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第26話「悪魔で遊びですので……」

 異空間に閉じ込められて孤立するユイナ。

 結果的にスペラ、ユイナ、アマトと皆分断さえた事になる。その事実を唯一理解していたのはユイナだけである。

 一刻と迫るタイムリミットを前になすすべなく世界の中心へと向かう。


 崩れゆく境界線へと向かうのならばこの混沌とした世界から最短で解放されるが、それは脱出ではない。即ち魂の解放と言うわけだ。

 だが、苦しみから解放されるのが目的ではないのだから少しでも考える時間を確保する為にも異空間の中心に向かうのが定石。


 もちろん、多数派がとる行動が正しいとは言えないがセオリーに従うことでデメリットがないのならばひとまずの安全策に手を伸ばしたくなるというもの。

 その場で動かずに助けを求めることも一般的な行動と言えるが、その判断は時間制限がある以上ここでは悪手となる。


「何でこんなことを? 返事をして!」


 ユイナは先程まで看病していた少年が今の状況を作り出した張本人だとあたりをつけていた。

 その場にいたからではない。怪しんでいたわけでもない。

 この世界を取り巻く生命力の余波が少年の者であったからだ。 


『余波余韻取得』


 脳裏に響く声が新たな能力の会得を伝える。これこそが、今までの勘管区を確かな物へと変えた力。普段からアマトの考えていることがなんとなくわかるのだが、それを確かな能力として会得したのだ。

 余波というのは即ち生命の発する固有の情報。余韻というのは感性に与える情報の事である。この能力の前では隠し立てなどできはしない……とはいかなくともある程度見抜くことは可能なのである。


(いや、この余波は男の子のものではないような……まさか、女の子? やっぱりアマトには女の子をひきつける能力でもあるんじゃないのかなぁ」


 そんな事を思ってしまう。心配事は増えるのだが、ここでは安心感を得るための良いスパイスとして役に立つのだった。

 ふと気持ちを切り替えて余韻を辿る。


 人間には声帯、指紋、静脈など固有のものがあるが生命力の余波と呼ばれるものも二つとない唯一無二の確認材料となる。

 それを読み取る力を会得したのはこの世界に閉じこめられて間もなくのことでよかったと思う。

 そして、ここが異世界でないこともわかった。


 肌には雨に打たれる感触が先程から続いていたのだ。この世界では雨は打っていないのだから体に伝う水の感覚というのがおかしな点として、脳がここは異世界などではないと結論づけた。


