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第15話「悪鬼羅刹となりてモンスター共を駆逐する」

 巨大ロボットとの戦闘は思ったよりも時間はかからなかったものの、それでも30分程は無駄にしてしまっていた。

 パーティーメンバーの居場所は薄らと感じ取れるが正確な居場所まではわからない。


「時間は無駄にしたくないからな」


 俺は、ステータスの画面を開くとすぐにPPを50使い『駒観測』を取得した。

 

『駒観測』 

 条件:パーティーメンバー無条件 その他は素肌に触れる事

 効果:パーティーメンバー、及び登録した者の位置情報を把握〈最大人数現在1人〉 


 アビリティは使い続けることで進化していく。

 現状では正確な位置情報を察知することができるが、それは視覚的なものではなく感覚的なものだ。

 向うにいるようだとわかるし、移動していることも距離感もわかるが目で見えているわけでも聞こえているわけでもないので、周りの状況であったり地形などといったことは何一つわからない。


 確かなのは二人とも確かに今生きているという事、そして二人は尋常ではないほど動き回っているのがわかる。

 恐らく何かと戦っている。

 巨大ロボットと戦っている最中に、オークやヴーエウルフを見かけたからそのどちらかではないかと推測する。

 

 今の二人ならばどちらも敵ではないと思うが、町長、ライオット、ダタラを守らなければいけない以上何があるかわからない。

 早く助けに向かわなければいけない。

 何かあってからでは遅いし、よきせぬイレギュラーな事態程怖いものはない。


 辺り一面は瓦礫の山、煉瓦造りの建物が多いためなのか火種が少ないためか火事は意外と少なかった。

 モンスターに蹂躙された町イコール火の海という勝手なイメージとは裏腹に、静かなものだと思ったくらいだ。


 たいていの住人達は少しでも安全な家の中に立てこもっているのだろう。

 モンスターは扉を開けて中に入るよりも路上にいる人間を優先して襲っているように見える。

 今まさに牙の餌食になろうとしていた老婆の元に、駆け寄り群がるヴォーウルフを切り捨てる。


「お婆さん、大丈夫!?」


「孫、孫娘が……」


 既に惨たらしい姿に成り果てた何者かをヴォーウルフが貪り漁っていた。

 吐き気を抑えつつ、それらのすべてを一掃したが失った命が元に戻ることもなく広がる血の海がさらに平がっただけだった。


 これで少しは気持ちがはれるのだろうかと、思いつつ振り返ると先程まで孫娘の死に動揺いていた老婆は

ヴォーウルフの餌食となっていた。

 喉を掻っ切られたことで声を出すことさえできなかったのだろう。

 

 僅かな隙を獣は見逃さなかった、勝てる相手を見極めて先に襲い掛かるのは野性的だとも思う。

 ゲームや、戦争の親玉を倒しさえすれば集団は機能しなくなるなんてのは、死んでいった者達には酷というものだ。


 親がいれば子がいるように、上があれば下がある。

 強かろうが弱かろうが命としての単位は変わらないのだから、ボスがいなくあれば戦意を喪失したり、降伏するほど世の中甘くはない。

 それを、獣は本能で理解し俺ではなく今も町民を襲う事をやめない。


「助けてくれー」


 俺は声のする方へ行きヴォーウルフやオークを殲滅して回るが、護衛できるわけではない。

 一度数を減らしても、どこからともなく現れて蹂躙して回るモンスターとはいつまで経ってもいたちごっこが続く。

 町民もモンスターもどちらも無限でなく有限であるため、このいたちごっこもどちらかが全滅れば終わるだろう。


「おい!! こっちにこい!」


 モンスターに追われる町民を俺の方へと呼び、それに気が付いた数人がかけてくるが間に合うことなくヴォーウルフに噛み殺されていく。

 天冥の軍勢と戦いを繰り広げた戦場では二人だけしか救うことができなかった。

 

 それも、ユイナとスペラの協力があっての事だった。

 やっぱり俺は何もわかってなどいなかった。

 小説や漫画の最強の主人公は全て一人で無理難題を解決していたが、俺にそんな器用なことは出来ない。

 

 結局どれだけ強大な能力を身に着けていたとしても、違う場所で一度に起こった事象を解決することなどできない。


「どうすればいいって言うんだよ!! うっとおしい!! 消えろよーー!!」 

 

