第23話「迷子の少年を救うために」
時間は午後12時を回っているが、昼食をとる余裕もなくただ先を急いでいた。
相変わらずモンスターや野生の獣が辺りを徘徊しているところから推測するに、人が住む場所からはまだ離れていると思われる。
「にゃ! 人の気配がするにゃ!! ちょっと見て来るにゃ」
スペラが腰の高さまで生えている草木の生い茂っている場所へと注意を向ける。危険があるのも事実だが、先手を打てるならば先に動いた方がいいこともある。ここはスペラの判断に任せることにする。
「無理はするなよ。危なくなったらすぐに戻ってくるんだぞ」
「わかってるにゃ」
草木をかき分けるように気配のする方へと入っていくスペラを待つことにした。
数刻もしないうちに小柄な少年を抱きかかえて戻ってくるスペラに、慌てて駆け寄る俺達。
少年からは悪意のようなものは一切感じられない。ただの迷子だろうか……。
「かなり衰弱しているよ。すぐに治癒魔法で治してあげるからね」
ユイナは両手を少年へと当てるとすぐに魔法を発動する。
今更ながら治癒魔法の精度が格段に上がっている事に気づく。魔法の詠唱ももともと必要とはしなかったようだし、練度を上げることで効力が格段に上がるようだ。
少年も一瞬と言える程短い時間で顔色が良くなり、呼吸も安定した。俺は再び体を癒さないようにと思い着ているロングコートを少年へと掛けてやる。
以前として雨が降りしきっている為、このままここにいても仕方がない。
少年がどこから来たのかわからない為、起きるのを待って村の場所を聞くことも考えはしたものの子供の歩ける範囲などたかが知れていると割り切りそのまま進路を変えずに歩くことにした。
仮にたどり着いた先がこの子の村出なかった場合は他の村に送り届ければいい。ここにいるよりはその方がいいと判断するしかなかった。
モンスターの警戒を常にしなければならない状況からは脱出しなければならない。
「どうするにゃ? 倒れてたからとりあえず連れてきたけど、邪魔にゃ」
「その判断は間違ってない。スペラがそのまま見捨ててきたって言ったら俺は軽蔑してと思う」
口ではそうは言ってみるも俺がこの子と二人を天秤にかけたら俺は助けると言えただろうか。さっきのような状況で襲われでもしたら、負傷者を抱えて戦えるわけがない。それに目を覚ましたらいきなり襲いかかられる可能性だってある。
「アマトなら連れていくと思ってたよ。絶対に見捨てたりしない。私は知ってるから」
ユイナがこういってる以上それに乗っかるしかない。
スペラの獣の勘と俺の色を見る力と危険察知に反応がない以上、俺達よりも各上でなければほぼ無害と言えるのだが、それを断定するには経験が足りない。
それならば今は目の前の命を救う事だけを考えるだけだ。間違っていなかったとしても見捨てたとなれば禍根も残るというもの。
俺はスペラから少年をそっと落としたりせぬように、抱きかかえる。
わざわざ俺が代わったのにもわけがある。
三人の中で最も機動力があり偵察に優れるスペラの運動性を損なわせることはしたくない。
ユイナも魔法の行使に精霊魔法の制御と補助に回ってもらわないといけない。
そうなれば、唯一手が空いているのは俺だけだ。
オールラウンダーなポジションであることは即ち器用貧乏ということである。
「俺の代わりに二人には守りに力を注いでもらいたい。警戒は一層強めてもらうからそのつもりで頼む」
「「了解」」
二人の声も強まる雨の中ではかすんで聞こえる。それほどまでに激しさを増す雨に行く手は阻まれる。元の世界でもゲリラ豪雨などという言葉があるがまさにそれに匹敵するのではないかと思わせる。
幸いにも辺り一帯が土と草木の生い茂る地面という事もあり水は一度にとはいかなくとも、地中へとしみこむスピードというものはコンクリートの比ではない。
足をとられながらも少しずつ進む。辺りは雑木林のような統一感のない草木が無造作に生えているだけの雑多な場所だ。降りしきる雨を妨ぐには心もとない。
それでもここを通れば遮るもののない平原よりは幾分かましであろう。
