戸締りにはご注意
どうも、神エルギスの眷属リクと申します。
いきなりですが、僕は女の子と今晩を共にします。
どうしてこうなったのか……、ぶっちゃけ僕にもわかりません。昨日は…、いや1日くらい泊まったから2日前かな?2日前はエルギス様の提案したダンジョンツアーへ。しかし、そこに問題があった!ダンジョンの中で出会ったお姫様シアン。シアンと共にダンジョンボスに挑み、苦戦しながらもなんとかクリア。そこから運ばれて家に帰った僕たちはエルギス様の言葉に流され、いつのまにかシアンと自分の部屋にいる。
「…………どうしよう…………」
リクが小さく呟く。
女の子と寝ることなんて前世ではありえなかった。
だからどうしていいかわからない。まったく、こんなことになるなら前世で勉強しとけばよかった。
チラっとシアンを見る。
「(……また目を逸らされた)」
先ほどからリクは床に座ってチラチラとシアンを見るが、その度に目を逸らされる。
シアンはリクのベッドに座り、赤面した顔でベッドとリクを往復で見ては俯いてしまう。
ゆっくりと、なにかを決心したようにシアンが立ち上がる。
「……リク……」
「……なに?」
小さく囁くようにシアンが喋る。
「もう……寝よっか?」
「…………うん」
うわあぁぁぁぁぁ!!!やばい!
シアンがめっちゃくっちゃカワエエ!!!
テコテコと近づいてきたと思いきや、チョンと袖を引っ張る。頰を赤く染め、潤んだ瞳で見る。
その姿にリクの理性が飛びそうになる。
いやいやいや!「うん」じゃなくて!
「さすがに同じベッドで女の子と寝るのはダメだと思うからさ⁉︎僕は床に布でも敷いて寝るよ!」
その言葉にシアンが反応する。
「ダメ!リクは疲れてるからベッドで寝て!」
「え?いや、だからーーー」
「だから!一緒に寝ればいいでしょ!」
「うっ………」
僕はシアンと一緒に寝るのはいけないことだと思って言ってるのに……。だからといってシアンを床で寝かせるのもダメだし。
しょうがない。
「わかった!一緒に寝よう!」
やけに気合いが入った気がするが……。
ぎこちなく二人並んでベッドに横になる。
「(うわぁ、シアンの顔近い!嬉しいけど恥ずかしすぎる!これ朝まで続くの⁉︎僕、大丈夫かな……)」
赤面した姿を隠そうと、身体ごと横に向ける。
肩越しにシアンの体温を感じる。それだけで鼓動が高鳴る。うるさい心音を聞かれてはいけないと整えようとするも増すばかりだった。
「「………………」」
お互い無言。静かな空間だが不思議と居心地が悪くない。そもそも女の子と寝るのに居心地が悪い人などいるわけがない。むしろ泣いて喜びたいぐらいだ。
「ねぇ……」
後ろから声が聞こえる。ゆっくりと身体を戻す。
「なに?」
「…………」
反応すると、シアンは口を閉ざしてしまう。
しかし、リクは言いたいことをなんとなく察して聞いてみた。
「もしかして、さっきの話?」
「…………うん」
リビングで僕に話があると言った時の表情はとても深刻そうだった。それだけにちゃんと向き合おう。
シアンが一呼吸して告げる。
「わたしを、強くしてほしいの!」
それは、国で恐れ虐げられていた頃から思っていた。
もっと自分に力があればと。
仕返しがしたいわけではない。力を持てば、自分で身を守れるからだ。
シアンは人が信用できなかった。できるとすれば、国の主神であるゼウスと兄。それといつも側にいてくれ母親だ。
けれど、父親のムウサによって引き離されてしまう。
シアンはダンジョンに亡くなった母親の近衛兵たちと共に送られシアン以外は全滅してしまった。
神大魔法があるくせに、守られるばかりで役に立つ事ができなかった。
