うちの娘は…………
目を覚ますと石造りの天井が見えた。
辺りへ目を凝らす。
なにもはめ込まれていない窓から燦々と光が入ってくる。
空気は綺麗だが、ロフォーラほどではない。
四角い部屋には簡易的な治療器具の置かれたテーブルと、それに付随する椅子。
砂地の地面。
腕を見ると、造血薬の点滴器具が取りつけられていた。
なるほど、気絶していたから点滴になっちまったか。
腹には幾重にも巻かれた包帯。
寝ている場所はベッド。
起きてみようかと腹に力を込めてみたがこりゃダメだ。
大人しく枕に首を沈めた。
助かったのか。
あの巨大な『無魂肉』……あんなものは初めて見た。
『無魂肉』は基本的に生まれて間もない赤ん坊に魂が宿らなかったり、死んだ人間を火葬せずにそのままにしていると『原始悪』が溜まって生まれてくる。
つまり、大きさは器のサイズのはずなのだ。
だが、戦ったそれは人のサイズではなかった。
いったいなにが起きているのか。
明らかに最近の魔物、『無魂肉』は……異常だ。
そういえば意識があった最後の方に、見覚えのない男の姿があったが…………。
「ティナ! 痛……!」
『彼女なら無事だ』
「!?」
上半身を起こすと、黒い獣が入り口に座っていた。
目を剥く。
喋った……。
「げ、幻獣、か?」
『そう…………」
「!?」
スッと獣は立ち上がる。
漆黒の毛並みと三本の尾を揺らした獣は黒い霧を纏って縦に伸びていく。
その中から現れたのは一人の青年。
黒い髪と瞳に、顔の半分を白いマフラーで覆っている。
この、この男は……『ダ・マール』に着いた日にティナが声をかけた冒険者たちの……。
「以前の問いに答えよう。僕の名は蓮華。幻獣王クリアレウス様の代理でこの大陸に来た」
「……げ、幻獣王?」
「そう。幻獣大陸クリアレアを束ねる方だ。……僕はその代理でね……」
「ひ、人の姿に……」
「化けるくらい造作ないよ」
腹の痛みが吹っ飛んだ。
伝説の存在……幻獣……。
それが目の前にいる。
話しかけ、会話している。
口を手で覆う。
変な汗が出て、緊張で胃が痛い。
しかし、今目の前で見たものは信じないわけにはいかないだろう。
それとも痛みで夢でも見ているのか?
腹をさすると痛みが戻ってくる。
残念ながら夢ではないらしい。
ロングマントに深めのフード。
そして口元をマフラーで覆っていたレンゲという幻獣。
彼はフードを取り、マフラーを緩める。
……これはとんでもない美形だな。
なるほど、これだけ整ってると人間じゃないというのもわかる。
「マルコスさんといったね」
「へ? お、おう?」
「僕が正体を明かした理由は聞かないの?」
「…………。…………き、聞かせてくれるのか?」
「君のご息女……僕が貴方に預けたあの少女のことで話ができてしまったからきた」
「…………預け……、……あ……」
“以前の問いに答えよう”。
……黒い大きな獣の姿。
三本の尾。
息女……預けた……。
俺の名前。
思い出した。
ティナは、赤ん坊の頃に幻獣に預けられたのだ。
俺をティナの許へと誘った、あの黒い獣は——!
「あ、アンタだったのか!?」
「僕も彼女の持っていたペンダントを見るまで気づかなかったんだけどね……いや、人間の成長は本当に早いや。びっくりしたよ」
そうだ。
俺はあの獣に名を尋ねた。
そして、警戒を解いてもらうべく自分の名を名乗った。
……その時のことを言っていたのか。
り、律儀な……。
一歩一歩近づいてくるレンゲという幻獣。
黒い瞳が、細められる。
「マルコスさん、単刀直入に言おう。……僕では決められないから……」
「? な、なにがだ?」
「……ティナリスを幻獣大陸に連れてきてほしい。僕らの王に会い、彼女に『原始星』を継承してほしいんだ。……もう彼女しかいない。彼女以外には……」
「……、……え、と……いや、え? ……幻獣大陸に、ティナを? は? い、いや、いやいや、待て、話が見えない。どういうことだ?」
『原始星』だと?