 となるとここは雑木林の中であり、少年のすぐ横にいるという事である。

 自分を取り巻く生命力の余波と少年から読み取った生命力の余波は全く同じである。

 そして、この世界が異世界であったのならこの近くにいるはずのない少年の大本の生命力の余波を読み取ることは出来なかった。


 これだけ判断材料がそろっているのだから結論を出すには十分であった。

 そして、アマトでも見抜けないほどの隠蔽スキルがあるというのならそれ相応の能力の持ち主であるのは確定している。

 しかし、どういうわけか未だに危害を加えられている自覚というものは一切ないのである。


 生かされている理由もわからなければ、情報を聞き出すそぶりもない。

 それなのに、世界は崩壊を続けている。恐怖させてからこの世界と共に消滅させようというのか。

 もうすでにここが異世界ではないことはわかっているのだから、タイムリミットまで耐えてしまえばそれでいいとさえ思える。


 意識のみがこの世界で死ぬことで元の肉体を置き去りにして、死んでしまうというのだろうか。わからない。

 わかっているのはじわじわと地平線から徐々に世界が終わりに向けて突き進んでいるという事だけ。

 もうすでに中心地手にて待機しているのだが、まだ余裕はある。


 体感ではもうすでに数時間は経過したように感じるのだが、さすがにそれだけの時間アマトが離れていることは考えずらい。

 となると、現実とここでは時間の流れに差異があるということが予想できる。皆目わからないのは目的だけといってもいい。


 考えれば考える程わからなくなる。どうすればいいのか誰も教えてくれはしない。

 窮地に追い込まれることで新しい力が身に付く。

 それは相手にとっては不利になるのではないか。

 獲物を前に舌なめずりをするなど生きるか死ぬかの命のやり取りをする場では、これ以上ない愚かなふるまいだ。


 そこであることに気づく。

 最初から直接命のやり取りなどしていないということを。

 これは持久戦えあるという言う事を。


「まさか……」


 思っていることはいたってシンプル、少年が何者でも《《いずれ》》わかる。

 この世界の崩壊と共に死ぬことなどありえないのだから。

 ただの我慢比べをすることが目的なのだ。

 これはあくまでも少女の幻想を叶えるための《《遊び》》なのだから。




 ユイナと少年を二人きりにしたことに若干の不安はあるものの、危険察知に反応がなかったことを信じて周囲から詰め寄るかのように徐々に近づく脅威を排除するために奔走する。

 モンスターだけが人を襲うわけではないという事はこの世界に来て間もないというのに痛い程痛感した。 虫から、獣まで容赦というものを知らない。


 弱った人間がこんなところで横たわっていれば獲物に群がるように、様々なものが寄ってくる。少年が英気を取り戻すまでは殲滅戦は覚悟していた。

 だというのに、ありとあらゆる気配が一斉に離れていくのがわかる。それらは俺から距離を取ったのではない。


 今守らんとするエリアを中心に近寄ってきた時とは想像する事さえ困難なほどの速さで遠ざかっていく。 これは緊急避難としか言い表すことができない。本能が危険を察知して一目散に逃げ出すことを選んだのだ。

 

 生存本能というものがあるが、食を手放すという事は長期的な生存条件の一項目の欠落を意味する。それでも一時の延命に全てを懸けることが一刻先の生存に繋がるというのであれば選択肢は他にはないのであろう、一匹として侵攻するものはおらず、留まる者もいない。


 皆まるで一つの生き物のように止まることなく離れていき、危険察知の範囲内から消失した。

 それでも、俺は焦ることは何一つとしてないと思った。

 モンスターが逃げたことが新手の登場とイコールで結ぶことは出来ない。それを心のどこかで理解している自分がいた。


 俺はモンスターの殲滅に身を乗り出すようなこともせず、踵を返し二人が待つ場所まで戻ることにした。

 この間ものの数分。刺客が二人を狙っていたというのならばもしもの事があったのことがあったやもしれない。

 だが、不思議と不安というものはない。


「ユイナに何をしたのか教えてくれるかな?」


「心配はしてないようだね」


「心配はしているさ。俺の目の前にいる年端もいかない少年にな」


「この子がどうなろうと君の知ったことではないだろうに……。それは甘さなのかおごりなのかわかりかねるが長生きしたければその考えはただした方がいい。それと言いにくいんだけど、この子……女の子だよ」


「そんなことはどうでもいい。ユイナに何をした?」


 俺は御託など聞く義理もないと再び答えを促す。


「いやいや、どうでも言いってね。ボクはこの娘を通して周りの風景を見てたんだよ。しっかり抱いて走ってたよね!? まあ、いいけど……。 そこの少女は幻覚を見てもらっているんだよ。村人たちに見せていたのと同じように恐怖を味わってもらおうと思ってね。村人たちは恐怖に耐えられず虚像を作り出して追い求めるという暴挙にでたのでゲームオーバーだけどね。直接、ボクが手を下すことなくモンスターなりレイブオブスや盗賊か何かしらに殺される事でしょう。しかし、そこの少女は違ったんだ。精神を崩壊させることもなくボクがこの娘の中にいることも見抜いてなお、静観を決めたのだから」


 まずいと思った。なんとかごまかせたと思うけど、ユイナもおそらく男の子だと思う。出なければちょっとあの抱え方はいけなかったと思う。眠っていてくれて助かったと思ったのは不謹慎だけれど安堵の溜息が自然にこぼれた。


