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03


んで、できあがった革の胸当て…というか簡易な胸鎧だな。

試着する時にエリナの頬が上気していたように見えたが細かいことは気にしない。

付け心地は上々、所詮最下級革素材なので防御力は気にしないが、それでも動きやすさと弦から身を守ってくれるならなんの問題もない。

ステータスにも変更はあるかな?と画面を開くと…


『貢がれる物:己の才覚でそれ以上の物品を手に入れた証』


『プチたらし:男女問わずたらし込むジゴロの卵。将来が恐い』


なにこの称号…さすがにそこまでやる気はないぞ?

エリナの頭を撫でてやりながらステータスを見なかったふりして私たちは試し撃ちに訓練場に行くのだった。




パンッ


高い音がして、的に矢が突き刺さる。

流石に俺よりプレイヤー歴の長い射手の弓は、過たず矢を的に送り出す。


「動く目標は難しいんですけどねー…」


たはは、という感じでエリナが射場から戻ってくる。

次は俺の番だ。

動画で覚えた程度の射方のコツを参考に、身体を開いて弓を構える。

矢を番え、引き絞り、的を狙う。


「っ!」


ぱぁん、と弦が弾ける瞬間、思わず無駄な息が出てしまっていた。

矢は明後日の方向に飛び、隣の的に斜めにぶつかってしまっている。

胸は痛くないのだが…


「やっぱり難しいなぁ…」


「そんなこと無いよ!初心者で矢が的の方に飛ぶだけすごいもん!」


…え?弓ってそう言う物なの?もしかして地雷踏んだのかなぁ…




その後、俺は幾度となく矢を放った。

しかしそのどれもがまともに飛びやしない。

理由は分かっている。身体の統制が取れていないからだ。

全身の筋肉と神経の動きをスムーズに連動させ、本来学習されるはずの綺麗な射法に基づいて身体を動かせていないのだ。

…一般人はこういう事を考えないだろうが、俺はインプラントで神経や小脳と筋肉が別経路でも繋がっている改造人間である。

こうなりゃヤケだ、人間的能力だけじゃなく改造人間的能力も駆使して矢を当ててやる!


