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第19話「異世界4日目の開始」

 時間は7時前。

 朝食は1階の食堂に7時だと聞いているのでちょうどいいころ合いだろう。

 荷物は部屋に置いたまま、部屋の鍵を閉め1階へと降りていく。


 フロントの前を通り宿泊者専用のレストランへと向かう。

 宿泊者のみという事もあり、雰囲気は非常に落ち着いている。

 レストランに入るや否や、奥のテーブルに案内される。

 一際贅沢な装飾が施されているだけではなく、バックグラウンドにピアノの伴奏が海のさざ波のように自然な心地よさを奏でている。


「ピアノをBGMに食事をすることが来るなんて思ってもみなかったなー。ディナーなら雰囲気出そうだよね」


 元の世界でもピアノをバックに食事をすること自体は珍しいことではないのだが、俺はどちらかというとファーストフードで、着飾る必要のない店の方が楽だと思っていた。

 いざ、この雰囲気を味わえばもう完全に虜になっている。

 一人では露知らず、ユイナ達が隣にいるからこそ良さに気付いたのだと思う。 


「そうだね。ファミレスで流れてるような曲じゃないよね。それにおしゃれだし、こういうの割と好きかも。夜は……まだ私には早いかな」


 ユイナもまんざらでも無さげに答える。

 女子高生だった少女には夜の雰囲気は感じられない。


(足せば三十路だろうに……〉


「その一言が余計な・ん・だ・よ!?」


「いやいや!! 俺、何にも言ってないよね!?」

 

 本当に心を読んでいるのではないかという瞬間があるのだが……。

 真相はいかに。


「ミャーは食べられれば何でもいいにゃ!! なんでも食べちゃうにゃ!!」


 こっちはこっちでロマンのかけらもないことを言う猫耳少女、しかもが目が血走っている。

 どれだけ食欲抑制なんだよと言いたくなる。


 テーブルには少しずつ朝食が運ばれてくる。

 パンを主食に、ハム、サラダ、卵など全体的に軽めでフルーツの比率が多い。

 フルーツはどれも高級品で市場で買えるようなものではないとシェフが教えてくれた。


「良く味わっておけよ。当分まともな食事がとれるかどうかわからないんだから」


「何でにゃ!!」


「何でって言われても、首都までの距離を考えれば野宿しないといけないだろ? そうなればプロの料理人が作った料理なんてこれからは食べれないってこと。首都に行けば食べれなくはないだろうが、贅沢は出来ないからな」


「スペラは今まで遠出してた時はどうしてたの?」


 ユイナは疑問に思ったことをスペラに問いかけた。

 

「動物を捕まえて食べてたにゃ。でも、この味を覚えてしまったらもうとっつかまえて食べるなんてしようとも思わないにゃ。そうにゃ!! アーニャが何か作ってくれればいいのにゃ!!」


「おいおい、最初から料理しないとなぁ……とは思っていたけど、どうして作ってもらう気満々なんだよ。従者が主に飯作ってもらって、養ってもらってたら世話無いだろ」


「ミャーが作ってもいいけど、食べられたものじゃないにゃ。それでもいいなら作るにゃ」


 自分で言うなよと思う。

 スペラは食べるのは大好きなのに料理はからっきしなのだとか。


「これはアマトが悪いんじゃないかな。料理なら私もするから、適当に交代しながら作っていこうよ」


「まあ、そうなるわな。戦闘前に毒物で倒れるなんてことになったのでは洒落にならないし」


「毒物は言い過ぎだと思うけど、特異不得意はあるからね。私と一緒に作るようにすれば少しずつ上達するんじゃないかな」


「だってよ!? どうするんだスペラ?」

 

「やるにゃ!! そのためにも今はひたすら食べて味を覚えるにゃ!!」


 目の前の朝食を食べつくすとお代わりを要求しているスペラ。

 それくらいにしておけと言いつつ、止めたりはしない。

 

