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第12話「全ては儚き理想郷……『三京大京世界』」

 振り返れば、そこには異様な光景が広がっていた。

 否、俺達は異質な空間に迷い込んだようだ。

 夕暮れ時のような砂漠地帯に姿を変えた草原に俺達はいた。


 辺りには数えきれるはずもない程無限の刀剣が、存在していた。

 宙に浮き、地に刺さり、敵を貫き、巡回し、徘徊する武器達。

 それはまるで生きているかのように、縦横無尽でいて無機質。

 

 俺達は目の前にあった、あらゆる武器を前に立ちすくんでいた。

 辺りを埋め尽くす武器を避けることなどできはしないのだから動きは制限されてしまう。

 地平線まで続く砂漠いっぱいに刃物で覆われていて、一歩も動くことなどできないはずだ。


 身動きをするという事は自ら刃物の切っ先へ飛び込み切り裂かれに行くようなもの。

 これは幻覚なのだろうか。


 しかし、後方の天冥の軍勢は皆一様に刃物の餌食となっている。

 地面から空中からあらゆる方向から止むことのない刃物の嵐。

 幻覚などではない。


 圧倒的な物量で殲滅してのけるのであれば、そこに技術は必要ない。

 空中からその光景をただ見つめる一柱の神のような存在。

 この世界を作り出したのは、紛れもなく眼前に天使のように空に舞う絶世の美女。

 

 特徴的なのは金色の髪ではなくその長さだろう。

 身長が俺と同じぐらいで、地面につくほどの長さだが実際はそのボリュームだ。

 なんと、二度折り返して髪を結っているのだ。

 

 単純に身長の三倍以上の長髪は龍の姿を思わせる美しさがあり神々しさをも演出する。

 光り輝く瞳は黄金と表現するのが最も適し、容姿は人間のそれではないとさえ思う。

 美しい人へ人間ではないという表現は失礼だと思うが、人がたどり着く終着点をはるかに超えた美貌に持ち合わせた感性では到底表現しきれないのだ。 


 それでいてスタイルがいいなど、チープな表現を使うのが憚られる。

 全てが完成された身体は人として、女性として全ての頂点にして無限の終着点。

 生けとし生けるもの全ての持っていない物と持っている者を収束したしか言えない《《絶対》》がそこにはあった。

 

 美貌を包むのは黄金に光り輝くガラスのような無色透明な鎧。

 鎧の内側には純白な薄手のドレスを身に纏っている。

 薄いドレスから薄らと色白の肌が見え隠れする。


 存在そのものがまさに崇拝の対象のようだと感じた。

 これがカリスマ性というものなのだろう。

 人を惹きつける為にはもはや、この人の存在を置いて他にはないとさえ思ってしまう。


「全ては儚き理想郷……『三京大京世界』」


 ラーティカが口にしたのは恐らく技の名前だろう。

 琴線に触れたかのような微かな空気の振動が心地よく、響き渡る。


 三千大千世界というのは俺の記憶が正しければ仏教においての宇宙の事だ。

 千の世界が3乗個存在する世界はまさに星の数ほど物事があることを意味する。

 そして、京というのは兆の次の単位即ち10の7乗を意味する。

 

 それが、3乗など言うのだから最早三千世界が銀河なら三景世界は宇宙そのものだろう。

 スケールが違い過ぎる。

 その世界に具現化された刀剣は、一瞬で天冥の1000を超える軍勢を粉みじんにしてしまった。

 

 それでも、避けた亀裂は刀剣の攻撃にはさして意味をなさない。

 次の瞬間物との草原地帯に戻っていた。

 体感で5秒と経っていなかったいなかっただろう。


 辺りは静かな草原、宙に開いた亀裂もなく、瘴気の霧もすっかりなくなっていた。


「天冥の軍勢はどこへ行ったんだ? 亀裂はどこへ……塞いだのか!?」


「私の創り出した固有空間に送り込みました。亀裂もまとめてです。私は塞ぎ方を知りませんので」


「助けてもらった礼を言う。ありがとう……おかげで助かった」


「いえお礼を言われるようなことはしていませんよ。たまたま行く手を塞いでいたものを排除したに過ぎません。私は先を急ぎますのでこれにて失礼します。何分末席なものでして、自分の功績は足で稼がなくてはいけないんです。いずれまた会うこともあるでしょう。ではアマトさん、失礼します」


