孤独
凛とした百合の花。手に取るようにわかる敵意。胡桃色の長い髪は艶々でくっきり二重。すらっと伸びる身長。その人は少し前の私が求めていた姿そのものだった。
「ねぇ、津田さん。神埼さんの隣にいた美人はなんとゆう方ですか?」
お昼休み。私は船井さん達とお弁当を広げていた。多恵さんに持たされたお弁当は相変わらず美味しい。
「あぁ~。胡桃沢桃子先輩か。てか、同い年やろ。翔琉でいいから」
「勿論、私の事は慶子でいいからね~!」
すかさず船井さんが付けたす。
「胡桃先輩は美人なんだけど性格になんありだよ。私に指図しないで下さる的なね」
「別に俺達に害はねぇよ。あの人のお目当てはプリンスだからな」
だから、あの時私にあの人達を取られると思って威嚇されたのだろうか。霧島さんに至ったは変人扱いされてる私が。
「……可哀想な人」
「ん? なにか言った、たかなっちゃん」
「あー。翔琉さんはプリンス達と付き合いはあるの?」
「翔琉な。叶多と旅人とは会えば話すぞ」
「翔琉ばっかりずるいよねー」
「お前はよく乱入してくるだろ!」
「あんたは少し乙女心を理解しなさい!」
二人は仲よしだなぁと思う。思春期が終わったのかな。お付き合いしてない割りに近い距離。まるで、夫婦みたい。
「二人は凄く仲よしだね」
「たかなっちゃん! その、全て察しましたみたな笑みやめてよ!」
「そうだ。これとは腐れ縁だ」
「その態度むかつく」
「知るか」
「なんですって!」
二人が取っ組み合いを始めたみたいだ。うん、仲よし。そんなこと考えてたら隣のクラスから天使妹がやって来た。うきうきるんるん。そんな効果音が聞こえてきそうだ。
「お姉ちゃんこっち」
はなちゃんは私の手を取ると駆け出した。無邪気って無敵。目の前の二人は未だに痴話喧嘩の最中で気付かない。
(今はあの人達に会いたくないな)
なんて。私はちょっと前の自分と向き合いたくないのだ。嫌いだった。自分を偽らないと回りに認められない自分自身が。はなちゃんの手の温かさが現実へと私の意識を連れ戻す。
「はなちゃん、偉かったなぁ~」
「うん!」
ぐるっと教室を見渡せば、目の前に下宿人達。少し離れて鹿倉がいた。目が合うと恥ずかしそうにはにかんでくれた。可愛い。
「話って言うのはなんですか?」
「不思議くんの星羅くんが急に会いたいって」
「……」
「友達はできたか?」
こくりと頷く。
「よかった」
この人は自分がどんな顔してるのか理解してやっているのなら。不思議くんではなく、策士くんだ。鹿倉くんとかはなちゃんと違って、大人な笑みだ。フェロモンただ漏れだ。
「……心配してくれてありがとうございます」
「彼女、そんなに手をかけないと友達の一人も出来ないの? 高校生にもなって」
突然、神埼さんの隣にいた胡桃嬢が会話に割り込む。下宿人達は私の出方を伺っている。これはどう返せば正解なのか。きっと、あの二人がいなかったら彼女の言葉通りだった。でも、それよりも今は彼女を怒らせないでこの場から退散することの方が重要だ。神埼さんが口を開くのが見えたが先に彼が声をかけるのが先だった。
「取り込み中失礼します。そろそろ、高梨返してもらっていいすっか? まだ、お弁当食べ終わってないんすよこいつ」
私の肩を組み、プリンス達の出方を伺っている。視線を入り口に向ければ、慶子ちゃんが翔琉がんばれーなんて言ってた。
会ってまだ1日もたって無いのに二人は懐が広いなぁ。
「あぁ、そうしてくれ。……教室で待ってろ」
神埼さんのその一言で私達はやっと解放された。
「たかなっちゃんと翔琉大丈夫だったぁ? 翔琉にしては頑張ったじゃん」
「そりゃーな。嫌がってる奴をほっとけないだろ。俺らは友達だろ」
「今日の翔琉なんか格好いいね!」
「俺はいつも格好いいんだよ」
