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第9話「ターニングポイント〜真実へ〜」

 橘さんに連れられて向かったのは用途不明の研究所みたいな場所だった。実は前にもここに来たことがある。あれは爆弾処理をした日のことだから二ヶ月くらい前だな。

 建物に入ると広いロビーがあり、そこには受付のお姉さんが居た。橘さんはお姉さんと何か手短に話し通路の奥の方に歩いていく。俺も受付のお姉さんにお辞儀をし橘さんの後を追った。

 エレベーターに乗り、地下へと降りていく。エレベーターから降りた先にあった部屋は天井が高く広い部屋。まるで秘密基地みたいな印象を受ける。

 秘密基地か。あながちそれも間違いではないのかも知れない。前にもここに来た事があるって言ってもこの場所には来なかったし、以前に説明をされた舞衣のことについてもまだ隠している点も多いはずだ。

 橘さんに案内された先の部屋は机にパソコンにソファといったオフィスの様な造りの部屋だ。促されるままに俺はソファへと座り、橘さんはコーヒーが入った紙コップをテーブルに置き、向かい側に座る。

「コーヒーくらいしかなくて、すまないね」

「いえ。お気遣い無く」

 コーヒーを啜るとブラックだった。苦いな。飲めなくは無いがどちらかと言えばあまり好きじゃない。

「さて、どこから話をしようかな」

「あの理解不能生物は何なんですか?」

「うん。あれはね言わば新人類になるはずだった者だよ」

「はっ?」

 これまた予想外だ。新人類だって?

「つまりね、あれは人が行っていた新たな時代へと進む為の進化の実験のために出来た怪物なんだ」

「新たな時代?」

「太古の昔から人は進化を遂げて文明を築いてきた。ならより高度な文明を築くのなら進化をしなければいけない。そう考えたんだろうね」

「進化した人は、今の人と何が違うって言うんですか」

「実験を行った研究者はこう考えた。僕達よりも遙かに優れた頭脳。肉体。そしてもし超能力と呼ばれる特殊な力が実在したらと。第六感の秘密は脳に隠されていると聞いたことはないかな。脳はその一生を終えるまで十%くらいしかその力を使わないと言われているね、脳の事は未だに不明な点が多いのだよ。でも、ゲノム。つまり遺伝子ならかなりの所まで研究が進んでいる。

 遺伝子を独自の理論で改変すれば、新たな時代の担い手が造れると本気で考えていたんだろうね。宗教じみてるけど」

 人の遺伝子を改変して、超能力をもたせるか。何か変だ。

「研究は途中で失敗して研究所は崩壊し多くの死傷者を出した。だが、その失敗で誕生したのが君が見たあの生き物だよ。本来ならば一体だけのはずだったのだが繁殖しているのか、正確な数は分からない。あれが人に危害を及ぼす前に殲滅する為に結成されたのが僕達の組織」

「まるで、秘密組織ですね」

「その通り。僕達は誰にも誰に知られる事も無く、全てを終わらせなくてはいけない。舞衣にはその為に無理を強いてしまっている。今日の出来事から見ても、君なら舞衣の助けになれる。どうか君の力を貸してくれないか」

 分からない点が多い。いや、不透明な点が多すぎる。確かに今の橘さんの話で納得出来るかもしれないが、何処かおかしいような気がする。だが、そんな事は気にしても仕方が無いことか。でも、これだけははっきりさせておきたい。

「舞衣はどうしてあなた達の為にあんな化け物と戦うんですか」

「それは、以前君に説明した理由からだよ」

 そうか。あくまでその点については本当の事を言うつもりはないんだな。なんとなく橘さんが本当のことを言っているとは思えない。ま、俺の直感ほど当てにならないものはないからな。

 それに今は、舞衣と一緒にあの化け物を退治している時間はなさそうだしな。彰が言っていたことが気になる。俺の記憶している過去と真実は何処か食い違っているのだから。調べてみる必要がある。彰が言っていた事が本当なのかどうかを。

「今は他にするべき事があるので」

「そうか」

「どうして俺にあの化け物の事を話そうと思ったんですか」

「実物を見られているのに隠し通す事は、君の記憶を消去するしかないからね」

 さらっと凄い事を言うなこの人は。それになんだろうこの嫌悪感と寒気は。

 秘密組織の基地から外へ出ると、既に太陽が昇った後だった。今日は忙しい一日になりそうだな。




「計画は順調ですかな?」

 一人の老紳士が椅子に座っている橘に問いかける。その問いに橘は冷笑を浮かべながら答える。

「あぁ、やはり運命というものは存在するのだな。彼は運命の歯車の一つとなって動き始める。計画通りだ」




 辺りが暗くなり始めてきた。商店街の時計を見ると六時半を指している。今日一日和也にも協力してもらって色々調べたが、警察でもない一人の高校生では限度がある。成果はあまりなかったが。全然なかったともいえない。やはり彰の言っていたように俺の記憶と現実ではかなりの相違点があると言う事だ。こればかりは流せる問題ではない。俺はどうして記憶違いをしているのだろうか。