「ならば、解放してもらおうか。今すぐ!!」


「条件があるのだけれど、どうする?」


「その条件を呑む義理など無いと言いたい。理由はわかるよな。一方的に俺達に持ち掛けられているのだから公平性に欠けるってことだ。条件を呑んでも蹴っても俺達の不利は変わらない」


「そういうと思ってはいたけど、仲間を人質にとられていてよくもそんな事を言えたものだね。ボクが怒りに身を任せてこの少女を殺すこともできたかもしれないのに」


「それはないだろ。俺達を殺すのならば今まで腐るほどチャンスはあったんだ。俺も何百回しんでいてもおかしくはなかった。それなのにいまさら気に入らないから『はい、さよなら』ってことにはならないだろ?」


「よくわかってるじゃないの。そう、これはゲームさ。君とボクとで互いのプライドをかけた遊戯だよ。命なんて懸けなければいけないなんて、そんな無粋な真似はしないよ。だって、君たちのような楽しい遊び友達がいなくなるなんてつまらないでしょ? やっぱり今の世の中、勉強もせず、仕事もせず遊んで好きなことだ決していたいって思うのが普通でしょ?」


 とんだ駄目発言をする少年。見かけの年齢は幼く小学生くらいに見えるのに仕事もせずに遊んで暮らすなんてことを言っているのだから、何かがおかしいのはわかる。

 さっき少年の中にいるという発言があったことで、今話をしている人物と少年が別人だとわかる。

 そして、弱っていた時の人格は少年のものだったのに対して全快したら少年の人格は表からは消えた。


「お前の言いたいことは良く分かった。それで、条件を聞こうと……。いや、先にお前が何なのか聞いておこうか」


「ボクは遊びをこよなく愛する悪魔の一柱、名前は……捨ててしまったよ。ボクを従えることができるだけの力を持った契約者は過去一度もいなかったからね。名前を呼ばれることも無くてそのうち手放してみたんだ。それで今は名無しの悪魔さんってわけ。近頃レイブオブスなんて組織で遊んでる同胞が僕の駒をどんどん消費してくれちゃってね、いらいらしてたんだ。それで本題。ボクの遊びに付き合ってくれたらその子は解放するし、ボクは君の遊び相手としてついていってあげる。どう?」


「いや、ついてこなくていいし」


「いやいや、断られても勝っても負けてもついて行くけどね!! これは一種のひとめぼれだよ!!」


 悪魔のいう事など適当に聞き流して話をすり替える。


「それよりも悪魔は呼び出されてこの世にあらわれるものだと聞いていたんだが、その子がお前を呼びだしたのか?」


「よくわかったね。この子は自分の命と引き換えに僕を呼び出したんだけど、対価としては安すぎてね。ボクをこの世界に顕現しておくことができなかったわけ。ボクは基本的に駒の命は採らないから帰ろうとしたんだけど、この子の意思は固くてね。それもそのはずでこの子の命の灯は消える寸前だったんだよ。今は辛うじて僕の力で生きているけど、村で喰らった呪術が思いのほかきつかったみたいで、今にも消えそう」


「助ける方法はないのか?」


「ないね。この子が僕を呼び出したのは村を救おうとしてではなかったんだ。この世界を滅ぼしてほしい。こんな理不尽な世界なんて無くなってしまえって願っていたんだけどとてもじゃないけどかなえてあげられない。ボクの意思に反するというのもあるけど不釣り合いな願いは基本的に却下ってわけ。あくまで等価交換が原則だからね。でも君の潜在的な力ならそれも可能かもしれない……」


「それでもお前が帰らずにとどまっているということは少女の願いを叶えるというのか……」


「勘違いしないでほしいんだけど、この世界で遊ぶのが僕の生きがいみたいなものなのにそれを滅ぼすなんて本末転倒でしょう。さっきも言ったけど、ボクの意思に反するからできればこの世界を滅ぼすようなことはやめてくれるとうれしいかな」


「ちょっと待て!? 話をすり替えるな。いつ、俺がこの世界を滅ぼすから力を貸せと言った?」


 いつの間にか俺がこの世界を滅ぼす為に悪魔召喚をして、今まさに供物を餌に交渉しているような絵面になっているのだがそうじゃない。元々、ユイナさえ解放されればそれでいいというのに余計な条件を被せてきた。


