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転生したら絶滅寸前の希少種族でした。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
第四章 〜十歳のわたし〜

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十歳のわたし第1話



 よし、完成!

 ふふふ、だいぶ上手く焼けるようになったんじゃないんですか〜?

 やっぱり体が成長すると料理がしやすいわ。

 特にオーブン……まあ、窯の中に薪を入れて炊いて、その余熱で焼くという『魔女の◯急便』を見たことないと使い方分かんないやつだけど。


「……さてと……グラタンは成功したから次はなに作ってみようかな〜」

「ティナおはよー! 今日もいい匂いさせてるねー! 今日はどんなの作ったの!?」

「おはようナコナ。今日はポーテト、マフォロニをデミグラスソースとチーズで閉じた……えーと、そうね……グラタンと名づけます!」

「ええ〜! また美味しそうなものを……! 父さん呼んでくる!」

「うん、よろしく」


 四年前、この宿に『ダ・マール』の再婚相手の家が嫌で家出してきたナコナ・リール。

 彼女はすっかりわたしの義姉としてこの宿の従業員となった。

 身軽かつ、お父さんの血をよほど色濃く受け継いだのか、活発にして剛の者。

 この宿に来るいろんな旅人さんの護衛役に片っ端から稽古を挑み、軽く『護衛の少女がヤバいくらい強い宿』というなんとも奇怪な謳い文句が付属してしまった要因……。

 も、もちろんこれまで同様『景観最高』とか『温泉に入れる』や『創作料理が美味い宿』と『良質な薬が売っている宿』など噂が広まりだいぶお客も増えてきたのよ?

 ……でもなんか、そんな中でもナコナの噂だけ浮いているわよね……宿的な意味で。

 いや、悪い人が来ないならそれに越したことないんだけど。


「ティナ、手紙が届いているぞ」

「お帰りなさい、お父さん。手紙? 誰からですか?」

「リコとジルリール氏だ」

「!」


 ジルリール氏はこの宿のお客さんの一人で、なんと学問の国『サイケオーレア』の学園理事長!

 稀にうちの宿を利用してくれる冒険者一行の一つアーロン組のメンバー、シリウスさんという考古学者のご友人だ。

 わたしに錬金薬師や魔法使いの才能があるとべた褒めしてくれているシリウスさんが、どうやらサイケオーレアに行った際そのことをジルリールさんにお喋りしたらしく、一体どう伝わったのか個人的に会いにきてくれた。

 とても品のいい紳士的な人物だが、舌が火傷するくらい熱いものに目がないという変な趣向をお持ちで、わたしが作った前世の世界の料理……鍋焼きうどん風の料理をどえらく気に入りこうして今も手紙をくれる。

 リコさんはお父さんの昔の同僚で大国『ダ・マール』の国家錬金術師。

 お父さんよりも立派な体格を持ち、おどろおどろしい鎧を纏う戦闘特化型の錬金術師である意味、わたしの錬金術の師匠だ。

 魔物討伐の任務の時など、この『ロフォーラのやどり木』を利用して色々教えてくれるの。

 さすが国家錬金術師……わたしが得意とする薬錬成でさえ彼女の方がはるかに上手いのだからどちらが『天才』なのやら。


「あ! リコさんまた来てくれるって!」

「またか……」

「え! じゃあもしかしてベクターたちも来るかな!?」

「最近他の騎士団の人もよく一緒に討伐任務に就いているから、来るみたいだよ。六人部屋を予約したいって」

「やったあ! 今度こそボコボコにしてやるわ!」

「「………………」」


 ……違う、ナコナ、そこじゃない。

 可愛い系なのになんて中身は脳筋なの……!


「六人部屋だな。まあ、あの部屋はギャガが来た時くらいしか使わないからな。一応今日中に掃除を済ませておこう。ティナ、今日も薬を作るんだろう? なにを作るんだ?」

「もちろん! この間ギャガさんから買った素材で『上級治療薬』を『最良』品質で錬成できるようになるんです!」


 つい一週間前、いつもの感じでギャガさんキャラバンが『ロフォーラのやどり木』に立ち寄った。

 その時に色々、材料を仕入れておいたのよ。

 亜人大陸から流行り始めた『斑点熱』は沈静化したものの、まだ完全に沈黙したわけではないからギャガさんの依頼で大量の『解熱薬』を作って買い取ってもらった。

 なのでギャガさんがいる間に試せなかった『上級治療薬』を『最良』品質で作れるようになる!


「でもさー、ティナ……上級治療薬って冒険者はなかなか買ってくれないんでしょ? あんまり大量に作りすぎても在庫になっちゃうんじゃない?」

「うっ!」

「そうだな。ギャガならいろんな国の騎士団や医療機関に顔が利くだろうから買取はしてくれるだろうが……一介の冒険者にゃあ、高価だからなぁ……」


 ……そうなのよね。

 下級治療薬……通称傷薬なら大量生産できるから比較的安価でよく売れるんだけど……中級治療薬は傷薬の倍の価格になり、ベテランさんの冒険者でも万が一に備えて二、三本買っていくかいかないか。

 上級は更にゼロの数が増えるから、普通の冒険者さんには手が出ないのだ。

 傷薬(下級治療薬)が平均価格二百コルトなら中級治療薬は平均価格二千コルト。

 上級は材料も高騰しているので現在二万コルト前後にまで値が跳ね上がっている。

 ……値上がりといえば、他の薬の材料も値上がりが続いているらしい。

 ギャガさんの情報では、例の人間至上主義国『エデサ・クーラ』が薬や薬の材料を買い占め始めた為、これまで安価だったものさえ半端でなく高騰し始めているんだとか。

 サービスで安くはしてもらったけれど、上級治療薬の材料もすごく高くなってたのよね……。

 以前のように欲望のまま錬成練習してられる感じじゃない……むむむ。


「まあ、魔物の数が妙に増えてるらしいから治療薬はこの先も売れるだろう……。上級も、騎士団なら無理してでも買うだろうから……そうだな……在庫になっちまったら俺が『ダ・マール』の騎士団に掛け合うから買い取ってもらえばいいさ」

「……? お父さん?」

「ん?」

「……いえ、なにか心配事、ですか? 最近、なんか……」

「いや、なんでもないよ。そういえばジルリールさんはなんて送ってきたんだ?」


 ……なんだろう、話を上手く逸らされたな?

