オリオン。
勢いで書いてしまいました。
ド短編です。
「はぁぁぁ…………」
吐き出されたため息は白く濁り、やがて、僅かばかりに私の躰を暖める。
その一時だけで、幸せを感じてしまい、何気無く夜空を見上げるのだ。
微かに輝く星が煌めき、あまり天体に詳しくない私でも其れは見てとれた。
一番星。
「宵の明星」として世間一般には知られている。
視力が悪い私は、瞳をかっとこれでもかと謂わんばかりに見開き、その尊き輝きを見つめていた。
全てを失ってしまった私は。
家はもう、無い。
理由は言いたくない。
見棄てられたのだと思う。
そう言えば、ここ数日。
何も口にしていない。
しかし、欲しようとも、辺りには食べられるようなものは何もなく。
紛らわすようにして、じっと佇み、夜空を眺めているのだ。
ただ静けさだけが心地好く、最早カラカラになった躰に澄み通るほどの冷気が押し寄せてきた。
涙は自然と頬を伝い、落ちた矢先から凍りついてゆく。
ゆっくりと、私は腰を下ろす。
もう、疲れたなあ……。
ぼんやりと、やさしかった日々が思い浮かぶ。
おとうさん。
いつも、ありがとう。
何をしても叱ることなく、何度も何度もやさしく撫でてくれたね。
おかあさん。
いつも、ありがとう。
悪いことをしたら、ちゃあんと叱ってくれたね。
でも、ご飯はすごく温かくて美味しかったですよ。
おねえちゃん。
いつも、ありがとう。
ずっと話し掛けてくれたよね。
おにいちゃん。
いつも、ありがとう。
何処に行っても、我が儘な私を優しくリードしてくれたよね。
おじいちゃん。
いつも、ありがとう。
膝の上、すごく温かくて。
でも、もういないんですよね。
また、会いたいなあ。
ぼんやりと夜空を眺めながら、聞いた事のある星座が見えた。
確か、私が産まれた時に。
いや、私に名付けられた星座だ。
規則正しく並べられたななつ星。
綺麗だ、ね…………。
いつか、歌ってくれた旋律が鳴り響き。
私はそうっと眼を閉じる。
静かな夜。
聖なる夜。
星は。
光り。
星を守る犬ではない。
私は星を見るだけの犬だ。
なれたら良いなあ。
あの星に。
かつての飼い犬に。
祈りをこめて。