第6話「それぞれの苦悩〜前編〜」
駆け足で時間は流れて行く。映画の製作も快調でこれと言ったアクシデントは無く進んでいった。月も七月から八月へと変わり、旅館”水島”に厄介になっている俺達一同は極力旅館の仕事を手伝うようにしている。
まぁ、主に皿洗いとか風呂洗いとか廊下洗いとか。って、全部洗いで統一すればいいってもんじゃないぞ、大体廊下は普通、掃除だろうが。
八月に入り二日目の夜。例によって田園コンビが妙な話を持ちかけてくる。大体この前の事件にしても元々の元凶はこいつらのようなもんだしな。
「なぁなぁ、石原高校のプールに忍び込んで泳ごうぜ」
どうやら、この二人は泳ぎたいらしい。だが、しかしここで一つだけ言っておこう。俺を始めとして映画に出演する役者は日焼け対策として努力をし海にも行っていないが、役者以外のスタッフは全員海へと直行しているのだ。どうだこの理不尽な仕打ちは。
遠回しに言うでもなく、直球。ストレートでぶつけてみた。球速にして百四十キロくらいでな。
「でもなぁ、夜の学校のプールに忍び込んでこそがロマンだろう。そこで未知とな遭遇とか夢を持てよ!」
お前らの未知と言えば病気がちの少女が―――――。
とかだろうが。悪い事は言わん、小説ばかりを追いかけないでたまには現実を追いかけてみろ、小説やアニメの様なおいしい展開がこの現実で起こるわけ無いだろう。
これも小説なんだからそんなおいしい展開にこの後するんだろうなぁとかしてやってもいいんじゃないかと思った方。大変申し訳ないが、それは俺の一存でどうにかなる問題ではないんだ。
いや、こううまく表現できないが、俺達の行動言動全てを取り仕切っている奴がいるようないないような。
さっきから不満を言い漏らしているが、じゃあ俺がプールに行かなかったと言えば、完全にそれとこれとは別問題だった。
なんだだらしねぇとか思った奴。じゃあなんですか、俺に泳がない夏を過ごせとでも言うんですか。
んなもんあれだよ。そんな寂しい奴らは運動部の奴らくらいだよ。炎天下の元坊主にして白い球を一生懸命に追いかけているのさ。
例の如く、玄関にいたユキを捕まえて、男四人で石原高校の学校のプールに忍び込みに行った。
「うぉらぁ! バンジージャンプ!」
沢田が馬鹿みたいにはしゃいで、プールの中に飛び込んだ。
「スマッシュ!」
何がスマッシュなのかよく分からんが、高野もプールに飛び込む。
ユキを見ると、お先にどうぞとでも言わんばかりに、ジェスチャーと表情で先に行けといってくる。
たまには俺も田園コンビの流れに乗っかり、何を叫びながら飛び込むか決めて走り出す。
「ウメ・・・・」
ゲシっ
きっとそんな効果音が漫画だったら出ていたのではないだろうか。背中を蹴られた俺は逆さまにプールへとダイブした。
ぶばばばば。ほば。ごばばばばあばあ!!
「ぶべべべべべえべべえべ!!!」
何とか水面へと浮上し、俺を蹴飛ばしたユキを睨む。
「おいこら、どういうつもりだ?」
「蹴った方がウケるかなと思って」
あぁ大爆笑でしょうよ。田園コンビ二人はな。
とりあえず、ユキに復讐の意を兼ねて、プールに引きずりこみ沈める。
それからは、四人で馬鹿な事をして騒いだ。どれくらいの時間が過ぎただろうか。恐らく一時間くらいだとは思う。水球に励んでいた俺達だが、ユキが水球をほったらかして校舎の方を見つめていた。
「どうした?」
「今、佳織が歩いていたような。あっちの方向に」
「あっち?」
指差した方向は、山へと続く坂道だった。確かあそこの先にはトンネルがあって幽霊が出るらしい。石原高校の生徒なら誰でも知っている心霊スポットだ。
現に俺達も面白さ半分で昼間に行ってみた事があったが、昼間でもそのトンネルは何処か異様な雰囲気を出していた。まるでこのトンネルに入ったらもう戻って来れないかのような錯覚までを引き起こして。
気になった俺とユキはその場所に行ってみる事にした。一応田園コンビにも声を掛けたが、田園コンビは行かないと言う。
服を着て小走りにで校庭を横切り坂道を登っていく。辺りは真っ暗で懐中電灯の明かりだけが頼りだ。
坂を登るにつれて、心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。俺は何をそんなに緊張しているのだろうか。いや、何に恐怖しているのだろうか。俺の中の何かが告げる。引き返せと。まだ今なら間に合う、引き返せと告げている。
坂を登りきると、目の前には不気味に口を開けているトンネルが俺とユキを出迎えた。そしてトンネルの目の前には少女が立っていた。
「佳織・・・・?」
「佳織!」
「待てユキ! あぁもう!」
少女が吸い込まれるように、トンネルの中に入っていくのをユキが追いかけていく。俺は多少なりとも躊躇ったが、ユキをほっとく訳にはいかないので、トンネルの中に走って行く。
「どうしたの? 舞衣」
「・・・・少しお散歩」
「じゃあ。私も行くよ、舞衣」
「駄目。悠子はここに居て」