「ちょっとした冗談だって!? 本気にしちゃったのかな。意外にかわいいところもあるみたいだよね。ますます惚れ直しちゃったよ。ボクと契約を結べば毎日遊んでいられるよ」


「遊んでいられるのと遊ばないといけないのは同じじゃないからな……。俺についてくるという事は少なからずお前のいう駒をつぶすことになるんだぞ?」


 俺は悪魔相手にいかにも悪役の台詞みたいなことを言っている。駒というのはこの世界をボードに例えたときに生命の命を指しているのだから、俺はモンスターから人の命まで止む無く屠ると言っているのだ。


「正直何とも思わないかな。君がボクと遊んでくれるのならね。駒とボクは対等じゃないけど、君はボクと対等なんだから。道具は所詮道具に過ぎないってことだね」


 その純真無垢な言葉からは悪意のようなものは感じられない。悪魔は読んで字のごとくその存在が周囲からは悪だと認知されるからである。しかし、これは第三者による見解であって本人に悪意など全くない。元の世界における悪魔という言葉の語源も割といい加減な物であった。


 デーモンやサタンをどう翻訳すれば悪、魔となるのか理解に苦しむ。この世界には魔族という種族もいるのだから、悪にくみした魔族は悪魔と言えるかもしれない。

 しかし、目の前の存在は異質な生命体だ。この少女と悪意に満ちた人間とは決して同じだとは思えない。


「対等だとは思えないな。お前の方が俺達よりも全てにおいて優っているのは誰の目にも明らかだろう?」


「本気じゃないよね? 君からはボクと同じ匂いがするんだけど、まさか隠し通せるとは思ってないよね」


 俺は言っていることがわからなかった。別の世界から召喚されたからなのか、召喚の為に数百万の犠牲の上に召喚されたからなのか、はたまた別の理由があるのだろうか。


「言っている意味が分からない。俺は悪魔じゃない平凡な人間だ」


「君が何と言おうと事実は変えられないと思うんだけど。まあいっか、言いたくないことを無理に聞き出すのは恋人にすることじゃないから」


「いつから誰と誰が恋人になったんだ?」


「もう照れちゃって。契約するってことはそういう事でしょ。わかってるくせに」


「なんでもいいけど、勝った気になるのは些か早いんじゃないか? 後で吠え面かくんじゃないぞ」


「ってことはやる気になったってことだね。ボクは遊びたくてうずうずしてたんだ。君が遊んでくれなかったらどうしようか本気で考え込んじゃったよ。あーよかった」


 不本意ではあるが、ルールに則ったゲームであれば俺にも僅かでも勝つ可能性が出てきた。駆け引きはひとまず勝ったとは言えまだスタートラインにたったばかりだ。

 ユイナを救うために俺ができることだけを正確にしていく。

 

 






 今まで戦ってきた相手とは根本的に違うのは命のやり取りではないという事。あくまでも勝ち負けを明確にすること。そこだけは互いに譲れないものがある。


 俺が勝てばユイナは解放され、この悪魔も俺についてくるという。俺が負けたらこの悪魔に従わざる負えないというのだが、結果的に俺がこの先悪魔に付きまとわれることになるのは確定事項だという。


(冗談じゃない……)


 どちらにしろゲームには勝たなければいけない。ユイナが確実に助かるのは勝つことなのだからここで負けてしまったのでは元も子もない。

 本気で勝ちに行くことこそが今やるべきことなのだ。


「さて、どうする? 公平で尚且つ俺の納得するゲームが有るのならば受けて立つが、納得できなければゲームそのものの参加を辞退するが……」


「遊ぶことを生きがいにしているボクにかかれば、君を納得させることなんて造作もないよ。でもそれじゃ禍根も残るよね。だから、君がゲームを決めていいし、ルールも自由に決めてくれて構わないよ。その方が燃えるからね」


