最終話「プロローグ?〜名誉監督〜」
聞くところによると俺はビルの四階に相当する高さから落ちたらしい。普通なら死んでもおかしくないそうだが、俺は生き延びている、こういう事を奇跡とでも言うのだろうか。見舞いに来た和也と田園コンビがいるときにふと呟いたら同じ答えが返ってきた。「人生における全ての運を使い果たしたな」だそうだ。大きなお世話だ。
それにこっちにはまだ、終わらせなければいけない大仕事が残ってるんだからな。運を使い果たしていたら間違いなく死ぬぞ。それでもいいのか主人公死んだら終わるぞこれ。まだ完治もしていないのに病院抜け出したりしてたら死ぬか、いや後で美咲にでも殺されそうだ。
「・・・それもいいか」
「今日退院でしたか誠之さん」
病院の玄関で思わぬ人物に遭遇した。今までお見舞いにも来ていなかったのに。
「今日退院です」
「そうでしたか。花束無駄になったかな?」
「もらっておきますよ、悠子さん」
「そうですか」
「そうなのです」
「もう行きますね。さようなら」
背中を向けて歩いていく悠子さんを呼び止める。悠子さんは意外そうに振り返る。
「また、明日」
「ええ。また明日」
さてと脱走した事がばれる前に、ここをずらかるかな。
全く。丘の上から落ちるなんて、一体何やってたんだか、大体にして普段からボーとしてる事多いんだから、そんな場所で危険だとは考えないのかなあの人は。それにしても少しお菓子とか買い過ぎたかな? いくらなんでもこの量は。大丈夫か。病室のドアを開けた私が見たのは、風に揺られている無人のベットだった。重い足取りでベットに近づいてみると、一枚の置手紙が残されていた。
『美咲へ。キャバクラなるものに行ってくるので心配無用』
「アホか?」
こんなアホな手紙。紙飛行機にして何処まで飛ばしてやろう。そう心に誓った。私。川崎美咲十六歳の夏の日。
寒いと思ったら雪か。もうそんな季節なんだなぁ。
「季節は思いっきり夏だけどね」
「君がいつまでも過去に囚われたままだから冬なんだよ」
分かってるよどうせ、幻覚だって。この雪も寒さも全てな。
「僕は幽霊なんか信じないし、居るわけが無い。君が振りかざしていた持論だったね」
「今でも信じてなんかないけどな」
「信じられる事があるのはいいことだね」
信じられないことだらけよりも、信じられる事だけがあることはとても良いことだと、その声は言うけど、僕は別にそうは思わないけどね。
「過去にも裏切られ、全てに裏切られてもなお君はどうしてそんなに能天気でいられる?」
「僕は過去に裏切られてなんかいない」
「それは君が・・・・」
「本当の過去を知らないから。とでも言いたいのかな田中一号(改)君」
捉えた。
間違いなく木刀の切っ先が田中一号を切り裂いた。今まで何も見えていなかった場所に以前学校の校舎で戦った田中一号が出現する。
「ばかな・・・」
「光の屈折でステルスになれるまでは良いんだけど、喋り過ぎたね。ご愁傷様」
もっともあの田中一号が喋れるとは思わなかったけどね。いや、田中一号(改)だから喋れるのかな。
「あの時、お前らは僕の目の前で大切な人を奪って行ったな。無力な自分が憎かった。記憶を消されても、それだけは覚えていたんだね。僕はあの後傭兵家業を生業としている父親から、人を殺すための技術を教わったんだよ。僕が真実の過去を取り戻して君たちを殺すためにね」
「二重・・・人格か」
「その時が来たまでだよ。僕を生み出したのは他でもない君たちだ。でもね、造物主は創造主を殺して自由になりたいと思うんだよ」
さて、もう夜だ。全てが黒に染まっていく闇の中。幕引きには丁度良い時間帯だ。全てを終わらせるために僕は歩き出す。目的地は最初から決まっている。用途不明の。いや、人体実験を行っている研究所に僕は行く。例えそれが誰かに決められた運命でも。運命だからこそ行くのかもしれない。だって、二ヶ月くらい前に運命説なんか説いたら地面の下に埋めてやるって言ったんだもの、主人公たるもの有言実行は当然でしょう。
「ふぅ、今ので十か。全くこんな事ならバイクにでも乗ってくれば良かったな。徒歩だと思って行く手を阻みやがって田中一号が」
よくもまぁ、次々と生み出す物だな。やつら科学者にとって人の命はごみ同然か。いや、替えの効く道具とでも言う所か。何が世界を守る秘密組織だ。自分達で造ってるんじゃないか、この田中一号を。
「やぁ、舞衣。わざわざそんな所で待ってたの?」
「・・・・・・真剣は?」
「ないよ、僕は別に人を殺したくて来たわけじゃないしね。正直な話・・・いやいいか。ま、とにかく僕は木刀で戦う」