 叫びながら悪鬼羅刹のごとく手当たり次第ばっさばっさとモンスターを斬って回った。

 あまりにも人の死ぬ瞬間を見過ぎて、心が摩耗しきってしまっていたのだ。

 無意識のうちにモンスターの気配を追い、見つけては消す、見つけては滅することを繰り返し『危険察知』は『危険対象察知』へと変わっているがそのことに気が付くこともない。


 今までは自分自身の危険に対して、防衛手段を取る為の手段として使っていたが、今は身の回りの危険になりうる全てに能力が作用する。

 崩れかけた建物の前を横切る子供には、建物を粉砕することで助け、今まさに怪我を負い動けなくなっている男性を襲おうとしていたヴォーウルフに瓦礫を投擲し頭を撃ち抜く。


 戦争によって兵器が生まれるように、今まで戦争に参加したこともない学生だった俺が危機に陥ることで急激な成長と能力を身に着けていく。

 数十分間休みもなく刀を振るうことで、もうすでにこの状況になれている自分がいた。

 アビリティの進化によって、格段に敵を処理する効率を上げたことによる安心感によるものだろう。


 安心感を得ることは成長を阻害する。

 常に窮地に立たされている方が、レベルアップには都合がいいのは明らかだが失うものも多い。

 それが命というのであればそれ以上に事はない。


 1km程に伸びたアビリティの有効範囲内のモンスターは一匹残らず、殲滅しつくした。

 生き残った町民の人数までは確認することは出来ないが、想像しているよりはずっと被害は少ないとだけはわかる。


「勇者様だー」


「勇者様がモンスター共を全部やっつけてくれたぞー」


「勇者様が町を救ってくれたぞ!!」


「勇者様バンザーイ」


 口々に賞賛の言葉を述べる町民たち。

 恐怖と苦痛からの解放は、人々に至福と幸福な感情を呼び起こす。

 例えそれが一時の物だとしても、人が生きる為に必要なことなのだから。


 町のこの区画一帯は歓声に沸き、沈んで朦朧としている者へ生きる活力を与える。

 雰囲気に呑まれるというが、それはなにも悪いことばかりではない。

 周囲が復興に燃えているのならばその空気は伝播する者なのだ。

 

 だが、モンスターを数百体と切り伏せ、死傷者の嘆きを聞き続けてきたばかりの俺は場に流されることもなかった。

 ここにいる者達は目の前で行われた惨劇とそれが静まったことしか知らないから、これだけ能天気に騒いで入れるのだとさえ思ってしまう。

 今も探知できる範囲外では殺戮が続いていると思う。


(本当にそうか?)


 いつも疑問に思えば何かしら事態がおこっていた。

 それはどれも良くないことばかりだった。 


 アビリティにも有効範囲があるのは理解しているが正確に線引きされたものではない。

 電波のように曖昧なもので、誤差といえない程の差異は生じているのは自分自身が一番分かっている。

 周囲の歓声など気にする余裕もなくふらつく足で北西の二人の反応の先、役所へと向かうが一向にモンスターの反応が見られない。

 

 ユイナとスペラの両名はゆっくりとした足取りで北に進路を取っている。

 1時間ほど前はあれほど動き回っていたというのに今は至極落ち着いている。

 それは二人の勝利を意味し、確かに生き残ったという事だ。


 偶然か必然化オークキングと双頭のヴーエウルフがモンスターを町に呼び込んでいた。

 それを二人が討伐したことで、町にモンスターがなだれ込むのが止まった。

 そして、アマトがいた場所にモンスターが集中したのは巨大ロボットが辺りの建物を破壊したことで町の中心の大通りにモンスターと町民が集められてしまったのだった。


 そのことは、アマト、ユイナ、スペラの誰も知らない。

 知っているのはこの事態を招いた者と、傍観者のみ。

 どちらもアマトの味方ではないのは確かだった。

    

  

 あれからモンスターに出くわすこともなく、瓦礫となった建物を踏みしめ蹴散らし最短距離で駆けるてきた。

 まだ二人の歩みは止まっていないこの分だと間に合うだろううか。

 間に合わなければいけないと、心の底からこみ上げる何かが訴えかけている。


 疲れなど忘れてひたすら走り続け、アビリティの範囲内に二人を捉えた。

 危惧していた敵の反応は何一つとして感じることはない。

 考え過ぎなのだろうか。


 遠目にユイナ、町長、ライオットの無事な姿を見つけたことで、安堵した自分がいた。

 あれだけのことがあったというのに、不思議とどうでもよかったのではないかと思ってしまう。

 人間は辛いことがあっても些細な幸福感でそれを忘れてしまえる、都合のいい生き物だと知った。


 この世界に来てからあっという間に足が速くなったようだ。

 見つけてから追い付くまではあっという間だった。

 