「ああ、引き留めてすみません。では、また」


 一歩二歩とステップを踏み込むだけでもう数百メートル先へと跳躍していく、ラーティカを見送った。

 そこで、ふとなぜ俺の名前を知っていたのか気になった。

 俺達は誰も名乗っていなかった。

 そして、まだこの世界に来て三日目の俺の情報が漏れるほどの事態など何も起きていないはず。 


 それを今知るすべはない。

 敵なのか味方なのかははっきりしないが、今回は助けられた。

 それに友好的なようにも感じたがどうにも腑に落ちない。


 明確に味方と判断できないうえに圧倒的な戦力。

 師匠と同等なのかそれ以上かあまりにも次元が違い過ぎて計り知れない。

 次に会う時、必ずしも味方とは限らない。


 どれだけ外見や性格が良くても常識をはるかに超えてしまっていては、恐怖の対象になるというのが今ならばよくわかる。

 あれで末席というのだから上には上がいるのだろう。

 

 『聖刻創生の七星騎士団』とはどんな組織なのだろうか。

 宗教のようなものであれば町に支部や教会があるかもしれない。

 調べておいた方がよさそうだ。


「どうやら、助かったみたいだな。町長さん、スペリヲル領へは行く必要がなくなったのなら、俺達が護衛するのでタミエークへ戻らないか」


「よろしいのですか」


「放っておくわけにもいかないし、俺達は元々町に向かってたんだ。そのついでだと思えば何も問題ないだろ」


「ありがとうございます。お礼はいたしますのでどうかよろしくお願いします」


「俺も同行させてもらいたい。生き残った憲兵は結局俺だけになってしまった。その報告もしなければならないのでどうか頼む」


「俺も護衛の契約はまだ有効だぜ。戻るってなら、そこが目的地だ」


「そうと決まればすぐに町に行こう。先頭は俺達に任せろ」


 道筋を心得ているスペラが先頭を歩き、俺は西側即ちスペラの左後ろから隊の全体を把握するように付き、ユイナは東側即ちスペラの右後方に付き敵の発見に対処するように隊列を組んだ。


「俺達に殿は任せてもらおう」

 

 ライオットとダタラが二人そろって町長の後方に陣取る。

 短い間に二人は意気投合した様子だ。

 端からみればお堅い、軍人とチンピラのようにも見えなくもないが窮地に陥った者同士で絆が生まれたのだろう。 


 目的は町長の護衛をしながらのタミエークにたどり着き事。

 絶対条件に一人も脱落者を出さないことと考えている。

 当たり前のようで簡単ではないというのは、よくわかっているが諦めたくはない。


「スペラ、あとどのくらいで町に着けそう?」


「今まで歩いた道の半分ってところかにゃ。日が暮れるまでにつける距離だにゃ」


「というと2時間ってところか……。思わぬ戦闘のせいでみんな疲れてるから休みを取りたいが、モンスターの警戒をしている方が疲れるよな。このままノンストップで行く」


「私は平気だけど、町長さんたち大丈夫かなぁ」


 ユイナは体力はそこそこついたのか、忍耐強いのか俺の意向をくんでくれる。

 スペラはもともと体力面では随一で心配無用といった具合だ。


 後ろの連中はぐったりしているが何とかついてきている。

 これは偏に俺のパーティに入っているかどうかが影響している。

 パーティに加入した者はステータスが跳ね上がるという恩恵がある。


 この恩恵によって、俺達と一般人とで能力に格差が開くのを実感したのだ。

 それでも、もともと化物じみた能力を持つ物たちの前では団栗の背比べをしているようにも見えるのだが、致し方がない。


「私の事は心配無用です。今の今まで馬車で移動していたのであまり体は疲れたいないんです。町までならなんとかなります。お気づかいに感謝いたします」


「俺達も、正直一刻も早くベッドに横になりたいんだ。なんとかついて行く、俺達をあんまり惨めにさせないでくれよ」

 

 ダタラは息巻いて見せる。

 ライオットは首を縦に振るだけで、一心不乱に歩いている。


「無理はするなよ。駄目なら早めに言ってくれ。倒れられる方が面倒なんだ」


「心配性だな。旦那はよ」


 この調子ならなんとか町まではたどり着けるだろう。

 俺は飛び掛かってくるヴォーウルフを斬り飛ばしながら思ったのだった。

 力量がさほど変わらないかと思うと切なくなる。

 

 俺達六人はこうして死地を潜り抜け、歩みを止めることなく進む。

 町が前代未聞の恐怖の渦に包まれているとも知らず……。


 