 確か人は受け入れる事が出来ないほどのショックに見舞われると、自分の記憶を改変させてしまうとは誰かが言っていたような気がするが、俺の場合は桜は死んだ。と言うことを覚えていないのではなく、桜が死んだ日が現実と食い違っているのだ。そういう事もあり得るのだろうか。それに俺が行方不明になっていたと言うのも気に掛かる。何処で何をしていたのだろうか。

 ふと一つの仮定を思いつく。それはとんでもなく馬鹿な話で漫画みたいな仮定だ。だが、万が一の可能性で俺の記憶が何者かの手によって故意に改ざんさせられていたとしたら、どうだろう。

「馬鹿馬鹿しいか」

 そろそろ、家に帰らないと妹の雷が落ちてきそうだな。ぼんやりとそんな事を考えていると目の前の小さい子供が握っていた風船が、突風によって空へと昇って行く。風に驚いて紐を離してしまったのだろう。飛んでいく風船を見つめていた俺は、一本の木に目を留める。

 小高い丘の上に一本の木がここからでも空に向かって伸びているのが分かる。家に帰る前にあの場所に行って見たかった。桜が死んでから一度たりとも行っていないあの場所に。

 そこは街が見渡せる山の中腹に広がる広場だった。桜の木が一本だけ植わっていて、春には綺麗に咲き誇っていた。小さい時は桜とよく一日中過ごしていた。俺達だけの秘密基地。

「よぉ、久しぶりだな」

 そこに誰かが居たわけでもない。俺が久しぶりと言ったのは桜の木にたいしてだ。六年間も来ていないのに、丘の風景はあの時となんら変わりがなかった。

「静かだな」

 独り言だけがはっきりと俺の耳に届く。そのほかの音と言えば風で木が揺れる音くらいしか聞こえない。静かな場所だ。

 そういえば、桜の木の下に桜と一緒にタイムカプセルを埋めていた事を思い出す。あれは確か、小学五年生の春の出来事だったかな。埋めた桜の木の下の地面を見ると、一度掘り返されたような跡があった。近くの場所には小さいスコップが落ちている。

 これで掘れって事かよ。小さなスコップを手に土木作業にいそしむ事しばらくして、タイムカプセルを掘り返した。こんなに小さい箱だったかなと思う。子供の頃は大きい箱だと思っていたんだけどな。

 箱を開けると、中にはビデオテープと手紙だけが入っていた。

 ―――――――勝手にタイムカプセルを開けてしまった事をまず詫びます。ですが。

 そんな一行目から始まっていた手紙を読み進める内に、俺は震えているのが分かった。そこには真実が書かれていた。俺の知り得ない、だが確かな真実が。手紙を読み終わった俺は、急いで手紙を箱に戻し、その箱を持って家に帰ろうとする。

 立ち上がり、歩き出した俺の目の前に一人の少女が現れた。何時からそこに居たのだろうか。まったく気づかなかった。

「悪いな今は急いでいるんだ――――――」

「さようなら。せめて安らかな」

 ―――――死を。

 俺が聞き返す暇もなく、少女は刀を俺に向かって投げる。条件反射的にそれを掴んだ瞬間には目の前には刃が迫っていた。刃を鞘を抜いていない刀で受け止める。だが、人とは思えないほどの力で俺の身体ごと吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた俺は、丘から落ちた・・・・。

 舞衣。どうしてお前が? 電源を落とすように俺の意識も途絶えた。最後に見たのは、丘の上から俺を見下ろす舞衣が、月明かりに照らされて泣いていた様に見えた。






 あれ? 暗闇だ。ここは何処だろう? 遠くで誰かが呼んでいるような気がする。誰だろう学校の先生かな? あれ? じゃあ今授業中?

「・・・・! ・・・・・い! ・・・・・・・なさい!!」

 授業中だったらさっさと起きないとな。

「さっさと起きなさい! この寝ぼすけ!」

 突然俺の腹部に凄まじいまでの衝撃と痛みが走り、俺は地面を這い回る。当然目は開けられない。

「ようやく、目を覚ました? 寝ぼすけ君」

 こんなんで目が覚める訳ないだろう! いや、目は覚めるけど、もっとマシな起こし方をしろよな! と叫んでやりたいが声すら出せない。何とか目を開けて、俺を攻撃した奴を見る。そこに居たのは、長い黒髪に整った顔立ち。何故か勝利を確信しているかのように笑っている少女の姿があった。見覚えがあるようなないような。

「おはよう、寝ぼすけ君」

 にこやかに朝の挨拶をしてくる少女だが、俺は混乱していた。

「ここ何処? 君誰?」

「少し強くやりすぎたかな? じゃ、もう一度」

 構える少女。恐らくあの構えからは回し蹴りが来そうだな。今度は頭を狙って。

「おぃぃぃ!! 何冷静に説明文言ってんだよ! 待て待て待て!! 俺は至って正常だし、ここは平和的に話し合いで解決しようではないか!」

「じゃあ、ここは何処で。私はだぁれ?」

「ここは・・・・何処だろう? 君は・・・誰?」

 当然回り蹴りで吹き飛ばされた事は言うまでもない。だって、本当に知らないものは知らないんだもん。しょうがないじゃないか。暴力反対平和主義だし、いきなり蹴りだし、でも何処かで見た事あるような気がするし。ようやくはっきりと目が覚めてきて、ここが何処かは分かってきた。とある旅館の一室。そう、ここは旅館「水島」だ。

