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第35話「夜を切り裂いて」

 星明りの中に仲間たちの姿を見た。

 いくら星が煌びやかに輝いているからと言っても日が沈んでいるのだ。

 それでも間違いなく気の置けない仲間たちなのだという事はわかった。


「わかるか、この気持ちが何なのか」


「今ならわかる。アマト君と一つになったことで確かなものになったよ」


「その言い方は誤解されるから向うでは言うなよ」


「えー、どうしようかな。言ったよね、今ならわかるって。それでもね、面白いことが好きな本質までは変わらないんだけど」


「好きにすればいいいさ。その時はわかってるな?」


「人に悪魔と呼ばれてるボクに意地悪を言うなんてねー。まあ、それでこそボクが好きになったアマト君なんだけどね」


「言ってろ」


 内心では満更でもないと思っている自分がいた。

 姿こそ、美少女のそれなのだから好きと言われても嫌な気はしない。

 ……と思うが正直、外見など昔から気になどしたことがなかった。


 それは自分自身が容姿端麗、眉目秀麗などという自惚れもなければ思ったこともないのだから人に自分の持っていない物を要求するなど烏滸がましいというもの。

 この世界で外見も種族も違う人達とも特に気にせず接していられるのはそこからきている。


 はっきり言ってしまえば種族間にわだかまりが有るのだという事は、立ち寄った町の情景や雰囲気からわかっていた。

 それでも態度を変える気などさらさらないのだから俺には全く関係ない。


 周りにどう思われようが曲げることなどしないのだから、少々頑固な性格なのだと思う。

 まあ、性分なのだから仕方がない。

 ルナについては悪魔以前に仲間。

 忘れて見境がなくなるほど子供でもなければ、本能の赴くまま生きる動物でもない。

 

 ユイナとスペラはディアナを気遣ってか、ゆっくりと歩いてこちらに向かっている。

 ならば、こちらが急ぐしかあるまい。

 

「ルナ」


「了解」


 俺がルナに一声かければルナは返事一つで俺の考えを読み取り並走してユイナ達の元へと走る。

 一気に加速すればあっという間にユイナ達の元へとたどり着く。

 先程までの疲れもどこかへ行ってしまっていた。


「アマト……信じてた」


「アーニャ!! なんかすごい火柱が見えたにゃ!! アマトがやったにゃ!?」


「アマトさん、無事で何よりです」


「俺のことはどうでもいい。みんなが無事でよかった。ユイナが守ってくれたんだろ」


「私も少しはアマトの力になれたかな……」


「もちろん。ユイナだから俺も単身で動けたんだ。誰でもってわけにはいかないだろ」


「ユイナちゃんもアマトと似た魂の持ち主だからね。ボクもアマト君と同じ意見」


「にゃーにゃー、あれ、アマトがやったにゃ?


 空気を読まずに後方で未だに燃え盛る焼野原を指さすスペラに、肩の荷が下りた気持ちになった。

 ずっと緊張状態なのだとここで初めて思い知らされたのだ。

 俺はその場であおむけに倒れる。


「あれは恐竜がな、火を噴いたんだよ。この世界は恐竜が火を噴いて暴れまわるのが普通だったりするのか?」


「ミャーはみた事ないにゃ。見てみたかったにゃー」


 相変わらず好奇心旺盛なスペラが俺にのしかかりながら騒いでくる。

 どかそうにも全身が筋肉痛にでもなったかのようにピクリとも動かない。

 ステータス上では健康そのもので魔力等も回復しているというのに、空腹や筋肉痛にだるさといったものはしっかりと感じることができた。


 それは自分が生きた人間だと実感できるポイントであった。

 この感覚が無くなった時自分が人間だと言えるのだろうか。

 それを明確に判断する材料など持ち合わせていなかった。


「あんまりいいものじゃないけどな。それにそのまま戦ったら勝てたかどうかも怪しいときた。得られたものも少なくなかったから結果としては戦ってよかったんだけどな。まあ、結果論だ」


