言えなかった
ふと思い付いた物です。
アンハッピーを書くのは久し振りです。
さらっと読み通してくれればと思います。
降りしきる雨の中、傘も挿さずに駅前の噴水前で、彼が来るのを待っていた。
家を出る時には大丈夫だと思って、傘は持ってこなかった。
これは、一週間前から約束していた、最後のデートだったんだけどなぁ。
約束していた筈の彼は、待ち合わせ時間にも姿を現さない。
あと少し、あと少しして来なければ、帰ろう。
そう、何度も言い聞かせて何時来るか分からない彼を待った。
気付けば、約束の時間から三時間経過していた。
もう、来ないだろうと私は諦めて家に帰った。
翌日。
案の定、風邪を引いた。
長時間雨に打たれれば、ひかないわけもない。
だが、今日だけは何がなんでも学校に行かないとって、気だるい体を持ち上げて、ベッドから抜けようと試みるが、力が入らず虚しくその場で崩れるばかり。
時間になってもなかなか起きてこなかった私を心配して、母親が部屋に来た。
「ちょっと、何やってるの。そんな顔で学校に行かせられるわけ無いでしょ」
そんな顔って、どんな顔なんだろう?
何て思いながら。
「でも…きょ…うは……」
私の掠れた声と言葉を途切れ途切れに言えば。
「あんたの気持ちもわかるけど、そんな体調で余計に周りに迷惑かけるだけでしょ!大人しく寝てなさい」
母親の心配そうな顔と声音が、私を留めた。
あ~あ。
こんな筈じゃなかったんだけどなぁ。
大好きな彼と楽しいデートを最後の思い出として、この街を去りたかったんだけどな。
やっぱ、思い通りになんていかないよね。
乾いた笑みが浮かんだ。
気が付けば夕方だった。
あの後そのまま眠ってしまったのだ。
何時間寝てたんだろう。
朝の気だるさが、少しだけましになっていた。
コンコン。
ドアがノックされ。
「あんたにイケメンのお見舞いだよ」
お母さんが顔を覗かせて、そう告げた。
「よっ。思ったより元気そうだ」
そう言って入ってきたのは、昨日待ち合わせの場所に来なかった彼だ。
何で、今頃来てるんだろう?
私は、首を傾げる。
「これ、見舞いな」
そう言って、コンビニで買ってきたであろう袋を少しだけ掲げ、勉強机の上にのせる彼。
「あり…がと?」
声が、掠れて、上手く出ない。
「凄い声。こんな時期に風邪引くなんてな」
彼は、苦笑して言う。
確かにそうだよね。
でもこれは、あなたのせいでもあるんですけど。
何て言えない。
だって、明日にはここに居ないのだから…。
私も苦笑しながら。
「ですね」
っと彼の言葉に同意した。
「まぁ、明日になれば、大丈夫だろう。長居するのもなんだから、もう帰るな」
そう言って、彼は私の頭を撫でてから背を向けて部屋を出て行った。振り返る事もなく。
そうだね。
明日になれば、治ってるだろうね。
でも、あなたに会うことは今日で最後だったんだ。
だから、昨日の分を含めて学校で一緒に過ごしたかったんだけどなぁ。
それも、叶わなかったなぁ。
翌日の朝。
私は、空港に家族と居た。
前から決まっていたんだ。
父の転勤で、家族全員で渡米すること。
今頃学校では、私の事を担任が話してるんだろうな。
彼は、どう思ったかな。
まぁ、私には関係ないかな。
嘘、本当は、気にしてくれてるよね。
あの時、彼が来てくれてたらきちんと話すつもりだったんだけど、ね。
「さよなら…」
その言葉を小さく口にしたと同時に一筋の涙が頬を伝った。
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一番驚いてるのは私自身でして、まさか自分のが入ってるなんて思ってなかったので……。
何処かで見かけたら、サラッと目だけでも通していただければと思います。
有難うございます。m(__)m