第2話「爆弾処理班〜出会い〜」
さて、日本の普通で平凡な高校生が学校帰りに。あぁ、死ぬかもしれないなこのやろう。と思う確率とはどれくらいの可能性なのだろう。
別に俺が戦隊レッドとか秘密組織の構成員とかどっかの軍のエースパイロットなんてことは無いからな。普通で平凡でナチュラルないち高校生だからな。
さぁ、答える奴がいたら答えてみろ。
適当に運命論なんか説きやがったら、ディスティニーの名の元に地面の下に埋めてやるからな。
最初から凄い始まり方だと思うだろうが、俺の遭遇している事態の方が凄まじいぞ。
なんせ、学校帰りに熊と遭遇してるのだからな。
熊と睨めっこなんて人生の中でもかなり貴重な体験だと思うぞ。まぁ生きていればの話だが。
もしこの先そんな経験があれば、こうして熊と睨めっこをすればいいのさ、先に動いた方が負けなんだ。
「おぃぃぃ!! 言ってる側から動いちゃったよ! こっち向かってくるよこの森の熊さん! 負けだぞ、負けていいのか!?」
どれほどの反射神経があれば熊の爪から逃れられるのだろうか、おそらく時速にしてマッハの速さのボールを避けれるほどなら絶対に避けれるだろう。
なら、俺がそれほどの反射神経があるのかと問われればその答えは、保留しておこう。
聞こえたのは爆竹が爆発したかのような音が聞こえた。その後、熊が倒れる。
必然的というのか、俺は後ろを振り向く。猟友会のおっさんが立っているのかと思ったが、予想を大きく裏切る人物がたっていた。
夏も近いというのにコートを着込み、その手にライフルを構えている。少女の姿が目に飛び込んできた。
それもどれらい美人だった。
あまりにもアンバランスすぎる。夏も近いのにコートを着込みライフルを構え熊を撃ち抜く美少女。まさかこれは・・・。
「映画の撮影か!?」
「目標達成。目撃者一。コードC」
無線のような物をポケットから取り出して、それに向かって映画で聞くような業界用語を言う。
少しくらい俺に何か言って欲しいものだ。こらそこ慰めの言葉はいらないぞ。
「あっ、おい!」
踵を返して歩き出した少女を俺は呼び止めていた。
振り返った少女の瞳を見た時。俺は目は口ほどに物を言う。という諺を思い出した。まるで他人には気を許さない猛獣の様な雰囲気。冷たくて冷酷な瞳。
ちょっと怖い。
「あ、えっと。その、ありがとう」
「・・・・・・」
「君は?」
「・・・・・どうして感謝するの?」
「どうしてって」
さて、どうしてだろう。命を助けてもらったからだと思うが。命の恩人に感謝するのはごく当たり前のことではないだろうか。
という事を俺は目の前にいる少女に言ってみた。
「・・・・そう」
それだけを言い残し少女は後ろを向き歩き出した。俺は少女の背中を見つめながらその場に立ち尽くしていた。
そんな俺の肩を誰かが叩いた。
「熊が!! 熊が地獄の底から蘇った!!」
「あはは、僕は熊かい?」
振り返るとそこには熊ではなく二十代くらいの若い男が立っていた。
その男は柳井拓郎と自己紹介をした。聞くところによると、柳井さんは警察の人で、俺はその人の車で家まで送り届けられた。
翌日の朝のニュースを見ながら俺は食パンを食べていた。チャンネルを回せど回せど、何処にも昨日の事件なんか報道していない。
誰も死傷者が出ていない事件なんて、取るに足らない小さな事だとでも言うのかニュース番組め。今日から毎日無言電話百回ほどするぞ。
「さっきからチャンネル回すから、全然ニュース見れないんですけど?」
「むっ。普段全然ニュースを見ないお前がそんな事をほざくとは、恐らく現社の・・・」
「そこまで分かってるんだったら、チャンネル止める!」
はいはい。全くこいつは兄貴の事を何だと思ってるんだろうなぁ。
「ただのパシリ」
「酷いなぁ、俺が優しい兄貴で助かったなぁ」
妹が可愛いと思えるのは、小学校低学年位までだな、それ以降になると兄貴を何とも思わずパシリ呼ばわりするんだからな。
「そういえば、あんた」
兄貴をあんた呼ばわりか!