「ユイナ無事でよかった」


 俺はユイナが生きていることはわかっていたが、あらためて声に出すことでより深く気持ちを実感しただった。


「アマトも無事でよかった!!」


 ユイナは俺に向かってくるとその勢いで抱き付くことは……なかったが、手をしっかりと握られた。

 その掴む手は非常に力強くも、かすかに震えが伝わってくる。

 俺以上に思うところはあったのではないだろうか。


 俺は二人を感じていたから、安心を早くに得ていたが二人は俺がどうなっていたかなんてわかるはずもなく下手をすれば未だに出会えていないとさえ思っていたであろう。


「町長さんに、ライオットも無事で何よりだ。正直、モンスターが町にあふれていたから何んかあったのではないかと思っていたんだ」


「お気づかい感謝します。ユイナ様のおかげで我々は命拾いすることができました。感謝してもしきれないというものです」


「はっきり言えば自分たちは足手まといにならないようにすることで精いっぱいでした。やはりあなた達とは何もかもが違い過ぎるみたいで、自分自身の力のなさに憤りを覚えますよ」


 ライオットは空回りばかりでしたと肩をすくめながらに言った。

 

「この辺りにはモンスターがもういないようだな。ある程度は殲滅しつくしたと思うが、油断せずに行こう」


「アマトの方にもモンスターがいたのね。私もしゃべるオーク……オークキングを倒したの……。それから急に近くにいたオークは食べ物を貪るのをやめて逃げるように何処かへ行ったんだけど。もしかしたら目の前で自分たちの親分がやられたからビビって逃げてくれたのかな?」


 まだ、戦闘の疲れを回復しきれていないユイナだが俺の問いに答えてくれた。

 激しく動き回る様子は感じ取れていたが、今の表情からそれ以上の疲労と苦労が感じ取れる。

 服には大量に浴びたであろう血しぶきのが浄化しきれずに、ドレスを真っ赤に染める。


 本当ならば、気の利いたことでも言った方が良いとは思うのだがそんな余裕はない。

 まさか、オークキングなるオークの親玉と対峙していたなど思ってもみなかったからだ。

 ざっくりとオークキングとの戦闘内容をユイナから聞いたが聞いた限りでは、俺一人でも相対できたかは不明である。


 三人から俺のいない間の戦いの様子を聞いていると、横道からスペラの気配が近づいてくる。

 真っ直ぐ北を目指していたが方向転換し俺の方へと進路を変えたようだ。

 俺達はこのまま少し待つことにした。

 5分ほどでスペラ達と合流することができた。


「アーニャ!! ユーニャ!!」


 元気に叫びをあげると俺とユイナへと飛びついて来た。

 どうやらスペラもダタラも無事だったようだ。

 まだ早いとは思いつつも張りつめていた緊張の糸が切れたようなような気がして、ふらっと足を取られてしまった。


 危うくスペラに押し倒されそうになるも何とか踏みとどまった。

 

「スペラも無事でよかった。ダタラもしぶとく生き残ったみたいだな」


「それが取り柄だからな、旦那もユイナ様も生きているって特に疑う事もなかったけどな。あんたらはやっぱ化物だわ。スペラ嬢の活躍をみたら次元の違いを目の当たりにしちまったよ」


 ダタラは自分の事のように、自慢げにスペラの活躍を話し出す。

 本人は私兵団を指揮して雑魚の討伐を中心にこなしていたという。

 それに、まさか私兵団の副団長を任されていたとは思いもよらなかった。


「傭兵崩れのチンピラみたいなものだと思ってたが、私兵団の副団長を務めるほど優れた逸材だったんだな。いやー気が付かなくて悪かったよ」


 わざとらしくダタラへ言うが本人は苦笑を浮かべている。


「まあ、旦那が思っている通りだぜ。もともと昔なじみの連中が勝手に集まって傭兵として町を守ってたのを団長にまとめて雇われたのが始まりなんだ。俺が副団長っていうのもたまたま昔の連中を囲ってたってだけの話でたいしたことはねーんだ」