どれだけ続くかもわからない雑木林を駆け走るさなか、モンスターは襲い掛かってくる。雨宿りをしているつもりなのか、明らかに遮るもののない草原地帯よりもモンスターの数が多い。
『ランティクス レベル4~31』 ランクG 備考:集団行動による能力強化
バスケットボール大のネズミ型モンスターが辺りを駆け回っている。
その数は100匹を優に超える。ヴーエウルフなどとは違い、群れのボスが明確に見て取れるような姿、形をしていない。
ボスだから目立つ、そして戦闘力が高いというのは一見すれば厄介にも思えるが手ごわいボスの撃破が群れの壊滅への礎となる。しかし、統率する者が群れで突出する肉体的な能力を保持していない場合、ボスを探して撃破するのは困難であり、群れを壊滅させるための労力が多くなってしまう。
手当たり次第、飛び掛かるランティクスから俺を守るように二人が接近される前に撃破していく。それでも数の多さと地の利はネズミ共にある。
二人の隙間を縫うように走り抜け俺の脚のすねに噛みついてくるネズミを、近くの木に思いっきり蹴りを放ち蹴り潰した。それでも次から次に襲いかかってくるが両手が塞がってる為ガルファールは使えない。
「アマトごめん!! 一匹抜けた!」
「ごめんにゃ!! 一匹抜けたにゃ」
二人は数十匹単位で捌いているもののどうしても間を抜けてくるものが出てしまう。数匹で済んでいるのはむしろかなり高い水準で捌ききっているとさえ言える。
「あっ! くそっ! うっとおしいなあ」
地面を這うネズミは素早くなかなか動きを読むことができない。立ち止まればタックルによる攻撃で足元を崩してくるが、倒れるわけにはいかない。危険なのは無防備な顔面に攻撃を受ける事。
まとわりつく数も次第に増え、今では10匹近くに囲まれている。スペラも隙を見てはこちらのランティクスへ放電を放ち牽制するが、慣れてしまえば怖がらずに襲い掛かってくる。
両手が使えないだけで雑魚モンスターに手が出ないなんて屈辱を感じずにはいられない。俺は足に炎を纏って蹴りを放つのだが、結局一体ずつ燃やすのではあまり変わらない。
ネズミ共は跳躍力もなかなかのもので油断していると顔の高さまで飛び掛かってくる。腕に抱いている少年が無防備だとわかれば容赦なく狙ってくるところはなんとも勇ましい。
肘鉄を喰らわせて撃退しようとするが、勢いが全く乗らず致命傷どころか痛手を負わせることもできない。アビリティで敵の動向が読めてもそれを活かせることが現状では全くできない。
魔法か、スキルか、体術か何をどうすればうまくこの場を乗り切れるのか思考する。
「試してみるか……」
俺は遅いくるモンスターでも、二人の仲間でもなく地面に向けて意識を集中していく。今までは生命や大気の流れを色として見ることを心がけていた。
地面は雨による水の流れと空気の流れと地面にあふれるマナに地脈など情報量は非常に多い。それを色として細分化することで魔法の行使が容易に行えるようになる。
「ここだ!! 土針」
地面から突如現れた2メートルを超える土の刺がネズミ共を串刺しにしていく。一度の俺を中心に10本の土針を発生させ囲むようにネズミ共を串刺しにし尚且つ守りも固めることに成功する。土は発生させたものではなく元々地面にあった物を使ったため魔力の消費は意外と少なく済む。
実態の有る土の刺が地面から生えることで俺を守る壁となりランティクスの接近を拒む。俺は魔力を込めた蹴りでいつでも自由に破壊することができる為、土針をよじ登ろうとしたならば容赦なく破壊し、体制を崩したところで再度、土針で串刺しにするか蹴り殺すか自由自在に使い分けることが可能になった。
何度も足による攻撃を繰り出すうちに、足が思った通りに動くようになっていく。回し蹴りの切れに関してはスキルとして認識されている為か一撃でネズミを粉々にする一撃必殺の業へと昇華していた。
「アーニャやっぱりすごいにゃ!! この短時間で土を自在に操れるようになるなんて流石勇者!!」
「駄目よスペラ!! アマトは小さな子を守りながら戦ってるんだから、私達で最数を減らせないと危険なのは変わらないんだから!!」
「わかったにゃ!! ちょっと本気を出すにゃ。 ユーニャマナを頼むにゃ」