「まったくもう……。とりあえずそういう事だから私に任せておいて」


「わかってるよ。料理の上達だけが目的ってわけじゃないんだろ?」


「流石アマトだね。なんでもお見通しってことかぁ」


「ユイナ程じゃないけどな。俺よりもユイナの方が料理は上手そうだし、適材適所っていうだけの話だろ」


「人に教えるのは自分でするのよりも難しいんだよね。だからと言って妥協するつもりはないから楽しみにしていてほしいなぁ」


「もちろん、楽しみにしてるし期待しているよ。今すぐにだって手料理が食べたいくらいだね」


「言い過ぎだって!? まあ、悪い気はしないけどね」

 

 ユイナは少し照れながら言う。

 結局スペラのお代わりn便乗して想定していた以上に重たい朝食となった。

 食べられるときにしっかり食べておくというのは、旅をするうえでのセオリーであるが食べ過ぎて肝心な時に動けなくなるのでは本末転倒である。まあ、その心配はこのメンバーにはないのだが。


 タミエークの高級ホテルでの朝食は果物とは別にフルーツタルトのようなデザートで締めくくられた。

 あまり大きな町ではないのだが、サービスと言い朝食の力の入れようと言いなかなかのものだった。

 できればディナーも食べたいところだが、そうもいっていられない。

 

「最後のデザートも結構おいしかったな。甘い洋菓子が普及してるなんて思ってなかったからいい意味で裏切れた気分」


「そうだね。流石に、ケーキはそれ相応の設備がないと作れないから旅をしながらじゃ厳しいしね」


「まさか、作るつもりでいたの?」


「出来れれば作りたいでしょ。やっぱり遠足にはおやつは付物でしょ? 遠足は言い過ぎだけど、甘い物でもないと気が滅入っちゃうと思うよ」


「一理ある……。お菓子は確かに食べたいよなぁ。それに口惜しいというかなんというか……」


「でしょ!! 大丈夫、私に考えがあるから」


「お菓子食べたいにゃ!! 材料の調達なら任せておくにゃ!!」


 スペラはお菓子の話題になった瞬間やる気が急に湧いて来たのか、材料集めをかってでた。

 現地調達という事になればその力を存分に発揮してもらいたい。


「よし!! 材料の件は頼んだぞ!!」


「任せるにゃ!!」


 俺達は朝食を済ませると荷物を取りにひとまず一晩を共にした部屋へと戻る。

 名残惜しいがスイートルームには別れを告げ、一階のフロントに向かう。

 バルムントと数名のフロントマンが見送ってくれた。


「どうかお気をつけて、またご利用の際は当方へお越しくださいませ。最上階のお部屋はアマト様方の為なら惜しみなく提供させていただきます」


「ありがとう。世話になった」 

  

 俺達は礼を言うと、高級ホテル『タミエークオリティア』を後にする。

  



 本来の目的であるアルティアは山を越えた先に位置している。

 地図を見ただけでは距離感がうまくつかめないが、恐らく100km以上の道のりになることは間違いない。

 町と町の間には広大な土地が広がり、基本的にモンスターや動植物の楽園で人間が住むのは専ら集落であったり、集団生活ができる環境下に限られている。

 

 師匠のような人里離れた場所の屋敷を構えるのは、この世界では一般的ではないらしい。

 つまり、それだけ町から出れば危険がつきものだという事。装備を十分に備えてから旅立つのが常識だが、俺達の装備はいわば特注品。

 基本的に修理の必要性も、浄化の必要性もないため回復薬の類をそろえておけば済む話なのである。


「そう言えば、俺達って薬の類は必要最低限しか持ってないけど大丈夫かな」


「ある程度の傷なら私でも治療可能だし、最悪の場合でも一度くらいなら何とかして見せるよ。薬も持てるならもっと持っていたいけど、現実的には厳しいよね……。だって、荷物が増えれば追わないで良い怪我のリスクが高くなるんだよ」


「そこが問題なんだよなぁ。ゲームみたいに鞄に武器が大量に入っていて好きに持ち替えたりも出来ないし、あんまり買いためておいても邪魔だし、腐ったりしそうだし碌なことないよな」


「ミャーは荷物が増えるのは嫌にゃー」


 スペラはショルダーホルスターの小さなポーチを気にしているようだ。

 俺達の鞄と比べればかなり小さい。

 僅かな資金と、回復薬、解毒薬しか入っていないのに嫌がり様は人一倍だ。


「戦闘中だけ荷物を置いておくわけにもいかないからなぁ。持ってかれるか壊されるか、無くすかするのが関の山だってわかってるから戦ってる最中でも手放せないってのが現状だし、周りの冒険者はいったいどうしてるんだろうな」