 町に近づくにつれモンスターとの遭遇率が跳ね上がり、最早逃げ出したモンスターと原生していた者では数が合わないのではないかと思うほどであった。

 モンスター除けの鈴が取り付けられた街灯も点在しているというのに全く意味をなしていない。

 熊除けの鈴のようなもので殺傷能力は持ち合わせていない以上、突破させれることは想定されていただろうが何分、数が多すぎる。


 これだけの数が押しおよせれば被害がでないなんてことはないだろう。

 見晴らしの良い草原地帯にはモンスターの群れが50程、一つの群れで20~50体程のモンスターにより構成垂れている。


 ここまで小さな群れは俺とユイナ、スペラの三人で壊滅させてきた。

 二人で戦った時よりも圧倒的に効率よく討伐することができている。

 しかし、あまり時間をかけている余裕はない。


 町の戦力次第では辺り全てを殲滅して不安材料をなくしておくのがベストだが、町が壊滅してしまってからでは遅い。


「町長さん、町の守りは大丈夫なんだよな?」


「憲兵、自警団、傭兵が合わせて500人程いるはずです。なんとかなるとは思うのですが……」


「歯切れが悪いようだが、何か心配事でもあるのか?」


「戦闘経験が浅いのです。この一帯はモンスターの大規模侵攻も私が生まれて以来いちどもありませんでしたし、町には盗賊も寄り付くことがなかったので名ばかりな者が多く少し心配なのです」


「不味いな。恐らく手練れの傭兵は町長さんの護衛に出ていたのではないのか」


「え、ええ。その通りです。傭兵とは表向きの建前で私兵のようなものでした。最近狙われることが多かったので、周りが気を使ってくれたのです」


「恐らくもうすでに町に被害が出ている……。幸いなのは町長さんが草原のど真ん中で石を解放したことだな。師匠のところにたどり着いても、ライラ村で解放されても最悪な事態になっていた」


 俺は皆に向けて言う。

 この一件はすべて繋がっている。

 それもいくつもの企てが一つに複雑に絡みつく形で収束している。

 

「モンスターがどんどん町に向かって集まっていくにゃ」


「まるで引きつけられてるみたいね。でも石の時とは違うみたい」


 ユイナが言うように呪詛に塗れた石は天冥の軍勢の意思を操るように作用していたが、モンスターたちは町に向かってはいるが、いたってマイペース。急ぐでもなく自然に歩み遠回りをしてもたどり着こうといったように見える。


 町の周囲全てを500人でカバーできるはずはない。

 町民が自主的に守りに参加したところで、被害が出るだけだ。

 

「あの、群れが邪魔にゃ。どうするにゃ」


「無論、最短で突き抜ける。ライオット、ダタラ、町長を頼む。あの群れを全滅させたらすぐに来てくれ。他の群れに囲まれないうちに駆け抜ける!」


「「わかった」」


 俺達は目の前の行く手を阻む50体前後の集まるヴォーウルフの群れの殲滅に向かう。


「行くにゃりおー」


 スペラは群れに飛び込むと縦横無尽に攪乱し、漆黒のナイフで切り裂き、雷を帯びた木のナイフで獣を焼き切っていく。

  

「アマトにもマナを送るよ。ここなら十分に集めることもできるし、急ぐならなおさらだよね」


「助かる。少しでも魔力は温存しておきたい、頼んだ」


「了解! 任せておいて」


 ユイナにマナの供給を頼み、全身に風を纏いスペラと離れた位置で攻撃に参加する。

 マナの供給を行いつつ、自分自身も風を纏ったユイナは三人に近づくヴォーウルフを言ったいずつレクフォールを振りぬき粉砕していく。


「月、極まりて燕、天より地に落つれば静寂帰す……。『月極燕落とし』」


 円を描く軌跡に『月』という漢字が投影された。

 前回初めて試した時にはそんな演出はなかったのに、まるで想像した映像を具現化したように宙に映し出され薄らと消えていく。

 

 子供のころにやった影送りのようなものだろうか、はたまたプロジェクションマッピングのようなものか、イメージ通りだ。

 ヴォーウルフは頭から真っ二つになる。

 