「自転車どうしたの?」
「何を言うんだい。僕の自転車ならいつもの車庫に」
「無いから聞いてんでしょ」
「はっ!?」
家の隣の自動車を入れる車庫にいつも自転車を収納しているが、その場所には妹の自転車しかなかった。
WAY? 何故。
「昨日どうやって帰ってきたんだっけ?」
「私に聞かないでよ」
あぁ。そうかそうか。柳井さんの車で帰ってきたんだった。とすると自転車は学校と家との丁度中間地点にあることになる。
「じゃあ、せいぜい頑張って遅刻しないようにしなさい」
「おいこら! せめてかばんだけでも持って行ってくれぇ!!」
全く無情な奴である。その日は俺の健闘空しく遅刻した事は言うまでもない。
ここで弁明しておこう。本来なら遅刻するはずではなかったのだ。あそこであの場所に自転車が転がってれば遅刻なんかしなかった。恐らく警察がレッカーしたのではなかろうか。
という訳で警察署に自転車でもとりに行かなければいけない。
「という訳で、出てけ」
「どんな訳だ」
「大体にして、ここをお前達の拠点にしているお前が間違っている」
こことは高校の校舎内の生徒会室である。
「別にいい、お前が会長なわけだし。今日は定例会もないんだろうし」
生徒会会長というのはこの俺。おい誰だ、似合わないとかしんじられな〜いとか言ったのは。
「お前の部は学校側から正式に認知されていないんだぞ」
「だから部室が無いからここを部室にしてるんだろ。というかお前も我が部の部員だろう」
「知らん。お前の意味不明な部に入部した覚えは無い」
「前から探偵事務所だと言ってるだろう」
「知らん」
日々日頃から学校内で殺人事件を待ち望んでいる危ない男、その名は倉田和也と言う。
極度のミステリーマニアで、自分をシャーロックホームズか何かの生まれ変わりだと信じて止まない恐ろしい男だ。
「今日は警察署にこれから行かないと駄目なんだよ」
「警察署? 何をしたのかね殺人か?」
しまった。つい口を滑らせてしまった。
うるさく尋問をしてくる和也を生徒会室から叩き出して、施錠をし学校を後にする。
「自転車はございません」
「少し途中の説明省きすぎじゃないのか、いきなり警察署かよ」
「はっ?」
「こっちの話です。それよりも。昨日の熊に襲われた場所の近くに自転車を置いてきたんですよ、警察の人が持ってたんじゃないのですか」
その時まで賑やかだった受付の周りが急に静かになる。仕事をしていた警察の人がわざわざ手を止めて、俺を見ている。
凄く怖い。
「あ、あの。自転車はございませんのでお帰りください」
「は、はぁ・・・」
周りの雰囲気にも気圧されて、俺は警察署から出る。
何だったんだろう、あの空気。
家に帰ってからも考え続け、次の日になっても考え続け、登校中にもマラソンに励みながら考え続け、学校に着いてからも考え続けていた。
だから、いつもの学校とは明らかに変わっている異変にも気づかなかったのだろう。
いつもの教室には誰の姿も無かった。いや、学校に入ってここまで来る最中にも誰ともすれ違っていなかった。
「まさか・・・・」
今日って朝例会だったのか!! ぬかった! それならいつもより五分は早く来ないと遅刻じゃないか。
「はは・・・あはは」
誰もいないのに自分の失敗を誤魔化すように笑ってみる。
「・・・動くな」
はい? いきなり後ろから声掛けられて、後頭部になんかゴツゴツしたもの当てられてるんですけど。しかも何処かで聞いたような声だ。
「・・・全員が避難したあとで仕掛ける手口か?」
仕掛ける? 何を?
「誰?」
「俺はこの学校の生徒だ」
後ろの何者かがポケットから何かを取り出すかのような雰囲気。というか気配。というか音。
今だ。
俺は素早く上半身を曲げて、床に転がっていた黒板用長い定規を掴み。振り向きざまにその定規を振り回す。
定規は虚しく空気を切っただけだった。後ろには誰もいない。ただ廊下の壁があるだけだ。
「いない・・・?」
「・・・動くな」
「・・・・・・」
俺は本当に恐怖しかけていた。定規を掴もうと上半身を曲げる前までは確かに後ろに居たはずだ。それがどうして今後ろにいるんだ。
後ろを振り返った俺の目に飛び込んできたのは、一昨日の光景。夏も近いと言うのにコートを着込み、左手で俺に向かって銃を構えている。
「君は・・・一昨日の」
「・・・・・」
少女は無言で携帯電話を差し出してくる。まるでこれに出ろ。とでも言いたげだ。
俺はおっかなびっくり少女の手から携帯電話を受け取った。
「はい・・・?」
「創野か?」
創野というのは俺の苗字。
「そうですけどあなたは?」
「昨日会っただろ? 柳井だよ。柳井拓郎」
あぁそういえば会った気がするが、確かあれは一昨日だったような。
「いいか落ち着いてよく聞けよ。その学校内に爆弾が仕掛けられている可能性がある」
「はぁ・・・な、なんですとぉ!!!」
「事前に警察に連絡をよこすような犯人だったからな。万が一に備えて、生徒を全員避難させておいたんだ。にも関わらず舞衣から生徒が一人残ってると言われたときには驚いたぞ。まさか君だとは思わなかったんだがな」
目の前にいる少女はどうやら”まい”という名前らしい。漢字は分からんが。
「舞うのまに衣服のいだ」
「なんであなたが説明してんですか」
「まぁ、それよりもだ。一つ頼みたい事がある」
頼みたい事? 嫌な予感。何か命の危険性が伴っているような。
「舞衣と爆弾を探してもらえるかい? いくら舞衣でもそのでかい高校内全部を時間内に探すのは厳しいんだ」
「時間って?」
「犯人の爆破予告まであと三十分だ」
三十分っていくらなんでも時間なさすぎだろ!!
