――第五章 それでも選んだ結末
光は、音よりも先に消えた。
轟音も、衝撃もなかった。
ただ、世界そのものが「次の状態」へ移行したような静けさだけが残る。
気づいたとき、僕は瓦礫の上に倒れていた。
身体の感覚は曖昧で、どこが無事でどこが壊れているのかも分からない。
「……ユイ?」
喉が焼けるように痛む。
それでも、名前を呼ばずにはいられなかった。
返事はない。
起き上がろうとして、腕に重みを感じる。
視線を落とすと、ユイがそこにいた。
僕の腕の中で、静かに眠っているように。
「……よかった」
安堵が、遅れて胸に広がる。
少なくとも、形は残っている。
世界と一緒に、消えてはいない。
だが――
彼女の胸は、動いていなかった。
理解するまでに、少し時間がかかった。
あまりにも静かで、穏やかで、
まるで“役目を終えた”かのような表情だったから。
「……嘘だろ」
声が、震える。
装置は止めた。
確かに、最後の瞬間で破壊した。
それなのに。
――〈崩壊〉は、彼女を“選んだ”。
因子を核にして、世界を保とうとした。
完全な救済ではない。
延命ですらない。
ただ、
「これ以上、壊れない状態」を作るために。
周囲を見渡す。
空は裂けたまま固定され、海は干上がり、
地平線の向こうは、白く霞んでいる。
世界は、止まっていた。
救われてはいない。
だが、完全にも終わっていない。
その中心に、
ユイの命が、使われた。
「……そんなの、聞いてない」
誰に向けた言葉かも分からないまま、
僕は彼女を強く抱きしめる。
温もりは、まだ少しだけ残っていた。
記憶が、蘇る。
「最後まで、一緒にいて」
あの言葉の意味を、
僕は最後まで、取り違えていたのかもしれない。
――一緒に“生きる”ではなく、
一緒に“選ぶ”。
世界か、君か。
その二択を拒否したつもりで、
結局、どちらも完全には救えなかった。
それでも。
僕は、彼女を地面に下ろし、
震える手で、そっと瞼を閉じる。
「ごめん」
謝罪は、もう届かない。
それでも、言わずにはいられなかった。
空が、ゆっくりと色を取り戻していく。
青でも、灰色でもない、不完全な色。
――世界は、続いてしまう。
君を犠牲にした“完全な正解”ではなく、
君を選び続けた“不完全な未来”として。
遠くで、風が吹いた。
その音に混じって、
かすかな人の気配を感じる。
生き残りが、いる。
英雄として迎えられることはない。
裁かれるか、忘れられるか。
どちらかだろう。
それでも、僕は立ち上がる。
この世界が、君の命の上に成り立つのなら、
僕は逃げない。
君の代わりに、生き続ける。
世界は救えなかった。
だが、君だけは救いたかった。
――その願いだけを、
胸に刻んで。
物語は、ここから始まる。