 一体また一体と数を着実に減らしていく、ヴォーウルフの先には群れのボスヴーエウルフがスペラと相対している。


『ヴーエウルフ レベル15』 備考:統率


 レベルは前回よりも高めだが、俺達はこの群れの前にも20あまりの群れを屠ってきた。

 必ず一体は群れのボスとしてヴーエウルフがヴォーウルフを率いていた。

 恐らく、群れのヴォーウルフが何らかの突然変異によりヴーエウルフに進化するのだろう。


 親玉の方がレベルが低くなっているのも進化の際にレベルがリセットされるとみて間違いはなさそうだ。

 だからと言って個体固有の能力の高さから、レベルでは計り知れない能力値を誇っているのだが。

 

 現状、スペラは手数で雑魚とボスの両方を相手にしている。

 ユイナがはぐれ者を始末しながら、スペラに近づきつつ有る為、俺が応援に行く前に片が付きそうである。


「蘇芳に雷を流すのも慣れてきたんだにゃ。武器なんてミャーの自慢の爪に比べたら何て思ってたのに、案外ミャーの思った通りに動いてくれるから可愛いにゃ」


 スペラは蘇芳に雷を帯電させることに慣れ、その威力は凄まじいものになっていた。

 雷が10億ボルトオーバーにもなるというが、おそらく今は数万ボルトといったところだろう。

 ボスは真っ黒に焼けることなく絶命していた。

 

 雷の直撃を受けたらこうはいかない。

 それでも最少のエネルギーで意識を焼き切ってしまうのなら問題はないだろう。

 あくまで倒すことが目的であって、焼き加減の調整を行っているのではないのだから。


 その副産物として周囲の雑魚も雷の余波を受けて絶命していた。

 うかつに加勢に行かなくてよかった。

 

「こっちは終わったにゃ!!」


「俺の方も片付いた。ユイナの方は……大丈夫そうだな」


「ええ、二人がほとんど倒してくれたから、私は楽ができたかな」


「旦那らやっぱすげーや」


「アマトさんたちはいったい何者なんですか」


「アーニャは勇者にゃ!! ユーニャは精霊様でミャーは従者にゃ」


「スゲースゲーとは思ってたが勇者とその契約精霊様なら、納得だな。」


 ダタラは急に俺達を持ち上げだした。

 褒められているのだろう。全く嫌な気はしないのだが歯がゆい。


「ミャーの事忘れるにゃ!!」


 スペラは自分で従者と言っておいて、話題に上がらないとダタラに襲いかかる。

 違った肩書を用意しておかないと、次も同じことになるぞと言ってやりたい。

 おいおい考えておいてやるか。


「あーすまねえ。ってひっかくなよ!! 従者様!!」


「わかればよろしいにゃ」


「勇者なんておとぎ話の中だけの存在だと思ってたが、目の前にいるのを見ると不思議と納得します。さっきの突然現れた天使のような人といい、今までの価値観が根本から変わった気がしますよ」


 ライオットの言葉からも勇者なんてものはこの世界にはいないという事がわかる。

 だって俺は自称勇者で、スペラが勝手に言いだしたことなのだ。

 勇者なんて器でもなければ、性分でもない。


 ただ、勇者についても調べる必要がある。

 今後、何らかの形で勇者の存在が必要になるやもしれない。

 本物の勇者が現れるなんてことも、あり得る。

 その時は勇者様にすべてを任せて俺は元の世界に戻る方法探しに専念できるんだけど。

 


「お前ら、あんまり深く考えなくてもいいんだぜ。俺達は同じ戦場で戦った仲間だろ」


「旦那がそれでいいなら俺としてはありがてえな。町に戻ったら俺様が喧伝してまわるからよ」


「ったく調子がいいやつだな。嫌いじゃないけど」


 お調子者のダタラはどうにも憎めない。

 偉そうにしてる割に、適度な距離感がわかっているのだろう。

 

 いわゆるコミュ力Maxというやつだな。

 ロイドも特定の相手に間違ったコミュニケーション能力を発揮しているので、少しは見習わせてやりたい。 


 1kmも歩かず町の入り口にたどり着いた。

 そこは人々の阿鼻叫喚が響き渡り、モンスターの雄たけびが追従していている町とは名ばかりの荒れ果てた町並みだった。

 

 町の外からも煙がのぼるのを見たが、ここまで原型をとどめないほど破壊された家があるなど想像もしていなかった。

 獣にこれほどまでの力があるのだろうか。

 

 誰がどう見ても、獣の類じゃない。

 ヴォーウルフの群れも辺りを走り回っているが、そうじゃない。

 そうじゃない。そうじゃないんだ。

  

 では何なんだ。

 

「ロボット?」


 ユイナが呟くの元の世界でも聞き馴染んだ科学技術の呼称。

 しかし、目の前に出現したのは元の世界でも見たことがないような最先端技術の結晶ときたものだ。

 