瞬間、俺の全身に緑の光が走り出した。

そして最適の射法を探るように、全身が矢を番えるまでに踊るような動きをする。

そして最後に天を射るように弓を引き絞り掲げた所で、弓を持つ手がすっと降りた。


スト


と矢は的の中心に刺さっていた。


「っっすっごいですブレイドさん!!」


エリナが興奮のあまり抱きつかんばかりに飛び掛かってくる。

身体の光が消えていく所を見ていた教官は、なにか凄まじい物を見たように唖然としていた。

やべぇ、部外者もいたんだっけ…


「さっきのは、なんなんだ…」


と、教官が言うので、俺はとっさにエリナの口を塞ぐと笑顔でこう答えた。


「神の加護の一種です」


まあ神の摂理に逆らった加護だけどな。

教官はその音場に何か納得したようだった。




その後も俺は何発か光を発しながら矢を撃ち、身体に適した射法を割り出させた。

そのたびに上がる感嘆の声は、少しうっとうしかった。

そしてふとステータスを見た時に気付いた。


『緑光の巫女:緑の光を纏いし神の加護を受けた者。その光は幻のように美しい。』


なんだこの称号ナメてんのか。

内実知っているとトサカに来る物があるぞコラ、おのれ運営。


ッパン


その射は外れた。




軽い破裂音のような響きを立てて、わら人形の腕が落ちる。

流石に専門スキルを持っている訳ではないのだ。

次はダガーの訓練をしよう、というエリナの誘いに乗る形でこうして今わら人形相手に緑の剣筋を振るっていた。


…そう、緑の剣筋だ。


もうやっちゃったし訓練場にはエリナと教官以外の人目がない。

ならもう訓練に遠慮する必要はない、と複合処理を全開にして俺は身体を光の渦の様に振るい舞わせた。


ザパパンッバスンッ


連撃が小気味の良い音を立ててわら人形に突き立っていく。

向こうで目を輝かせているエリナももう視界に入らない。

身体は機械的に、最適化を求める処理装置のと化していく。


ズスンッ シュスッ


最後の一撃は良かった。究極はきっと空を切るのと同じ音なのだ。いや、それ以上かも知れない。

ダガーを左右の手にスイッチしながらも。俺は延々と剣を振る。

右と左に差は存在しない。筋電位の逆制御を働かせる事が出来る俺の身体に利き側なんてものは存在しないからだ。

ただ踊るように、無限に剣閃を振るい続けていると、ある瞬間教官の大声が聞こえた。


「そこまでだ!」


何事か、びくりと身体が跳ねて剣舞が止まる。

何か…と口にしようとした瞬間その答えをし理解した。

全身がずしりと重く、立ってもいられない。俺はそのままへたり込むようにその場に頽れてしまった。


「ッ!大丈夫ですか!」


見惚れていたのか反応が遅かったエリナがようやく正気に返ると、そう言って駆け寄ってくる。


「ヒーリングエア!」


次いで叫ばれたのは聞いたこともない呪文だが回復呪文なのだろう、エリナの両手に風が渦巻き、疲労感が少し薄れていく気がする。


「ただのスタミナ切れだ。自分の体力の限界くらいは見極めるべきだな。まぁ、訓練ですら限界を超えて動ける、という時点で相応の才能ではあるがな」


教官はその光景をほほえましそうに見つめながらそんな事を言っていた。

別に好きでこういう身体な訳でもないんだけどねぇ。




教習所の休憩スペースで休んでいると、かなり身体が回復してきた。

エリナの魔法のお陰もあるだろう、聞けば風魔法の第2段階で覚える魔法とのことだ。

そういえば俺も2つも魔法スキルを取っているのだからそっちも鍛えないとなぁ。

思い出すのは狼相手に当てたと安心した後の首の感触だ。

魔法も練習するか、と言ったらエリナにはもっと休んでからじゃないとだめですよと釘を刺された。

所詮ゲームだ、在るのか知らないがステータスが回復すれば大丈夫だろう。

大体魔法で消費するのはMPだろうし…

だがここはスポンサーの言うことに従って一休みすることにした。もう薄暗いしな。


「じゃあ、宿でも取るか」


「え゛!」


俺はそう言うエリナは頓狂な声を上げた。顔を真っ赤にしてぎくしゃくしている。

まさか俺の秘密に気付いて…?…という感じでも無い。

こいつ純粋に人と一緒に居るのに弱いのかも知れないな。




で、ベッドが二つある部屋を取って朝まで一休みしたんだが、エリナがどこか複雑そうな顔をしていたのはなんなのか。

あいつもしかしてそっちの趣味なのか?対応考えないとな…


ともかく、その間に魔法に付いてもある程度話を聞いた。

まずレベルのないこのゲームにはめずらしく、魔法は段階分け習得が決まっているらしい。

魔法を使い続けて段階が上がることに大体2つづつ増えていくとのこと。

だが上位だからといって確実に強力なわけでもないし、消費もどれだけ消費するかは人それぞれでよく分からないらしい。

しかも段階があがる速度も人によって全く違い、早い人は一回使っただけで第2段階になった人もいるし、遅ければどれだけ使っても段階が上がらないという事もあるらしい。

