02
で、俺は今訓練所で弓を撃たせて貰っているわけだが。
「痛ったぁ!」
今のは弓を撃った瞬間の叫びである。
何処とは言わないが豊かな部位が弦に弾かれた結果がコレだ。
どこへともなく飛んだ矢を確かめる間もなく、教官は咳払いして口を開いた。
「やはり胸当てが必要と言っただろう?」
「でも、そんなおかねないんです…」
見て下さいこんなに腫れちゃって…などと色仕掛けを交えて教官にねだる。
しかし向こうも慣れているのだろう、ごほんと咳払いして目をそらして言葉を返された。
「ブレイド殿は女性なのですから、そんな破廉恥な真似は慎みなさい」
そして、そんなことよりと話をつづけ、東で兎狩りでもしてくれば良いでしょう、と提案された。
「えー?それじゃぁ胸当て代にはなかなか届きませんよねぇ?」
「その通りだ。だが奴らがドロップする兎の皮を使えば、そこいらの皮革職人に頼んでもっと易く胸当てを作って貰える可能性がある」
なるほど、そういう奴らをたらし込む手もあるのか…などと彼女が内心思ったかは定かではない。
だが、趣旨は理解した彼女は、次いでダガーの訓練場を求めようとする。
「あぁ、兎は殺されるような相手でもない。実戦で覚えた方が早いぞ」
まず実戦を知ってから再度勉強に来るなら受付るがな、と言われると、まあ納得するしかない。
扱いやすい短剣に、倒し扱いやすい最弱モンスター。
まぁ普通何も考えずに突撃しても勝てるように出来てるよなぁ。
と、考えた俺が甘かったわけで。
「うぉぉぉお狼とか聞いてねぇええええ!!」
まぁ下調べを怠った自分が悪いのだが…
実際兎はサクサク刺せば死んでいくような代物だった。
でも同じフィールドにこんな狼が出るなんて聞いてない。やっぱり情報は大事だ。
勢いよく逃げてもそこは人と獣。容易に追いつかれてかかとに牙が食い込み、彼女は用意に転倒した。
「あぎッ!」
鮮血を吹く足首をふるってなんとか狼を振り払うと、
彼女は悶えながらも使える魔法を思い出そうとした。
「ふぁ、ファイアボルト!」
火焔の弾丸が狼を焼く。焼かれた一匹は悲鳴を上げて逃げ…
一瞬安堵したのが運の尽きだった。
ゴキリ
と後ろから首を砕かれる音だけを聞いた。
「おげぇえええええぐえぇえええええ」
周囲の人は、またか、という目でその光景を見守っている。
初めての死に戻りではよくあることなのだ。
仕様上吐瀉物も一定時間で消える事もあり、誰も気にせず苦しむままに任せている…と、そこに一人のエルフがやってきた。
「大丈夫?水、飲める?」
差し出された革袋に彼女は一も二もなくかぶりつき、中身を飲み干した。
「あ…ありがとう」
ようやく一息付けた安堵に、全身のELが一瞬ながれるように光る。
相手のエルフは一瞬驚いた様子だが、ただのサイバネだから気にしないで、というとなんとか落ち着きを取り戻してくれた。
今でもやっぱりこういう改造はめずらしい。言われないと分からない人もいるものだろう。
「…あなたも痛覚100%なの?」
心配した様子で彼女は俺に尋ねる。
「いや、80。でも下げるかも…」
「80%でも結構キツイって聞くものね…100%で平気な人もたまにいるけど…」
なんだよそれ化け物かよ。
「へぇ、あなたも「射手」持ってるんだ!」
このエリナという女性PLとは割とすぐうち解けられた。
おかげで東の平原で胸当ての材料を探していたことや、狼に襲われたこともさらっと話ができた。
そしたらエリナは、自分は「皮革職人」も持っていると言う。
これはもしかしたら…
「なぁエリナ…この胸に合う胸当て…作ってくれないかな?」
ちょっと男前な感じで、でも胸元は見せる感じで口にする。
巨乳は男女問わず視線を奪う武器なのである。
言われたエリナは少し赤面し、視線を泳がせてから口を開いた。
「い、いいけど…ホントに私でいいの?」
そこですかさず俺はエリナの手を取り、こうささやいた。
「エリナだからいいんだ。君のが、欲しい」
エリナの顔がポッと赤くなった気がした、が、今は気にする所じゃない。胸当て代が懸かっているのだ!