「手なずけるだけの力があるってことを示してきたのでしょう。敵はアマトさんが思っている以上に狡猾ですよ」


「そうかもな。俺も何度かあってるはずだが、何もかも計りかねてる。どんな手を使ってくるかもわからないなんて不気味で厄介な事この上ない」


「ミャーが見つけたら八つ裂きにするにゃ。アーニャは後ろでどんと構えていればいいにゃ!!」


「そうもいかないって言いたいところだがスペラも頼りにしてる。無茶しない程度に力を貸してもらうさ」


「合流できたのは良かったけど、村はもうなくなっちゃったしこれからどうするのアマト?」


「ディアナを近くの人里へ送り届けないといけないな。このままおいて行くわけにもいかないだろ?後のことはそれからでも遅くない」


「そのことなのだけれど」


「どうした? 心配しなくても途中で放り投げたりはしないさ。スペラが世話になったんだ。気にしなくてもいい」


「私を貴女のパーティーの末席に加えていただけないかしら。力になれると思うのだけど」


「ディアナは目的があったんじゃないのかにゃ?」


「目的?」


「ええ。主を探しているの。必ず見つけ出して合わなくてはいけないのだけど主の事は何も覚えていないのよ。重み出す為にあらゆる方法を試してみたけれど、主によって記憶が封印されていてもう打つ手がないと思っていたのだけれど、そんなときに貴方たちに出会えた。主を見つけられるのであればそれでいいの。そのためには私の全てを貴方に捧げます」


「俺は構わないんだが……」


 俺はユイナ、スペラ、ルナと順に目くばせをした。

 三人とも何も言わない。

 既に結論は出ていた。


「まあ、反対されるとは思わなかったがルナはいいのか? 因縁がないわけでもないんだろ」


「ボクは面白ければそれでいいよ。ディアナもそうでしょ」


「やはり貴女だったのね。昔、マスターと良く語り合っていたわね。どうも記憶があいまいだけれど、確かに貴女を覚えてるわ。あまりいい気はしないのだけれど」


 ディアナはあまりルナに対して好意的な印象は受けなかったがやはり何かありそうだ。

 ルナは全く気にもしていないといった風なのだがこれは仕方がないのだろう。

 

「俺たちと来るというなら仲良くしろとは言わないが、背中を預ける以上トラブルはなしで頼む」


「ごめんなさい。貴方達に迷惑をかけるつもりはないのよ。みっともないところを見せてしまったわね」


 ディアナは青ざめた顔のまま取り乱して、静かに取り繕った。

 本調子でなかったこともあってかひどく憔悴しているように見える。


「ディアナを叱らないでほしいにゃ。ずっと一人で生きてきたから人との接し方がわからなくなってるだけなんだにゃ。スペラがディアナの面倒を見るから一緒に連れて行ってあげてほしいにゃ」


「頭ごなしに否定したりはしないさ。これからは仲間として一緒に旅をするんだ。独りで抱え込まれても面倒だ。何かあればその都度言ってくれればいい、全てひっくるめて問題ごとは抱え込んでやるさ」


 ユイナを元の世界へ帰す。

 スペラを父に会わせてやる。

 ルナは……ただ遊びたいだけ。

 そして、ディアナは主を探している。


 正直、一つや二つ問題が増えたところで今更何んとも思わない。

 この際だから、どんどん増やしていって充実した異世界ライフを満喫するのが最良だろう。


「ありがとうございます。アマトさん」


「ああ、これからよろしく頼む。それからパーティーの申請をするから承諾してくれ。それで、本当の仲間だ。今更だが、これも一種の契約で反故にすることができないが……」


 俺が眼前のメニューに触れながら注意文を読もうとして、それをディアナに遮られた。

 ディアナは首を横に軽く降った。


「契約を交わす以上覚悟は決っています。主にあったとしてもそれ以上は望みません。目的が達成した後も貴方の為に後の時間を全て捧げます。そもそも貴方がいなければ恐らく私の目的は果たされないのですから」


「そこまでしてくれなんて言うつもりはないっていうのは無粋だな。気のすむようにしてくれ。例え契約が命を縛るとしても自由まで縛りたくない。その時は好きなところに行くのは自由だって言っておくよ。言っておかないと俺の気が済まないってだけなんだけどな」


「スペラちゃんが言うようにアマトさんはやはり優しい方みたいですわね」


 ディアナはパーティーに加入したようだ。

 俺の管理するメニュー上にディアナのステータスが表示された。

 その圧倒的な数値に俺は胆を冷やした。


 明らかにその数値は常識を逸している。

 常識などというものがあるのかどうかも怪しいこの世界でも、ずば抜けて高い数値は戦力としてはケチのつけようもない。


 勿論、数字などあくまでも参考程度だという事はわかってはいるものの敵に回せば俺達が束になっても勝てるとは思えない。

 ブランクがあり、受肉したばかりで真名が伏せられているルナに匹敵する力があるというだけで化物じみている。


 これが吸血鬼という種族なのか。

 漫画や小説で最強の部類で表現されているのは伊達ではないと改めて実感させられた。



【名前: ディアナ・ホーリージェデッカ レベル219 1219歳】 


 種族:吸血鬼(眷属)  


