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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

文芸部短編集

重箱の隅

作者: 林集一

「話は聞かせてもらったよし批判しよう重箱の隅は何処だァ!」

 

 レディ・ハイヒールは自慢の踵を悪徳政治家の額に向かって突き刺しつつパンチラ、モロッコ。エナメル加工のテカテカブラックのボディスーツにイベントファスナー全開のショーツ。腰には「武士道」とプリントされた鞭が退屈そうにくっついている。

 

 私は観察官。プレイ記録を客観的に取るべく派遣の派遣会社から派遣された。今日の女王様はレディ・ハイヒール。とある悪徳政治家さんのプレイの記録を取る。

 

「ブヒィイイイ。私は交遊費の名目でここの領収証を切る極悪人です。1プレイ150万円を15万円の10回に別けて支払っているのもそのせいですブヒィイイイ!その影で自殺している三万人の国民をほったらかして此所に通っている豚野郎ですブヒィイイイ。」

 

「そこまで判ってるなら充分地獄行きだ豚野郎!お前は2度と分割支払いを認めん!」

 

「ブヒィイイイ!」

 

 レディ・ハイヒールの罵声を受けて仰向けの犬のようになっている悪徳政治家は満面の笑みを浮かべておねだりをしている。

 

「許して欲しければそのまま小便をしろ」

 

「ブヒィィ……」

   

 豚野郎……じゃなかった、悪徳政治家は肉棒と反比例して元気がなくなっていく。ああ、そうか。立ち上がっている男性はそのままだと小便出ないのか。困り顔の悪徳政治家にレディ・ハイヒールは予め受け取っていた原稿を読み始める。

 

「○月○日、○にて3人の遺体が発見される。遺体は親子とみて捜査を行っているが未だに身元はハッキリとしていない。○月○日、○にて~」

 

 読み上げる原稿と共に悪徳政治家は普段テレビで見るキリッとした顔に戻っていった。厚生労働省付託自殺対策特別省の特設大臣として活躍する大臣の顔に……戻らされたのだ。

 

「今なら出来るだろう豚野郎」

 

 豚野郎……じゃなかった、悪徳政治家の腹の上に原稿と共に、発見された遺体の写真がばら蒔かれる。その悲惨さにすっかり素面に戻った悪徳政治家は写真を見て嗚咽を漏らしている。しかし、ポーズは仰向けの犬のままだ。何処から何処までが本気なのか、また演技なのかわからない。柔らかくなったソレからのシャワーは遺体の写真と自身の腹と胸を濡らして床に流れ出た。悪徳政治家の顔には、政治家としての仮面と人間としての尊厳を引き千切ったピュアな少年のような表情が浮かんでいた。

 

「結構。じゃあ可愛がってあげるわぁ」


 半開きだったイベントファスナーが開き、つやつやに炊き上げられたコシヒカリが一粒黒子のように取り付けられたツルツルペタペタなイベントホールがあらわになる。見るも自由、嗅ぐも自由。但し、御許しが出るまではノータッチ!基本的に豚野郎に許されるのは、許可された事だけだった。 

 

「1人でしてごらんなさい。但し、直接触れてはいけませんわぁ。3分以内に出せなければあなたを見捨てます。急いでぇ」

   

 豚野郎は迷わず落ちている写真を拾ってしごき始める。1番エグい家族写真の奴かよ……。ガサガサチクチクするだろうに、レディ・ハイヒールに見てもらおうと必死になって運動している。

 

「頑張っている豚野郎にプレゼントよぉ。カーテンオープン!」

 

 カラカラカラー。安っぽい音と共にレディ・ハイヒールの背面にあるカーテンが開く。通りを歩いているような動きをしている人達が足を止めてしげしげと眺める。

 

「あれ大臣じゃね?」

 

「写メしよう」

 

「フゴフゴ」

 

 まぁ、カーテンの向こうも敷地内だし、外にいる人達もみんなエキストラで写真を撮影してるスマホも悪徳政治家名義の物なんだけど、迫真の演技過ぎるところがどうにも気持ちが悪い。普通に集まる通りがかりのギャラリー以上に悪意が滲み出ている。悪徳政治家は仕事の顔になったり、弁解の顔になったり、快楽を貪る獣の顔になったり、忙しくして手を動かしている。湿った写真はボロボロに崩れて他の写真も使い始めた。

 

 「イっ"いきますぞッ!女王様ァ!」

 

 「どうぞ」

 

 レディ・ハイヒールは、オーディエンスにケツの穴まで見られている豚野郎を、見下すようでいて見守るようでいて且つ何処か無関係なような目で見守っていた。あ、出た。年相応に出た。

 

「よし、良くできたね」  

 

 突然レディ・ハイヒールは保育園の保母さんのような口調と慈しみのある表情に代わり、豚野郎と一緒に掃除を始めた。お漏らしをした子を慰めるように終わった掃除の後はお隣のお昼寝ルームにてお昼寝なのだ。

 

 6時間後、スッキリとした顔でお昼寝ルームから出てきた悪徳政治家さんは15万円支払った後に黒塗りのハイエースで帰っていった。

 

 ここは国会議事堂。プレイに胡椒と唐辛子が無いとやっていけない人はお薦めの場所だ。訪ねるだけでお高くて温かいブランデーを満遍なくかけて歓迎してくれる。そんな時にペロリと舌を出すだけで最高の気分になれる。

 

「どんな人でもエクスタシーを追求する権利がある」と言った奴出てこい。重箱の隅は今、適当に怒っている。オコだ。オコなのだ。

 

 

 

 

 

 

 はい、カットぉ!

 

重箱の隅「ふぅ、」

 

レディ・ハイヒール「お疲れ様でーす」

 

重箱の隅「あっ、すいません。もしよかったら私にサイン下さい」

 

レディ・ハイヒール「私?あなたAV何て観るの?」

 

重箱の隅「はい!レディ・ハイヒールさんのサハギンとオニイソメシリーズのファンです!」

 

レディ・ハイヒール「ああ、あれが好きなの(笑)」

 

観察官「えっ!あのサハギンってレディ・ハイヒールさんなんですか?!」

 

レディ・ハイヒール「そうよ、今更?(照)」

 

観察官「ぼ……僕もサイン下さい!」

 

ディレクター「はーぃ、解散でーす!国会議事堂前は使用許可時間過ぎますので解散してくださーい!」    

 

観察官「じゃあ、外でサインお願い出来ますか?」

 

レディ・ハイヒール「ごめんなさい坊や、レディ・ハイヒールはプライベートに仕事は持ち帰らないの」

 

 

 

重箱の隅「はぁ、結局サイン貰い損ねた……」

 

観察官「俺は千代田線で帰るけどお前は?」

 

重箱の隅「腹減ったから何か食っていくわ」

 

観察官「気を付けろよ」

 

 

 観察官は千代田線でレディ・ハイヒールと豚野郎が仲睦まじく座っているのを見た。ふと重箱の隅が気になった。七つの孔を開けられた混沌の様に重箱の隅もまた死んでしまうのではないかと考えたが、重箱の隅が死のうとも俺には関係ない――

 

 千代田線の中吊り広告には大臣のスキャンダルがはためいていた。      

       

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