静かな出発
すっかり日は傾き、町は静寂に包まれていた。
牙十一郎は、1人戦いに行く準備をしていた。
着物の帯を締め直し、戦地へ赴く。父の仇を討つために…。
すると、誰かが牙を呼び止めた…
「おい」
牙「秋山…」
秋山「行くのか?」
牙「ああ」
言葉少なく会話する2人。すると、秋山はこう切り出した。
秋山「まあ…俺はいいけどよ…"あいつら"には一言もなしか?」
牙「?…………!!!」
牙の視線の先には、アヤメとシュラギが立っていた。
牙「アヤメ…シュラギ…」
アヤメ「1人で行くつもり?」
アヤメの問いに、牙はしばらく沈黙する。そして、ゆっくりと話し始めた。
牙「あのレイという男の言う通りだ。拙者がリョウキを倒していれば、マヤの家族は死なずに済んだ」
少し表情を険しくして、牙は続ける。
牙「これは拙者の責任なんだ」
またしばらくの沈黙の後、今度はシュラギが口を開いた。
シュラギ「5年前といい…今回といい…何でお前は、俺達に黙って行こうとするんだ!!」
牙「…」
シュラギ「仲間じゃねえのかよ…俺達は…」
シュラギの絞り出すような問いに、牙は答える。
牙「あくまで拙者の問題だ」
バキッ!!
静かな夜の町に、鈍い衝撃音が響いた。それは、秋山が牙の横っ面を思い切り殴った音だった。
牙「ぐっ…」
シュラギ「!!」
アヤメ「秋山!?」
牙「っ…何をする!!」
牙はよろめいた後、秋山に怒声を浴びせる。
秋山は静かに話しだした。
秋山「てめえはもう少し強い奴かと思ったぜ」
牙「何!?」
秋山「お前の過去に何があったとか知ったこっちゃねえよ。けどな…1人で抱えこもうとすんな!!」
牙は、一瞬閉口した。
秋山「戦いに行くって事は…死を覚悟するのと同じってのは知ってるはずだ。その段階で、もうお前だけの問題じゃねえんだよ!!」
秋山の叱咤に、牙は負けじと声を張る。
牙「そんな事…何故お前に言われなければならんのだ!!」
秋山は、はあとため息をついて答えた。
秋山「お前なあ…さっきシュラギの言った事を聞いてなかったのかよ…」
牙「!?」
秋山「しょうがねえ…俺がもう一度言うぞ」
一呼吸おいて、秋山は言った。
秋山「俺達は仲間だろ?」
牙「仲間…」
秋山「それに、お前を頼ってきた健気な彼女もいるんだしよ」
秋山は、牙に視線である方向を指し示した。牙がその方向に目をやると、そこにはマヤの姿があった。
マヤ「牙さん…」
牙「マヤ…」
秋山「1人で戦ってるなんて思うな。お前の前にいる奴等は互いのために命張れる連中だって事を忘れるな」
牙は痛感した。己の不甲斐なさ、そして仲間への有り難みを…
アヤメ「牙!!私達がついてるよ」
シュラギ「抜け駆けは許さねえからな!!」
レオ「おっと、俺を忘れて貰っちゃ困るぜ」
秋山「レオ、いたのか?」
レオ「って言ってるそばから!!」
牙「…」
マヤ「牙さん、私も一緒に行きます。少しでも牙さんの力になりたいです」
牙「…すまないマヤ…すまない皆…」
アヤメ「お互い様でしょ?こーゆー時は」
皆が士気を上げるなか、シュラギがそっと秋山に言った。
シュラギ「秋山…さっきはありがとうな。本当は俺がやるべきだったんだが…」
秋山「いいって事よ。単純にムカついたのと、それにお前が殴ったら痛いじゃ済まねえしな」
シュラギは、秋山の言葉に「違いない」と苦笑いで返した。
アヤメ「さあ!行くわよ!!」
一同「おお!!!」
夕闇の静けさに包まれながら、6人は出発した。




