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お互い丁寧な交戦

「…んっ」


 太陽の光に当てられ、目が覚める。


「起きたか」


 誰?というように瞼を擦り、声の主を見やるとレイシアが寝ていたベッドから少し離れた椅子に足を組み腰掛けている男がいた。

 男はレイシアの疑問を含んだ目に色をつけた説明をする。


「この船で国へ帰ろうとしたところ、其方(そなた)が乗っている小舟を見つけてな。よく見ると傷がたくさんあり、この船に引き上げたのだ」


 よく見ると傷があった場所に包帯が巻いてある。目の前の男はにこりとした笑顔を顔に貼り付けてたまま、レイシアの瞳を見た。


「其方はどこの国の者だ?何故あんな怪我をしていたんだ?」

「北の生まれです。怪我は山道を通ったためできました」


 男の質問攻めにレイシアは1つ1つ答える。

 それが、真実とは多少違ったものでも…。


「北の生まれか。親はどうしたんだ?」

「親は…いません」

「そうか、不躾なことを聞いた」


 男はそう言いながらも心は込もっていないような声音だ。


「行く場所はあるのか?」

「…ありません」


 男は何を考えているのか、分からない表情で淡々とレイシアに提案する。


「我が国に来てはどうだ?」


 足を組み替えし、美味しい話をレイシアに釣り下げた。


「それは、良いお話ですね。リトレイディン・シェル・ローグアニス様が治められている国はみるみると豊かになったと聞いていますから」


 丁寧な微笑みをし、目の前で少し目を揺らしたローグアニス国、現陛下のリトレイディンを見据える。

 それが挑発的に見えたのか、リトレイディンは乾いた笑い声を漏らし、レイシアに近づいた。


「なんだ、余を知っていたか。」

「とても頭のきれた方で、幾つもの戦で勝利を納めているとか」


 それに、無慈悲な王様だということも。

 そんなことは心に止めて置くだけにして、レイシアはローグアニス国の情報を頭の中で整理した。


 創設507年になる古くからある東の国だけど、昔から何らかの大きな発展はなかった。 だが、それも昔の話。現陛下が即位してからは、戦で数々もの勝利を手にし負けた国を傘下に納めている。反抗した国には、その国の王が国民の前で血祭りになったという話も聞いたのは最近だったと思う。冷淡で諦観、冷酷さが脅威そのものであった。


 なるほど、笑顔は本心ではないみたいね。

まるで言葉巧みに獲物を捕らえようとする捕食者(プレデター)のよう。

 そんなことを思っているのがバレる前に、レイシアはハッキリと言った。


「ローグアニス国へ行かせてください」


 リトレイディンは瞬きをして、また乾いた笑い声をあげる。


「唐突だな、だが良い答えだ。仕事も見つけておいてやろう。そうだな、腰元なんてどうだ?」

(よろこ)んで(うけたまわ)ります。」


 その場で軽く低頭し、レイシアの短くなった髪がサラリと揺れる。


「ところで、女のくせに髪が短いのは何故だ?」


 リトレイディンの疑問の声が降ってきて、レイシアも肩を揺らした。


「む、昔の仕事で長い髪が邪魔だったのです」

「嘘だな」


 うそ、見破られた…?


「う、嘘では御座いません!」

「ならば何の仕事をしていた、この仕事なんてしたこともないような手に聞いてみようか?」


 グイッと手首を掴まれ背中に抑え込まれた。

 女相手に使う技ではないことは確か。

 リトレイディンはレイシアの体を手で抑え付けたまま、レイシアの手のひらをまじまじと見やる。


「このマメは最近出来たものだろう。船を漕いだ時にでも出来たか?違うなら反論してみろ」


 ねじ伏せられたレイシアからは見えないリトレイディンの黒い笑みは段々と濃くなってくる。


「間違えました、猛獣に襲われた際、木に髪が引っかかり切る羽目になったのでございます。」

「それも嘘だな」

「嘘では…!」

「それなら何の猛獣に襲われたというのだ」

「キシェロです!」


 咄嗟にレイシアの祖国、エレノアール国で見たことのある猛獣を口にしてしまい、ハッと口を紡ぐ。


「ほう、キシェロは西の大地周辺に生息してるものだが、よく北の大地にいたものだな。」


 レイシアの苦し紛れの言い訳は言えば言うほど自らの首を締めることになった。


「余を騙すとは、怖いもの知らずか?」


 リトレイディンの声音が1トーン落ち、重みが増している。


「に、西の大地へ赴いた時に襲われたのです!」

「まだ言うか。」


 ギリッと加減なく手首を握りしめるリトレイディンは容赦がない。

 しかし、尚もレイシアは嘘を突き通した。


「本当で御座います!西の国へ赴いた際に…」


 レイシアはリトレイディンが少し力を緩めたことを見逃さず、リトレイディンの腰に刺していた剣をとった。

 が、その刹那。首に当て技をされ強制的に気絶させられることとなる。

 カシャンと持っていた剣は床に落ち、レイシアも倒れた。

 重くなる瞼を必死に開けようとする仕草は幼子(おさなご)の様で愛らしいが、やることが子供ではなかった。


「陛下、女相手にする当て身ではありません。」


 どこから入って来たのだろうか分からない男の声を最後に聞き、レイシアは重い眠りへと入らされた。


「仕方がないだろう。あれは俺を殺そうとする眼だった。」


 リトレイディンの一人称が“俺”に変わっているが入って来た男は構わずに話を続ける。


「えらく気に入ってるご様子ですな。」

「ここまでゾクゾクしたのは久々だ。最初は読めない女と思っていたが、楽しくなりそうだな」

「陛下、この女を本当に城へ招き入れるのですか?まだ不確かな女ですぞ」

「嘘をつくのが上手そうな女だった。生まれは西の国だろう。北であったとしても変わりない。どこからどこまでが嘘か誠か楽しみがいがあると言うものだ。」


 ククッと喉を鳴らし、倒れた女を見るリトレイディンに今年32になった宰相のジョルジュは溜息を吐く。


「また、陛下の悪い癖が始まった」

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