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わからない

「あんの渡辺のバカ。余計な事してくれちゃって」

「千花、大丈夫だった?」

「大丈夫、大丈夫」

「大丈夫なわけないでしょう!そんなやつと2人きりなんてだめだからね!!」

「なんか、智絵ちゃんお母さんみたい」

「笑い事じゃない!!」

 智絵がさらに声を荒げたので、千花はまた笑った。

2人に話したら、何も心配することはないように思えたのだ。

「だって、あの瀧山くんと私だよ?」

 言葉にするとすんなりと入る。

他の女子たちから人気が高い徹と今まで誰かに好かれたことなどない地味な自分。

その2人が一緒にいたところで何かあるわけもないのだ。

「身の危険」なんておこがましいとすら思えた。

「でも、本人の口から『好き』って言われたんでしょう?」

「あ…それは…」

 昨日の記憶が呼び起こされる。

真剣な目と低い声で忘れていた。

「そうそう。その前にも一応告白はされてるんだからね」

「…」

「千花はちょっと自覚持った方がいいと思うよ?」

「でもさ…何かあるわけないって思わない?だってあの瀧山くんだよ?」

 2人のため息が揃う。

「しかもね、さすが頭がいいだけあって、教えるのすごく上手いの。部活もないって言うし」

「…」

「ま、千花がいいって言うならいいんだけどさ…。でも、気を付けてよ?」

「智絵の言うとおりだよ。仮にも『好き』だって言われてるんだからね」

「うん。うん。気を付けるって」

「も~、本当に分かってるの?」

 智絵がそう呆れたような声を出したところで、授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。

「本当に大丈夫だから、ほら、授業」

 千花が笑う。

香織と智絵はその笑顔に更に眉間のしわを増やした。

 授業が始まった。

「このとき彼は言いました…」

若い教師が教科書を音読している。

千花は、それを聞き流しながらふと隣を見た。

昨日と同じ人物であることは間違いない筈なのに、どこか違う人のように感じた。

ふと自分の左手を触ってみる。顔に熱が集まるがわかった。

「好き」だと言われた。好かれている、と感じながらも、どこかで理性が違うと言っていた。けれど、本人の口からそれを聞いた。きっとあの状況でなければ、単純に嬉しかったと思う。それでもやはり、自分の気持ちがわからなった。嬉しいと思うことはどういうことなのか、これからどうしたくて、どうしてほしいのか。

そして、この綺麗な人物の気持ちもわからない。 

「惚れさせる」と宣言された。けれど、教室で話しかけようともしない。やっぱり、その程度なのだ。そう思うと落胆した。そして、落胆したことに驚いた。

 「好き」とは何か。それがやはり千花にはわからない。この人に好きでいてほしい。けれど、それはとても卑怯な事のような気がした。

それでも、他の人を好きだという徹を見たくなかった。頭の中が混乱している。

 千花はふと視線を感じ、自分の左手から視線を上げた。

徹と目があった。ふと笑う。急いで目を逸らした。

心臓が音を立てる。大きすぎて隣に聞こえるのではないかと思った。

この笑顔が好きだ。優しく笑うその表情が。

藤沢への好きと似ている、けれど決定的に違う好き。

 それに気付いても、千花は「わからない」と思っていたかった。


 もうすぐ終盤。

なんだか、ぐるぐるしてすみません。

どうか、よろしくお願いします。

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