刀を舞衣は下段に構える。僕は中段に構えた。さて、この場合によると構えによる不利は関係あるのだろうか。さてねそれはどうだろう。
下段からの振り上げの太刀筋を木刀で受け止める。この際その木刀どんな材質で出来ているのとは聞かないように。それから三、四回打ち合い、互いに間合いを離す。というよりも舞衣が後ろに跳び退いて、間合いを離した。
「何の為に戦う?」
「そういうお前は何なんだよ? 何の為にこんなことしてるんだよ」
「何の為でもない。ただ・・・」
風が吹くと共に、舞衣の姿が消える。人が左右の動きで姿を消せる訳は無いので、恐らく上だと判断し、上からの振り下ろしに備えて木刀をで受け止めようとする。だが、上には舞衣はいなかった。ただ満月の月が夜空に浮かんでるだけだ。
「そういえば、お前そういうの得意だったよな」
「どれだけ、強くても。それは所詮人間の常識、剣の達人。柔道の達人。空手の達人も全ては人の常識の限界。でも、私は違う」
首筋に刀を当てられた、俺は振り返ろうとはしない。後ろから刀を首筋に当てている舞衣は相も変わらず無表情かな。そういえば、なんで月ってうさぎが餅つきしているって言われるようになったんだろうね、全然見えないのに。今は関係ないけど。
「君は兵器でしたね。人の素晴らしい進化の先にある未来。新人類とでも言うんですか? その未来を視る事が出来る力にとても常人とは思えないほどの反射神経、動体視力。その力こそが人の欲しかった未来ですか。その為に多くの命を犠牲にして?」
「・・・・・」
「まだ犠牲の途中ですけどね。君は生まれる前から遺伝子を変えられ先天的に。そして僕は後天的に遺伝子を変えられた存在。言わば僕も君もただの実験体なんだよ、そして君は兵器じゃない、兵器の君が何故今躊躇う? 何故殺さない、それは君が・・・え〜と? 君が・・・・・・。 あぁそうそう人間だからさ!」
「っこの! スカポンタン!!」
「いてぇ!」
突然横から国語辞典を投げつけられる。丁度辞典の角が僕の頭にジャストミートしてぐりぐりえぐり込むようなスピンで回り続けている。シューとでも煙が出そうな勢いなんですけどね、あれですか火起こしですか? 人の頭で火起こしって人類初だよ!
「カット! あんたねぇ一体何回本番で間違えば気が済むの!?」
「だから前々から言っているだろう? 長々しい文は覚えきれないって、シナリオ書いたシナリオライターに文句を言って欲しいね」
大体、こっちにしてみてもクジ引きで決まった主演の座なんてもうポイっとして、自由で楽しい夏休みを謳歌してみたいものだ。大体にして文化祭で公開する映画なんか作ってどうするつもりなのかね、この部長さんは? 僕達は確か新聞部のはずだが。
「あぁもう! だれよこいつに主演のクジ引かせたの!? 撮影が進まないったらありゃしないのよ!」
「というかさ、何か後半急展開過ぎないか? なんか病院で目を覚ました後の創野って何でも知ってる事になってるし」
「うるさい! もう時間の余裕がそんなに無いのよ!! 大体三十分って頼んだのに二時間分もあるシナリオ書くって嫌がらせ!?」
確か小説研究部のやつらに無理言って徹夜で書かせたんだっけな。そりゃ嫌がらせもしたくなるだろうな、二時間分のシナリオをこいつの独断と偏見を持ってカットしてカットして縮めた結果。今回のような歪なシナリオが出来上がってしまったんだな。うむ、恐ろしい。
「あはは”ユキ君”も連日の撮影で疲れてるんですね、少し休めばきっと大丈夫ですよ」
僕と映画監督の間に入ってきたのは、河上舞衣さん。劇中では無口キャラで通ってるけど、実は正反対の性格だ。劇中でいうなら橘悠子かな。というか僕以外ほぼ全員実名で出してるって凄い根性してるよな。
「駄目よ舞衣ちゃん。この手のアホは甘やかすと図に乗るから」
「何を言う、僕は褒められて伸びるタイプなんだよ。さぁもっと僕を褒めろ」
「さっさと配置に着く! さっさと撮影再開するわよ!」
シカトかよ! 僕の事シカトするなよな全く。
「いい? 次で終わらなかったら打ち首!」
何時の時代の人間だお前は。戦国時代か、戦国大名気取りか。
「はいはい。分かったよ」
「テイク189!」
撮影現場に名誉監督の声が響き渡った。
〜Fin〜
今回で最終話です。最後までお読み下さり大変ありがとうございます。凄くアホな終わり方で大変申し訳ありません。ゴットオブ意外性を求めた結果のような成れの果てではありますが、最後までお付き合い下さって大変ありがとうございました。