自分も前線にでれないまでも、庇われる存在のままではいたくない。
そして、リクたちと出会った。
リクのことを初めは頼りなさそうな眷属だと思った。印象通り、ボス戦でのリクは恐怖が表情に張り付いていた。
しかし、リクは恐怖に抗いボスに挑んでいった。きっと震えていたであろう身体を抑えつけながら。あの巨大な魔物と闘ったのだ。
シアンの中で衝撃が走る。
なんて人だと。その姿にシアンは目を奪われたのだ。
そして自分も役に、力になろうとした行動は、結局は迷惑をかけただけだった。
いくら心が強くてもシアンには足りない。戦闘での経験が、力が、リクから感じるなにかが。
シアンはそれらをリクに教えてほしいと思っている。
「ダメ?」
別にリクじゃなくてもいいだろう。しかし、シアンはリクに教えてほしいのだ。
何故こんなにリクにこだわるのかわからない。リクがエルギス様に尊敬しているようにシアンもリクを尊敬心を抱いているからかもしれない。
「僕に?」
「リクがいい……」
リクじゃないとダメなのだ。
「……わかったよ」
シアンの顔が見るからに綻ぶ。
「……ありがとう……」
聞き取れないほどの小さなお礼。
嬉しくて気恥ずかしいからかリクの肩に顔を埋める。
喜んでくれるのはこっちとしても嬉しいがあまりくっついて刺激しないでほしいと冷汗を流す。
「……そういえば、男の人と寝るのなんてリクが初めてじゃないかな……」
「…………」
いきなりどうした?
突然、シアンがそんなことを言う。
「……男の人の身体って女の子と違う……なんか硬いし……でも、なんだか……」
少しずつ、シアンの手がリクの身体に伸びてくる。
首筋から肩へ、肩から背中へ。
「(はうっ、そこはっ)」
ただでさえ高い鼓動が弄られ過ぎてどんどん早まる。
気分が高揚してくる。まるで魔法にでも掛けられたみたいだ。
「……あれ?なんだろう……。身体が……ポカポカしてきてる……」
シアンの小さい声が途切れ途切れになってきた。
あぁ、もうダメ。
「シアン!」
「あわわわっ」
リクに肩を掴まれ見つめ合う。
そしてーーー
「ていっ」
と、誰かに頭を叩かれた。
「え?」
後ろを振り向くと寝巻き姿のエルギスが立っていた。
「え?え、エルギス様?なんで?」
状況についていけない。いや止めてくれたのはよかったけど、こんな都合よく止めにきてくれる?
「………………」
エルギス様は黙っている。
暗くて気づかなかったが手に何か持っている。
どうやら板のようだ。木の棒の付いた。
おもむろにそれを持ち上げた。
そして書いてあったのだ。
ドッキリ大成功、と。
「…………いつからですか?」
「最初から」
「最初からというのは?」
「もちろん最初からじゃ。お主達がこの部屋に入った時から」
つまり僕がシアンの表情や行動に心中悶えていた間、
この神様はずっと僕たちのことを盗み見ていたと。
「……もしかして、シアンの様子がおかしくなったのも?」
「うむ。もちろん儂じゃ。魅惑魔法チャーム。昔アースガルドにおった頃、魔法使いの知り合いがおっての?面白い魔法があるって言うんで教えてもらったんじゃ」
「それでずっとスタンバイしてたと……」
「うむ!ぶっちゃけここまで威力があるとは聞いておろんかったからの〜。もはや申し訳なさしか残っておらん」
それでこの手作り感まんさいの小汚い板を見せに来たと。ふ〜〜〜ん。
「なにか言うことはありますか?」
エルギスは一拍置いて、
「テヘッ」
と、まるで似合わないテヘペロを披露した。
僕は両手を前に突き出し、こう言った。
「ファイヤショット!!!」
と。
その晩、一人の神がこの世を去った。