結局、手間賃も出ない金額でエリナは胸当て造りを引き受けてくれた。
死に戻りで足りなくなった革はエリナが出してくれたので、採寸というからサービスで脱いでやろうとすると全力で止められたりほほえましい一幕があったりした。
まあ露店の店先出しもったいないよな。
で、最大の問題はデザインである。
「やっぱり弓道風にしたほうがいい?」
いや、あれは決められた射法で使うから意味があるし、何より防具も兼ねるのだ。
もっと左右対称の形が良いだろう。
「いや、ちょっと自分でデザインしてみるよ」
え?というエリナを尻目に、自分はインプラントした筋電位入力デバイスを小刻みに振るわせる。
「ちょっと動くから離れててな」
そして俺は立ち上がると、デバイスの入力に専念して手足をゆらゆらと振りくるくると回り始めた。
ELインプラントの光が宙に光の奇跡を描き、踊るような動きがより一層協調される。
そしてしばらくの舞いの後、踊りはピタリと止まった。
「おー!いいぞー!」「もっとやってくれー!」「かっけー!」
と、気付けば周囲からそんな声がこちらを包んでいた。
おかしい、それほど美しい踊りになるようなもんだったろうか?人に見せたことがないから分からん。
とりあえず俺はぺこりと頭を下げ、今日は此処までです、とよそ行きの笑顔で観衆に答える。
すると口笛と共におひねりが飛び、エリナの露店の物は次々に売れていった。
「…ブレイドさん…凄く綺麗だったです…」
人垣が過ぎた後、エリナは潤んだ目でこちらを見てそんなことを言う。
いやほんと、そこまで綺麗なもんなのかアレ。
「ありがとう、でもエリナがそうしてるほうが綺麗だよ」
とりあえず臭い台詞を返した後は、あいてが反応するより先に本題に入る。
「所でこのメールを見てくれ」
と、何時の間にやらしてあったフレンド登録のメール機能で、動画メールを送りつける。
「え?ええ…えっ?でもこれは…」
そこには3Dモデリングされたブレイドに、胸元が開くような革の胸当て、そしてウエストを守る鎧や尻革などの装備が表示されていた。
「あくまで想像図なんだけどさ、さっきのはそれを入力してたんだ」
「…筋電位入力ってそんなことも出来るんですね…」
「慣れれば、かな」
おれが一応ブーステッドマンな事もあるしな、とけらけら笑って彼女は話を流す。
「んでさ、その画像の胸パーツだけで良いから作って欲しいんだよ」
その胸元が開くような革も胸当ては、だが左右はガッチリと抑えられている。
まるで左右から弓を射るようにも見えた。
「左右対称ですね…防御の関係ですか?」
「はは、さっきも言ったけど俺はブーステッドマンだからな、両利きなんだ」
だから両手で弓を扱えるように、ってな、と彼女が言うと、エリナは聞いてはいけないことを聞いてしまった風に少し俯いた。
そんなエリナに、彼女は壁に押しつけるようにして声を掛ける。
「大丈夫だよ、こんな見た目見て、弄りアバターじゃなきゃブーステッドマンだなんて誰でも気付く。エリナが気にする事なんてなんにもないよ」
すっ、と頬に手をあて、そのまま頭を撫でると、彼女は笑顔で身を引いた。
じゃあ頼むよ。
そういって彼女はゆっくりと露店を去っていく。
いやぁ、俺も反応するトコ反応するなぁ、なんてひっどい事を考えながら……
エリナはホントはすごいちょろい子です。
ソードが落とせなかった理由はソードだからです。
あと両性と女性のカラミはなんて言えば良いんでしょう。キマシ・タワー物理?
誤字修正しました