『設定解説イベント』
「世界は劇的じゃないでしょ?」
「はい?」
「だ、か、らぁ、世の中ってあんまり面白いことないでしょ?」
「はぁ、まぁ……」
奇特と奇抜の塊みたいな人に言われても、あまり説得力はないが。
「でも、ライトノベルは面白いじゃない?だったら、私の人生もライトノベルにしたら、面白くなると思ったの!どう?この完璧な三段論法!」
「どうこうも……」
三段論法を整備したアリストテレスに謝ってほしい。
「さて、これで理由も語れたし、とりあえずおっぱい見る?」
「なんで俺が話の流れのアシストをしたみたいに…………って、えっ?何?おっぱい!?」
突然現れたワードに俺は思わず叫んでしまう。
「うん、見る?」
ぽむっと先輩は自分のおっぱいを腕で持ち上げる。ぽむっとしていた。
…………ぽむっ。
「み、見ませんよ!何さり気なく露出しようとしてるんですか!」
「えへへ、ラッキースケベ展開を諦めきれなくて」
はにかんで言う台詞では絶対ない。
「えへへじゃないです。というか、ラッキースケベというより最早ただただ先輩がスケベなだけでは……」
「失礼ね。私の性欲が強いっていうの?」
「どうしてわざわざそんな直截的な言い方に直したんですか」
「男旱の恥ずかしい女だって言うのね」
「言ってません。男旱なんて言葉、一生使う機会は来ないと思ってましたよ俺は」
もう二度と口にしない自信がある単語だ。昨今、電車の中吊り広告でも見ない。
「ええそうよ。わかったわ。もうぶっちゃけるけど、私は彼氏が欲しいわ」
「は、はぁ……」
ぶっちゃけられてしまった。初対面の女の子に。
恋愛ゲームならまだしも、ライトノベルのヒロインがそんなこと言ってるの聞いたことないけど。
好きな人がいるっていうなら分かるが、『彼氏が欲しい』て。すなわちある程度条件を満たせば誰でもいいってことじゃないか。
……まぁいっか。今更だ。
「でも、ただの彼氏には興味ないのよね」
「……宇宙人、未来人、超能力者ですか?」
「それがベストね。でもさっきも言ったけどそういうのはちょっと無理そうだし……」
「じゃあ平凡な彼氏でいいんですか?」
俺の質問に、ニヤッと先輩は口角を上げる。悪戯を思いついた子供みたいな顔だった。
「そこで逆転の発想よ……平凡な彼氏でも、ライトノベルにすれば良いんじゃない!」
逆転と言うか、横転してる気がする。
「……」
「どしたの?さては感動しすぎて声も出ないな?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
ドヤ顔で「な?」と言われても困る。
どうしよう、なんでこんなに美人なのに、こんなにウザいんだ。
「そう?それじゃ気を取り直して初デートの話だけど……」
「誰もそんな話はしていなかったですよね?」
「そう?それじゃ気を取り直して初デートの話だけど……」
「メンタル強っ!」
また意図せずして敬語が取れてしまった。たぶん、尊敬が取れているのが原因な気がする。
「そう?それじゃ気を取り直して初デートの話だけど……」
……これは初デートの話に乗らないと一生話が進まないやつだ。ゲームのNPCか。
「……初デートはどうするんですか?」
「私が待ち合わせ場所で不良に絡まれるから、あなたが颯爽と助けてね」
渾身のアイデアを発表しました、という再びのドヤ顔。
ころころと表情が変わる人だなぁと思うし、そのどれもが何故かハマってて可愛らしいんだけど。
いかんせん言ってることがメチャクチャすぎてときめけない。
「いや、今時そんなテンプレな不良はいないと思います」
「それなら問題ないわ。それっぽい容姿の人にお金を払うもの」
「自作自演!!」
それに『それっぽい容姿の人』にそんなこと頼むなんて命知らず過ぎる!
「ええ自演よ。何か文句ある?ないわよね。じゃ、後で台本渡すわ。家にあるの」
「開き直りましたね……というかもう完璧にただのドラマですよね、それは」
台本て。一人家でそんなものを打って印刷したのだろうか。虚しくならなかったのだろうか。
「違うわ。私たちは二次元なんだからドラマじゃなくてアニメよ。はっ、既にアニメ化が決定してしまった……どうしよう、EDでは踊るべきかしら。それとも走るべきかしら」
「なんですかその二択は」
「『EDで踊るアニメは名作』『EDで走るアニメは神』とかコメントを書かれたいのよ」
「打算がすげぇな……」
そんな理由でアニメのキャラ達は踊らされていたのだろうか。
「後はフィギュアね。ねぇ、売上の何割が私たちのところに来ると思う?」
「取らぬ狸の皮算用です。というか、その狸取れないです。幻です」
「化かされていた……ということかしら。狸だけに」
「上手いこと言いますね無駄に!」
「話をデートプランに戻すわよ。その後もかなり綿密な計画が目白押しなんだから」
「……ていうか、なんで付き合ってもないのにデートをするんですか?」
「あなたね、付き合ってる相手としかデートしないと思ってるのは童貞の証拠だわ。普通、付き合ってなくてもデートくらいするわよ」
「そこでそんな正論は聞きたくなかったんですけど!ラノベは男の理想だから俺の意見のほうが正しいはずです!」
そんなウェイ路線の恋愛駆け引きを要求されるラノベは嫌ですよ!もっとこう、女の子は清純であって欲しい!主人公との初デートにドギマギして欲しい!
「はぁ、まぁ大丈夫よ。安心して。実はそこもちゃんと考えてあるわ」
「はい?」
自信ありげな態度で言うヒロイン先輩。
ただこの人はどんな意見を言う時でも自信たっぷりなので安心できないということは、短い付き合いながら既に理解できていた。
「『恋人のふり』よ!」
「……はい?」