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追放された【事務員の俺、エクセル魔法で国を救う

掲載日:2026/02/02

数ある作品の中から目にとめていただき、ありがとうございます!


現代日本のブラック企業で培った「事務スキル」が、もし異世界の魔法と組み合わさったら……?

そんな「数字と論理」で無双するお話です。


「ざまぁ」あり、「無自覚な内政無双」ありの短編ですので、肩の力を抜いてスカッと楽しんでいただければ幸いです!

「カイト、お前は今日限りで勇者パーティをクビだ。……いや、『解雇』と言った方が事務員のお前には伝わりやすいか?」


 王都の高級酒場。黄金の装飾が施された円卓で、勇者ゼクスはせせら笑った。  彼の周りには、新しく加わった華やかな聖騎士の美女や、高位の魔術師たちが並び、私をゴミを見るような目で見ている。


「ゼクス、もう一度だけ確認させてくれ。本気か? 明日からは魔王領の深部、乾燥地帯への遠征だ。あそこは補給線の維持が極めて難しい。僕が計算した在庫管理なしでは――」


「黙れよ、無能が」


 ゼクスがジョッキをテーブルに叩きつけた。


「お前の仕事なんて、ただ紙に数字を書いてるだけだろ? そんなの、ポーションを買い込む時に適当に数えりゃ済む話だ。お前の給料分で、この子の新しい聖銀の鎧が買えるんだよ。効率ってのは、そうやって『戦力』を増やすことを言うんだ」


 私は深くため息をついた。  私は現代日本でブラック企業の経理マンとして働いていた記憶を持つ転生者だ。この世界で授かった【事務員】という職業は、確かに攻撃魔法も使えなければ、剣も振るえない。


 だが、私のユニークスキル【神の帳簿システム・ログ】は、視界に入るあらゆるリソースを数値化し、空中に透過型の「表計算ボード」を展開できる。


 彼らが今まで、一度も「水不足」に陥らず、常に「最適なバフ効果のある食事」を摂り、「壊れる寸前の武器」が新品に交換されていたのは、すべて私が裏で数秒単位の計算を行っていたからだ。


「……分かった。そこまで言うなら、私は身を引くよ。ただし、私が組んだ『魔法的物流最適化マクロ』はすべて解除し、帝国のギルドに登録されている私の個人口座へ、今月分の経費精算を振り込んでおいてくれ」


「ふん、ケチな野郎だ。二度とその不細工な計算面を見せるなよ!」


 私は静かに席を立ち、夜の街へと消えた。  彼らは知らないのだ。私が、すでに隣国「ガルア帝国」の皇帝直属のスカウトと接触していたことを。


 ◇◇◇


 一週間後。私はガルア帝国の軍事司令部にいた。  そこは、王国とは比較にならないほど切迫した空気が流れていた。魔王軍の猛攻により、前線の兵士たちは疲弊し、食糧や魔石の補給が完全に止まっていたのだ。


「カイト殿……君の噂は聞いている。だが、剣も持たぬ事務員一人で、この崩壊した戦線を立て直せると?」


 疑念の目を向けるのは、帝国の若き皇帝レオポルドだ。


「陛下。戦いは剣で決まるものではありません。数字で決まるのです。まずは、全拠点の在庫データを開示してください。三時間で『勝機』を算出します」


 私はスキルを発動した。  目の前に広がる巨大な透過ボード。指を滑らせ、帝国全土の物流網をグラフ化していく。


「……ひどいものですね。A拠点はポーションが余って腐らせているのに、隣のB拠点では怪我人が治療できずに死んでいる。これは配送ルートが『直線的』すぎるからです。ここに『巡回セールスマン問題』の最適化アルゴリズムを魔法で組み込みます」


 私は空中に入力していく。  =VLOOKUP(拠点ID, 在庫マスタ, 残数, FALSE)  =IF(在庫<閾値, 緊急アラート, 通常配送)


「よし、マクロ実行」


 カチリ、と指を鳴らした瞬間。  帝国軍の伝書鳥レター・バードが一斉に飛び立ち、効率的な配送指示を各拠点へ届けた。  今まで三日かかっていた補給が、わずか数時間で完了していく。


「な、なんだこれは……! 兵士たちが『食糧が届いた!』と歓喜しているぞ! それに、魔石の配分が完璧だ。無駄な消費が一切なくなっている!」


「陛下、これが事務の力です。あ、それから。帝国軍の皆さんは働きすぎです。シフト表を再構成しました。今日から完全週休二日制、定時退社を徹底してください。リフレッシュした兵士の戦闘力は、疲弊した兵士の三倍になります」


 皇帝は呆然とした後、腹を抱えて笑い出した。


「面白い! カイト、お前を帝国財務総監に任命する。好きなだけこの国を『計算』してくれ!」


 その頃、勇者ゼクスたちは魔王領の入り口で、かつてない窮地に陥っていた。


「おい……水はどうした!? 水のストックがもうないぞ!」 「そんなはずは……! 昨日、聖騎士の彼女が『たぶん足りると思う』って言ってたのに!」


 彼らには、リソース管理という概念がなかった。  カイトがいた頃は、彼が毎日「次の村まであと何キロ、一人何リットルの水が必要か」を計算し、あらかじめ商人に予約を入れていたのだ。


