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vs王国兵士隊長

明けましておめでとう御座います。

今年もよろしくお願いいたします。


*残酷な表現があります。

苦手な方はご遠慮ください。

時は少し遡る。


リク達が家を出て夕暮れが夜に変わる頃。

3人分の夕食の仕度を終えたエルギスは、狭いリビングにある古ぼけたソファーに座って一息つき、


「うむ、美味い」


台所の棚奥から引っ張り出した秘蔵の酒を飲みながら、一人考え事をしていた。


「なぜ今さら……」


木製のコップを置いて呟く。


聞くはずがないと思っていた魔神の話を、まさか自分の新しい眷属から耳にすることになるとは。

リクの前では取り乱さなかったが、内心では少なからず動揺してしまった。


過去の魔神と闘いは、エルギスファミリーと他ファミリーの上級眷属、合計300人で挑み、全滅に終わった。


エルギスは眷属の決死の覚悟のおかげで命からがら逃げ出したが、負った傷は深く、この山奥の森に移り住んでいる。

最初は物足りなかったが、それも徐々に慣れ始め、傷も順調に回復していった。


だが反対に家族同然の眷属達を失った悲しみは癒えずにいた。


それから長い時が流れ、黒目黒髪の西方には珍しい1人の男の子を家に連れ帰った。

オーガに襲われている所を助けたという非常に稀な出会いだったが、

今では眷属ーーー家族となってエルギスの近くにいる。


それにもう1人。シアンだ。


最初こそは自分達に対して固い表情だったが、今では柔らかい笑顔を見せている。


正直、打ち解けることが出来るかどうか。

不安じゃなかったと言えば嘘になる。

リクに任せたのは同年代のリクなら仲良くできるのではと思ってのことだが、無理強いさせてしまった感は否めない。


「……リクの心配性が伝染したか」


苦笑いしながら呟く。

エルギスの心配など余所に、2人は今朝方、仲良く森に出かけて行った。あの様子を見れば今まで危惧していたことなど馬鹿らしく思える。


安心すると、コップに残った酒を一気に飲み干し薄汚れた壁のシミをじっと見つめる。


「行かねばならないか……アースガルドに……」


いつかの決着をつける為に、エルギスは常々思ってはいた。過去、魔神との会話の記憶では、討伐作戦の依頼主であるアースガルドの主神にして古き友であるゼウスの裏切り行為により陥れられたと聞いた。心の中では、ある筈がないと思いつつも、眷属達をなくした精神的ショックでゼウスを信じられなくなっていた。


のこのこ国に帰れる訳もなく、こうしてアースガルドの最西端に位置する森に隠れ住んでいるのだ。


「ゼウスよ……。お前は本当に儂等を嵌めたのか……?」


かすかに残る記憶を脳内で再生する。

しかし、いくらやっても有力な情報は手に入らない。


「ん?リク達が帰ってきたのか?」


思考の途中から足音が聞こえてきた。最初にそう思いはしたがすぐに除外する。

足音が十数人分だからだ。


「おい!誰か居ないのか!居るならここを開けろ!」


足音が家の前で止まると、怒鳴り声とともに激しくドアを叩く。


訝しみながらも開けると、そこには1人の男がいた。髪は西方では珍しくない金髪で、全身を兵士服に身を包み、腰には細長いサーベルを下げている。


「私はアースガルド王国兵隊長ヒーリスだ!貴様がエルギスか」

「………確かに儂がエルギスだが、アースガルドの兵士がなんよ用じゃ……?」


よく見ると、男の後ろには軽く見積もって十四、五人の武装した兵士が隊列を組んで構えていた。


ヒーリスの値踏みするかの様な視線がゆっくりと三日月型に変わり、口元が笑った。


「エルギス。貴様は過去、魔神討伐作戦において魔神に寝返り、国の管轄下にある上級眷属三百名を虐殺したとの容疑が掛けられている!」

「なっ………⁉︎」


エルギスは絶句した。

ありもしない容疑を掛けられ、エルギスが魔神に寝返ったなどと妄言を吐く目の前の男が信じられなかったからだ。


「一緒に王国に来てもらおうか」

「な、何を馬鹿なことを言っとる!」


ヒーリスがそう言うや否や、3人の兵士達が周りを囲み腕を掴んだ。


「大人しく我々に従え!」

「ッ、離せっ!」


エルギスはその腕をなんとか振りはらい全力で逃げ出すも、後ろに控えていた兵士によって組み伏せられる。必死にもがくが、腹部に強烈な痛みが走りうずくまる。


「チッ、おいっ、武器を所持していないか調べろ!