古に聖女『アーカリー・ベルズ』が持ち得たという奇跡の力。
全ての傷や病を根治させ、魔物を浄化して消すという、あの?
どこか悲しげにも見える表情で、レンゲは目を伏せる。
……なにか、のっぴきならない事情が、ある、のか。
「せ、説明してくれ」
「……この世界は間もなく滅ぶ」
「は?」
世界が、滅、……滅ぶ?
突然降って湧いた言葉の数々にまた頭がこんがらがってきた。
単刀直入は俺も好きだがちょっと飛躍が酷すぎる。
もう少し順序立てて説明してくれ。
世界が滅ぶだと?
「冗談ではなく。……宇宙に……『原喰星』が生まれてしまったからね」
「ス、スグラ?」
「星を喰らう大きさの魔物のことだ。今はまだ小さいけれど、五年もすれば瞬く間にこの惑星を呑み込むくらい大きくなるよ。体調が戻ったら空を見上げてみるといい」
「…………星を、呑み込む……!?」
「地上の『原始悪』が増え、世界を覆うと天上に『原喰星』が生まれるんだ。魔物の急激な増加や巨大化は『原喰星』が生まれる前兆でしかない。二千年ほど前にもこの世界は『原喰星』によって一度滅びかかっている。……空白の千年時代って知ってる? ……あれは誤った方法で『原喰星』を倒そうとした結果、空から降り注いだ『原喰星』の残滓……『原始罰』によって文明が破壊され尽くしたためだ」
「………………」
「……人は忘れてしまったかもしれないね。亜人たちも……さすがに二千年前ともなるとエルフたちも寿命だろうし」
口が、開いたまま閉じられない。
俺は歴史には詳しくない。
だが、空白の千年時代のことはナコナに聞いたばかり。
じ、事態が大きすぎて……現実味がない。
瞬きを無理やりして、口を左手で覆う。
そのまま一度顔を拭うように動かして……手を下ろした。
「……そ、それで『原始星』なのか? し、しかし、なぜティナが? それに『原始星』は失われた力のはずじゃ……。大体、仮に『原始星』があったって、そんなのとどうやって戦うんだ? 戦えるのか? 空の上にあるんだろう?」
「……『原始星』は完全に失われていたわけじゃない。あの人は死の間際に幻獣王クリアレウス様へ『原始星』を預けていたんだ」
「あの人……聖女『アーカリー・ベルズ』、か?」
「え? ……あ、ああ……人の世界にはそう伝わっているんだったね……うん、そう」
「?」
なんとも歯切れの悪い?
そう思うが、話の続きを待つ。
ここからが重要だ。
「……でも、幻獣に『原始星』は使えない。あれは人間嫌いの『エア』が特別に“あの人”に与えた力だったから。『その力で以って、自らの滅びを回避してみせるがいい』と」
「……エア……創世の神……?」
「そう。『エア』は幻獣以外の生き物があまり好きじゃない。『原始星』は“人間”に与えられた本当に特別な希望。……そして、あの人はクリアレウス様に『原始星』を預け、もう一つの可能性も残していった。それが『珠霊人』」
「……珠霊人が……可能性?」
「偶然の産物ではあったものの、可能性というより希望を繋ぐ糸のようなものかな。……『珠霊石』を額に持つ『珠霊人』なら……『原始星』を“その身に宿し使う”ことができるんだ。彼らは……亜人……“人間”の括りだからね」
「!」
……亜人……“人間”の括り。
『人間』に与えられた希望の力『原始星』。
いや、だが……。
「ま、待て、人間に与えられた力なら……別にティナじゃなくても……」
「普通の人間は『原始星』に耐えられない。あれは『神力』の一種だから……『エア』が直接選んで与えた者以外が使うには、なにかしらの耐性がなければならない。珠霊人には『珠霊石』がある。『原始魔力』を溜め込める珠霊が物質化したそれなら、『原始星』を宿しても人格に影響はない」
「じ、人格に影響が出るのか!?」
「強すぎる力で精神汚染されおかしくなる。……だから『原始星』を宿し、使えるのは『珠霊人』のみだ。……エルフなどの亜人たちも同じことになるだろう」
「……。……珠霊石に宿して使うってのは……無理、なのか?」
「『原始魔力』とは質量が別物だ。手練れの魔法使いでも慣れるより先に精神が汚染されるだろうね。……本来なら『暁の輝石』を覚醒させた珠霊人が最も適しているんだけど……珠霊石が体の一部である珠霊人なら扱いにもすぐ慣れるはずだろう」
おかしい。
なにかがかみ合わない。
まるで、ティナが『珠霊人』だと言わんばかりの話の進め方だ。
嫌な予感に汗ばむ手でシーツを握り締める。
確認しなければならない。
「……ティナが、『珠霊人』だと言っているように聞こえるんだが……」
「え?」
「あ、あの子は普通の人間だろう? その話が本当ならティナにも無理だ。あの子は……」
「…………。……僕が『無魂肉』を倒した後に会った時、彼女の額には『珠霊石』があったよ?」
「……………………」
「……………。……やはり……覚醒したて……」
思案顔で指先を顎にあてがうレンゲ。
覚醒、したて?