「ゼクス様! 剣が……剣が折れました! 予備の剣は!?」 「バッグの中にあるだろ! ……って、なんだこれ、入ってないぞ!? 代わりに重いだけの観賞用の宝石が詰まってる!」


 カイトがいなくなったことで、荷物の重量配分(キャパシティ管理)も崩壊していた。  さらに最悪なことが起きる。  魔王軍の伏兵に包囲されたのだ。


「くそっ、魔法で蹴散らしてやる! ……え? 魔力が、魔力ポーションが足りない!? なんでだ! 昨日は山ほどあっただろ!」


 当然だ。カイトは「在庫の回転率」を計算し、常に新鮮なポーションを循環させていた。放置されたポーションは魔力が揮発し、ただの苦い水に変わっていた。


「カイトだ……カイトがいれば、こんなことには! あいつ、どこへ行ったんだ!」


 ◇◇◇


 数ヶ月後。  帝国軍は、カイトが構築した「物流ネットワーク」により、かつてない速度で魔王軍を押し戻していた。  ついには、魔王城の前で立ち往生していた勇者一行の前に、帝国の誇る「超効率魔導艦隊」が姿を現した。


 艦隊の旗艦のデッキには、高級な椅子に座り、アフタヌーンティーを楽しむカイトの姿があった。


「やあ、ゼクス。まだそんなところで泥をすすっていたのかい?」


「カイト! 貴様、帝国に寝返ったのか! 裏切り者め、今すぐ戻って俺たちを助けろ!」


 泥まみれで、空腹でガリガリに痩せこけたゼクスが叫ぶ。  私はティーカップを置き、空中に巨大な赤い数字を表示させた。


「戻る? 無理だよ。現在の僕の年収は王国の国家予算の半分を超えている。それに見てくれ、このグラフを。君たちの『現在の戦闘力』と『生存確率』をシミュレーションした結果だ」


 ボードには、大きく【0.0001%】と表示されていた。


「君たちは、基本的な事務作業――つまり、報告・連絡・相談を怠り、リソースを私物化した。その結果、市場からの信用を失い、供給網サプライチェーンを自ら断ち切ったんだ。これはもはや『事故』ではなく、必然的な『経営破綻』だよ」


「うるさい! 理屈なんてどうでもいい! 俺は勇者なんだぞ!」


「いいや、重要だよ。あ、それから。君たちが『適当に数えればいい』と言っていたポーションの未払い代金、およびギルドへの虚偽報告による損害賠償。帝国法に基づき、君たちの全財産を差し押さえさせてもらった」


「なっ……!?」


「今、君たちが持っているその折れた剣も、実は帝国のリース品なんだ。返却期限が過ぎているから、没収させてもらうね」


 私が指をパチンと鳴らすと、勇者たちの装備が魔法的に強制解除され、帝国軍の回収班へと転送された。  パンツ一丁になった勇者たちは、極寒の魔王領で震え上がった。


「あ、魔王軍には僕から『共同事業案』を出しておいたよ。魔王軍の余剰戦力を帝国の建設作業員として雇用する代わりに、君たちを引き渡すという条件でね。ウィン・ウィンの関係だ」


 魔王城の門が開き、中から巨大な魔族たちが、ニヤニヤしながら縄を持って現れた。


「カ、カイトォォォ! 助けてくれ! 悪かった! 俺が悪かったからあああ!」


「お疲れ様です。僕は定時になったので、これで失礼します。これからは魔王軍の『無給事務作業』で、しっかりリソースの尊さを学んでくださいね」


 私は冷たく言い放ち、優雅にキャビンの奥へと消えた。  背後で勇者たちの絶叫が響いたが、それは帝国の最新式防音魔法によって、心地よい静寂へと変えられた。


 ◇◇◇


 帝国に戻った私は、皇帝レオポルドから最高の褒賞を授与された。


「カイト、君のおかげでこの国から『サービス残業』と『物資不足』が消えた。今や、魔王ですら君の作ったスプレッドシートなしでは組織運営ができないと言っているぞ」


「光栄です、陛下。ですが、私はただの事務員ですから」


 私は窓の外、美しく整備された帝都の街並みを眺める。  現代の知識と、この世界の魔法。それらを「事務」というフィルターで通せば、世界を救うことなんて造作もなかった。


「さて、明日の有給休暇は何をして過ごしましょうか……」


 私は幸せな悩みとともに、お気に入りの万年筆を置いて、今日の業務日報を締めくくった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

「事務員も捨てたもんじゃないな」「ざまぁが爽快だった!」と思っていただけましたら、ぜひ下の「☆☆☆☆☆」から評価や、ブックマークをいただけますと、執筆の大きな励みになります!


皆様の応援一つで、作者のモチベーションが魔法のように回復します(笑)


現在、この設定を活かした連載版や、別の「地味職無双」のエピソードも構想中です。

もし「こんな職業で無双してほしい!」といったリクエストがあれば、ぜひ感想欄で教えてくださいね!


改めて、貴重なお時間をいただき感謝いたします。

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