ついでに家は燃やしておけ!」

「ゴホッ、ぐっ……やめ………!」


腹に蹴りをもらい、言葉がうまく出ない。

日頃から訓練しているであろう兵士の一撃をくらったのだ。いくら神でも人界である以上は人と同じなのだ。


エルギスの制止を聞くはずもなく、兵士達は無情にも火を放った。

赤い炎は一気に燃え上がり、たちまち家を覆う。耐久性の無い簡素な家は小爆発を起こすとガタガタと倒壊していった。


「ッ、お主らっ、誰の命令でこんな事をする⁉︎」

「罪人のお前に教える義理はない!」


怒りのまま叫ぶエルギスにまたも暴行を加える。


「(なぜこうも立て続けて悪い事が起きる。そもそも奴らはどうやって場所を特定したんじゃ?)」


歯をくいしばり状況を整理する。

索敵系の魔法か?確かに存在するが、あれは広範囲に魔法域を広げて使うので、膨大な魔力量を必要とする。並の魔術師が魔法を行使したところで地図の端っこにあるここまで届かない。バレるはずがない。


ーーならどうして?


言い知れぬ不安感がエルギスを襲う。

いつまでたっても状況を理解出来ずにいた。



「な、なんだこい……ゲファ⁉︎」


その時、家の裏手側の方から悲鳴が聞こえてきた。次々と聞こえて来る呻き声。いったい何事かと視線を向けると、黒い影がチラチラと視界の端に見えた。あれは……


「リク⁉︎」


そこには憤怒が宿った眼をした愛息子がいた。






___________




僕は、暗い視界の中、複雑に生えた杉林を目印に向かって駆け抜ける。


「(もうすぐだ……!)」


不安感いっぱいな胸中では、只々エルギス様の安否を気遣う事と、今も立ち昇っている黒々とした煙の発生源が予想した場所でない事を祈るばかり。


地面から抜き出る小石に足をとられながらも、なんとか辿り着いた先は、今朝方みんなで食卓を囲んだ我が家であった。


「……………」


燃えている。

現場で起こっている言葉が目から頭へ到着し浮かんだ。


そしてその炎と同じ、いやそれ以上の胸を焼く炎が心を燃やした。


「ッ……!あいつらか………ッ!」


元凶の元である犯人はすぐに見つけた。

以前見たアースガルドの兵士と同じ兵士服の男達が、短い詠唱を唱えて炎系の魔法を放っていた。


冷ややかにそれを眺めると、すぐさま身を潜め死角に入る。

裏に隠れ、気付いていないのを確認すると、短剣を握りしめ背後から襲いかかる。


「ーーッ⁉︎」


僕の短剣は狙った兵士の背中に、ずぶりと剣が埋まった。

男は小さい悲鳴を残し倒れる。横にいた兵士達は仲間が倒れたのを見ると、剣を抜き攻撃してくる。


「お前ら、……1人残らず全員殺してやる!」

「なんだこいつ⁉︎剣が当たらな……ヒギャぁァ!」


底から響くような殺伐とした声を出すと、兵士達を一人ずつ斬り伏せていく。

兵士達は、全力で剣を叩きつけてくるも、僕はそれを躱して短剣を当てていく。


丁度半分くらい家を回ったところで探し求めた人物がいた。


「え、エルギス様ッ!!」

「リクッ⁉︎こ、こっちに来るんじゃない!そのまま逃げ……」


僕の名前を呼ぶエルギス様。呼ぶと同時に口から血を吐き出した。そばにいた兵士がエルギスの腹に蹴りを入れたのだ。


「お前ッ……!」


短剣を一層強く握ると、その男に剣を向け突進する。男はそれをヒラリと躱すと、素早く剣を抜き僕の右肩に刺突する。

突進した勢いと、肩の痛みの影響で地面を転がるも、なんとか体勢を整え男と対峙する。


男はしばらく不思議そうに首を傾けていると、突然納得がいったような表情をする。


「見たところ新しい眷属か。まだ子供ではないか。こんな者を自分の眷属にするとは、あのエルギスも落ちたものだ。

………いや、ただの子供に私の部下が殺られるわけがないな。少年!私はヒーリスというものだが、私のもとで働かないかな?」

「ふざけるなッ!」


ヒーリスと名乗る男の言葉で僕の怒りは頂点に達した。

思い切り短剣を振り上げると、<技スキル>ソードスラッシュを発動する。距離は一瞬で縮まりヒーリスの胸元に短剣が袈裟斬りに振り下ろされる。それをヒーリスは軽々とバックステップで避ける。しかしスキルは続いている。二、三歩下がったヒーリスを追いかける形で逆袈裟斬りを放つ。