「見張り役を雇ったりしてるんじゃないかな。それなら安心して戦いに専念できるし……」


 ユイナはだんだんと自分で言っていることに、違和感を感じていることに気が付いてきたようだ。

 

「見張り役は離れて孤立するか、集団戦の中で守りに徹するのか守りつつ攻撃もこなすのか、恐らく相当の手練れじゃないと務まらないと思う。そうでなくても状況判断に関してはとても素人に任せられる仕事じゃないような気がする。足手まといだから、戦うのが苦手だとかでこなせるってことはないよな」


 俺は思ったことを素直に言う。

 俺達は誰一人として前線からは離れることは出来ない。

 とてもじゃないが荷物番などするのであれば、前線メンバーの加入を促進させる方が得策だとさえ思っているくらいだ。


「そうだよね。このまま身軽でいる方が生き残れる可能性は高いような気がするよ……」


「ミャーもそう思うにゃ。荷物のせいで動き回れないなんて最悪にゃ」


 二人の言いたい事は最もなのだ。

 こんな話をしている俺達の近くを凄い荷物を背負った冒険者が通り過ぎる。

 荷物は背負っている本人が全く見えない程大きく、ぜいぜい言いながらやっとの思いで歩いているが見ているだけで非常に辛そうだ。

 

 他にも馬車に荷物を積んで馬に運ばせている者もいる。

 確かに、荷車なりに乗せて運ぶのであれば運搬という面だけを見れば不可能ではない。

 しかし、移動手段と小回りが封じられてしまう為足で移動する者にとっては非常に下策と言える。

 

 なんせ、山越えも出来ず荒地を進むことすらできなくなってしまう。

 それに形あるものいつか壊れる。そのタイミングが敵のど真ん中ならば間違いなく俺達の命運が尽きてしまうだろう。


「しょうがないけど、今は手持ちだけでどうにかしよう。そのうち何かいい方法が見つかるかもしれないし」


「今はまだ、実際に装備の有無で何かが変わったっていう実感はないからね。何かあってからでは遅いんだけど、言い出したらきりがないしね」 

 

「ミャーは装備なんて何もなくてもいけるにゃ」


「いやいや、スペラは装備があってもなくてもそれほど変わらないだろ」


 スペラは申し訳程度に着ている下着のような装備に、ポーチと、ホルスターだけと一番身軽なのにこれ以上減らすと言っているのだ。

 これ以上は最早素っ裸しかないって言ってるのだから、いい加減にしてほしい。

 裸の幼女を連れまわすなど、勇者はおろか冒険者でもなくただの変態になってしまう。


「スペラはちょっとでいいからおしとやかになったほうがいいと思うなぁ」


 ユイナはまるで母親のようにスペラを諭すが、当の本人はどこ吹く風とばかしに興味がなさそうである。

 町の北側の出入り口に行くにしても思ったよりも歩いていることに気づく。

 南西部から町に入ったわけだが、戦闘中であまり距離感については考えていなかっ。町の横断だけでも相当距離が有るのを計算には入れていなかったので余計に出口まで遠く感じる。


