読めない陛下
レオンとなったレイシア→レオンと書いております。
夜10時の鐘がローグアニスの地に響く。
レオンは前髪と横髪を少し残し、後の髪は全て後ろに固められて違和感に苛まれているところだった。
「なんか、髪が…」
「これが普通だ。」
「陛下はしてないではないですか!」
「リト陛下だ。復唱してみろ?」
陛下は自分のことはお構いなしに、レオンの両側の頬を右手一本で掴み復唱を強制させる。レオンは白緑の瞳にうすらと涙を溜めて復唱するしかなかった。
「虐待ですよ、リト陛下。」
復唱し終えて、ようやく離してくれた陛下に両頬を摩りながら忠告をするレオン。
そんなレオンに陛下は惚けた顔をしてレオンを苛つかせている。
「そんな拗ねるな」
「拗ねていません!」
陛下がお遊び気分でレオンに近付くと顔を全力で背けられる。陛下は一瞬、目を丸くしたがその目を細めクスリとした小さな笑みを零した。
「思うようにいかないなんて、あるんだな…」
そう懐かしむような声で、レオンの横髪を一房優しく掴む。
「リトへ…いか?」
今まで見たこともない陛下の顔と行動に、レオンはあんぐりとする。
「なーんてな」
途端に低い声が聞こえたかと思うと、優しく掴まれていた髪が握り潰され、さっきまでとは打って変わった冷たい笑顔を見せる陛下。
レオンは掴まれた横髪を手櫛で直すと、夜会会場に着くまで黙ってローグアニス国の夜の街を見ていた。
レオンは半年の間ずっと休みを取らずに働いていたのでまともにローグアニス国の城下や街並みを見てはいなかったのだ。
赤茶色や焦げ茶、黄色の煉瓦造りの家からは楽しい笑い声が聞こえて、心地良かった。
一方、ローグアニス国の街並みを満喫しているレオンを一瞥して、自然な髪の毛をくしゃりと掴んでいる陛下は何を考えているのか分からない。
暫く経ち、漸く夜会会場に到着した。馬車がとまり、陛下の薄い唇が動く。
「いいか、レオン。この夜会を主催しているのはこの家の主人、リッジ・バーナード公爵だ。後に紹介するが、外見は…」
「髭面のぽっちゃり体型。両脇には必ず社交界の花がいると聞く、大の女好き…」
すぅっと目を開き、陛下の深い海の色をした瞳と交わると、先ほどの何かを漂わせた雰囲気とは違った笑顔を陛下に向けて、確認する。
「ですよね?」
「あぁ、期待以上だな」
陛下もさっきの冷たい笑顔ではなく、フッと口角を上げた笑顔をレオンに見せた。
「では、頼むぞ。」
「仰せのままにございます…」
夜11時の鐘が鳴り、レオンとなったレイシアの気が疲れる夜会の始まりでした。