 職業:魔導士〈弟子の同行により能力に補正〉 


 加護:無  


 身体アビリティ:SP2200 


         MP3220


         W190


         筋力680


         防御540 


         俊敏630 


         器用890 


         魔力6800 


         精神力2010 


         知力670 


         霊感390 


         魅力840 


         運70 


  固有アビリティ:写霊 不死の呪縛 血の制約   


  アビリティ  :痛覚無効 属性無効 状態変化無効 詠唱多重結束覇道回帰 重力制御 予知(弱) 


  スキル    :棺桶武技術 エナジー吸収放出 索敵 合成法 


魔法・精霊術・術法:闇魔法 空間魔法 空間移動 風魔法 風魔法 氷魔法 治癒 浄化 幻術 幻想術 火魔法 雷魔法 土魔法 重力魔法 夢魔法 木魔法 白魔法 血魔法 


  PP     :8720   


 

 なんと言っても年齢が1000歳を超えているという事だ。

 亀の甲より年の功などと言う言葉があるように、ステータスが如実にそれを語っている。

 この数千年の時の中で邁進してきたのだろう。


 パーティーの補正を受けてこの数値だとして、それ以前であってもそれほど変わっているとも思えない。

 目の前のディアナはパーティーに加入することで若返ったように思える。

 外見年齢は俺と左程変わらず大学生のお姉さんといったところか、落ち着いてる雰囲気が魔法使いのロープと相まって助教授のようにも見える。


 大学には研究者気取りの学生が白衣を間引かせて闊歩していることもしばしばあったが、上品さと気品があるとこうも違うのだと実感させられる。

 知的で幼さが垣間見れるそのギャップは特定の層には諜報sれるやもしれないなどと思ってしまう。


 一つに気になることがあった。

 職業が魔導士となっているのはどういうことだ。

 そもそも職業と言っても仕事をしているというわけではく、あくまでも肩書のようなものである。

 ならば、魔導士というのもあながちその適正にそぐしたものなのだろう。


 各種魔法の適性の高さからもその分野のエキスパートなのは間違いない。

 職業の種類は恐らくある程度大まかに分ける程度のものだと思っていたが、どうやらそんなに簡単ではないらしい。


 それは魔導士ではなく、魔法使い若しくは魔術師などで良いはずだからだ。

 即ち魔法を使うものでもその適正や才能、踏み込んでいけば技能技術によっても変わる可能性がある。 ならば情報を集めていくしかないだろう。

 

 これから先に、必要となる力は意外と身近なところにあるものだと知ることになる。

 


 

 全身の痛みも引いてきたというのに、どこか納得がいかない気がするのはなぜだろうか。

 まだ一時間と経っていないというのに普段通りとはいかなくとも、歩き回れる程度には回復したからだろうか。

 それとも、仲間が増えた事による責任の重圧をかんじてるからなのか。


 常に疑問符が頭の中を巡り巡っていきつく場所は葛藤という名の終着点。

 悟られていないだろうかという不安も相まって吐き出せずにいる。

 そばにいるユイナが眠たそうに小さく欠伸をしているのを横目に、気が楽になるのを感じた。


 もうすでに真夜中というのに睡眠をとることよりも先に進むことを優先した俺達。

 ゆっくり休みたいと思いつつもモンスターが徘徊する場所での野営は避けたい。

 ルナ、スペラ、ディアナに関しては特に変わった様子もない。


 野営して、明るくなってから動く方が効率がいいと思うが一刻も早く首都に向かう事を優先したいところでもある。

 少なくともこのまま歩き続けて睡眠を一切取らなかった場合、何らかの形で取り返しのつかないことになる可能性がある。


 人間はコンピュータよりも優れた情報処理を常に脳が行っているのだから休ませなければオーバーヒートすると言われている。

 それが戦闘中であったならば命取りになりかねない。


 誰が一番リスクを抱えているかと言われれば間違いなくただの人間の俺に他ならない。

 しかし、野営した経験など無いのだから手順がわからない。

 眠っている間がもっとも無防備で狙われてたらひとたまりもなく、見張りを立てても一瞬の隙というものは必ず発生する。


 リスクが高すぎるのだ。

 交代で見張りを立てて交代で睡眠をとるのはセオリーであっても、安全な対応としては弱い。

 五人ならば四人で独りを守る形でローテーションを組むのが、リスクを回避するうえでは最も安全だと言える。


 とにかくユイナを休ませ、あとは状態の悪い者から休ませたい。

 さて、どうする。

 このまま歩き続けても恐らく日が昇っても東の森までは辿り着けない。


 辺りは相変わらず見渡しかぎりの草原地帯で、大きく裂けた大地からたびたび強烈な風が吹き出し草木をなぎ風切り音を立てる。





 


 

 


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