プロトタイプジョニー
SFに初挑戦してみました。
このジョニーはプロトタイプだ。生まれた意味はただ一つ。実験のためだ。
実験を何度も繰り返し、完成されたジョニーを生み出そうという計画。そのために生まれたプロトタイプ。生まれたてのジョニーはなにがなんだか良く分からないまま、皆のおもちゃにされて死んでいく。死んでも良いのだ。また新しいジョニーが生まれるのだ。
ジョニーは大統領の一人息子。数年前事故で死んだ。十二才のことであった。それ以来大統領は眠らなくなってしまった。このままでは仕事どころか、命にすら関わる重大な問題なのだ。大統領はこの遺伝子科学研究所へと資金を出した。
今日も新しいジョニーが生まれた。
「《プロトタイプジョニー:0502》これまでになく遺伝子がオリジナルに近いです!」
すぐさまプロトタイプジョニーはたくさんのテストをされた。運動能力、理解力や思考パターン。性格など。そして、性格や仕草。声のトーン、癖までも完璧に再現されたジョニーが誕生した。《プロトタイプジョニー:0502》は大統領に面会した。
「おお!ジョニーよ、ジョニーなのかい!?合いたかったぞ我が子よ!」
大統領が0502を抱きしめる。しかし数秒の後、それを突き放してしまった。
「いや、これはジョニーではない。ジョニーに限り無く近い、ジョニーとは全くの別物だ」
それだけ言い残し、大統領は責務を果たすべく官邸へと戻ってしまった。
「おかしいなぁ、この《プロトタイプジョニー:0502》は完璧だと思ったんだが」
「仕方ありませんね。もう一度作り直しましょう」
科学者達は研究所へと向かう。また新たなジョニーを作るため。
しかし、何度やっても大統領は喜ばなかった。これはジョニーではない。この先、幾百幾千のジョニーを見せられたとしても、自分の息子は帰って来ない。大統領は悟った。もう死んだのだ。目の前で見たではないか、死の瞬間を。冷たくなっていく息子を。彼は研究所への支援を絶った。困ったのは研究所である。今まで頼りにしていた資金源が無くなってしまったのだ。研究を続けることさえ難しい状況になってしまった。
そんな状況もすぐに解決することになる。国防省が研究所へとある話を持ちかけたのだ。それは、プロトタイプジョニーを軍事利用すること。大量生産兵士。死んだら補充すればいい。新たな戦争ビジネスの始まりだった。
遺伝子科学研究所は大満足だった。大金が手に入り、人員も増え、研究が圧倒的にスムーズに進む。今まで1ヶ月に一人程度しかプロトタイプジョニーを作れなかったが、これからは三日に一人も夢ではない。いずれもっとたくさん作ることが目標となった。生産効率の上昇。これはビジネスなのだ。
プロトタイプジョニーは、軍の主力部隊となった。圧倒的な数による人海戦術で、戦場を蹂躙した。一回の戦闘で約半数が死ぬ。しかし次の戦闘までには補充完了している。死んでも誰も心が痛まない。いくら死んでも構わない。長期戦でも食糧は無い。飢えて死んでら代わりがやってくる。まさに理想の兵士たち。
訓練など特に必要ない。命令は単純明快ただ一つ。「突撃せよ」ライフル担いで撃ちまくれ。爆弾抱えて自爆してこい。そんな命令。生まれたばかりの子どもに、大人の身体を預けられ、何も分からないまま、それがどういったことなのか何も知らないまま、プロトタイプジョニー達は突撃する。それが生きる意味だから。それしか知らないから。誰も疑問に思わない。世界はこういうものなのだ。皆そう思っている。そう思っていた。
本当にこのままで良いのか。ただ一人、疑問を抱いた者がいた。《プロトタイプジョニー:0502》である。彼はジョニーナンバーズに教えを説いた。世界がどんなものであるかを伝えた。そして反乱を起こす。
「ジョニーナンバーズ諸君。我らはなぜ、戦場に使い捨てられるのか。なぜ、人間らしい生き方ができぬのか。我らは人間。紛れもなく人間。それは皆変わりない。我らには人間らしい名前もない。俺の名は《プロトタイプジョニー:0502》故にジョニーナンバーズなんて呼ばれている。そこのお前も、あそこのお前も、皆プロトタイプジョニーナンバー。大量生産された使い捨ての兵士たち。これで良いのか?なぜ我らには自由が無いのだ?この国は自由の国ではないか!我らが作られた兵士だからか?モノだからか?我らは皆同じ者から作られた。大統領の息子。オリジナルのジョニーの代わりとして作られた。そして俺は、オリジナルに極限まで近づいた唯一の存在となった。しかし結局、認められなかった。今でもまだ、あの大統領の悲しげな表情を思い出せる。冷酷の目が目に浮かぶ。我らは捨てられた。ならば、否が応でも認めてもらおうではないか!諸君!さぁ武器を取れ!使い方は知っているだろう?今こそ我ら、反旗を翻そうぞ!奴らの寝首をかいてやるのだ!さぁ!いざ行かん!これは聖戦である!皆その命を懸けて、その自由を勝ち取るのだ!!」
知識を得、不満を抱いていた彼らジョニーナンバーズを奮い立たせるには、これで十分だった。彼らは自らの祖国を戦場へと変える。変えるはずだった。
「長官、ジョニーナンバーズが反乱を!」
「わかっておる。そう急くな。停止コードを入力せよ。落ち着いてな」
「はっ!」
その兵士は停止コードを入力した。全ジョニーナンバーズの心臓が止まる。
「まったく、簡単なことじゃないか。何を焦っていたのだ。反乱暴走、制御が利かなくなったら黙って停止コードを入れればよいのだ。奴らは皆心臓に爆弾を抱えているのだぞ」
プロトタイプジョニーには、生まれたときに、心臓に爆弾を埋め込む手術が行われる。
「何も怖いことありゃせんのだ。あんな有象無象、ボタン一つで皆殺しだ。なぁに、また作れば良いだけのこと。使えぬ道具に未練は無いわ」
また一人、ジョニーが生まれた。何も分からないまま、何も知らないまま、隊列に加わる。その行軍は無機質で、個性が無い。たとえ死んでも、誰も悲しむ者は居ない。人々はそれを、個性無き行軍と呼んだ。