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その六
聞く話によると、藍はなのしれた、かなり有名な会社の社長令嬢らしい。流石に会社の名前は教えてくれなかったが、それでも、茶封筒の中身が現実を教えてくれていた。藍は、ある日突然、俺のとこに行くという書き置きだけ残して家を飛び出したらしい。
「あの家、私を閉じ込める牢屋みたいだった…お父さんも滅多に帰ってこないし、家には数人のお手伝いさんがいるだけ。外にいくにも、何をするにも許可がなくちゃダメで…だから出てきたの。」
藍は悲しそうな、消えそうな声でそう説明してくれた。俺は藍の頭を優しく撫でた。
「帰りたいとは、思わないの?」
「帰りたくない…」
「じゃあここにいればいいよ」
「ありがとう…」
藍は少し泣きながら、俺に抱きついた。俺は優しく藍を抱きしめて、泣き止むまで、ずっとそばにいてあげた。