寄り道
朝起き一番に目にはいるのが天井の木目。布団を片付け、部屋を出てすぐにある共同の水道で顔を洗う。小窓からは微かに朝日がこぼれるを見ると必然と今日も生きてると否定的な事をふと考えてしまう。薄暗い廊下を足音立てないように部屋に戻る。それが此処に来てから出来た日課である。
「髪の毛ぼさぼさ……」
部屋の中は来たときと殆ど何も変わっておらず殺風景。朝は勉強机に手鏡を置き簡易ドレッサーで対処しているが、そろそろ顔全体がうつる鏡くらいはほしい。残念ながらこの村で家具を買うのは不可能であるから、癖直しで髪を整え制服を着る。
「今日は現代文をやろうかな」
前々の癖で朝早く起きてしまうからその時間を勉強にあてることにした。ちょっと前の私なら散歩という名の散策をしているのだが叔母さんとの約束で一ヶ月の間は我慢。集中すること一時間半トントンとドアがノックされた。
「今行きまーす!」
「ゆっくりでいいよ~」
ぱぱっとスクールバックをとりドアをてんぱって開けた……のがいけなかった。ぼふっと顔全面に衝撃。
「ユーリ積極的」
こう言うときに限って真剣な声で囁くから質が悪い。しかも、いい香り。
「フローラルの香りとか乙女か」
「ユーリちゃん? それ、傷つくから! そんなこと言う小悪魔ちゃんにはこうだ~」
いまだにしがみついていたのを良いことに抱き締める力を強められた。いやいや、朝っぱらからなにしてんの!
「朝御飯食べたい」
「うん。食べに行こっか~」
ぱっと私の手を取って食堂まで連れていかれた。気分的には連行されてる感が否めない。彼と私じゃ、足の尺が違いすぎて……つらい。登下校だけで十分。
あれ?
「あー、ユーリちゃんに言ってなかったけ? 平日の朝は彩里ちゃんが集合かけなきゃ皆好きな時間にご飯食べるからみんなばらばらで食べるんだ~」
旅人は私の疑問を読み取り当たり前だよ~なんて言ってる。そう言うのは先に言え。まだ六時半だ。こんな早い時間に学校に行く理由って……。
「ユーリちゃんはすぐ顔にでる~。叶多ちゃんみたい。まあ、しょうがないじゃん? 亜久里ちゃんと一緒がいい?」
「先輩をちゃん付け……。あの先輩ならわかる気がする。それと、先輩が一緒って何ですか?」
「質問を質問で返すなんてユーリの悪い子。玉子口についてる」
流れるように私の口の端に付いた玉子を指先ですくって口に含んだ。
「……それはイケメンだけが許される所得です」
「顔が紅いね、可愛い」
火照る顔を扇ぎながらこの人はフェロモンで形成されているんだと余計な事を考えて時間が過ぎるのを待つ。はぐらかされた感が否めない。何故そう感じるのかって。そんなの、相手にペースを明らかに持っていかれてるから。こんなの、初めて。
舗装なんてされてない砂利道を歩く。霧で見えなかったけど、こんな道を歩いてたんだ。学校は高台の上にあるから坂道が結構急。
「まだ七時過ぎか~。寄り道してこっか」
そう言って坂道の脇にある下り坂の方へ。そっちへいったら、のぼってのぼらないと……はぁ。少し先を歩いている彼の所に駆け足で追いかける。
「ここを下ると何があるんですか?」
「……」
「……なにがあるの?」
「何があるでしょうか~。正解は川辺だよ」
ゴォーと勢いよく水が落ちている。
「そこは滝って言うところ」
そーお? なんていって日影の方へ歩き出している。圧巻だ。そっと近づいて手を伸ばす。ゆっくり、ゆっくり。
「冷たい」
気持ちいい。川底を覗いてみると大分水深が深いことがわかる。私は旅人が何も言わないのを良いことに靴と靴下を脱ぎ捨てて、足だけ水に浸かる。ぴちゃぴちゃと水と戯れる。
「あー、ユーリちゃん。拭くのないでしょ~。おバカだね」
なんだろう。凄くイラッとする。
「ちょっ、ユーリ冷たい」
「ちゃんが付いてないよ。あれだよ、あれ。水も滴るってやつ」
「水掛といて何いってんの。そんな悪いことするこはこの子か~」
お返しと言わんばかりにがっつり水をかけてくる。
「気持ちいい」
「なんで笑ってんの。ほら、そろそろ水からあがって。そろそろ学校行くよ~」
「こんなびちょびちょで学校入れるの?」
あー、なんて彼が空を仰ぐとタイミングよく叶多がきた。ぐっとタイミングとはまさにこのこと。
「お前ら、これから学校なのに水浴びとか子供か?」
「ちょと、叶多ちゃん激おこしてるよ~。だからやめとけって言ったのに~」
「一言もそんなこと言ってないでしょ」
私と旅人がこそこそ耳打ちしてたら、さらに叶多に怒られた。渋々水から足を出して叶多の所に行って、二人でごめんなさいした。その日は叶多の体操着を借りて一日過ごすことに……。旅人も旅人で放課後にこの場所教えてくれればよかったのに。こっそり叶多と話ながら歩いている旅人を盗み見すると、水が太陽の光を反射して彼の色気が増して見えた。やっぱり水も滴るいい男って言うだけあるな。
「ユーリ、はやく歩かないと遅れるぞ」
「そ~だよ。急げ急げ」
「わかった」




