来訪者
アヤメとシュラギが事務所で話している頃、牙はあてどなく街を歩いていた。
いや、街におかしな輩がうろついていないかを見回っているのだから、"あてどなく"という言い方には語弊があるか…。
ともかく街を歩いていると、牙の目に何やら異質な人物が飛び込んできた。
そもそもそういう人物がいないか観察していたので、遭遇自体は、想定内だった。
…その人物は、全身黒のスーツを着込み、これまた黒い帽子を深く被っていた。
そのため人相は見えないが、微かに見える口元は、何やら不敵な笑みを浮かべていた。
どうやら刀を所持しているが、柄から鞘から真っ黒に塗装してあり、その姿はさながらステッキを持って現れたマジシャンのようだった。
そんな男が、牙の真正面から向かって来る。
牙[あの男…白昼街を出歩くにしては異様な姿をしている。それに刀を持っているな…]
牙は、相手をよく観察し、どう動くか考える。
牙[ここは人通りも多い。無闇に騒ぎを起こす訳にはいかんか…]
しかし、明らかに怪しい目の前の男を放置するわけにも行かず、とりあえず一度すれ違ってから尾行するなり接触するなりしようと考えた。
そう思うほど、この男から放たれるオーラはただ事ではなかった。
が、思いがけない事に、すれ違いざまに向こうから話しかけてきた。
男「牙 十一郎さんだね?」
牙「!!?」
牙は驚いた。まさかこの男が自分を知っているとは…いささか警戒しながら返事をする。
牙「拙者に何用か?」
牙の問いに、男はニヤつきながら応える。
男「お前さん、最近サムライの事務所とかで派手にやってるらしいね」
牙「それがどうした?」
男「いや…別にどうって事はないんだがね、そういう連中はそれ相応に風当たりが強いって事を言っておこうと思ってね」
男の差し出がましい態度に、牙は少し厳しい口調で問いた。
牙「貴様名はなんという?」
男「レイって名だねえ…別に覚えてなくてもいいぜ」
牙「レイ…」
レイ「それじゃね、牙一族当主さんよ」
そう言うと、レイと名乗る男は、手をヒラヒラと降りながら去っていった。
一方、事務所では…
シュラギ「秋山の奴遅くねえか?」
アヤメ「そうね…どこまで買い物に行ったのかしら…」
今日は牙が見回りに出ており、レオは所用で昼過ぎに来るため、事務所にはシュラギとアヤメの2人きりである。
アヤメ「まあ、そんな事言ってるうちに帰ってくるでしょう」
アヤメがそう言った直後、事務所の入り口に人の気配がした。
アヤメ「ほら、帰って来た…」
少女「あの…ごめんください…」
アヤメ、シュラギ「!!?」
暖簾をくぐって来たのは、秋山ではなく高1くらいの可愛らしい少女だった。
学校の制服を着ていて、髪は黒髪のロング。目は赤色に輝いていた。
ただ、その腰には、この少女には不似合いな日本刀がさげられていた。
その姿に多少戸惑いはしたものの、少女のおどおどした様子に、アヤメは優しく微笑み、穏やかな口調で話しかけた。
アヤメ「こんにちわ。どうかしたの?」
少女「あの…ここがサムライの事務所で宜しかったでしょうか…」
少女は丁寧な言葉で話す。
少女「私は一之瀬マヤといいます。牙さんはいらっしゃいますか?」
シュラギ「牙なら今出てるけど、もうじき帰って来ると思うぜ」
と、入り口にまた人の気配がした。
シュラギ「お、来た来た…」
秋山「ただいま~」
秋山が買い物袋を引っ下げて帰って来た。
シュラギ「空気読めやバカ野郎!!!」
秋山「は!?」
あまりに理不尽なツッコミにキョトンとする秋山。アヤメはシュラギをこんこんと諭す。
アヤメ「もう、シュラギ…怒鳴らないでよ。マヤちゃんがビックリするでしょ?」
シュラギ「あ…悪い…」
マヤ「大丈夫です…お気になさらないで下さい」
シュラギの謝罪に、マヤは過剰とも思えるほど丁寧に応える。
秋山「ん?その子誰だ?」
アヤメ「この子はマヤちゃん。牙に会いたくて来たらしいんだけど…」
マヤは秋山にペコリと頭を下げる。
秋山「あ、どうも…」
秋山もつられて頭を下げる。
秋山「しかし牙に何の用だ?」
こんな少女が牙を訪ねて来た事に、皆は疑問を隠せなかった。
牙「今戻ったぞ」
一同「あ」
マヤ「!!」
牙「何やらおかしな奴に会ったぞ」
マヤ「あぁ…」
牙「また妙な奴等が動き出しているのかもしれんな…ん?」
マヤ「牙さん!!」
牙「!!」
一同「!!?」
マヤは突然牙に飛びついた。
マヤ「会いたかったです…牙さん」
牙「そなたは…」
皆はしばらく呆然とした後、思い出したかのように牙に質問した。
アヤメ「ねえ牙…知り合い?」
牙「あ…ああ」
とそこに、何とも間が悪くレオが出勤してきた。
レオ「おーッス…って何?この状況…」
一同「えっと…」
答えられる者はいなかった。 しかし皆、これだけは自覚した。
とてもややこしい事が起こったと…




