――第十七章 帰る場所
歩き続けた。
中枢区域を離れるにつれ、
音が、少しずつ戻ってくる。
風。
瓦礫の崩れる音。
遠くで鳴く鳥の声。
世界は、何事もなかったかのように、
今日を続けている。
集落が見えたとき、
胸の奥が、遅れて痛んだ。
煙。
灯り。
人の気配。
「……ただいま」
誰も聞いていない。
それでも、言った。
最初に気づいたのは、子どもだった。
「あ!」
声が上がり、
次々と人が集まる。
驚き、
安堵、
叱責。
「生きてたのか!」
「馬鹿!」
「……よかった」
リナが、最後に立っていた。
何も言わない。
ただ、目が少し赤い。
「……戻った」
それだけで、十分だった。
夜、焚き火の前。
カイは、真実を語る。
再起動の可能性。
代替コア。
自分が選ばなかったこと。
誰も、責めない。
沈黙のあと、
老人が言う。
「それでいい」
理由は、語られない。
それぞれが、
自分の中で、答えを持っていた。
リナが、ノートを差し出す。
「白紙じゃないわ」
開くと、
最初のページに文字がある。
――ここから
「みんなで、書いた」
地図の続きを。
名前の続きを。
今日の出来事。
未来の保証はない。
だが、記録は残る。
焚き火が、強く燃える。
カイは、静かに息を吐く。
「……帰る場所が、できたな」
リナは頷く。
「ええ。
守る場所じゃなくて、
帰る場所」
その夜、
久しぶりに夢を見なかった。
それは、
眠れたということだった。
世界は救えなかった。
だが、
彼は戻った。
そして、物語は――
終わりへ、静かに歩き出す。