二人がいるから私は大丈夫。どうしたら胡桃嬢は救われるのだろうか。私にはわからない。きっと、踏み込まない方がいい。自分の許容範囲を誰かに侵されるのは屈辱でしかない。考え過ぎなのは理解している。でも、ほっとけないと思ってしまうのは。自分の作ったキャラクターにまだ、捕らわれているからか。
私の作ったキャラクター。それは、誰からも愛される女の子。最初は迷ったのだ今の胡桃嬢見たいに孤独の花になりたかった。でも、そうなったら家族が友達が傷つけてしまうのが見えていたから私はピエロになった。自分よりも他人。困ってる人は助ける。弱いところは人に見られないように……。
「たかなっちゃん大丈夫?」
「ごめん、ぼーとしてた」
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―――――――
――――――――……
「帰るぞ」
神埼さんの言った通り、放課後待っていたら霧島さんが迎えに来た。ぶっきらぼうにいい放つ。
「ねぇ。二人で話したい。胡桃沢先輩のことで」
彼の顔はあからさまに嫌そうで。それでも、彼は何だかんだ優しいのできっと連れて行ってくれる。そんな、確信があった。霧島さんの少し後ろを歩く。家とは反対方向に進むので私の望む場所に連れてってくれるんだろう。
「で、話って」
連れてこられたのは高校の裏山の神社の境内。山に村があるのにさらに山があるのか。
「胡桃沢先輩は叶多にとってなに?」
「ちぇっ、呼び捨てにすんな」
「別にいいでしょ。叶多は私が変人だって知ってるんだから。わざわざ気を張る必要はないよ。それに、今は胡桃沢先輩の話」
「……あの女と関わったことねぇから知るかんなもん。旅人も知らねぇーよ。あの女は当たり前のように最初からいたんだ」
「胡桃沢先輩に先輩とられて、悔しいの?」
「んなわけねぇーだろ! ばぁーか!」
罵倒。でも、耳まで真っ赤だ。
「美人だよ、胡桃沢先輩」
「そう言う問題じゃねぇだろ」
「そうかな? そこ大事だよね?」
私は神社の建物の隅に隠れてる人に問いかける。
「あれぇ? いつから、バレてたの? 鋭いね、ユーリはそう言うとこ」
「私名前、馴れ馴れしく呼ばないで」
「俺も、来季さんも知ってるよ。ユーリが変人なの」
前途多難だ、あの松田さんにバレてるとか。
「つか! お前何処からつけてたんだよ」
「さいしよっからだよ叶多ちゃん」
旅人の語尾にハートが見えた。これも慶子ちゃんと翔琉くんとは違う形の絆。羨ましいな。
「ねぇ。私、我が儘言っていい?」
二人が私を見た。そう、我が儘。後から割り込んできた私に出来ること。
「登下校は二人のどちらかにしてもらいたい」
図々しいのは百も承知だ。ぱっとでの女の面倒を見ないといけないのに、さらに面倒を押し付けられるなんて。
「誰がそんなめんどーなことするかよ!」
「……で、報酬は?」
「ない!」
「この変人!」
まぁ、無理か。報酬か。利害関係じゃなきゃ動かないのね。
「毎週お菓子を焼くのは?」
自分が相手に渡せるものといったら、これしかなかった。
「女の子からお菓子がもらえるの~。それは魅力的だなぁ。叶多ちゃん、甘いもの好きだよねぇ~」
「うっせ! 黙れ」
思いの外釣れそうだ。甘党なのか叶多は。
「駄目?」
こてんと頭を傾けて出来るだけ上目遣いでお願いする。うっと言葉に詰まった叶多。最後にうるっと目を潤せば彼は落ちた。
「ねぇ、ユーリ。その泣き落とし誰に習ったの~」
「……もう、約束したもん」
「さすがぁ。万能系女子なだけあるね」
旅人の私に対する態度が叶多と同じになった。何故って?
そりゃあ、語尾にハートが見えるから。勿論叔母さん仕込みに決まってる。
彼女はまだ知らない。胡桃沢桃子という人物を。