どんだけマスクデータの固まりなんだよこのゲーム。

相変わらず頭の痛くなる話だ。




エリナは途中で露店の店番交代の時間だから、と帰っていった。


ところで今、俺のステータスを見て分かる魔法は火魔法の「ファイアボルト」「ファイアコントロール」、風魔法の「エアスラッシュ」それに「エアコントロール」だ。

前者は基本射撃攻撃で、後者が属する現象を操作と考えると良いだろう。

これらも何発か撃って練習しないとなぁ、訓練場にも魔法の訓練が可能とは書いていなかったし。

実戦でまた狼にかみ砕かれるのは嫌だもし光ったら人目に付くのは…




そして俺は南の森林に足を伸ばした。

曰く、南の森林は視覚が通りづらく、脆いがテクニカルなモンスターが多いらしい。

木の上に隠れる大蜘蛛や、草木の間に隠れる動く蔦植物なんかが主な敵、ということで盗賊の斥候能力を鍛えるにも適しているだろうと考えたのだ。


と、そこにぴくりと何かの気配があった。

とっさに矢を構えると、一瞬だけ木の表面の蔦が動いた気がする。

こういう時は遠慮無く撃つべきだろう。

周囲に警戒しながらも矢を撃つと、蔦は悲鳴をあげるでもなく光の粒子になって消えていった。

一撃とはホント脆いな。インベントリには蔦のドロップが入っている。


『人食い蔦の蔓:人に巻き付いて養分にするといわれる蔦の蔓の死骸。相応に丈夫』


なーんか物騒だなぁおい。

その後もゴソゴソと、ある程度森の奥に向けて歩いていくと、大蜘蛛や蔦が時折襲いかかってきた。

時にはダガーで突き刺し、時には矢で打ち抜く。

どれもが気配察知?に引っかかるし、時折インプラントを利用して探知をサポートしているから森の構造も結構把握出来ている。

そしてついに本気を出しても良さそうな森の深みに付いたので、まず初めて杖をインベントリから出し、4つの魔法をいちどづつ使う。

ファイアボールは普通に火球、威力は高いが射程は短い。エアスラッシュは風の斬撃、威力は低いが範囲と射程がある。

ファイアコントロールはいまいち分からないが、エアコントロールは風を操るのが思った以上に楽しかった。


…そして一通りの魔法体験が終わると、自分の中のインプラントを最大に起動させる。

すると緑の光が血管のように全身を脈打ち、俺の頭の中でさっき使った魔法達の感覚を最大限に分析し始める。

全身を走る緑の光だけではない、それとは異なる色合いの薄緑や、薄赤の光が時折身体を離れて全身を覆っていく。


……ああ、これがこの世界でいう魔力なのだろう。

自分に充ちる「世界」を感じる。「世界の要素」を感じるのだ。

今の自分なら出来る。『世界の全て』を解析することが――


次の瞬間、思考は闇に落ちた。




そして、俺はペロペロと何かに顔を舐められる感覚で目を覚ました。

ゆっくりと目を開けると…

そこには巨大な猪がいた。


『ビッグボア:探索中』


ボスMOBじゃねぇかよぉ!!


俺は動くことも出来ず冷や汗を流してダラダラと固まる。

そしてふと思いついた。「盗賊」なら気配遮断も出来るんじゃね?

ということで全身全霊で気配を遮断した。筋電位コントローラも前回で使用して、生命反応も限りなく0に近づけた。

すると薄緑に発光する俺をしばらく見つめていた猪は……


しばらくすると興味なさげに去っていった。


快哉を叫びたがったがそんな事をするとアイツにやられる。

さぁひっそり逃げるぞ!と思い身体を動かそうとして気付いた。

生命反応…弱めすぎた。

小脳インプラント機材の効果がないゲーム内じゃ心拍戻らないよね、これ。リアルボディはともかくさぁ。


あ、死ぬわこれ。




死にました。

まさか死んだふりのしすぎで死ぬとか自分でもないわ。

知覚の噴水に落ち着くと、どれだけドロップ品が無くなったかステータスを明けて確認する。

痛覚70%だとやっぱり結構無くなる物で、丁度3割がなくなった計算だ。けっこうきついな。

廃人はショック死しねえか?まあインプラントで何とかするか。

で、ステータスを見て気付いた訳だが…


『真理光の巫女姫:光纏いし神の加護を受けた者。世界の真理への階を知る』


『しぬほどにげた:文字通り命を捨ててまで逃げた本末転倒なまでの逃亡者。隠蔽率上昇』


スキル「魔導」「真理の目」「風魔法」「火魔法」「練金」「射手」「盗賊」


称号…どころかスキルが2つも増えてる!しかもまた称号が変なのに!

こんな妙なモンだ、人に相談すべきではないかもしれない…

また森でこっそり試すか……?



廃人て痛覚100%にするからショック死しそうですけど、ブレイドくんが言ってるみたいな生命維持や自我維持インプラントが色々ある時代なので、やる気な人はそういうの入れてるから大丈夫なのです。

というか耐えられない場合は機械側が許可しません。まさにSF。

そういう意味で言うと前作主人公は生身で耐えてました。ただの超人ですね。


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