「しょうがないわね。回復させてあげられる時間はないからね。余裕をもって魔法が切れる前に教えるのよ」
「わかってるにゃ。ユーニャもアーニャも心配性だにゃ」
二人も徐々に討伐する効率が上がっていく。徐々に雑木林の中に入っていくことで、モンスターが360度どこからでも襲いかかってくるようになるが、窮地になればなるほど対処できるようになっていく。
まさに窮鼠猫を噛むということわざ通りだ。否、追い詰めていく対象がネズミなのだから逆だろう。
これならば少年を守りながらでも戦える。油断せずに襲いくるモンスターがいなくなるまで倒しつくす。
「もう、あと少しでこの無駄な殲滅戦も終わる。二人とももう少し頑張ってくれ」
「私は大丈夫だよ。それよりもスペラが無茶してるみたいなの」
「ミャーは大丈夫にゃ。全部狩りつくすくらいの魔力は残ってるにゃ」
「スペラ、無理するなと言ってるんだ。何があるかわからない以上力は温存しておけ!!」
「わ、わかったにゃ……」
俺が声を荒げたことでスペラはしょんぼりして耳が垂れてしまった。確かにネコ科動物ならばネズミに対して好戦的になるのはわかるがそれでも好き放題させるわけにはいかない。
俺が気に掛けるだけで無茶をしなくなるのならばそれくらいの手間は惜しむつもりはない。
少しずつだが、確かに周りを見るだけの余裕が出てきたように思える。
それは、新しい力を手に入れたからなのか心に余裕が出てきたからかはわからない。
自分を評価するのは自分ではなくいつでも他者なのだから。
獣の動き回る独特の気配がほとんど消えたというのに、かなり離れた場所に何かの気配を直感的に感じた。
「なんだ……」
ネズミ殲滅に気を取られていたが雑木林の隙間から谷のある方角に目を向けると赤く燃える光が見えた。曇り空と雨で薄暗くなっていることが重なった為に気づくことができた。だいぶ離れているがあそこに村があるのだろう。
しかし、距離と方角からすれば谷に面しているか谷に限りなく近い場所にあるに違いない。
「これで最後だにゃ!!」
スペラが最後の一匹を倒したことでようやく一息くことができる。スペラは言葉通り魔力に余力を残していたのだろ。人の腕に戻った右腕は精霊術によって焼けることはなかった。スペラもまた魔力が上がっているという事だ。その成長スピードも恐らくパーティーに加入したことで上がったのだろう。
パーティーに加入するということは即ちこの世界の理から外れる事になる。俺の及ぼす影響は思い他大きなものとなっていたのだ。
「どうしたの、アマト?」
俺が村を発見したことも、今思っていることもわかっていて敢えて抱え込まないようにユイナは声を駆けてきたのだろう。
何を言っても受け止めてくれそうな気がしてくるのは身勝手なことだとは思わない。
「谷がある方に何かが燃えているような光が見えたんだ。雨が降っているのに消えなていないという事は人が起こしたものとみて間違いないと思う。行ってみよう、若しかしたらこの子はあの村の子かもしれない」
「アーニャが行くっていうならついて行くだけにゃ」
「ちょっと待って。何か嫌な感じがする……。あんまりうまく言えないんだけど、憎悪っていうのかな……憎しみとか怒りとかが絡み合う感情が渦巻いてる気配を感じるの。だから、行かない方がいいと思う」
ユイナが村へ向かう事に反対した。今まで俺が行くと言えば基本的には賛成してくれたので、反対意見を出したことに素直に驚きつつも聞いた方がいいような気がした。
今までは可もなく不可もなくそれならば俺の行く道がそのまま進行方向と言うわけだった。しかし、今回は明らかに良くなことを感じたから行くなと論理的てリスクがあるから、行くなと止められたのだ。
スペラは相変わらず俺が行くと言えば行くと言うので多数決をとるならば必ず俺が勝ってしまう。それでは多数決の意味はないので、全員の意見を聞いたうえで判断するしかない。
意見が割れるのならば、他にも取れる策はあるのではないだろうか。
「ユイナも村と人の存在に気づいてたってことか……。それなら、裏付けが取れたわけだから行ってこの子をあの村の住人か確かめておきたいところなんだけど、危ないんだろ?」