「他に人手はいないんですか!?」
「いないんだ、すまん頑張ってくれ」
おぃぃぃ! まだ手伝うって返事してないよ!? ねぇちょっとぉぉ!!
「・・・・あなたはA棟と体育館を他は私が調べる。爆弾を見つけたらこの携帯で連絡して」
「あ、ちょっと舞衣!・・・さん」
もういなかった。まぁあれだ。逃げちゃおうかな。
タイムリミットまで後二十五分。
「ぬぉぉぉ!! どうして俺は逃げもせずにA棟の教室を全部探し回ってるんだろうな、答えを教えてくれる人がいたら誰か教えて!! 大体にしてこういうことは推理オタクもといミステリーオタクの和也にでも頼めばいいんだよ!」
あ、そっかあいつを巻き込めばいいんだ。電話しよ。
「お前今何処にいるんだ!?」
「何処って自宅だが?」
「おぃぃぃ! なんで学校登校してないの!?」
「まさか、登校はしたさ。爆弾が仕掛けられてるというので危ないから家に帰ったまでの事」
「帰ったまでの事。じゃねぇぇ!! 普通こういう時こそ、自称探偵のお前が爆弾を見つけるんだろうが!! あの有名な子供のヒーローな探偵も自分で爆弾解体してるんだぞ!!」
「誰のことか知らんな。お前も学校にいるのだったら、爆発して死ぬぞじゃあな」
切りやがった。あの野郎め今日から毎日無言電話百回するから覚悟しとけ!!
A棟の教室やトイレを全部調べたが、爆発物なんてありゃしない。となると体育館に行かないとな。
てか、あと何分だよ。
「あと五分!? ねぇあと五分しかないのおにいさぁん!!」
A棟の一階まで降り切って俺は自分の犯した重大なミスに気がついた。気がつかなきゃいいのに。
なんと屋上に行ってなかったのだ。残り時間四分屋上をとるか体育館を取るか。
どっちなんだ!!
「逃げるに決まってんだろ、この野郎!」
下駄箱へと駆け出した俺がその目で目撃したのは、廊下の向こう側から舞衣・・・さんが何か四角い箱のような物持って歩いてくる光景だった。
「・・・」
「いや、これどうしようって様な目で見られても・・・」
「・・・これで撃ち抜く?」
「爆発するだろうが!!」
見たところそんな大きな爆弾ではなかった。それに持ち運んでも大丈夫のようだから、恐らく火薬の量は少量で威力もそんなに大きくないはずだ。
「屋上に行くぞ!」
考えが一つだけあった。屋上なら、それが出来る。
俺は屋上まで一気に駆け上がると、問題の爆弾を大空向かって投げ飛ばした。
俺のボール投げの飛距離は二百メートル(もちろんうそ)一番高い場所で爆弾を撃ち抜けば被害は出ないはずだ。
「今だ! 爆弾を撃て!」
「分かった」
・・・・・・・・・・・。
ん? 分かったと言った割には、どうして撃たないんだ。不安になって後ろを振り向いた俺の目に飛び込んできたのは。
一話目にしてこの描写何回目だよ、おい。
「おぃぃぃぃ!! なぁにそれ、なぁんなのそれ!? なんで野球のユニフォームに帽子にバットなの!? しかもなんでそれ構えてるの!?」
「・・・引き付けて打ち抜く」
誰も野球のバッターの打ち方を言えなんて言ってないよ!? 爆弾に強い衝撃与えたら・・・・。
「はぁっ!」
衝撃与えたらぁ!!!
「爆発するだろうがぁ!!」
俺が叫ぶとともに、爆弾は大空高く舞い上がって。爆発した。
やれやれでたらめな事だ。