 それでも、割と疲れずに周囲を歩く者達よりも早いペースで歩けるのはステータスの補正があるからだろう。

 パーティーのステータスに補正を掛けている俺の力も大いに影響があると思われる。

 北の方に行けばいくほど町の被害が増していく。正確には町の外に向かえば向かうほどということだ。

 今もなお復興に汗を流す町民を横目に先を目指す。


 俺達がここで力を貸すよりも、この町のようになる前に止める事こそが重要であるが、誰もができるわけではない。

 力があるのならばそれをしなければいけないのだ。


 ホテルを出てから1時間程北に向けて歩き、やっと町の北口へとたどり着いた。

 門番に挨拶をかわし、タミエークの町を後にする。

 ここからは誰も地理に詳しい者はいないので完全に手探り状態となるが、不思議と不安はない。 


 俺達はたったの3日間とはいえあらゆる危機に力を合わせて乗り越えてきた。

 今更、恐れるものなどたかが知れているというもので、駄目ならダメで考え直して新しい道を進めばいい。

 そう考えれば割と何とかなりそうだ。


「よし、ここからが本番だ。首都アルティアへ向けて、行くとしようか」


「「おー」」


 二人はノリのいい掛け声で応えてくれた。

 できればすんなりと通してもらいたいが、そうはいかない。

 そんな気がするのもまた事実というものだ。 




草原地帯に囲まれたタミエークの町は少し離れた程度では遮るものなどない為、背の高い建物が良く見える。町自体は元の世界に比べればかなり狭いもののエレベーターのない世界ではちょうどいいくらいだと思える。

 昨晩泊まったホテルもよく見える。やはり周囲の建物よりも頭一つ出ているなぁなどと思っていたその時。


 ドドドドドドドドッ


「なんだー!? 地震か?」


「ほんとだねー、地震なんてめったに起きないんだけどー」


 凄まじい地響きが辺りに鳴り響くと同時、立っていることもできないほどの大地震が起きた。

 復興の真っ只中の町にも容赦なく自身は牙をむき、次々に崩れゆく建物がここからでも良く見える。

 幸いにもタミエークオリティアは崩れも瓦解することもなかったが、支配人たちは無事だろうかと心配せずにはいられなかった。


「にゃにゃにゃ!! にゃにゃにゃ!! なんだにゃ!!」


 慌てふためく猫耳少女を横目にユイナは割と落ち着いている。

 勿論立っていられないほどの地震など元の世界でも、めったに起こるものではないのだが地震大国出身という事もあり慣れているのは容易に想像ができた。それだけではなく、ユイナ本来の気質もあってのことだろうが一切動揺はしていない。


 5分間程の長い地震がようやく収まった。

 地震は直下型で、長ければ長い程建物や地形に及ぼすダメージは増していくと言われている。しかし、直下型というよりも波が押し寄せてきたかのような激しい横揺れと、地震とは思えないほどの長い揺れは何とも釈然としない。

 

 それに、初期微動が押し寄せてすぐに大地震が起きたというよりも前触れがなかったかのようにも思える。何が起きたのかを改めて検証したくても材料が何一つないのが歯がゆい。

 

「今のは正直驚いたかな。何か気になることでもありそうな顔だけど、何か気づいたの?」


「地震の前には初期微動はあるよな? P波とS波の説明をしないで済むのはありがたいよ。ユイナでよかったってこういう時に思うんだよね」


「なんだか、引っかかる言い方だけど言いたいことはわかるからいいけど……。つまり、自然に起きた地震にしては突然すぎるって事でしょ?」


「そういうこと。つまりこれは人為的な何かってことで、震源は深いか浅いか以前の問題。もしかしたら、震源は地表って可能性も捨てきれないけど、ここまできたら空中どころか宇宙からの攻撃だと言われても納得できそうな気がする」


「これが誰かが起こしたっていうなら、そいつはとんでもない奴にゃ。地面を揺らすなんてミャーには出来ないにゃ」


「スペラだけじゃなく俺にもできないからな。ユイナならもしかしたらできるかもしれないけど……なーんっ……うぐっ」


 冗談のつもりで言った一言が言い終えることもなく、ユイナの拳から痛烈なアッパーカットを鳩尾に深く入った俺は膝から崩れ落ちてうずくまる。


「どう、地面は揺れたかな?」


 ユイナは優しく詰問してくる。

 痛さと恐怖で頭を上げることなどできようはずもなく、ぶるぶると震えて縮こまっているしかない。


「涙で地面が揺れてるよ……」


「もっと揺らしみようかな? どうしっよかなぁ」


「ごめん。本当にごめん……だから機嫌直してくれよ」


「そ、そうにゃ……。な、何度も食らったら本当にアーニャが死んじゃうにゃ。ぶるぶる」


 スペラは俺に助け舟を送ってくれた。

 俺以上にビビッているようで震えが凄まじい。今も猫耳少女は自身の影響下にでもいるのではないかと思える程だ。


「まったくもぉー。これじゃ私が悪者みたいじゃなーい。仕方がないから見逃してあげるけど、あんまり失礼なこと言っちゃだめだよ。私も女の子なんだから……」


 拗ねて見せるユイナは相変わらず可愛らしいのだが、見逃してもらう前にもうすでに一撃受けているのだが敢えて突っ込んだことは言わないでいた。否、怖くて言えなかっただけなのだが。