「記憶戻ってきた?」

「普通、飛ぶと思うぞ逆にさ。ここは旅館「水島」か?」

「そうだよ」

「そして、君は死神か」

「もう一回と」

 物騒極まりないことを言うな。

「冗談だって、坂上桜」

「どうしてフルネームなのよ、創野誠之そうのまさゆき君」

 そうだ。思い出した。俺達は今映画の撮影に来ているんだった。部屋にはもう俺と桜しかいない。もう皆起きて活動しているのだろう。

「この部屋凄いね。布団はぐちゃぐちゃだし。色々な物転がってるし」

「男共のタコ部屋って言ったらこんなものだって」

「それよりも早く行こう。もう撮影始まってるし、急がないと」

 差し伸べられた手に掴まって俺は立ち上がる。二人で外に出ると、太陽が容赦なく照り付けてくる。セミの合唱が聞こえ。目の前には青い海が広がっていた。

 撮影場所の石原高校に行くと、当然の事だが皆揃っていて、撮影を開始していた。それから午前中の撮影を撮り終え、午後も少しだけ撮影をしてから今日はお終いとなり、役者以外のスタッフは全員海へと直行する。まったく酷いやつらである。と言う訳で役者陣は花火でもやろうと言うことになった。

 買いに行くのをジャンケンで決めたのだが、チョキにパーで果敢に立ち向かった俺は見事、花火の買出しを任される。一人とぼとぼと歩いていると、桜に声を掛けられて俺が花火を買いに行くと言うと、一緒に買いに行くと言って一緒に歩き出す。

 スーパーに着いておびただしい数の花火を買い漁る俺に桜は半ば呆れていたようだった。

「凄い量。持って帰るの大変そう」

「根性だ」

 二人とも両手にビニール袋一杯の花火を持って凱旋帰還した。それからは大勢で花火をして騒いだ。何時の間にか海へと行った奴らも合流して皆ではしゃいだ。バケツが一杯になったので、また別のバケツに水を入れに海へと向かう。

「にしても、買い過ぎたかな、まだまだ残ってる」

「・・・何時までここに居るつもり?」

「そうだな、さっさとも水を入れて戻ろう」

 歩き出して気づく。舞衣が歩く事もなく俺を見つめている。俺は舞衣に駆け寄った。何処か痛めた所でもあるのだろうか。

「どうした? 早く戻ろうって言ったのお前だろ。もしかして何処か痛いのか?」

「あなたはここにいるべき存在ではない、だから何時までここに居るつもり?」

「なにを・・・?」

「そう、君はここに来るのにはまだ早すぎる」

 桜の声が聞こえ。振り返るとそこには桜が立っていた。

「ここは、あなたにとって理想の場所」

「でも、君はまだここに来てはいけない、まだ君を」

「大切に思っている人がいるから、まだ」

「君は求められているから」

 舞衣と桜の声が重なって聞こえてくる。錯覚だろうか。

「さぁ帰ろう、君の居るべき場所に」

 桜が手を差し伸べてくる。俺はその手に掴まる事を躊躇う。

「どうしたの?」

「躊躇う必要なんかない」

「ここは」

「まだ君の居るべき場所じゃない。でも」

「どうしてもって言うのなら、ここであなたを殺す。あの時のように」

「さぁ、選んで。ここでの死か生きて」

「全ての真実を知るかを」

 俺は、真実を知りたい。

「俺は・・・」

 差し伸べられた手にしっかりと掴まる。

 




 目を覚ました俺は病院のベットの上に寝ていた。右腕に点滴が打たれているらしいという事はわかった。なんだか身体全体がだるい。

「目を覚ました!? 私が誰だかわかる?」

 近くで誰かが叫んだ。俺を見下ろしている少女が叫んでいるのだろうか。泣いていたのか目が赤くはれている。

「さくら・・・いや美咲か?」

「良かった、本当に良かった」

「泣いてるのか?」

「たった一人の家族なんだから、心配させないでよお兄ちゃん」

「ごめん・・・」

え〜どうも相沢です。何とかここまで書き進めましたが。なんだかコメディとはかけ離れて行ってますね。それでも一応コメディです。と言い張ってみたいもののなんだかなぁといった展開です。と言う訳で(どんな訳よ)勝手に今回の話はコメディ物語のシリアス部門(意味不明)にしたいと思いますのでどうか宜しくお願いします。あ、シリアス編の方がいいかな。と言う訳で(だからどんな訳だよ)お読み下さってありがとうございます。続きもなるべく早く更新したいと思います。

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