 でも、ジルリールさんの手紙も気になるのよね。


「えーと……。……。え?」

「どうした?」

「どうしたの?」

「…………治療薬を送ってほしいって書いてあるの。下級でもいいから、可能な限りたくさん。……仕事の依頼、として受けてほしいって。あと、もしできることなら“同盟国”の『ダ・マール』に行ってそこで治療薬をたくさん作ってくれないかって……どうしてでしょうか? なんでこんなに治療薬を……」

「…………」

「……それって……父さん……」


 ナコナはなにか思い当たるらしい。

 お父さんの表情もますます険しくなる。

 なんだろう、怖い…。


「いよいよか」

「なにがですか?」

「戦争が始まるんだろう。……『エデサ・クーラ』がまた始めるつもりなんだ」

「…………」


 戦争……。


「……せん、そう……」


 実感が、わかない。

 でも、物価の値上がり……治療薬の量産依頼……そうか、ギャガさんが嫌そうな顔で『エデサ・クーラ』が色々買い占めてるって言ってたのは……戦争の準備のため、だったから。

 そんな、なんで……。


「ティナは初めてだよね、戦争」

「え? あ、う、うん。ナコナは初めてじゃないの?」

「うん、あたしが生まれる前から……五歳か六歳くらいの時まで続いてたの。父さんが騎士だったから食事は困らなかったけど……一般市民は『ダ・マール』国内でも食糧難だったこともあるんだって」

「食糧は騎士団と元老院関係者、神官なんかに優先されていたからな。……まあ、配給も行われていたから餓死者は出なかったそうだが……小国の『ウル・キ』は『エデサ・クーラ』とも近かったからなかなか酷かったよ」

「………………」


 実感わかないとかじゃない。

 ……この世界は、わたしがいるここは前世の、戦争をしない国ではないんだ。

 戦争……起きるんだ、もうすぐ……そんな……。


「しかし、たった十年で持ち直してくるとは……」

「父さんたちが一生懸命戦ったのに……。なんなの、あの国! ムカつく!」

「刺激されて蜥蜴人リザードマン鬼頭人オーガが応戦しなきゃいいんだが……。あいつらが絡んでくるとどっちが敵だか分かりゃしなくなるんだ」

「……そ、そうなんですね」


 うちの種族中一番主張の強い種族か。

 お父さんが頭を抱えて膨れっ面になる。

 う、うん、まぁ、確かに“亜人”との共生のために戦ってる『ダ・マール』の人からすると後ろから襲われるのは勘弁よね。


「で、どうするのティナ。ジルリールさんは一回しか会ったことないわよね?」

「うん、でも……治療薬は作るよ。これはお仕事の依頼だもん。『ダ・マール』に行くのはちょっと考えるけど……」

「まあ、そうだな。積極的に味方する必要はないだろう」

「え?」

「?」


 ……お父さん、『ダ・マール』の元騎士では?

 そ、そんなこと言っちゃっていいの!?


「なんだその顔は。当たり前だろう? ……『エデサ・クーラ』は腕のいい錬金薬師や錬金術師を誘拐したりするんだ。ティナが狙われでもしたらどうする?」

「それならむしろ『ダ・マール』に行って騎士団の保護下で作った方が安全じゃないの?」

「うっ! た、確かにそうだが……そんなあからさまに味方してたら暗殺対象になりかねないだろう!? ……戦時中は国の中でも暗殺が行われていたんだ。奴らは邪魔だと判断すれば誰だって殺そうとするんだからな? それなら遠方から仕事の依頼で薬を作っている錬金薬師の方が安全だよ」

「……そうなんですね……」


 さすが元騎士……内部情報に詳しいのね。

 ……安全、か。

 戦争なんて起きたら、どこも安全じゃないような気がするけど……でも……。


「なんにしても戦争は国同士の問題だ。『エデサ・クーラ』の掲げる目的は亜人と幻獣の支配。戦力的に考えて奴らは圧倒的に無謀な戦いを挑もうとしている。……きっと、現役の奴らがなんとかしてくれるさ……」

「………………」


 それにしてはなんとも苦々しい表情。

 歯痒さを抱いているのが丸わかりです、お父さん。

 でも、それは……なにも元騎士だから、というのが理由ではないと思う。

 ナコナも似たような表情だもの。

 ……戦争……。

 わたし、まだ十歳なのに。

 なんて、そんなの“国同士”の事情には関係ない、のよね。

 そうか、テレビでしか知らない世界……“子どもが戦争に巻き込まれるなんて”……ってこういうことなんだ……。


「とにかくまずは六人部屋を掃除しましょう」

「そうだな」

「あれ? ティナは上級治療薬の錬成するんじゃなかったの?」

「もちろんやるわ! あと、今日のお昼ご飯はジャーマンポテトとピザです。さあ! 今日も一日頑張りましょう!」

「お、おう?」

「なんで急に元気?」


 テンションあげないとやってられないからよ!


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