覚醒したばかり、ということか?
は?
「か、確認させてくれ、話はその後でも……」
「……まあ、それはもちろん構わないけれど……でも、あまり時間はない。宇宙に『原喰星』は生まれてしまった。『原始星』で地上から少しずつ『原始罪』と『原始悪』を減らしていくしか、『原喰星』を消す方法はない。また誤った方法で倒そうとすれば空から『原始罰』が落ちてくる。……珠霊人の国が人に亡ぼされた今、もう滅びを待つほかないと思っていたけれど……」
「…………」
「……彼女は希望だ。…………僕はもう少し、人や亜人の中に『原始星』に耐えられそうな人間を探そうと出てきたけれど……気の狂う人間を無闇矢鱈に増やすより、彼女が『原始星』を受け継いでくれる方がいいと思う。…………もちろん……それはそれで、きっと……彼女は…………」
グッと、レンゲは喉になにかを飲み込んだ。
それがなんなのかは、わかる気がする。
歯を食いしばり、唇を噛む姿は……ティナのことを思い遣ってくれているというよりは己の不甲斐なさを嘆いているようだった。
人などより余程強く、強大な力を持つ幻獣がこのザマとは……。
宇宙に生まれた惑星より大きな魔物……『原喰星』……。
だが、なぜだ。
なぜそんなものが生まれてきた?
「……もう一つ聞きたい。なぜ『原喰星』ってやつは生まれてきた? 魔物が増えたりでかくなるのは“前兆”と言ったな? ということは、他に理由があるということだろう?」
「……以前『原喰星』が生まれた時は『壺の中の小人』が自分の肉体を求めて生み出していたよ。……でも、今回はわからない。『壺の中の小人』は二千年前に燃やしてしまったから……」
「壺の中の小人?」
「ケリア叔父さんが偶然生み出した新種……みたいなものだったな。人の血が混ざったとかで人の言葉を話して知恵もあった。……ただ壺の底に溜まったドス黒い靄のような姿で『原始悪』というか、あれは『原始罰』でできていたね。えーと、意思を持った『原始罰』? そんな存在」
「…………そ、そんなヤバいもんがいたのか? ……なら今回もそいつが?」
「わからないよ。その辺りも今調べている。……人の国にも協力してもらえるかどうか『ダ・マール』に行ってみたけど……なんか微妙だったからな……」
「う……」
『ダ・マール』にいたのはそういうことか。
確かに……『ダ・マール』は大国だ。
その分、光と闇は激しい。
上層部の一部は間違いなく腐っている。
それは、俺があの国にいた時代から変わらない。
あの頃はディールがいた。
だから、まだ……。
「…………。なら、ギルディアスとリコリスという騎士に話してみてくれ。あの二人は俺が信頼している騎士だ。力になってくれるだろう」
「リコリス? それは黒い鎧の騎士さん? この村に今きているね。……彼女か……まあ、真面目な感じだったしな……」
「あ、ああ」
面会済み。
この綺麗な顔のにいちゃんと、リコが。
その絵面を想像すると胃が縮み上がるようだ。
いや、しかし、まさかな?