「まあ、あれだ。人為的なら意図があって起こる可能性が高いから対策が立てられる可能性がある。正直自然現象であってほしいところだけどね。それならそれで揺れるタイミングがわからない以上、思わぬタイミングで俺達の足を掬いかねないと思うとそれはそれで不安要素はあるけど、強敵と戦う必要もないわけだからましだろ」


 俺は痛みをこらえつつ思ったことを口に出してみた。

 二人の反応は正反対のようだが……。


「ミャーは自然は怖いと思うにゃ。人がどうこう出来ないから、逆らっちゃいけないってミャマからも教わってきたにゃ。でも、誰かの仕業なら必ず倒せる日が来るにゃ。それまでそいつに関わらないようにしていればいいにゃ」


「私は人の方が相手にしたくないと思うなぁ。これだけの力を見せびらかすというのはいつだって狙ってると言ってるようなものでしょ。場合によっては気が付いたらもう……なんてことになりかねないし。そう考えるなら、天災であれば、予測は出来なくても狙われているわけではない分気が楽でしょ」


 二人の意見は全くの逆であり、文化の違いをよく表していると思う。

 スペラの場合は自然と共に生きる上で、尊敬と畏怖で接していることで天の恵みを得られるという一種の崇拝と言える。

 

 ユイナの場合は自然や神といった超自然的な事、つまり非現実的なものに対する科学的見解を持っている為人間のコントロール下に置きさえすれば良いという現代人における典型的な発想だと言える。


「俺もどちらかと言われれば、ユイナと同じだと思う。だけど、スペラが言うように相手が明白にわかっているならば極力避けて警戒に徹すればやり過ごせるかもしれない。可能性の域を出ることはないんだけどな」


「課題ばかり増えていくね……」


「全くだよ。結局タミエークでは情報収集は碌にできなかったし、今戻ったとしても混乱に巻き込まれるだけで、解決することはないしでてんやわんやだな」


「早く首都に行って情報収集すればいいにゃ。この辺の町や村なんかよりも得られる情報も物も桁違いだって聞いたことがあるにゃ」


「立ち止まっていてもしょうがないし、考えるのは後回しにするよ。考えていても答え何て見つかるわけないしさ」


「本当に何でもありだって思うよ。村から出てから本当に初めての事ばかりなんだもん」


「出なかった方が良かった……って思う?」


「どうかな……。辛いことも悲しいことも多かったけど、良いことはあんまりないしなぁ。でも、そのままでいたほうが良かったとも思えないよ。少なくともアマトにも、スペラにも会えないならって思えばこの旅はしてよかったって思うよ」


「そうか……。よかった。正直、旅なんてしなければよかったって言われる覚悟はしてたんだ。それなら俺一人で鍛えて能力をフルに使えばもしかしたらどうにかできるんじゃないかって……。違うな……俺がやらなくちゃいけないと思ったんだ」


「やっぱりついて来てよかった。だって、出会ってまだ間もないのにこんなに心配してくれる人と一緒にいられるんだから……」


「ミャーもだにゃ。アーニャとユーニャに出会ってなかったら森で死んでいたんだにゃ。いまさらもしもなんて思わないにゃ。それはこれから先だって変わることはないにゃ。『この命は二人が救ってくれたんだから』」


 スペラの口調が、雰囲気が一瞬変わった。

 語尾ににゃとも言わずに真剣な眼差しが俺の心を貫く。

 

「何、弱気になっていたんだか……。二人がこんなに真剣に考えているのに俺はいつだってふらついてるようじゃ駄目だな。切り替えて行かないと……。よし、こんどこそ大丈夫だ」


 自分に強く言い聞かせると二人の前を一歩先に歩いて行く。

 それは二人の俺に対する信頼に感動して涙を流したのを、悟らせないために……。






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