六歳のわたし第6話
「…………」
「…………マジか……」
「ど、どうなんですギャガさん?」
「ま、待つんだもんよ、今鑑定してるんだもん……」
ドキドキ、ドキドキ。
「………………」
「………………」
受付コテージ……我が家の前には人集り。
わたしとギャガさんを囲むように、お父さんとナコナさん、ギャガさんのキャラバンメンバーが勢ぞろい。
わたしが作った『万能解毒薬』を、ギャガさんに鑑定してもらっているのだ。
真っ青な液体の入った小瓶を、鑑定魔法を持つ全員……お父さん含めて……が凝視している。
その方が確実に質がわかるし、単純に『万能解毒薬』は珍しい。
なにより、六歳の小娘がその錬金に成功した例はないという……当たり前だけど。
だから、もし成功していたら「これは世界的、人間史的にとんでもないことだ!」……と、みんな口を揃えて叫んでいた……現物をわたしが持ってくるまでは。
……成功していて欲しいな。
約四時間近くかけて作ったんだもの。
「……質は『最良』。間違いないんだもん……これは『万能解毒薬』なんだもんよ」
「天才だ……」
「すごい! 本物だよ! ティナリス、君は天才だ!」
「信じられない! これを六歳の子どもが……! 大国の錬金術師でも年に数本作るか作らないかだと言われているんだよ!?」
「これは本当に素晴らしい、しかも……『最良』だなんて! こりゃあ相場の倍はいくぞ……!」
「う、うむむむ! まさに! まさに! まさに! これなら『亜人大陸』のエルフ王やドワーフ王にも献上できるんだもんね! 五千コルトなんて生温い! 一万コルト払うんだよもん!」
「い、一万コルト!? えええ!? ま、待ってください! それ、まさか一本一万コルトって言いませんよね!?」
「もちろん一本一万コルトだもんよ! 『良』なら数割だけんどもん、『最良』となるとその倍は当たり前だものよん! ティナリスちゃん、他の商人なら買い叩こうとするんだもん! そんなの許せないんだもんな、ぜひうちに売って欲しいんだもんよ!」
「……お、お父さん……」
本当にそんな破格なの?
薬にそこまでの値段がつくなんて!
お父さんを見上げると、他の数本の成功作を冷や汗を垂らしながら『鑑定』している。
……え、ええぇ……なにあの「ヤバイもん」見る目〜……。
「……し、信じられん……凄い凄い、と……思っていたが……まさかこの歳で万能解毒薬まで作ってしまうとは……」
「そ、そんなに凄いの、父さん?」
「凄いなんてもんじゃない。『ダ・マール』でも万能解毒薬を作れる錬金薬師は一人しかいない! ……そんな中、ほとんどの国の錬金薬師でも万能解毒薬は年に数本作るか作らないかだ、忙しいからな……手を掛けていられないから質は『標準』ばかり。……俺も『最良』は、初めて見た……」
「…………」
ああ〜、お、お父さん、ほ、褒めなくていいですよ〜!
ナコナさんがどんどん凶悪な顔に!
……お母さんに裏切られた気分のお年頃思春期真っ只中乙女はあなたしかいないんです!
わたしにかまける必要ないんです!
そんなにわたしなんかをべた褒めしたら……また!
「ではティナリスちゃん、一本一万コルトで売って欲しいんだもんの」
「うっ。……お、お父さん……こんなに高額で買い取ってもらっていいのでしょうか……」
「ああ、相場はそのくらいだろう。まあ、相場と呼べるほど出回ってるもんじゃないが……。お前、本当にすっごいな! ……こんなの普通の錬金薬師なら作れるようになるのに三十年はかかるぞ」
「ええ!? そ、そんなに!?」
「そうなんだものよ。錬金薬師の中でも万能解毒薬を作れるのは『ダ・マール』のアリシス! 『エデサ・クーラ』のレイデン! 『サイケオーレア』のシャーリーとメイ! ……大体この四人だけなんだもんな」
「!」
この大陸にたった四人!?
……え、ええぇ〜……なんかわたしすごくとんでもないもの作ったんじゃ……。
い、いや、わたしの目標は『万能治療薬』!
万能解毒薬は足掛かり……練習のつもりだったんだけど……。
「えーと、あの、それじゃあ『万能治療薬』は……」
「おお! さすが目指すところが頂点なんだもんな!?」
「……ちょ、頂点……」
なんか錬金術師の最終目的って『賢者の石』っていうやつのイメージなんだけど……違うのかな?
まさかこの世界では『万能治療薬』がそれなのかしら?
聞いてみてもいいけど、商人のギャガさんに聞くことではない気がする。
「い、いえ、あの、わたしが万能治療薬を作りたいのは——」
お父さんの腕を……戻してあげたい。
無意識にお父さんの方を見上げていた。
失くした右手で騎士を辞めた、までは聞いたけど……日常生活だって木製の義手で大変そうなのよ。
木製の義手……この世界の義手はとても不便。
指はついているけど、人形のようだから握る時は一本一本指を曲げてやらなきゃいけない。
当然力を入れたりなんてできないし、意外と重くもある。
そりゃ重さに関しては元騎士だからそれほど気にはなってないみたいだけど……結局あまり仕事の役には立ってない。
それに、元々利き腕が右だから左手で慣れない文字を書きは何度も失敗してる。
紙がもったいないし、意外とドアを開けたりするのも大変なんですって。
左利きあるあるよね。
「…………まさか、俺の腕、か?」
「え、えーと」
「…………っ」
ヤバイ、なんとなく気まずい。
眼を逸らす。
いや、だってさ、ほら、わたしはお父さんのホントの子どもではないので?
拾って育ててもらった恩を返すとするならば、それが一番……喜んでもらえると思うわけでして?
「…………天使」
「……いい子すぎる!」
「……なにこの優しい世界……」
「え? え、あのー?」
ギャガさんご一行も様子がおかしい。
みんな顔を手で覆って天を仰いでいる。
ど、どうしたのかしら?
「すぐにお金を用意するんだもんね! 一本一万四千コルトでお買い上げなんだもんよー!」
「更に値上がりしてる!? ま、待ってください! 材料はギャガさんが持ってきてくれたんですから、材料費は引いてください!」
「天使が舞い降りとるんじゃー!?」
「本当にどうしたんですか!?」
「材料費を引くと一万コルトになりまーす」
「ドレークさん!」
やっぱり材料費だけでも高い!
のに、それを差し引いても一万コルト!?
ひえぇ、金額が大きすぎてわたしにはわけがわかりませーん!
「目標の金額達成してしまったのだもんな?」
「……ギャガさん……」
熱石のお金……。
うん、確かに。
結局ギャガさんにお支払いするのだからなんかプラマイゼロなよう、な?
「では確かに『最良』万能解毒薬十本、買い取らせていただいたのだもんよ! 熱石分のお支払い料金差し引いて、五万コルトになるんだもんね。ああ、それとこれはオマケなんだもんね、ティナリスちゃんに似合うと思って仕入れておいたポシェットだもんよ」
「え? あ、ありがとうございます?」
「熱石? お、おいおい、なんの話だ?」
「あ、あの、お父さんごめんなさい! 勝手に話を進めて……あの、実はですね……」
しまった、その話もしていなかったわ。