 今、銀色の巨人が教会の陰から標的を求めて立ち上がる。

 

 


 ロボットアニメのド定番、巨大人型起動兵器が俺達の前に立ちふさがる。

 スリムで継ぎ接ぎがなくごつごつしたゴーレムとも違う。

 頭部は突起物は特になくゴーグルを着用したテルテル坊主ようで、どこを見ているのかまるで分らない。

 

 周りの建物はせいぜい3階建てで教会の陰にひそめる程度の大きさ。

 それでも立ち上がれば20m近くにはなるのではいだろうか。

 ざっと、俺達の10倍以上の高さはあり、森で遭遇したゴーレムでさえ巨大に感じたが目の前のそれは比較するのもおこがましい。


 味方ならば心強いだろうが、好戦的な雰囲気を醸し出している。

 それを裏付けるように足元には血だまりが広がり肉塊へと姿を変えた者達が、かすかにうめき声を上げている。


「町長さん、まさかとは思うがあれが町の守りの要ってことはないよな?」


「私も初めて見ました。あれが何なのかすらわかりませんよ……」


「だよな……」


「アマト?」


「アーニャ?」


「わかってる!! わかってるが……」


 巨人がこちらを補足すると、次の瞬間には猛スピードで走ってくる。

 

「みんな、逃げろ!!」


 ユイナとライオット、町長は右へ、スペラとダタラは左へ跳躍し避ける。

 俺は一人で巨人に突っ込み、足首にガルファールで斬りかかるがはじき返される。

 僅かに切っ先が通ったが、重量と衝撃の方が圧倒的に勝っている。


 生身でやりあうのは無謀だとわかっていても、生き残る為にはやるしかない。

 幸いにも巨人の標的は周りの誰でもなく俺一人へと定まったようだ。

 反転して再び俺目がけて走ってくると思いきや、背中に手を回すとライフルを構える。


 剣と銃では相性云々の問題ではなく銃の方が有利だろう。

 こちらが達人級の腕の持ち主や、今まで出会ったとんでも能力者であれば話は変わってくるが、言うまでもなく素人。


 撃たれる前に喫茶店の入り口に飛び込む。

 つい先ほどいたところに、容赦なく銃弾が撃ち込まれる。

 4、5発撃ったところでリロードそして、すぐに俺の隠れたところへと向きを変えて速射。

 

 喫茶店だったところも道もあっという間に吹き飛んでしまった。

 俺は喫茶店の裏口を蹴り破って、店から裏路地に出たことで下敷きにも粉みじんにもならずに済んだ。

 後ろには今通ってきた喫茶店の廃墟があるが、目の前にはオークが2匹うろついている。


 『オーク レベル41』備考:打撃耐性 ランクE


 初めてファンタジーの定番モンスターに遭遇したような気がした。

 地茶色の肌に牙をむき出しにした豚顔。

 斧と盾を装備してまさに漫画やゲームに出てくるオークと言ったところだ。


 だが、俺はこんな奴らに余っているれるほど暇じゃない。

 まだ、こちらの動きに対応しきれていない一匹を後ろから鎧ごと切り捨てると、次の標的に標的を切り替える。

 甘かったようだ。なんなく斧で受け止められてしまった。

 

 不意を突いた一匹とは違い、正面から馬鹿正直に振り下ろしただけでは受け止められてもしょうがない。

 しかし、確かな手ごたえを感じていた。

 さっきの巨人への一撃でも確かにダメージを与える事が出来た。

 ならば、斧という武器に対しても耐久面で深手を負わせることも可能。

 

 粗末な武器ならば、まずは武器を破壊してしまった方、隙を狙って相対するよりも断然早い。 

 

「時間をかけるつもりはないんだよ!! 砕け散れ!!」


 ガルファールのみねの部分を斧に叩き付ける。

 この時に意識して行ったのは、インパクトの瞬間に全エネルギーを集中させること。

 これは、どのスポーツでも実際に行われている事だ。


 例えば野球ならば、バッターがボールを打つ瞬間、一点に力を加える。

 ゴルフなら、クラブがのヘッドがボールに当たる瞬間。


 そのあとに生まれるエネルギーなど必要ない。

 この瞬間には斧は砕けているのだから。


「驚いているているところ悪いが、終わりだ」

  

 手持無沙汰になっているオークの頭を撥ね飛ばす。 

 後始末などするはずもなく失った時間を取り戻すように踵を返す。

 すぐに二つ先の建物の裏口を蹴り破る。

 