そんな事を言う舞衣は初めてだった。仲良くなってからはいつも一緒に居た。だから、舞衣が一人で行くというのだから、その意思を尊重するべきだと悠子は思い、あえて止めなかった。
旅館を出て、裏手にある山の中へ入っていく。
あてもなく歩いていた舞衣は、ふと足を止めて持ってきたバックから刀を二本取り出し両手に持ち、バックを投げ捨てる。
「・・・・」
いつもいつも、同じ事の繰り返し。何度殺しても、何度でも現れる。だから、何度でも殺さなければいけない。
ゆっくりと瞳を閉じて、深呼吸を繰り返し、ゆっくりと前を見据える。広がる闇の中に浮かび上がる巨大な影。それこそが討つべき相手。舞衣は剣を構え駆け出す。
何時までも終わりが見えなかった。暗いトンネルの中を走り続けて随分経つが、未だに向こう側に通じない。
いい加減うんざりしていた時に、光が見えた。まさか走っている間に朝になってしまった。なんてことはないだろうな。だとしたら俺はいったい何時間走り続けているんだ。
トンネルを抜けるとそこは、駅前だった。
「なんだよそれ!! トンネルを抜けるとそこは雪国だろうが普通はよ!」
しかも何処か見たことがある駅だった。桜が舞う駅前の時計の前に俺は立っていた。
どういう事だろう? ここは俺の住んでいる街の駅だ。確か俺は海の見える小さな町に行っていたし、季節は夏だったはずだ。どうして桜が舞っているのかよくわからない。
「そういえば、ユキは・・・?」
忘れていた。完全に忘れていた。誰だ、俺の事を薄情者だと思った奴は。その通りさ俺は薄情者さ今頃気づいたのかい坊や達。
すんません。開き直りました。
それにしても、いつも人通りの多い駅前なのにどうして誰も歩いていないのだろうか? いや、道路には車さえも走っていない。
何処か異様な雰囲気だ。
街を歩いてみても、誰とも会わない。誰も居ない。まるでゴーストタウンと化してしまっている。
別に何処か目的地があった訳でもないが、どういう訳か俺は子供の頃よく遊んだ丘の上に来ていた。
そこは街を見渡せ、桜の木は一本だけ天に向かって伸びている。
子供の頃は俺のお気に入りの場所だった。だが、もう何年もこの場所には来ていなかった。いや、来れなかったんだ。なのに。
なのに、どうしてこの場所に来てしまったんだろう。
「雨が、降って来たのかな」
「雨なんか降ってないよ? それは君の涙だよ。何がそんなに悲しいの?」
聞き覚えのある少女の声が聞こえる。後ろを振り返ると、長い黒髪が風で流れている。
あの頃と変わらない優しい顔で俺をまっすぐに見つめていた。
「さくら・・・・・?」
「どうしたの? そんなに驚いた顔して」
違う。違う。
「違う! さくらなわけが無い!! お前は誰だ!?」
「何言っているの? 桜だよ。坂上桜」
「違う!! なんなんだよここは!? トンネルを抜けたと思ったら俺の住んでいる街で桜が舞っていて、天国ですかこのやろう!」
「大丈夫・・・?」
近寄ってくる少女から逃げるように、後ずさる。
違う。違う。桜がここに、居るわけなんかない。
地面に落ちていた、太い枝を掴み、目の前の少女に向けて構える。
「もう一度だけ聞く、お前は誰だ?」
「わたしは、桜・・・」
「違う!! お前が桜なわけが無い!! 桜は・・・」
そう。あいつはもう、
「あいつはもういないんだ! 俺の目の前で死んだんだよ!!」
「残念ね。せめて想い人と一緒に黄泉の世界へと思ってたんだけど」
辺りが、歪み暗闇になる。
「あれ?」
「気がついた?」
目が覚めると、目の前にはユキが居た。いや、ユキだけじゃなくて田園コンビもいる。
「ようやく、お目覚めか」
「ったく、もしかしたら死んだんじゃねぇかと思ったぜ」
「俺は・・・?」
「プールサイドで派手に転んで後頭部を直撃したんだよ。今まで気絶してたんだ」
そうなんだ。
「ま、創野も起きたことだしそろそろ帰ろうぜ」
「そうだね、帰ろうか」
もしかしたら、俺は結構危ない橋を渡っていたのかもしれないと、ぼんやりする頭で旅館へと続く道を歩いていた。
「お〜、舞衣か。どうしたこんな時間に」
「・・・お散歩」
「女の子が一人だと夜は危ないよ。一緒に帰ろうか」
「そうそう。特に創野とかいう狼に襲われるからな」
「おい、田園コンビ、おまえら夜の海にダイブしてみるか?」
「俺は何も言ってないだろう!? 言ったのは沢田だし!」
コンビは連帯責任だ!
今回の体験も夏ならではの心霊体験として笑い話で出来る日が来るのだろうか。そんな日が来るまで、忘れずにいよう。今日の事を。
え〜。どうも。作者の相沢です。6話までお読みくださってありがとうございます。今回の話はどちらかと言えばシリアスが強かったと思いますが。たまにはこんな話もあるのです。次回からは普通にコメディが大半を占めますので、よろしくお願いします。
最後に更新が少し遅くなりましたが、どうか見捨てずお付き合いください。長文になりましたが、それでは




