『ラッキースケベイベント(強制)』
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……………………………………なるほど?
…………いや、おかしいだろ。何を言ってるんだこの人は。
「いやいやいやいや!先輩、今時のラノベを馬鹿にしてるんですか!」
そんなに脱いでばっかりじゃないって!多分!
「そんなことないわよ。あのテンプレ展開がたまらないんじゃない。さて、じゃあ私は脱ぐわね」
「一肌脱ぐみたいなノリで言わな……ちょ、待って!」
マジで空き教室に入っていこうとする先輩の腕を慌ててつかむ。
……うわ、二の腕やわらか。これが女の子の腕かぁ。
考えてみたら、いや考えてみるまでもなく、女の子の腕を掴んだのなんて生まれて初めてだ。
顔もすげぇ可愛いよなこの子。よく可愛さと綺麗さという二択で女の子の顔を語ることがあるけど、この人の場合はその二つが共存している。
ポニーテールの髪も綺麗で、脚も細くて、胸も……ごくり。この子の裸?
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……って違う!
「離して!私は読者のために肌を見せる覚悟があるわ!」
「俺にないんです!見る覚悟が!」
何故だろう、正しいことを言っているはずなのにとてつもなく情けない発言のような気がした。
「大丈夫よ。ちゃんとその後はトイレに行かせてあげるわ。10分で足りるかしら?」
「そんな見当違いの気遣いはいりませんよ!」
ラッキースケベイベントの後、主人公がトイレにこもって何やら始めるライトノベルなんて最悪だと思った。
「えっ、私にしろって言うの?……まさか盗撮して脅すつもり!?でもラノベだから一応全年齢向けだし……」
「妄想の中で俺を犯罪者にするのは今すぐやめてもらおうか!」
なんでそう思い切っちゃったんだよ、その次元の俺は!
「くっ、わかったわよ。裸の写真だけは認めるわ。これ以上の譲歩は無理よ?」
「誰も要求してません!」
唇を噛んで先輩は言う。何故、俺は初対面の女の子から裸の写真を押し付けられようとしているのか、全く分からなかった。
「だったら何!?これ以上私の邪魔をするつもり!?ならもう容赦はしないわ。この場で脱ぐことすら、私は厭わない!」
「キレ気味!?」
厭え!どうしてそこまで脱ぐことに対して躊躇がないんだよ!なんかもう、段々と腹が立ってきたぞ!
「どうして俺が悪人みたいになってるんですか!第一ラッキースケベってのは偶然だから許されるんですって!俺はもう今から貴方が着替えるのを知ってしまってるんです。もうラッキーでも何でもないですよ。考えてもみてください、一巻からヒロインの着替えを意図的に覗く男を」
俺の正論に対し、先輩は長考する。
いや、長考するような難しい話では決してなかったのだが、まぁいい。
なんかキャラを立てようとしてるのか額に指を当てて『可愛く考えるポーズ』みたいなのを取っているのも気になるが、まぁいい。
もう多くは求めるまい。大事なのは俺の話が理解できたか否かだ。
そして、彼女が出した答えは……。
「…………そんなのただの変態じゃない?」
「だろ!?変態じゃん!!」
心の中でガッツポーズ。何なら万歳三唱。良かった。話が通じて。嬉しさのあまり敬語が取れてしまった。
「危なかったわね。危うくあなたが変態になるところだったわ」
「変態にさせられるところだったんです。そこを間違えないでほしい」
責任転嫁、ヨクナイです。
「でもそれじゃ……これからの展開は?裸を見られて逆ギレして決闘は?」
「ないですね」
「圧倒的な能力を見せてヒロインに勝利する主人公は?」
「いないですね」
「なんてこと……これじゃ売れないわ。頭の悪そうな漢字熟語+英単語の厨二タイトルもつかない……」
……売るのか?つけるのか?
「というか、それは平凡系主人公じゃなくて最強系な主人公の話じゃないですか?」
「……たしかにそうね。盲点だったわ」
うんうんとしきりに頷く先輩。どうも俺に感心しているらしかった。あんまり嬉しくない。
「あの、素朴な疑問いいですか?」
「なに?」
「なんでラノベヒロインになりたいんです?」