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その笑顔が…

「来ないと思ったのに」

 言葉とは裏腹の表情。「来ない」なんてきっと思ってすらいなかった。

「勉強を教えてもらうだけだから」

 なんでもない振りをして隣に座る。教科書とノートを机の上に広げた。

「…何?」

 視線を感じ、問いかける。

「なんか、むかつく」

 笑顔で言った。

「…笑顔で言われる言葉じゃないと思うんだけど」

「だってなんかお前、余裕」

 拗ねたような表情。歳相応な表情に千花は笑った。

「何笑ってるんだよ」

「いや、可愛いなって」

「な、なんだよ、それ!?…やっぱ、むかつく。昨日俺が言ったこともう忘れたわけ?」

 そう言って左手を取られた。

千花の頬が赤く染まる。その様子に徹は気を良くしたように片頬を上げた。

「なんだ、忘れたわけじゃないんだな。意識してないから忘れたのかと思った」

「意識してないんじゃなくて…」

「…?」

「意識してないんじゃなくて、信用してるだけ。瀧山くんは、何かするような人じゃないでしょう?勉強会はきちんと勉強を教えてくれる、そういう人でしょう?…瀧山くんのこと意識させられてきたんだもん。それくらいわかるよ。そういう人だって」

 そうでしょ、と軽く首を傾げ同意を求める。

徹は一瞬言葉を失い、深くため息をついた。そっと手を離す。

「やっぱむかつく」

「え?」

「…んなこと言われたら何もできねぇじゃん。……しかも、意識してきたとか無意識に言うなっつーの」

「…ごめん。最後の方何言ってるか聞こえなかった。…何?」

「…」

「…?」

「お前は知らなくていいの。ほら、勉強」

「え?」

「そのために来たんだろ?…惚れた女の信用崩すわけにはいかないし」

 その言葉に千花はまた赤くなる。

「あ……。うん」

 表情を隠すために俯いた千花の頭にそっと手が乗せられる。

「だからって、そういう可愛い顔するな。…こっちだって色々大変なんだから」

「え?」

「男は狼、なんだよ。だから、ちゃんと気を付けろ」

 そう言って笑う徹の顔は優しい笑顔だった。

 胸が鳴る。その音がだんだん大きくなっていった。

もう気付かない振りはできそうもない。


更新が短くてすみません。

もうすぐ終わります。あと少しお付き合いしていただけたら幸いです。

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