「良くも悪くも人望があっていいんじゃないか?」


「ちげーねえーな」


 まんざらでも無さげに笑うダタラの背中を叩いてやった。

 スペラに協力してくれて助かったと。


「ミャーはアーニャの約束を守ったにゃ!!」


 スペラが双頭のヴーエウルフを撃破したことで、ヴーエウルフが町に次々に入ってくる異常事態が止まったことを聞いた。 

 遠吠えを上げては町にモンスターの大軍を発生させていたのだと私兵団から聞いたのだという。

 それはヴーエウルフ本来の性質ではあるらしいのだが、その巨大差は自分の群れに限定せず種族全体に作用するのだという。


 それを駆逐したことは非常に大きな功績といえるだろう。

 俺もスペラは仲間の一人だと考えていたため、従者という認識ではなかった。

 従者そのものがそうという事ではなくスペラという存在が俺達のパーティーの要になっているのだと俺は思う。


「スペラは良くやってくれた。ありがとう……。俺が戻れないところまでいかなかったのはスペラのおかげだ」


 スペラは何のことを言われているのかはわかってはいなかったが、自分がアマトの役に立ったことが嬉しかったようでしがみついたまま離れない。

 もちろん、ユイナからは離れてアマトにべったりである。


 それを見ているユイナは、先程までの感動の再会といった雰囲気をぶち壊し鋭い目で俺を見詰めてくる。


「アーニャの為ならなんだってするにゃ! もっと褒めてくれにゃ」


 頭を撫でてやると気持ちよさそうに猫なで声を上げてくるスペラ。

 本当に猫のようでとても可愛らしいのだが、やはり全身は返り血を浴びて真っ赤に染まっていた。

 俺も含めて誰一人として血にまみれていない者はいない。

 それは偏に各戦場が苛烈だったことを意味していた。


「そろそろ離れてくれ!! ユイナもそんな目で見るな!」


「アマトは今がどんな状況かわかっていないわけではないでしょ? すぐデレデレしちゃって……」


 ユイナに責められるが俺のせいではないと思う。

 まあ、本気で引きはがそうとしていないのを見透かしての事だろうけど。


「ユーニャもアーニャにくっつきたいのかにゃ?」


 思わぬ発言にたじろぎ顔を薄らと赤く染めるユイナ。

 美少女二人に板挟みにされながらも、少しずつ目的地へと近づいていた。

 町の中心部という事もあって、モンスターの侵攻は外側に比べるとかなりましな方だった。


 ましといっても外側と比べてというだけでこの一帯だけ見れば壊滅的といっても過言ではない。

 倒壊した家屋も10や20ではきかない。

 原型をとどめたままなのは一部の立派な石造りの建造物に限られる。

 その一部の建物には目的地である役所も含まれていた。

 

「あれが、役所です。ここまで戻ってくるだけのはずが、世界を廻って来たかのような思いです。どうかお礼をいたしますので中へどうぞ」


 町長は物思いにふけっている。

 

「町長、俺は依頼でここまで来たが団長もここへ向かったようなんだが、結局追い付けなかったみたいだ。何か知らないか?」


 役所を前にしてダタラは町長に問う。


「私は何が起こっているのかすらわかりかねているのです。グリットが来るという話も聞いてないですし……」


 町長がいうグリットというのが私兵団の団長の事だろう。

 名前で呼びあう間柄でも来訪は聞かされていないという。

 

「きゃぁーーーー」


 突如役所から女性の悲鳴が響き渡った。


「ネイー!!」


 ダタラが悲鳴の元へと向かう。

 俺達も続いて悲鳴の元へと駆けつける。 

 扉を開くとそこには胸を貫かれた軽装を纏った男と、それを抱きかかえる軽装の女性と二人を庇うように立つ鎧を纏った女性がいた。


 その先には10歳くらいの少女が、壊れたような奇怪な笑い声を上げている。

 真っ赤なゴシックドレスに床に届く長い翠の髪、感情の見えない真っ黒な目をした可憐な少女。

 纏う雰囲気も異常だが、抱えている胸が貫かれたようなぬいぐるみが、いっそう引き立たせている。


「次は誰が遊んでくれるのかしら?」


 どこを見ているかわからない目に魅入られているような錯覚を覚えた。


「冗談じゃないぜ」


 俺は吐き捨てた。


  