「アマトに言われるまでは何も感じなかったんだけど。アマトのが言う方角に何が有るのかが気になって意識を集中させたら、急に無数の感情が私の中に入ってきたのよ。こんなこと今までになかったんだけど、だからこのまま行かない方がいいんじゃないかって思ったんだけど、やっぱり行くよね」
結局は俺が行くことを止めるつもりはないのか、振り切ってでも行くと思っているのか最終的な判断を俺へと促す。
ここで危険だとわかっている二人を連れていくのも気が引けるというものだ。ならば選択肢は一つしかないだろう。
「俺がこの子を連れて村へ行く。二人にはここで待っていてほしい。危なくなっても俺一人逃げるだけなら恐らく大丈夫だ。この子が村の人間じゃなかったのならそのまま連れてくればいいんだから」
「一人では行かせないよ!!」
ユイナは声を荒げて俺の単独行動に待ったをかけた。反対されたとしても意見は聞き入れられると思っていた為意表を突かれた拍子に一歩後ずさると樹木に激しく打ち付けられた。
「心配しなくても俺一人なら大丈夫だって。あくまで偵察みたいなものなんだからさ」
「偵察ならスペラの方合ってるんじゃないのかな? 安全を確認できたらすぐに戻ってきてもらえばいいんだし、アマトが一人で行くのは違うんじゃない」
ユイナが言っていることは間違っていない。むしろ当たり前のことを言っているに過ぎない。しかし、どうしても仲間を単独で危地へ送り出す気にはなれない。裏を返せば仲間を信頼していないとも言えるだろう。
「わかった。ここはスペラに行ってもらう」
「わかったにゃ、すぐ行ってくるにゃ」
「危険だと判断したらすぐに戻ってこい。絶対に無茶はするなよ」
「もーアーニャは心配性なんだからにゃー」
「茶化すな!!」
「にゃっ」
「ごめん……。でも死んでほしくないから……」
「ごめんなさいにゃ。危なくなったらちゃんと戻るにゃ」
「スペラ、本当におかしなことになってると思う。気を付けてね」
「了解にゃ……行ってくるにゃ」
こうして単身で奇妙な、喧騒に塗れた村に乗り込むことになったスペラ。
俺たちはここで猫耳少女の帰りを待つ。ただ待っているだけの方がいろいろ考えてしまうものだとこのとき思ったのだった。
猫耳に銀髪の少女が単身で草木をかき分け樹木を立体的に潜り抜けていく。身軽なスペラだからこそできる業であり、アマトやユイナではこうも容易く雑木林を抜けることは出来なかっただろう。
雑木林を抜けてしまえば、後は村まで草原が広がっているのみである。
辺りにははぐれたヴーエウルフやランティクスなどのモンスターがちらほらと見受けられるが、構ってなどいられない。今やるべきことは村の情報収集に他ならないからである。村が危険な状態ならば、たどり着くまでは体力を温存しておかなければならない。
遅いくるモンスターをいなしつつ、倒せるならば最小限の攻撃で仕留める。致命傷でなくても追撃は加えず離脱を繰り返しつつ村へと向かう。村まで数キロメートルと距離もそれほど離れていないというのに、モンスターとの遭遇率が高すぎる事に違和感を感じる。
本来であれば、どれほど小さな村であっても人がモンスターの出現する場所に拠点を置くのだから何らかの対策をしているのがこの世界の常識だというのにそれが成されていない可能性が高い。
そんな事を考えながらも足早に村へと進む。辺りの獣への対処も次第に慣れてくると徐々に加速していく。
単純な俊敏性、足の速さはアマトを軽く凌駕するスペラは圧倒的な速さで村への侵入を果たす。
村は簡単な柵にモンスター除けの鈴に簡易的な術法がかけられているだけであった。
効果の程は他の村と比べるまでもないのではないかと思ってしまうほど簡素な物であった。
背の高い建物はほとんどなく全てが平屋建ての民家ばかりなのでその中でも若干高さのある民家の屋根に飛び乗る。雨が激しく降ってるというのに屋根は凹凸の激しい板を重ねただけの板切れだった為滑ることもない。
「これじゃ、絶望するのもわかるけど生き残れたのに勿体ことにゃ」
スペラが谷の方を見て呟いた。