リコが男を顔で選ぶとは……思いたくはないし。
「でも少し意外」
「あ?」
「人間は僕らの話なんて信じないと思ったよ。特に……悪い話は」
「…………。まあ、正直言えば半信半疑では、ある」
「…………」
首を傾げられる。
頭をかいた。
確かに突拍子もなく、荒唐無稽に受け取ろうと思えば受け取れる話だ。
だが、幻の種族がこうして人間の領土に出張ってきている。
まして『幻獣王代理』と名乗るような奴が果たして嘘などつくだろうか?
それに、俺はこいつがあの日……ティナの許へ誘ってくれた獣だということも目の前で見てしまった。
「いや、信じられない」
「ですよね」
「だが、お前さんのことは……疑ってないんだ」
「僕のこと?」
「さっきの獣の姿……俺は一度あんたを見てるからな……。あんたが幻獣なのは信じられる。というか、幻獣、なんだろう?」
「…………ハーフだけどね。僕、片親は人間なんだ」
「…………」
幻獣と人間のハーフ?
ハ?
ハーフ?
混血?
「そ、そんなことあるもんなのか?」
「昔は海で大陸が分かれていたわけじゃないし、中にはそういうのもいるよ。僕だけじゃない。ん、いや……そもそも、亜人と括られる者たちの祖先はそういう幻獣と人の混血たちだと言われている。……まあ、僕の場合は事情が他のと少し違うけれど……。だから人の姿も他のやつらよりはまともに化けられるんだよ」
「……そろそろ頭がパンクしそうだぜぇ……」
「ああ、そういえばあなたは怪我人だったね。……ごめん、長話になってしまった」
「い、いや……」
それは構わないが、と言いつつ腹を撫でる。
じんわりと痛みが広がる。
息を吐くと、喉から熱が出ていくようだった。
レンゲに断りを入れて、横になる。
「もう一つ聞いていいか? なんで俺に話してくれたんだ?」
それがよくわからない。
確かに十二年前に面識はあるし、ティナの養父は俺だが……。
それでも、今の話をティナにだけすればあの子を勝手に連れていくこともできただろう。
あの子は賢い。
その話が本当なら、俺たちになにも言わずいなくなりそうだ……。
攫っていくことも、造作もないはず。
それに、元々は彼から預かった娘だ。
俺は……返せと言われれば……ティナがそれを是とするのなら……俺からはなにも言うことはできない。
「最終的に決めるのは彼女だけど……」
「……あ、ああ……」
「彼女をここまで育てたのは貴方だから……」
「…………」
目を伏せる。
美しい青年だ。
半分だけ開いた黒の瞳は微かに揺れている。
哀愁というべきか……迷いのようなものが感じられた。
少し長い沈黙は、言葉を選んでいるからだろうか。
次の言葉を、静かに待った。
「…………。……僕は貴方たちが聖女と呼ぶ女性を知っている。いつも笑顔で明るい優しい人だった。……聖女と言うほど神々しくもないし、特別な力があるだけの普通の人だったと思う。死の間際まで魔物と対峙して、笑って死んでいったけれど……その人生が本当に幸福だったのか……僕には未だにわからない。一時期は『原始星』を持つことで、魔女と罵られて故郷を追われたことさえある……。魔物の仲間だと言われて……実の母親に石を投げられていたのも見た。……他に方法はないけれど、人間は未知のものを毛嫌いして恐れる。……『原始星』を持つことで本来送れるはずの平穏な人生を諦めさせるのは……なんだか、違う気がするんだ……」
「………………そうか……」
「彼女はまだ幼い子どもだから……大人とちゃんと話し合った方がいいと思った。なにかおかしい?」
「……いや……」
幻獣らしからぬ、と思ったら失礼だろうか。
俺の中の幻獣のイメージが、思ったよりも獣に近いだけなのかもしれない。
あるいは彼が人と幻獣のハーフ……混血ゆえ。
ティナの気持ちも未来も慮って、まず俺に接触し、話してくれたというわけか。
亜人たちと話しているような気分だ。
……しかし、幻獣の血が流れているとはいえ半分は人間……大まかに、彼も亜人と呼ぶべき位置。
ただ、幻獣は数が極めて少ない。
彼は『幻獣』になることを選んだのか。
「……だが、まずは確認する……宇宙に生まれたという『原喰星』と……ティナの額を」
「そうして。……時間はない。五年なんてあっという間だ。……『原始星』で地上を浄化して回るのにも限界がある。幻獣族は『原始星』を持つ者を敬意を持って支援する。……でも、僕と仲間は他にも珠霊人の生き残りや『原始星』に耐えられそうな人間をもう少し探す。それと『原喰星』が生まれた原因もね。……半年後に貴方たちのところを訪ねよう。確か『ロフォーラのやどり木』というところに住んでいるんだろう?」
「……ああ。わかった、それでいい。……なあ」
「?」
ティナ以外にそういう才能のある人間がいれば、どうするのだろう。
その人間がティナより幼い子どもなら?