 この世界に来て三日も経てば、今自分たちの置かれている状況位は辛うじて理解できるようになるというもの。

 進化した察知系のアビリティにも反応を示さず、情報の開示も受け付けない。

 俺はモンスターの情報を見る能力を手に入れているが、何一つとしてわからない。


 敢えていうとしたらわからないことがわかるといった具合だ。

 目の前で血を流し続ける団長を助けに行きたいが、穴の開いたバケツのように血が流れ続けている。

 早く手当をしなければ助からないだろう。


 無謀にもダタラが不敵な笑みを浮かべる少女へ走り寄る。

 待っていたかのように右腕で抱えたぬいぐるみの足を左手で強く握りつぶす。


「痛ってーーーー」


 もがき苦しむダタラの右足は明後日の方向へ向いていた。

 何が起こったのか、ここにいる誰も理解することなくそれは起こった。

 ケタケタと不快な笑い声が玄関ホールに響き渡る。


「ダタラ!! しっかりして」


 重装備を纏った女性がダタラへと駆け寄ろうとして、その場に崩れ落ちる。


「きゃぁーーーーーーーー!! 足がぁぁあぁ」


 ダタラにたどり着けずに両足がねじ切られ、血をしたらせ激痛の末に気を失ったのだろうか静かになって床に伏せている。

 ダタラはその光景を目の前で直視しするも、気が動転しないところを見るとそれなりの修羅場を潜ってきたのだろうと推測できる。


「ガネーラぁぁぁ!! しっかりしろよ。死ぬんじゃねーぞ!!」


 自分も右足を折られたというのに、ガネーラと呼んだ逞しい肉体を持った女性の心配をしていた。

 すぐにでも助けに行きたいが迂闊には近づけない。

 行動を起こさない俺のパーティーと町長、ライオットは今のところは攻撃の対象にはなっていない。


 攻撃の有効範囲外なのか、襲われる様子はない。

 

(どうするればいい……。未知数の攻撃手段がある以上迂闊に近づけない。俺の前で3人を死なせたくはないな)


「俺が遊んでやってもいいが、もっとかわいげのある遊びにしようぜ? 血みどろになるようなのじゃなくておままごとみたいな女の子っぽいのがいいんじゃないか?」 

 

「駄目……それじゃ面白くない……おもしくないよ?」


 団長を抱きかかえるように泣いているネイと呼ばれた女性が、喉を抑えて苦しみだした。

 次第に青白く泡を出してもがき苦しんでいき、首でひっかき続けて次第にエスカレートしていき血だらけになっていく。

 

(やめろ!! それ以上は彼女がもたない!!)


 心の中ではやめろと思いつつも声に出ない。

 この状況に楽しみを覚えるこの異様な者が、ただの人間であってたまるか。

 首を吊るかのように何もない空間に宙吊りにされていたが、徐々に地面へと降りて宙吊りの状態から解放されるかのように見えた。


 次の瞬間、彼女は命を奪われそうな状況からは解放されるとこの場の誰もが思っただろう。

 その状況を作り出している本人を除いて。

 命までは奪われないだろうと心の底では思っていたのだろうか。一様に俺達は安心の表情を浮かべていたのだろう。


 目の前の少女の表情はこれまで以上に満面の笑みを浮けば、激しく笑い出したのだった。


「やっぱりこの瞬間が一番楽しいね」


 その一声で、ネイの首が唐突にねじ切れぼとりと嫌な音を玄関ホールに響かせる。

 絶望をさせられ、そこから希望を与え、そして最後は地獄へと突き落す。

 この一連の流れにより、俺達の心を確実に折ろうとしてくるが無邪気に笑う様子は子供が精いっぱい考えた成果を親に見てもらおうとしているようにも見える。


 すなわち、計算されて行われている事ではなく俺達の顔色を窺って満足いく結果を見てびき出しているという事だ。

 しかし、それにして手段がわからない。

 今までの敵とは違い、目に見える攻撃手段を取ってはおらず、かといって目にもとまらぬ早業というにも疑問点が多すぎる。


「何が楽しいんだ!? ふざけるなよ!! 人の命を何だと思っていやがる!!」


「何とも思ってないよ。私以外のはね」


「お前も人間じゃないのかよ!!」


「わたしが人間? 面白いことをいうのね。本当に楽しいことを言ってくれるよね。ふふふふ、はははははははは。あーおかしい……私は人形……実態を持たない人形……くぁいいくぁいいお人形。シャーリーはお人形……」


 異様な雰囲気を醸し出す少女は自分の事を人形だと言っている。

 そこに何か何かが隠されているのだろうか。

 見極めなければ後はない。


 目に見えない攻撃、目の前にいる少女。

 その手にはぬいぐるみが抱かれている。

 ここになにかヒントが隠されているのではないか。


 考える時間はそう長くはない。






 



   



  

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