村は谷に面しているのではなく村に亀裂が入った為に村の四分の三が谷底へと落ちてしまい、残った部分が谷に接していたのだ。つまりは村は谷の出現したことにより壊滅的な被害を受けたという事。
村中には松明を持つ人々が何かを探して駆けずり回っている。その様子は魔女狩りを連想させる。この世界において魔女が何を指すのかはわからないが狂喜にあふれた村人たちは最早尋常じゃない。
村の被害の原因が探し求める者なのかどうかはわからないが、ただの人探しには物騒すぎる装いなのだ。
大半が農機具を振り回しては叫びをあげている。それだけで、何も知らない部外者が立ち入れない領域だと理解できる。この画一化された社会における部外者とは討伐すべき対象だと言わんばかりの威圧感を放っている。
「小娘どこへいったぁ」
「奴さえいなければこの村がこんな事になるなんてことはなかったんだ」
「あいつを殺さねば俺の怒りはおさまらねぇ」
「昨日までは平穏な毎日だったのに、ただのんびり過ごしたかっただけなのに!!」
口々で叫ばれる発言はどれも利己的なもので、一人の人間がそれらを奪った根拠は聞こえてこない。
厳密にいえば、対象が何かをしたからこの村の壊滅に繋がったなどとは一切言わないのだ。
結局ははけ口として利用されていたのだろうと容易に想像がつく。
激しい雨がスペラの存在感を完全に消してくれたおかげで潜入は無事に成功し、情報を集めるには絶好の機会を手に入れることができた。しかし、ただ様子を窺っているだけでは決定的な核心に迫るような情報は獲得することができない。
となると次は村人とのコンタクトあるのみ。
だが、スペラは対人コミュニケーション能力が著しく低くご機嫌伺いなどできるはずもない。という事になれば必然的に情報を無理やり得ることになるのだがなかなか狙いが定まらない。
理由は簡単であり、実行が難しいのは明白。村人たちの言動もさることながら、明らかに集団行動がとれていないにも関わらず、仲間内での争いが一切ないのだ。各自怒りに我を忘れているのならば近くの人とぶつかっただけでもいざこざが起こってもよさそうなものだがそれも一切ない。
妄信的とはいえ度が過ぎているのではないかと思える程周りが見えていない村人。
スペラも誰の口を割らせるかで非常に悩んではいるものの結局は決めかねている。
結局のところ村を徘徊する狂喜に満ちた村人からの、情報など役に立つかも不明な為早急に選択肢からずして考えていた。
表に出ている村人に用はないと判断すると屋根からの偵察もそこそこに、民家の扉を開けて中へと侵入する。どれももぬけの殻となっていたが、一件だけ奥の棚の後ろから微かに物音が聞こえてきた。
「誰かいるのかにゃ? 隠れてるってことは村にあふれる頭のおかしな連中とは違うってことにゃ。この村がどうなってるのか教えてほしいにゃ」
スペラは棚の後ろに向けて声をかけた。もちろん返事がなどするはずもなく家の中は静かに雨音だけを響かせている。
しかし、ここで黙っ引き返すことは出来ない。だからと言って無理やり聞き出そうとすれば正しい乗っ方が効けないかもしれない。
「わかったにゃ。それなら出てきてくれるまで待つにゃ。ミャーはこう見えてもがまんずよい方にゃ」
スペラは床に胡坐をかいて座り込む長期戦の構えを取った。
そして、1分後……。
「にゃーーーー。もう限界にゃ!! 粘り強いにもほどがあるにゃ」
スペラは我慢の限界がきて喚きだした。
「ふふ、猫さんはあんまり辛抱強くはないみたいね。それよりもあまり大きな声は出さないで、そとの連中に気づかれるわ」
棚の後ろには非常用の隠し部屋があったようでそこに隠れて安全に身を隠していたらしい。
そこから出てきたのは近所の気の良いお姉さんのような少女だった。年齢は恐らくアマトと同じくらいだろうか、落ち着いた雰囲気の優しそうな少女なのだが、その顔には疲労が見え隠れしていた。
「教えてほしいにゃ。この村は絶対おかしいにゃ」
「ひとまず、奥の部屋においで。そこで話すから……」
「わかったにゃ」
スペラはアマトを超える程の危険察知能力でこの少女に敵意をがないことを見抜くと奥の部屋へとついて行く。スペラは着々と任務を全うしていくのだった。