 ここは、花屋のようだ。花々が香しいが見とれている暇もない。

 表通りには相変わらず、巨人が銃撃の構えを取っている。

 しかし、俺がここに隠れていることはわからないようだ。


 わかっていたら、何かしらのアクションがあると考えられるが追撃はない。

 

 みんなとはぐれてしまったのは辛いが、恐らく近くの建物から移動はしていないだろう。

 連絡できれば、安全な場所へ移動しろと伝えるがそれはできない。

 今できることは、一人であれを長時間拘束若しくは破壊の二択。  

 

 俺が逃げれば、誰かが危険にさらされる。

 一番生存率が高い俺が何とかしないと、恐らく対処は不可能。

 幸か不幸か人感センサーの類は積んでいないようで、俺の存在を見つけられていない。

 俺が死んだと判断したのか、構えたままみんなが逃げ込んだであろう建物へと反転する。


 撃たれたら終わりだが、敢えて向きを変えるまで待った。

 ゆっくり物陰に隠れて近づき足首に魔力を込めた一撃を放つ。


烈風瞬刃波れっぷうしゅんじんは!!」


 巨人は銃の発射のタイミングで右足を取られた為に、銃弾は明後日の方向へ5発撃ち放ちその反動で天を仰ぐように転倒する。

 右足首の中間地点まで刃が通ったが、切り落とすことは出来なかった。

 

 動きは非常に素早いが、銃は相当反動があるようで発射時には必ず止まって構えを取り、必ず5発撃ち終えてからカートリッジを交換していた。

 その隙を突くしか方法はなかった。

 

 足周りは見た感じ、瓦礫の破片で傷ついていたことから材質自体はそれほどよくはない。

 量産機の一体ではないかと勝手に予想していた。

 裏を返せばまだまだわんさかいることを意味するのだが。


 それでも、ガルファールが業物の刀でなければ刃が通らなかっただろう。

 やはり生身で戦う類の敵ではない。

 転倒した巨人はまるで人間のようにうつ伏せに反転し、立ち上がろうとする。

 

 巨人は自動で動いているのか、中に人が乗っているのかわからないが動きそのものはまさに人のそれ。

 今なら上段からの一振りが放てる。

 

「月、極まりて燕、天より地に落つれば静寂帰す……。『月極燕落とし』」

 

 二度ダメージを与えたところへ円を描く一撃を叩き込む。

 半分ほどまで切っ先が入っていたこともあり、右足首を切り落とすことに成功した。

 それでも、なんとか立ち上がろうとする巨人。


 しかし、踏み込むことができずに膝をつく。

 

「左足も切り落としてやる!!」


 上段から勢いをつけて振り下ろそうとした瞬間ライフルを左脇で固定する。

 

(まずい。後ろは見えてないはずだろ!!)


 脇に挟んだまま振り返らず、5発を乱射される。

 俺は射程範囲外に飛び退く為、風を足に纏い建物が立ち並ぶ方向へ跳躍した。

 すると、最後の一発は俺とは反対方向に向かって放たれていた。

 

 もしも、俺が飛び退くのが反対側だったら間違いなく木端微塵に吹き飛ばされていただろう。

 あれは、勘で撃ったのではないだろうか。

 理由としては弱いが人が乗っているのではないだろうかと思うほど、臨機応変に対応してくる。


 再びリロードするかと思いきや、立ち上がると両足の小型バーニアでバランスを取り機体制御を行い体制を立て直す。

 背中のバックパックが突然羽のように開くと6つノズルが出現する。

 

 スラスタから青い炎が噴き出しはじめる。

 一呼吸するころにはブースト全開で吹かせたように爆音が響き、一直線に地面を滑るように町の東に向かっていく退路を取っていた。

 

 行く手を阻む建物をもタックルでそのまま破壊すると、両腕のブースターを落下させさらにバーニアから炎を吹き出し瞬く間に姿を消した。


 生身の人間だからと温存していたのか、エネルギーがすでに限界に達していたのかわからないがあのままやりあっていたら勝てたなんて考えには至らなかった。

 ただの移動手段のつもりでも、間近でバーニアなど焚かれたら一瞬で焼かれてしまう。


 結果的に生き残ることができて一安心だ。

 すぐにみんなを探し出さなければならない。

 目の前の脅威が一つ減っただけで、なおも町は阿鼻叫喚の渦の中にあるのだから。




 

 

    


  

 




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