ヨボヨボで今にも死にそうな老人なら?
本当にティナでなければ、ならないのか?
他に方法はないのか?
『原始星』…………確かにそんな奇跡の力があればと、思ったりもした。
だが、それがティナに与えられるのだとしたら……ティナはどうなる?
今でさえ高等錬金薬師として各国に目をつけられているんだぞ。
珠霊人がなぜ『エデサ・クーラ』に狙われたか、俺も知っている。
額の珠霊石を剥ぎ取るためだ。
あの子が珠霊人なら、他の国や冒険者、盗賊……珠霊石のために、本格的に狙われるだろう。
更に『原始星』だなんて。
俺一人で……守れるのか?
…………無理だ。
「……『原喰星』を倒す方法は……地上を『原始星』で浄化するしないと言っていたが……他の方法は本当にないのか?」
「ないこともない。さっきも言ったけど、方法はある。ただ……」
「誤った方法……だろ? だが、その方法ってのは……」
「僕の炎で焼き殺す」
「…………」
ごくりと喉が鳴る。
細められた目に獣特有の圧があった。
幻獣の、炎。
「僕の炎は『原始悪』も『原始罪』も『原始罰』も塵も残さず燃やし尽くす。……けれどかつての『原喰星』は巨大すぎて燃やし尽くすことができなかった。生まれたばかりの今の『原喰星』の大きさならば、塵芥と化すも不可能じゃないだろう。……でも、遠すぎる。僕の全能力で試したが、宇宙の彼方にいる奴には届かなかった。……あれがより巨大化して『ウィスティー・エア』に接近してくるのを……待つしかない。でも恐らく、その頃になったらもう……」
「……………………」
『原始星』しかない。
と、いうことなのか。
そうだよな、宇宙の上なんだもんな……。
それが成長しないように。
……そして、地上の浄化が宇宙に届くまで……。
「…………どのくらいかかるんだ? その、地上の浄化ってのは」
「僕も魔物を燃やして手伝うよ。でも、僕の炎は『原始星』とは根本的に別物だ。僕の炎は魔物になった生き物の魂ごと燃やして消す。今のところどのくらいかかるかはわからない。……少なく見積もっても二十年はかかると思う」
「……二十年か……俺もおっ死んでるだろうなぁ、そりゃ」
「…………」
つまりティナの一生を懸けて行わなければならないと……そういうことなのか。
二十年後……俺はきっと生きてられないだろうな。
ずっと側にはいられない。
仕方ない。
それが“親”ってもんだ。
俺の親父もお袋も俺より先に死んだ。
そういうもんだ。
「…………『原喰星』は世界を喰うと言っていたが……それはどんな風に?」
「普通に丸呑みだよ。……世界は闇に呑み込まれて、全ての生き物は魔物になる。あとは『エア』がドロドロに溶けて大地と融合した魔物を『原始星』で消し去って……始まりに戻るだろう」
「………………」
「運命として受け入れるのもいい。僕らは最後まで足掻く。…………僕の母が愛した世界だ……僕は最後まで戦う。この世界にまた『原始罰』を落としても」
……できればやりたくないけれど、と続けて目を逸らす。
空白の千年時代は『原始罰』に文明が破壊され尽くした時代。
ある意味では、それもまた一つの滅び。
「世界、か…………」
レンゲが立ち去ってから、ほんの少し陽の傾いた室内で独りごちる。
俺にはでかすぎて、実感が湧かないんだよなぁ。
でも、それでも……俺は娘たちが、笑っていてくれればそれでいいんだ。
それ以外、今の俺に生きる意味はないのだから。







