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拉致・監禁…ではなかった。

「目が覚められましたか?」


 暗闇の中、1つの灯りだけでここがどこなのか把握することが肝心だった。

 簡素なベッドに少し埃っぽい室内。

 窓は辛うじてある。だが、恐らくもう夜遅い時間帯なのだろう。外の景色も闇に包まれ静まり返っていた。

 唯一、1つの灯りを持っている、白髪の愛想がある顔の男がよく見えた。

 瞳はコバルトブルーで少し線が細い体にクリーム色の服を纏っている。


「ここはローグアニス城です。その中でこの部屋は腰元(こしもと)の部屋となっています。」

「てっきり、殺されるものだと思ってた」

「何を殺すことがありましょうか。貴方(あなた)には陛下の命により仕事を与えます。」


 落ち着く声に細めた目で何枚かの書類をレイシアに渡す。

 レイシアは一通り目を通すとその書類に名前と指紋を残した。

 名前、レイシア・カルボナット

 もちろん、これは偽名だ。

 何食わぬ顔をして、男に書いた書類を渡すと男は「確かに」と目を伏せた。


「それでは、今日の朝4時からこちらが用意した服に着替え部屋で待機して下さい。」

「待って!今日とは…今何時なのですか?」

「今は夜の3時です。」

「あと1時間…。ここまで御足労頂きありがとうございました。何卒よろしくお願い申し上げます」


 この男の人はレイシアが意識を手放す前にリトレイディン陛下に話しかけていた人。相当な身分に違いない。


 男が去った後に、レイシアは部屋をくまなく探検した。

 1人寝れるベッドと小さな箪笥、机と椅子があるだけの狭い部屋だった。


 窓には当たり前のことだが、鉄棒は嵌め込まれていない。

 窓を開け、涼しい風が頬に触れるのを感じ外に顔を出す。

 階はおよそ3階ぐらいで、下には花壇があった。夜中なので、何の花が咲いているのか分からなかったが、目の前に大木(たいぼく)がある。枝を上手く使えば、逃げれないこともない。


 そうこうしているうちに4時がくる20分前となった。

 髪は別に指示された訳ではないから何も弄らず、用意された紺の服を着て待つ。

 1時間前に来ていた男が4時ぴったりに部屋のドアを叩いた。


「きちんと準備はされているようですね。では付いて来て下さい」


 他の人達はまだ起きていない。

 2つの足音だけが、静かな夜の廊下に響き渡る。

 レイシアがいた1番奥の部屋から左に出て、真っ直ぐ行き、2回目の角を右に曲がると目的の場所に辿り着く。


「ここが貴方が働く場です。新米の貴方には手始めにコレを片付けてもらい、同僚となる皆に示しをつけて頂きます。」


 レイシアは息を飲んだ。

 目の前に広がる汚い皿の山を1人で片付けろと言うのか。


「陛下が『昔、仕事をしていたのだろう。』との言葉も賜っております。」


 男が言ったその言葉にレイシアは片眉をピクリと動かす。


「その通りで御座います。『昔』仕事をしていたので、これくらい朝飯前というもの。」


 レイシアは満面の笑みを顔に貼り付け大量にあった皿の山を30分で片付けた。

 最後の1枚を洗って行った皿の上に乗っけて、男の方へ振り返り丁寧な言葉遣いも忘れ、ドヤ顔を見せる。


「これで良いでしょう?」


 すると、ブハッと笑い声が聞こえた。

 笑ったのはリトレイディン。お腹を抱えて笑う様は少し子供っぽく見える。

 それにしても、いつの間にそこにいたのかしら…。


「なかなか頑張ってくれる方ですね」

「面白いだろう」


 こそりとリトレイディンに耳打ちした男は優しい笑顔を浮かべてレイシアの頬についた泡をとった。


「自己紹介が遅れました。私の名前はジョルジュ・リットウォーカー、この国の宰相をしております。」

「ジョルジュ様…少しでも認めて頂き光栄であります。」


 レイシアはその場で深く腰を折る。


「そろそろ、侍女達が来る。俺が直々に紹介してやるから、そう緊張せずに仕事をこなせ」

「有り難き幸せで御座います。」


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