うたかたの…
夢を見た。嫌な夢だった。悪夢とも呼べるほどに最悪の夢だった。
戦争の夢だった。子供の時に見た自分が活躍する華々しい剣と魔法の龍との戦いではなく、生々しい人間通しの本物の戦争。銃声が響き、砲弾が飛来し、空を敵騎が覆い尽くす。遥か彼方からは武装された敵兵が押し寄せてくる…。
否、それは戦争ではなく一方的な虐殺だ。こちらの兵士は敵の兵器の前になすすべもなく、街の城塞はまるで無意味で簡単に破壊される。無辜の市民は、犠牲者として戦いの女神の祭壇の供物となる。生臭い鉄と焦げた肉の臭いが嗅覚を支配し、聴覚は爆撃音と銃声と悲鳴で支配され、黒と赤の世界、かつて街だったモノと人だったモノが見たくもないのに、それらが視覚を覆い尽くす。
し、シ、死。もっともフィクションに近いと思われたその現象から逃れる度に人々は一心不乱に逃げ回る。
彼も例外ではなかった。ただひたすらに逃げ回る。彼はこの世界ではなんら力を持たない無力で非力な青年であった。共に駆けるは同じく無力な友人たちと敗残兵だ。無力感と屈辱感を味わいながら彼はひたすら西へと逃げ続ける。街を超え、首都を抜け、ついには戦火の中船で海を渡る。遠ざかる大陸と故郷を見つめながら、見えてきたのはアヴァロンならざる島国-オスタニア…。
隣で少女が泣いている。本当は美しいはずの金の髪は乱れて白くなり、美しい、ガラス細工のような青い瞳は紅いルビーのように染まっている。だが、彼女は自分の知っている少女ではない。それは頭の右に生えている一本の黒い禍々しい角のせいとも思えたが、しかし、彼女が彼の知る少女と違うのは、ふたり分の特徴を兼ね備えているからであった。本来は金髪の紅い瞳の少女と、白い髪の青い瞳の少女がいるはずなのに、彼女たちは一人の少女として彼の目の前にいる。
夢だと思った。だが、夢の中特有の奇妙な現実感とそうと認識する心情がある。早く目覚めてしまいたかった。なのに自分で目を覚ますことが出来ない、夢特有の現象。これ以上祖国の惨状を見たくなかった。少女の悲しい顔を見たくなかった。
少女を少しでも励まそうと彼女に近づく。だが、突如として船が揺れ、バランスを取ろうとするもそれはなしえず、ふらつく。そこにまた振動が起こり、反対側へと倒れた彼の目の前に柱が現れ、彼の世界は反転した。
―彼、ウェリオン=ルーファスが目を覚ましたとき、そこはイスの上だった。船上の一室のある部屋のイスの上。
あぁ…そうか、ウェリオンはため息をつく。あれは夢だった。そして現実の出来事だ。
あの悪夢はウェリオンの過去の出来事だ。