俺の予想に反してゲームの土台からルールまで全て、丸投げされる形となった。もちろん、こちらの有利なルールで挑むことも可能となるのだが、それは要するにハンデとして容認されている範囲内だと暗に言っているわけだ。


 生まれたての赤子が大の大人に挑むような状態は何も変わらない。

 それはひしひしと伝わってくる。

 身体能力でも頭脳戦でも恐らく手も足も出ないだろう。ならばできることというのは完全に運に任せる事しかない。


 それでもステータス上の運という項目がある以上これでさえフィフティフィフティというわけにはいかないだろう。運も数値かできるのならば数値が高い方がその力を発揮する為、ぶつかることがあれば負けるとみておいた方がいい。


 ならば、あくまでも自己完結する類のものでなければいけない。相手の運とぶつからない内容で勝負をするほか選択肢はない。

 ギャンブルなんてしたことも無ければしたくもないというのに四の五の言ってはいられない。やるからには勝たなければという意思だけで勝負に出る。




 運命は切り開けるなんて気軽に言ってる人もいるようだが、現実は甘くはない。理由は言わずもがな。

 勝つか負けるかのどちらかだというのだから簡単な話だ。勝率が偏に50%だとしても、負ければかけたベットは全て相手の手に落ちてしまう。


 結果として命を失うのと同義だと言える。これから先の自由というものの一切を手放すのだから死んでいるのと同じだと思う。

 それは違いという者ももちろんいるだろう。この世界に奴隷というものがいるのかどうかわからないが自由と引き換えに必要最低限の生命を保障されている者達。


 ノーワークノーペイだから仕方がないと言えるのか。金と命は同じはかりで計れるのかなどと考えても、彼らは少なからず納得している節があるという。命を懸けて対偶を改善する者達もいれば捨身で奴隷国家を壊滅させた者達もいた。その対偶に甘んじることはそういう事なのだ。


 俺は生きていたいのではなかった、一度は自分の命と引き換えにしえも偽善者でいたいという思いがあった。導き出される答えは一つ。

 従うのが嫌だというのなら従わせるしかない。


 だからと言って強要させるつもりもない。安息の時間が確保できるというのなら拘束するつもりもなければ相手にしなくてもいいと考えている。それも勝たなければその限りではない。

 必ず勝つために行うゲームは……。


「今から金貨を投げる。お前は表か裏か好きな方を選べばいい、単純だが白黒つけるならこれ以上ないと思わないか?」


 俺は財布から金貨を一枚取り出した。表には国王の横顔、裏にはドラゴンのレリーフが描かれている。

 何か仕掛けをすれば勝てるかといえばそうではない。

 運命というのは切り開けるなんてことはないのだから。


 勝つか負けるかは最初から決まっているも同然。

 小細工など通用する相手ではない。姑息な手段に手を出せばそれ以上の力でねじ伏せられる。

 しかし、何もしないのであれば奴は何もしない。ゲームを楽しむというのは対等だから面白いのだ。


 一方的に勝ちゲームをするのはゲームを楽しんでいるのではない。勝っているという優越感にひたっているだけなのだ。

 だから、ゲームを楽しみたい者は相手との差を埋めるための手段は惜しみなく費やす。

 均衡こそが最高のスパイスだと遊びに全力を注ぐものは迷うことなく言うという。


「それでいいよ。ボクも久々に胸躍る体験ができる事に喜びを隠すことなんてできないね。うずうずするなぁ」


 浮足立つ悪魔。

 その瞳は無邪気にコインを見詰めて離さない。

 どれだけ目が良かろうとコインをはじく前に表裏を選ぶため、何も問題はない。

 さて、悪魔はどちらとこ問えるのか。


「さて、裏か表か選ぶといい。コインをはじくのは俺だからな。答えたほうと反対の面を出せばいいだけの簡単なゲームだ」


「その駆け引きに意味はあるのかな? ボクがそれに気づけば……わかるよね?」


 一度俺の手元から離れた後に何かされれば俺に勝ち目はない。

 それがわかっているからこのような事をしれっと言うのだ。

 

 さて、どうしたものか。

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