………………」
昨日のお父さんの話が頭をよぎる。
世界が、呑まれる……宇宙の、魔物……『原喰星』。
…………わたしは……。







