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世界は救えなかったが、君だけは救いたかった  作者: 波浪


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――第四章 逃げ場のない空

走るたびに、足元の世界が崩れていく。

瓦礫はもはや「倒壊」ではなく、「消失」だった。

存在していたはずの建物が、輪郭ごと削り取られていく。


〈崩壊〉は、追ってきている。


「は、はや……」


ユイの呼吸が乱れる。

それでも手は離さない。

離せば、すべてが終わると、互いにわかっていた。


「地下へ行く」


「まだ、そんな場所あるの?」


「一つだけ」


旧観測施設。

かつて〈崩壊〉を研究していた場所だ。

封鎖され、忘れられ、そして――失敗の象徴になった場所。


皮肉だが、今の世界には似合っている。


通信機が、また鳴った。

今度は複数の声が重なっている。


「戻れ!」

「今なら、まだ――」

「彼女を手放せ!」


誰も、僕の名前を呼ばない。

もう、人間として見ていないのだ。


通信を切る。

その瞬間、胸の奥で、何かが静かに終わった。


地下入口は、半分崩れていた。

鉄扉は歪み、手動でこじ開けるしかない。


「ここ、暗いね」


ユイの声は、震えていた。


「すぐ慣れる」


そう言いながら、懐中灯を点ける。

細い光が、コンクリートの通路を切り裂いた。


中は、異様なほど静かだった。

〈崩壊〉の影響が、まだ及んでいない。


「……ねえ」


階段を下りながら、ユイが言う。


「私、あなたの名前、聞いてなかった」


一瞬、足が止まる。


「カイだ」


「カイ……」


彼女は、何度かその名前を口の中で転がす。


「いい名前だね」


そんな言葉をかけられる資格が、自分にあるとは思えなかった。


最下層の扉を開けると、広い空間が現れた。

中央には、巨大な装置が鎮座している。

停止したまま、まるで墓標のように。


「これ……何?」


「世界を救うはずだったもの」


正確には、

世界を救うために、君を殺す装置だ。


ユイは、装置を見上げて、少し黙った。


「私、ここに来たことある」


心臓が、強く跳ねる。


「……いつ?」


「小さいころ。

 よくわからない実験、いっぱいされた」


記憶が、点と点で繋がる。

彼女が“因子”を持つ理由。

人為的に作られた可能性。


「ねえ、カイ」


ユイは、こちらを見て言う。


「本当はさ、

 ここで私が死ねば、まだ間に合うんじゃない?」


言葉を、失う。


「今なら、装置もあるし。

 あなたも……間に合う」


その目は、優しかった。

逃げる前より、ずっと。


「……やめろ」


声が、掠れる。


「君が決めることじゃない」


「でも――」


「決めるな」


強く言い切った。


「君の命を、

 “世界の都合”で整理するな」


ユイは、驚いたように目を見開き、

それから、少しだけ笑った。


「……ありがとう」


天井が、大きく揺れる。

粉塵が降り注ぐ。


〈崩壊〉が、ここまで来ている。


「時間がない」


ユイは、装置に手を伸ばす。

僕は、その腕を掴んだ。


「離せ」


「行かせて」


「行かせない」


短い沈黙。


そして、ユイは言った。


「じゃあさ……

 最後まで、一緒にいて」


選択肢は、もう残っていない。


装置が、低く唸り始める。

自動起動――世界の“最後の安全装置”。


止められない。

起動すれば、結果は一つ。


――彼女の死。


僕は、制御盤に走り、回路を引き剥がす。

火花が散る。


「カイ!」


「間に合え……!」


装置が、悲鳴のような音を上げる。


次の瞬間、

世界が、完全に壊れ始めた。


空間が、折れ曲がる。

重力が、意味を失う。


僕は、ユイを抱き寄せた。


「離すな!」


「うん!」


世界が救われるかどうかは、もう関係ない。


ただ、

この腕の中の温もりだけが、現実だった。


そして――

運命は、最終的な答えを、こちらに突きつけてくる。


終わりは、すぐそこまで来ていた。

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