告白
連載です。正直どうなるかまだ分かりませんが、お付き合いください。
そして、途中でタイトルが替わるかもしれません。
よろしくお願いいします。
伊藤千花は、取りたてて美人というわけでもなく、スタイルがいいわけでもなく、頭がいいわけでもない。「暗い」というわけではないが、明るいと暗いの二択ならば、暗いの部類に入る、そんな人物である。
千花はそれでいいと思っていた。仲の良い友だちはいる。いわゆる「イケてるグループ」の子たちと積極的に話すわけでなくても、必要ならば話し、談笑もできた。男の子と話すことは少し苦手だったが、だからといって困ることなどなかった。きっと、あと一年と少しの高校生活も平凡に過ぎて行くのだろうと確信していた。
しかし、それは一人の傲慢な発言により壊されていく。
それは、4月に入りすぐの出来事。
窓の外では散り始めた桜が舞い、人々は穏やかな春の兆しに包まれていた。
「お前、俺と付き合え」
瀧山徹がその言葉を投げかけたちょうど2秒後、周囲から一斉に悲鳴が聞こえた。
千花は、徹の人差し指の先を見つめながら、半ば他人事のように思う。
芸能人でもないただの高校2年生にこれだけキャーキャー言えるのは、ある意味凄いことなのではないかと。
少しだけ視線をずらした。
どこか赤くなっているようなそんな顔がそこにはある。
端正な顔立ちは活発さ際立たせ、栗色に染まった髪は、彼によく似合っていた。これで、頭もよく、運動神経もいいというのだから、卑怯なものだ。
「ちょ、ちょっと徹、何言ってるの?」
「そ、そうだよ」
「あ、わかった。伊藤さんのこと、からかってんでしょう?だめだよ。真面目なこのことからかったりしちゃ」
我に返った様子の周りの女子たちが口々に言い合う。
徹は気付かないのか、無視しているのか、彼女たちの言葉には反応せず、ただ千花を見ていた。
射抜かれるような視線。
周りもその視線を追うように千花に集まる。
「あ、えっと…結構です」
「はぁ~~?」
またもや周囲から声が上がる。
「信じられない」
「何様なの?」
そんな声を聞きながら、千花は徹に背を向けた。
「ごめん、香織、智絵ちゃん。お待たせ。お昼食べようか。早く行かないと屋上のスペースなくなっちゃうよ」
「え、あ…。いいの?」
「ん?」
「いやいやいや。『ん?』じゃないよ!今の状況理解しなよ。あの瀧山徹が!地味でこれといって取り柄のない千花に!!告白してるんだよ!!!」
智絵の言葉に周囲の人間は心の中で大きく頷いた。
「智絵ちゃん。…そういうはっきりとしたところ好きだけどね」
「あはは…。ごめんって」
「いいよ。気にしてないし。というか、どうせ冗談で…」
言いながら立ち去ろうとしていた千花の腕は、強い力で引かれた。
「おい。…勝手に冗談なんかにしてんじゃねぇよ。俺は本気で…」
「恋愛とか興味ないの。こういうのに巻き込まないで」
「…」
「香織、智絵ちゃん。行こう」
千花は、周囲を囲む人を掻きわけ歩いて行く。香織と智絵は一瞬顔を見合わせ、心配の表情を浮かべ後を追った。
渦中の一人がいなくなり、静止画のように止まっていた人々が動き出す。
途端に徹は囲まれ、質問攻めにあった。それを無言で振り払い、階段を下り、裏庭へと進んだ。レンガで囲まれた花壇の傍に青いベンチが2つ置かれている。
徹はそこに腰かけ、目を閉じ息を吐いた。
「傷心中?」
ふと現れた声の主を徹は睨みつけた。
「はいはい。怖い顔しないの」
「…敦」
敦と呼ばれた少年は、徹に劣らず、綺麗な顔立ちをしていた。明るい色で染められた髪は少し長く、彼の優しい雰囲気を上手く醸し出している。
敦は笑みを浮かべたまま、徹の隣に腰かけた。
「珍しいね。お前の本気」
「…」
「冗談なんかじゃないのにね」
「…うるせぇよ」
「でも、もう少し、周りの反応とか、相手の気持ちとか、順番とか考えた方がよかったんじゃないか?」
「…」
「あ、考える余裕もなかったのか」
「だーもー!うるせぇ!!」
耳まで赤く染め、頭をかく友人の姿を見て、敦は気付かれないように笑った。
「ま、とにかく、今後の作戦でも考えますか。大丈夫。経験値ならお前より数倍上だから」




