悪知恵
泥棒の男がある日の仕事中"時間を十秒だけ止められる時計"を偶然手に入れました。
泥棒は早速これを使ってどうやって一儲けしようかと考え始めます。
たった十秒ではひったくりはできても銀行強盗には時間が足らない。
金持ちの家に忍び込もうにも、鍵を開ける時間にすらならない。
そう考えた泥棒は、ふいに良い案を思いつきました。
これを"一時間、時間を止められる時計"とだまして売りつけよう。
そこで泥棒は、珍しいものに目がないと評判の富豪の屋敷を訪ねました。
その話を聞いた富豪はとても喜び、ぜひ今ここで実演してみせてほしいと頼みました。
うなずいた泥棒は富豪に時計をよく見ているように言うと、時間を止めてからその時計を一時間すすめました。
時が動き出し、その時計と部屋の掛け時計を見比べた富豪は、ぜひそれを売ってほしいと泥棒に懇願しました。
泥棒が一億円でならというと、富豪は奥の部屋から重そうにふくらんだ鞄を持ってきました。
泥棒は鞄の中身を確認すると、にんまりしながらあの時計を差し出しました。
そしてばれる前に一刻も早く立ち去ろうと、挨拶もそこそこに富豪に背を向けました。
するとその時、富豪は今受け取ったばかりの時計を使ったのです。
そして時間が止まっている間に、用意しておいた一億円と同じ重さの古新聞を詰めた鞄を取り出し、泥棒の持っていた鞄とすり替えてしまいました。
再び時間が動き出しても鞄がすり替わったことに気づかず、泥棒は上機嫌で富豪の屋敷を後にしました。
「掛け時計とのずれが一時間と十秒。もし本当に一時間も時を止められるのであれば、あの知恵が回らない男でももっとましな使い道を思いつくだろう。ならば答えは簡単だ」
富豪は泥棒の男を見送りながら、ただ同然で手に入った時計を見てほくそ笑むのでした。




