侍女のシエラ
シエラが侍女として初めて王城にあがった時から、今が1番驚いたかもしれない。
宰相のジョルジュ様から明日の仕事は2時間遅れて来るようにと召し使った。
理由ははかり知れないが、残り1時間を待ってる時にまたジョルジュ様は訪れる。
『陛下が紹介したいと申している腰元を連れて来た。まだ未熟だが、熱心な少女だ。よろしく頼みますぞ』
どうやら一人一人に言っているらしくて、シエラは何とも時間と労働力がかかる作業だなと疑問に思いつつ、陛下が紹介するのなら朝は大変なことになるな、と思った。
きっと、ジョルジュ様から聞いたみんなは今頃、化粧台に飛び込んでいることだろう。
少しでも、陛下に可愛く見られたいがために…。
確かに陛下は美丈夫で顔立ちも美しい、そんな陛下が紹介する少女。
ユシュア姉様たちにどう思われるのかしらね。
そう思いながらシエラも化粧台に座り軽く化粧を施し始める。
予定の時間になり、時間ぴったりと中に入ると「…ぇ?」と小さな驚きと疑問の声が出てしまった。
目の前にいるのは陛下と宰相様。そして、その隣にいる見慣れない美少年。
肩につかない程のサラサラな亜麻色の髪に外見少女なのか少年なのか、どっちともとれるような綺麗な顔立ちをして、その中で白緑の大きく零れそうな瞳は少し細められ、見るものをゾクッとさせる。
「レイシア・カルボナットだ」
陛下の低音の声に皆我に返ると、紺の髪を背に流した一段と美しい顔立ちのユシュアが前に出た。
「陛下、聞いてもよろしいでしょうか。」
「ああ。」
「何故、陛下自ら紹介を…?」
ユシュアの言葉にその場にいる侍女らはごくっと喉を鳴らす。
聞けずに聞けないことを聞いたからだ。
陛下は口角を僅かに上げ、答えた。
「余がしてはならん理由でもあるのか?」
「い、いいえ!滅相もございません!」
深い海の双眼が一方を見据え、声が少し低くなったことに気付いたユシュアは素早く否定の意を示す。
陛下の一声にビリビリと稲妻が流れたような 感覚に陥りみんな声を出そうとしない。
数秒経ってニコリと笑い、陛下はレイシアと言った綺麗な顔立ちをした少女の頭に手を置いた。
「こいつを好きなように使ってやってくれ、まだ至らないとこもあるだろうが経験だ。」
その場にいる者が一斉に低頭した。
レイシア以外、低頭する必要はなかったのだが…。
陛下はそれだけを言って、宰相のジョルジュ様と執務室へ戻られる。
その後はひどかった。レイシアと名乗る少女の質疑応答が波のように続き、それでもレイシアは落ち着く声音で丁寧に質問に答えていた。
レイシアは綺麗な顔立ちなのに人を下に見ないからすぐ周りに溶け込んだ。
でも、私は何故か頭はあがらないようなそんな気迫というものをレイシアから感じるのだ。
どこから来たのか、なぜ陛下が?
疑問は山ほどあるが、違うものがそれを聞いても自然に流されていた。
「シエラ…さんですよね、レイシアと呼んで下さい。これからよろしくお願いいたします」
上品に微笑む少女にシエラは苦笑いを見せるだけだった。
腰元…雑用をする女性のことです。
陛下が侍女というのは僅かな女性たちだけです。