だがヒーリスはその下からの攻撃を抜いた細剣で上から叩き防いだ。


「なっ………⁉︎く、くそおぉ‼︎」


僕の流されたソードスラッシュのモーションを無理やり戻すと三連撃目。上段からの唐竹斬りを繰り出す。


「そんな状態で放つ剣技など避けるまでもない!」


僕のソードスラッシュが決まる前に、ヒーリスは細剣を水平に持ち腰を下ろし、<技スキル>ファントムバイトを発動させる。目で追えない高速三連突きが腰、胸に上下に刺突する。


小さく呻き今度は僕が大きくバックステップをすると最初と同じように対峙する。しかし変わったのは僕がさらに劣勢となっただけだ。


「(つ、強い!でも、ここで諦めたらエルギス様が……)」


ヒーリスの後ろでは、小さくうずくまりながらも僕の方を見ているエルギス様がいる。もし僕が負けたら僕とエルギス様。されには森の奥で待つシアンまでもが捕まってしまう。


もちろん意地でも守るつもりだ。

けれど心の奥底に、何か分からない感情が潜んでいる。


そしてそれは、目の前の敵を見てさらに増大した。手が震え、額から冷たい汗が垂れ、動悸が少しずつ荒くなる。

今まで闘ってきてこんなことはなかったのに……。


固まっている僕にヒーリスから意外な言葉が飛んでくる。


「正直驚いたよ!

子供が<技スキル>を使いこなすとは。うちの隊員でもなかなかいないんだよ。

あーっ、楽しい!非常に楽しい!まさかこんな森奥でこんな強い者を斬り殺せるとは!期待していなかった分、余計に嬉しいよ!もっと私に君の全ての技を見せてくれたまえ!」


戦闘の最中に余裕があるヒーリスは、腕を大げさに高く上げると、好敵手を見つけたかのように嬉しさを表現する。


「……だったら見せてやるよ。僕の全てを!」


対峙していた二人は全く同じタイミングで前に出た。


僕は最後の力を振り絞り、ソードスラッシュを発動しながら前に出た。

ヒーリスは先ほど繰り出したファントムバイトの構え。腰を低くした姿勢で気合いの入れた声を出して突き進んで来る。


「シャアアァァ!」


先に決まったのはスピードで勝るヒーリスの攻撃だった。これまで誰もこの技を破ったことがないだけに、ヒーリスは絶対の自信を持ってファントムバイトを発動させた。


だが、次の瞬間ヒーリスの表情が驚愕に変わった。


「剣が……抜けない⁉︎」


ヒーリスの細剣は僕の左腿に根元まで食い込み抜けずにいた。僕はチャンスを逃さまいと最後のソードスラッシュを放つ。


「ウオォォォーー‼︎」

「ま、待てぇぇぇーー‼︎」


動かないヒーリスの頭上から腰あたりまで袈裟斬りを始め、残り二連撃が斬り刻んだ。

ドタッと倒れこんだヒーリスは数回痙攣した後、大量の赤い血を地面に流して動かなくなった。

僕はそれを見て口から吐瀉物を吐いた


「…………うっ、ウゲェぇェッ」


敵を殺し冷静になったところで自分の傷の深さと目の前の赤く染まった死体を見て頭の中でパニックを起こしてしまった。


吐瀉物がもはや白い泡しか出なくなり倒れそうなところを後ろから支えられた。


「あっ………、エルギス様……」


背中に腕を回した状態で支えられながらエルギス様が無事な事に気が楽になった。


「……大丈夫か?ようやったの」


エルギス様は悲しげな顔をしているが僕をねぎらうように声をかける。


「僕は大丈夫です……。大丈夫ですからエルギス様は早くシアンの所に行ってあげてください」

「ッ⁉︎、馬鹿者が!リクを置いて行けるわけないじゃろう!」


本気で僕のことを考えてくれている。

そのことに心の中でお礼を言いつつ続ける。


「さっきのやつは隊長でしょ?

だったらまだ数人の部下がいるはずです。そいつらがシアンを捕まえる前に先にエルギス様が行ってください。奥の森の方で待っているはずですから」

「くっ、よし、わかった……!」


エルギス様は決心を決めて走り出した。

僕は体の痛みを感じながら立ち上がる。


すると、僕が回った逆の裏手側からアースガルドの兵士がわらわらと現れる。


兵士達は僕と動かなくなったヒーリスを何往復させると信じられないという表情になった。


「嘘だろ……。隊長が殺された⁉︎隊長は王国でも一二を争う強者だぞ!それをこんな……。

だ、誰か!『賢者様』を呼んでこい!」


………賢者?


よくわからなかったが、こいつらが敵なのは分かってる。



僕は敵を見据え地を駆ける。



ーー突如、僕の前に水の壁・・・が出現した。


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